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ずっと背中を追いかけていた貴方から「待ってて」と言われる15歳の幸福

明治メランコリア(6) (BE・LOVEコミックス)
リカチ
明治メランコリア(めいじメランコリア)
第06巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

津軽と両想いになったあの仏蘭西での出来事から2年、鈴は17歳となっていた。津軽と交わした約束を日本で待っていた鈴だったが、鈴のもとを訪れたのは、鈴の祖父を名乗る秋山篤治郎だった。篤治郎は秋山の血を引く鈴に対し、婿を取り、跡継ぎを産めと言い放つ。突然の暴言に唖然とする鈴。そして、鈴の前に婿候補が現れて!?

簡潔完結感想文

  • 出国の時とは違い帰国の約束をする津軽。それが彼の姿勢の違い。でも2年とは聞いてない。
  • 鈴を愛染・ひな問題の部外者にさせないための血縁問題なのだろうけど『緋色』と内容が被る。
  • 『緋色』のラスボス・遠峰の娘になりかけた鈴は、『メランコリア』で愛染の妻になりかける。

間も記憶も一瞬で跳躍する 6巻。

『6巻』のラストシーンは作中の時間が日時まで特定できる。1905年(明治38年)9月5日。それが出来るのは歴史的事件を扱っているからであり、そこから逆算すると『メランコリア』前半は1903年、『緋色』は1897年前後だと推定できる。同じ明治時代には変わりはないのだけど、19世紀から20世紀に跨いだ作品だと思うと大きな時代の変化に思える。

このラストシーンで本書はハッピーエンドを逃す。その前に鈴(すず)と津軽(つがる)は両想いになり、2人が再会することで大団円を迎えることも出来たけれど作者はそれをしない。これを単純に連載継続のための引き延ばしだと考えることも出来るけれど、私はそうは思わない。

だって このまま幕を閉じると津軽は、鈴を翻弄しただけで自分勝手さを改善しないままの苦労知らずになってしまう。鈴は9歳の頃から津軽を追い続け、そして15歳では海を渡ってまで会いに行った。それで津軽が鈴を受け入れ体制が整ったからハッピーエンドというのは、人生がイージーな呉服店御曹司・津軽の恋愛もまたイージーになってしまう。作品に必要なのは津軽が鈴を追いかけるターンなのだ。

鈴が追いかけた分だけ津軽も追いかけなければバランスが悪い。それには津軽に鈴の喪失の疑似体験をしてもらう必要がある。それがラストの衝撃の記憶喪失だろう。こうでもしないと鈴は津軽が大好きだから どんな彼もすぐに受け入れてしまう。でも それでは津軽は ひな と交際していた頃と変わらない。津軽に どんな状況でも鈴の手を離さない自発的な行動を促すために記憶喪失は必要だった。後の巻の あとがき で作者も記憶喪失という手段を用いるのに逡巡があったというが、それでも愛されること と 愛されることの節目として記憶喪失を用いたのだろう。

津軽が帰ってくるまでの間に自分の身辺整理をしない鈴。成長が感じられない

憶喪失は必然性があると思う私でも、鈴の春時(はるとき)への曖昧な態度は良くないと思う。自分に好意を抱く男性を誰一人 自分からは切らないのは悪女ヒロインでしかない。ヒロインを姫とする多角関係が成立が読者の多幸感の増幅に繋がるとは限らない。

本来なら鈴は津軽の帰国までの間に春時に自分から関係性の決着を提案する必要があっただろう。そうでなければ津軽を100%で受け入れられない。なのに鈴は春時が自分を避けるからという理由をつけてズルズルと結論を先延ばしにして2年を浪費する。津軽を想うのなら他の男を全部切るぐらいの態度を見せるべきなのに しない。春時が「兄」であるからという理由は分かるけれど、その悩みは『緋色』でも直面していて重複を感じた。子供だから許されていた現状維持は17歳では許されない。そこを分かっていない鈴は本当に成長したのか疑問だ。

『緋色』との重複でいえば鈴を物語に介入させる必要性のため、鈴が それぞれのラスボス的存在に目を付けられるという展開も同じ。確かに『緋色』では鈴の母親が判明しただけで父親は事情があるぐらいにしか言われていなかったが、『メランコリア』では その父親に焦点を当てて鈴の背景を作る。でも『緋色』の時でさえ複雑な生まれに更に手を加えて、鈴の設定がギチギチで狭苦しさを覚えた。平賀(ひらが)の使い方など よく出来ている部分もあるけれど、あちらの家が平賀の家柄で満足するだろうかという納得できない部分もある。

記憶喪失も鈴の生まれも作者は当初から用意していた「第二幕」なのは分かる。でも一度 誰もが納得できる結末での幕引きが見えた後で第二幕開演は読者と呼吸が合わなかったように思う。春時の当て馬ゾンビ復活の匂いがするのも、このゾンビに いつまで頼るんだ、という気持ちが湧いてくる。自分の心にいつまでも向き合わず結論に従わないのは似た者兄妹だと思ってしまう。


分の現在地を確かめた津軽は愛染(あいぜん)に協力する振りをすることで彼の野望のコントロールをする「ダブルスパイ」を志願する。これは津軽が自分の能力の高さを自覚しているのと、愛染が自分で思うほど能力が高くないと値踏みしたからではないか。

その交渉をする前に平賀(ひらが)が鈴を助けるために ひな を人質に取ったことが発覚し、身柄の交換が提案される。銃を突き付けられた状況でも笑顔でいる ひな に平賀は劣勢。そこに平賀の上官である倉田(くらた)が到着し、愛染一味は拘束される。倉田の登場は津軽の導き。情報提供によって愛染の容疑が固まったので動けた。これは津軽が最初から考えていたことではない。津軽は鈴が、津軽の周囲の思いを運んできたことで行動を決めた。それが今の津軽の姿勢で ひな と共鳴した頃との違い。

遅れて春時たちが到着し、鈴は兄との関係に引導を渡そうとするが ゆっくり話をすることが出来ないまま。これは春時が諦めない限り三角関係、すなわち連載を継続させる目的があるのだろう。

津軽は愛染の後始末をするためにフランスに残ると鈴に告げる。その発言に鈴は驚くものの、出発とは違い津軽が「待ってて」と自分の意思を示してくれたことが大きな違いで、彼が鈴を大事に想う証明だ。これは津軽が渡仏した自分の行動の決着をつける意味もあるのだろう。そんな2人の関係性を見ていた春時は何かを悟っただろう。


うして鈴たちは帰国する。1か月の航路を往復して少なくとも2か月以上 学校に通っていないけれど鈴の進学は大丈夫なのだろうか。そして津軽の帰国を待つ間に日露戦争が始まり、終わる。津軽の弟・淡路(あわじ)は召集され、戦地でケガをして足に少し障害が残ると言う。出番がない割に不幸を押し付けられているのが可哀想。せめて鈴との関係性の変化ぐらい描いてあげればいいのに。また国内残留組で すっかり出番の無かった佐之次(さのじ)は春時の家の女中と良い仲になりそうな気配を見せている。

津軽の帰国は2年後。その間、津軽からの連絡は1~2か月に一度の手紙。その代わり倉田が まめに手紙を送ってくれて津軽の無事を知らせる。この間、鈴は店主の津軽が不在の呉服店の仕入れに関わり始めた。それが鈴の成長で生きがい。仕事の分だけ お金を貰っているらしい。

春時も この2年間で変わった。鈴は帰国後も春時に津軽との関係性を言えないままで最初の半年間は春時が避けるように動いたため何も言えなかった。しかし半年後から佐之次と3人で食卓を囲み、一緒に行動することが多くなった。この半年は春時の心の整理に必要な時間で、彼がリミットとして設定した鈴の16歳を迎えたからかもしれない。16歳を越えたら鈴は嫁に行く。その相手は自分かもしれなかったが、自分ではないだろうという結論が出た。だから鈴の「兄」として有限の時間を春時は享受しようとしている。


終的な結論を春時が鈴に伝えようとする前に、鈴に訪問者がある。秋山 篤治郎(あきやま とくじろう)という高齢の男性は鈴の祖父だと名乗る。これは津軽や春時が恐れていた事態。戸籍上は春時たちと同じ桐院(とういん)家の実子となっている鈴だが、秋山に ある人物から情報がもたらされ、独自の調査で当時の事情を知る者に当たり、秋山は鈴が息子の忘れ形見だという確証を持った。

鈴子の父は秋山 孝允(あきやま たかよし)という人物。篤治郎の ただ一人の実子だったが孝允は子供に恵まれず5年前に死去。しかし鈴が孝允のこと分かり、秋山は家のために鈴に引き取り婿をとり跡継ぎを産むことを望む。急な話に鈴は混乱を理由に事態を収めようとするが秋山は既に確定している将来だと拒絶すら受け付けない。鈴や女性、末娘に人権はないと言わんばかりの秋山の態度に鈴は堪忍袋の緒が切れて退去を命じる。

この騒動の後、追い打ちをかけるように春時は この「家族」の解散を宣言。その春時の態度に鈴は9歳の自分が直面した津軽と春時どちらと暮らすか問題と同じような心境に戻る。


内情報により、秋山 篤治郎が やり方が強引であくどいと有名な政商であることが判明する。政界にも軍にも強い力があり、その手法で恨みも かっている。それでも鈴は相手にも事情がありそうだと分かると秋山と接触する。新天地では新男性キャラと交流するのがヒロインの義務である。

秋山家に到着早々、鈴は秋山家の娘として扱われる。そして知らぬ間に婿候補3人との交流がセッティングされていた。その強引さを知り鈴は この家からの脱出を試みるが、その途中で平賀と遭遇。平賀が婿候補の1人だった。平賀が鈴の事情を知って誘導したこともあり結局、鈴は秋山家の流れに乗る。その中で父親の顔を写真で見て初めて知ったり、父には妻がいたが2人は同時に亡くなり、世継ぎは絶えた。若い2人だけで話したいと理由を付けて平賀は鈴を外の世界に出す。鈴との2年ぶりの再会は平賀の胸をざわめかせる。平賀は秋山に会った際に気に入られて婿候補になったらしい。

秋山に鈴の情報をリークしたのは愛染。そして彼もまた婿候補の1人となる。


んな折、津軽が帰国する。津軽は鈴には会えず、河内そして春時と順に再会する。春時は津軽が遠峰(とおみね)から事情を聞いて鈴の父親が火種になることを予測していた。そして津軽は春時の様子から彼が「兄」でい続けたことを推測する。

春時の二番煎じが始まるぐらいなら平賀を しっかり当て馬にしてあげて欲しい

鈴が津軽とすれ違ったのは秋山邸に赴いていたから。平賀と並んで秋山に向き合い、いきなり平賀との結婚を宣言する。鈴は最初に会った婿候補と婚約状態になることで秋山の納得する形に落ち着けようとする。平賀の意向は無視だが、平賀は万が一 この結婚話が進んでも まんざらでもない様子。鈴は対策を講じる時間稼ぎと、秋山との接触を自他に義務付けることで彼の人となりを知ろうとする。そして弱みを握って強制ではなく自然に祖父と孫の関係に落ち着きたい。鈴の家のためではなく自分の人生を歩く、という進歩的な考えに平賀は感心する。

愛染が日本に戻っていたように、ひな も日本にいて鈴は彼女と再会する。ひな は自分が自由を与えられたのは津軽の働きによるものだと囁く。そして鈴に衝撃的な一言を放ち呆然とさせた後、自分たちの野望が今も燃え上がっていることを示す。1905年(明治38年)9月5日、日比谷焼打事件に巻き込まれた鈴は負傷者の1人となる。

「やっかいな人々」…
Twitter人気投票結果の津軽ラブラブまんが。津軽の看病回で次々に人が見舞いに来て津軽を消耗させていく、という話。健康な津軽なら各人をいなせるが、病人となると それぞれの強すぎる個性に津軽が翻弄されているのが笑える。煮え湯どころか煮え油で津軽の回復ではなく死を望む春時の殺意と献身と格好のアンバランスさに噴き出してしまう。