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少女漫画と小説の感想ブログです

かつて同じ波長を発していた君を鏡写しにすることで、現在の自分の波長を確認する

明治メランコリア(5) (BE・LOVEコミックス)
リカチ
明治メランコリア(めいじメランコリア)
第05巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

ひなに連れ去られた津軽(つがる)を捜し、愛染(あいぜん)の別荘にたどり着いた鈴(すず)。そこで見たのは地下に繋がれた津軽の姿だった。疲弊した津軽の口から、初めて聞く言葉。少女と青年の恋、新たなる局面へ―――!!

簡潔完結感想文

  • 『5巻』で ようやく新キャラの顔ぶれが揃い彼らの背景が見える。津軽の心の現在地も判明。
  • 感情を喪失したがゆえの愉快犯だった遠峰と外見が似ている愛染は自分の意思が強すぎる人。
  • 単独行動をした途端に男性キャラに捕らえられる鈴の習性は『メランコリア』でも継続中。

辿り着いた終着駅は始発駅へと名前を変える、の 5巻。

『2巻』から行方をくらませた津軽(つがる)の動機が ようやく明かされる。それは大雑把に言えばアラサー男性の自分探しにも思えた。理性が働きすぎて行動に出られない欠点もある津軽が自分の現在地を確かめるためには自分の対になる存在が必要だった。それが かつての恋人・ひな。ひな の中に自分と同じ本質を認めるからこそ、津軽は ひな を通して彼女と別れてからの日々での自分の変化を確かめた。その日々の中で津軽が出会ったのが鈴(すず)で彼女の存在の大きさを津軽は ようやく理解する。達観しがちな自分の欠落を埋めるような世界のワンダーに気づく その視点に津軽は惹かれる。そして一度 気持ちを確認すると行動が早い津軽は早速 彼女への思慕を行動で示す。

この津軽の行動で物語が切り替わった音がハッキリ聞こえた気がした。『5巻』のラストは鈴が津軽と出会ってから追い求めていた終着駅。頭でっかちな思考になりがちな津軽に対して鈴は直感的に正しさを判断する。その違うからこそ浮かび上がる魅力に津軽は気付いた。だから津軽は鈴に想われるのではなく、これからの鈴が誰か自分以外を選んでも ずっと鈴を想い続けることを誓う。相手を追い続けた日は、相手から追われる日々に変わる。終着駅は始発駅でもあり、これからは津軽が想いを伝えるターンになるのだろう。
津軽の行動が恋愛面での理由になっていて、ずっとモヤモヤしていた彼の行動の意図が見えてきた。

愛染の野望に共鳴する ひな と反発する鈴。ヒロインは常に弱者の視点に立てる

の他にも それぞれの行動理念が浮かび上がる。
ひな が愛しているのは元夫の愛染(あいぜん)の野望。津軽は その野望を達成するためのピースとして必要で、ひな は津軽をフランスに招集した。丁度 津軽は自分の現在地を確かめたかったため彼女の招集に応じる。その行動を無断でしてしまうのが津軽の欠点だろう。

これまで名前だけの登場だった愛染が顔出しし始め、その野望も語られる。『5巻』で再登場する遠峰(とおみね)の『緋色』での動機は理解し難かった面もあるが、愛染は分かりやすい。自分の才能と欲望に溺れ、そこに払われる犠牲を勘案しないところは自己愛の塊と言えよう。遠峰は感情を知らず自他を愛せなかったけれど愛染は自己愛に固執している。鈴に それを一瞬で見抜かれるほどで、その一直線な思考は あまり賢そうには見えない。気高い世直しを始めたインテリは無茶なことばかりをしがちで、やがて世捨て人になるかテロリストになるかの二択なのだろう。愛染はシャアかハサウェイか(ガンダムネタ)。

おそらく名前の愛染の由来はアイゼン(Eisen:ドイツ語で鉄)で、遠峰から製鉄所を譲渡されたのも偶然ではないだろう。その鉄を武力に変換する野望を持つ愛染は国を牛耳るために動いている。その割に津軽一人も操作できないのだから彼の能力の底は浅い。遠峰は なかなか動機が分からなくてモヤモヤしたけど、すぐに動機が分かった愛染は小粒な印象が否めない。そして どちらも話が壮大すぎて私が作品に求める内容じゃない。

同じく『メランコリア』から参戦した平賀(ひらが)の行動の背景も見えてきた。「朝敵」に追いやられた立場は以前と同じだけれど思想の違いで その後の人生が違う。平賀が愛染と対峙した時に何を言うのかが気になる。

ここまで動かなかった物語だからこそ、各人の動機がハッキリしたことで一気に動く気配を感じる。私が全11巻になることを知らないリアルタイム読者だったら もうすぐ物語が終わるのだと勘違いしたかもしれない。この後、津軽が愛染の野望を粉砕して大団円でも問題なかったと思ってしまうのは読み方が浅いからだろうか。


賀(ひらが)から、津軽が事件に巻き込まれ拉致された可能性があると聞かされ居ても立っても居られない鈴。動揺を平賀が制御し、津軽が この事態を予見していたことを鈴に教える。

津軽から事前に鈴の知る人物がいると聞かされていた場所はカジノ。そこで鈴は推理力を発揮し大勢の中から その人を発見する。それが『緋色』でラスボス的存在だった遠峰(とおみね)。彼は日本国内の資産を売り海外を拠点に投資をして「余生」を送っているようだ。遠峰は やはり切れ者で初対面の平賀の所属と出身地を当てる。まるで津軽のような推理力だ。平賀は会津藩出身。つまり明治の朝敵。その過敏な部分を、人の反応を見る愉快犯の遠峰に刺激され、平賀は珍しく気色ばむ。そして自分のトラウマを覗かせる。

遠峰と対話するのは耐性のある鈴。そこから話が転がる。ひな の元夫の愛染氏は製鉄所の権利を遠峰から譲られて武器製造に関わっている。そして「事業」のために優秀な人材津軽を欲しているという。遠峰から愛染の別荘地を聞き、鈴は次の目的地を見つける。この時、遠峰も鈴の個人的な関わりを匂わせている。直後に、鈴とは会わないが愛染の容貌が判明する。遠峰に似すぎていて同じ種類の人に見えてしまう。

この夜の帰り道、平賀の女性への偏見が彼の過去に起因するものだと語られる。そして鈴は その過去の女性と重なる≒特別であることが確かめられる。トラウマを少し語ることで これ以降、平賀は鈴に柔和さを見せる。

イギリスやドイツでなく揃いも揃ってフランスに移住する人たち。お洒落さ優先?

は愛染の別荘の前で張り込みをし、津軽が ここにいる証拠を掴もうとする。そんな時、河内(かわち)の妹たちが渡仏してくる。双子の妹たちは それぞれ平賀と春時(はるとき)と未知との遭遇を果たすが、彼ら男性が相手をするのは鈴だけ、という鈴の特別性演出で終わる。春時には強引すぎるマイペースな女性が合う、はずだ。

河内は愛染の経歴を調べており、最初は外交官補佐の一人にすぎなかった彼が堪能な語学とコミュ力で欧州で成り上がった。外交官として出世する道を捨てて途中で事業家に転身したという。

その愛染の家を正面から訪ねるのは ひな の親戚でもある河内と その妹・手瑠璃子(てるりこ)。彼らの性格を危惧して鈴は二の矢として食料調達の荷車に平賀を乗せ、配達員として潜入する。2人のコスプレが楽しめるが、絵だと違和感がないけれど実際は東洋人が いること自体が異質で目立ってしまうだろう。その違和感を消すために屋敷に同じ東洋人がいるという設定が持ち出されているのか。直後に ひな に見つかりそうになるも間一髪。平賀は潜入調査を続け、鈴は初日は撤退するが、ひな が親戚である河内たちの訪問を無視した事実が引っ掛かる。

この夜、鈴は久しぶりに春時と再会。春時は鈴の父親の問題が出されること過剰に心配し、日本への帰国も考えていた。一方で津軽がいない間の胸キュン要因でもあるので鈴に兄妹以上の接触を試みて、鈴の心は千々に乱れる。日本だと津軽の母親の一声で前のめりになる春時だけど、海外では手茉莉子(てまりこ)の言葉に感化される。


2回目の潜入は失敗し すぐに ひな に発見される。自分の気分が乗った時しか回答しない ひな の性格を知っている鈴は武力で彼女を制圧。直後に平賀が登場し、騒ぐ気配を見せる ひな を気絶させるが、その騒ぎのせいで屋敷に出るタイミングを失う。屋敷内で身を潜めている間に平賀との交流があり、一層 距離感が近づく。

ひな は鈴の大胆な行動が気に入り津軽の現状を話す。彼は愛染によって不眠不休の洗脳を受けていた。愛染の活動は外国との戦争を有利にするための密偵。そこに津軽をスカウトしたい。愛染は ひな との結婚を前に津軽と面識があり、その際に あっさり引き下がった津軽の自分勝手さを含めた性格と持て余している才能を知っていた。だから愛染は絶対に津軽は思想転向をすると思っていたけれど どんな手段でも津軽は思いとどまる。その裏には鈴という存在があった。

鈴もまた津軽の性格を知っているから ひな の話を鵜呑みには出来ない。ひな は話していいこと と いけないことを分けていると考え津軽本人との面会を希望する。ひな は それを無視する形で拒絶する。


れを合図に話は終わり、鈴は屋敷から出るための手筈を整える。その単独行動の途中で津軽の監禁場所が判明するが、そこを愛染本人に見つかってしまい、鈴は津軽の弱点となってしまう。愛染の目的は藩閥の駆逐と自身が頂点に立つ完全な民主国家の達成。そのために幕府軍が朝敵になったように、日本の敗戦で今の政治体制を悪に転じたい。日本を敗戦国にした後の次の日本を理想国家にしたい。

鈴は愛染の狭量さを見抜き、彼には国づくりは出来ないと判断する。その鈴の主張に津軽は感心する。それは鈴が絶望する前に津軽に救われ、津軽と一緒に成長してきたから。だから津軽は鈴に対等に話をする。津軽は実際に人と国を動かす頭脳ゲームが魅力的だったと自白する。能力をフル活用する高揚感を味わえると思った。

ひな は愛染に同調した。それを ひな と本質が似た津軽も理解できる。だから ひな を見ることで津軽は自分の中にある思いの正体を鏡写しにして浮かび上がらせようとした。そうして見えてきたのが鈴の魅力。達観しがちな自分と違う、世界のワンダーを見つける その輝きを津軽は見つけた。それは好意と言えるもので、津軽から初めて鈴への気持ちが語られ、2人の想いと唇は重なる。