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少女漫画と小説の感想ブログです

描かれる2組の兄妹仲は 一方は安穏で一方は剣呑。色々ガチな お兄さま降臨

明治緋色綺譚(4) (BE・LOVEコミックス)
リカチ
明治緋色綺譚(めいじひいろきたん)
第04巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

遊郭から青年津軽に身請けされた鈴は、自分を救ってくれた津軽に恋をする。その想いを初めて口に出してみることに。 そんな幸せな毎日を過ごしていた鈴のもとにある男が現れる。彼の存在が鈴と津軽の心に距離をつくってゆきーー!? 明治の歳の差LOVE、愛憎と執着が始まる待望の第4巻!!

簡潔完結感想文

  • 『4巻』冒頭に予想された展開は巻末で始まる。遅すぎるようで丁度良い丁寧な構成。
  • お笑い担当の河内も世間的には優良物件。その彼は誰を選ぶ!? ファーストダンスは私と。
  • 連載化で誕生した鈴の兄・春時が本格的に登場。正統な保護者による2度目の身請け。

一つ屋根の下で暮らす特権が奪われかねない 4巻。

『4巻』も収録5話の構成が素晴らしい。冒頭は お笑い要員・河内(かわち)の話で、『3巻』ラストで登場が予感されていた鈴(すず)の兄は『4巻』の4話目まで登場しない。最初は読者の知りたい話を先延ばしにして関係のないエピソードを挿入しているのかと思ったけれど、これは兄・春時(はるとき)登場前に、作中で一般的な兄妹のことを描くためなのだろう。
河内の兄妹は口では お互いに相手への毒舌や辛口批評が止まらないけれど、そう言い合えるだけ仲が良く相手の幸せを願っている。それを感じ取った鈴が本物の兄の登場と彼からの一緒に暮らす提案に対して、河内のエピソードは兄妹の在り方を考える参考例となる。兄・春時の提案は鈴の2度目の身請けともいえ、離散した家族が再び集まる元の鞘に収まる状況なのだけど…。

春時の性格からして この日のために「一番綺麗な私」を作り上げたに違いない

また一見、関係のない収録3話目も鈴の気持ちの落差を作るために必要な話であることも見えてくる。この話で鈴は遊郭にいた時の記憶と姉の男性への呪詛が影響して津軽(つがる)に対しても男性恐怖症の症状が出てしまう。しかし それを1話で乗り越えることで鈴の中で津軽は一緒に暮らす家族のような人ではなく、恋をする異性だと確定した。

3話目までで鈴は津軽への思慕を募らせたからこそ5話目で描かれる落ちる高低差が大きくなる。津軽が鈴の存在を軽視するようにも取れる発言をして2人に すれ違いが生じる。津軽は鈴の幸福を願うからこそ自分の気持ちに蓋をして彼女の選択の幅を狭めないようにしているだけなのに、それを幼く そして恋をする女性の鈴は気付かない。
一つ屋根の下で暮らす男女は少女漫画的にカップルとなる運命があるけれど、この前提が崩れようとしている。しかも一緒に暮らす一番 身近な女性だから鈴は津軽の視界に入れるけれど、自分の保護者が春時になると津軽とは本当に他人になってしまう。

春時が動き出すのが遅いからこそ、津軽と離れるかもしれない鈴の心情が辛くなり、遅いからこそ この騒動の顛末が次巻に続く。その構成の上手さは舌を巻くばかり。
そして3話目で姉の言うことが鈴の価値観の呪縛にもなっていたように、春時の評価にも姉の恨み言が混じっている。鈴が兄を自分で評価できないまま自分を取り巻く状況だけが刻一刻と変わる。その鈴の焦燥も胸に迫る。同時に春時は、かつて鈴を傷つけた佐之次(さのじ)を動かしていた黒幕であるため彼も暗い感情で動いていることも匂わされる。津軽が『3巻』で言っていたように「善悪の基準なんて もともと曖昧で移ろいやすいもの」。春時は単純な悪なのか読者が評価するのは もう少し先になる。


性キャラが増えがちな少女漫画だからヒロインに友達が出来るのは遅くなる。今回 河内(かわち)の妹となる双子の手茉莉子(てまりこ)と手瑠璃子(てるりこ)が登場する。彼女たちは鈴の1つ年下。

この双子は実質的に 河内の お見合いパーティーである夜会に津軽を招待する。元々賑やかな場所が嫌いな津軽は拒否するが、鈴が食指を動かしている様子を見て受諾する。このところ落ち込むことの多い鈴を元気づけてやりたい。華族の河内の結婚は、同じ華族だった鈴に家族のことを思い出させる。姉は父が持参金目当てで持ってきた平民との結婚を その経緯と格差を理由に断っていたが、もしかしたら その結婚を受ければ姉は最悪な未来を回避できていたかもしれない。

この夜会で鈴は河内の家の規模を初めて知る。河内の家は元・武家。その後、事業を成功させて成金華族となる。一応、呉服店店主という肩書がある津軽と違って、本当にフラフラしている河内が どう家の役に立っているかは続編の『明治メランコリア』最終11巻の あとがき に描かれている。河内は良いキャラだけど本編のストーリーと それほど絡むことはないので作中では彼の仕事は描かれないまま終わる。それが河内。

逆ハーは簡単に完成するけど女友達を なかなか獲得できない少女漫画ヒロイン

会は洋装で出席し、それゆえ いつもと津軽の立ち振る舞いが違う。それが鈴をドキドキさせる。
しかし到着直後、妹双子から陰の主役である河内が行方不明だと聞かされ、仮面パーティーという性格から津軽が河内に成り済ますという入れ替えトリックを発案される。双子ゆえのステレオでの強引な要求に津軽は流されるがまま。これが双子たちの企みだと鈴も気づく。だから鈴は河内の居場所を特定して津軽の窮地を救おうとする。

夜会出席者は河内と面識のある人が少ないので入れ替えがギリギリ成立する。どうやら出席者の間では河内が最初にダンスに誘った女性と結婚するというルールが確定していた。だから家の事情を背負った女性たちは華美に飾り立てる。このルールは河内家側が流したもの。偽河内に気づかない人は この家に必要ない、というのが兄が乗り気ではない結婚を阻止したい妹たちの思い遣りだった。しかし出席者を騙すようなことは家の信用に関わることまでは気付かない。

自分たちのしたことの罪の重さを知って涙ぐむ妹たちを助けるため鈴は河内を見つけ出す。会場に登場した河内は意外な人を最初にダンスを誘う。これもまた河内家に悪評を断たせる悪手なのだけど、河内らしい行動だ。そして「津軽」が最初にダンスを踊るのは…、という少女漫画的な展開が待っている。鈴の働きによって河内は今も変わらない妹からの愛を再確認し、祖父ら家族に自分の意思を表明する機会を得た。河内のモラトリアムは続く。


内の妹たちは鈴の恋愛相談の相手になる。そして少女漫画でよくあるヒロインに悪知恵を囁く存在となる。
唆(そそのか)された鈴は夜に津軽の部屋にいて良い雰囲気を作る作戦を実行する。けれど津軽は鈴に触れたりしない。それは残念でもあり安心材料でもある。遊郭にいた鈴は男性への恐怖があって、津軽を好きだけど男性として近づかれたくないというアンビバレントな感情を持っていた。

そんな悩みを抱えていると同じ頃に遊郭にいた姐さんと遭遇。苦界から外に出られた姐さんだったが、外の世界で与えられた立場は妾。そして鈴と同じく この時代では没落したら最初に切り離されるのが女性となる。ただ この姐さんは立派で窮状の中でも、幼い鈴が身請けされても綺麗な身体でいられることに嫌味を言ったりしない。今も遊郭の記憶が残る鈴の男性恐怖症を知って、自分の目で相手を確かめろと助言をくれる。

鈴の男性への偏見は姉の視点によるもの。妹を守りながらも同時に様々な呪縛を与えた姉の影響から脱して、鈴は津軽に触れても変わらない彼への思慕を改めて実感する。


る日、津軽が日時を指定されて出掛けた際に、残された鈴の前に兄・桐院 春時(とういん はるとき)が現れる。春時は、父から家を追い出されている時に、姉妹が遊郭に売られてしまい、事実を後で知ったと言う。しかし鈴は姉が春時が仕組んで自分たちを遊郭に売ったと考えていた。

兄の津軽に挨拶したいという尤もな理由を断れず、鈴は彼を与えられている自室にあげる。そこで兄は この3年間で自分で生活を立て直し、鈴と暮らすだけのお金の工面が出来たと告げる。そして津軽に会わないまま、鈴の自室に落ちていた、姉の形見となった櫛の歯を わざと折って去る。

春時は鈴と暮らす理由も能力もある。だから家族での暮らしを望むのは当然だと告げる。それは鈴にとって2回目の身請けのようである。この日の出来事を鈴は津軽に告げるのを躊躇う。それは彼女が この暮らしを手放すことへの恐怖でもあり、兄への評価が出ないことも原因のだろう。春時への評価は前回のような姉の影響を受けるのか、それとも独自の視点で見るのか。春時は津軽と対面せずに帰宅したが、春時の津軽宅への訪問を風来坊の河内が目撃していた。


載18回目にして初めて鈴の学校での様子が描かれる。学校では鈴が遊郭にいた過去が流れていた。その噂は他の学校に通う河内の妹たちや街中でも聞き及ぶほど流布していた。

そんな頃、春時が初めて津軽と対面。春時は家が抱えた借金を縁のある人からの援助で3年で返済したようだ。そして正式に鈴を引き取ると表明する。その会談中に鈴が帰宅。鈴は津軽が鈴を手放すことも視野に入れていることを知って衝撃を受ける。鈴が立ち聞きしていることを確認して春時は津軽にとって鈴は重荷だったという方向に話を進める。その後で鈴を部屋に呼び込み、今度は鈴が春時の訪問を津軽に黙っていた事実を敢えて炙り出す。

これによって2人にすれ違いが生まれる。津軽は鈴の幸福を願っているから自分の意見で彼女を縛りたくない。自由を与えたいのだけれど、それが鈴には自分の津軽の中での存在価値の低さに直結してしまった。

春時は冷徹な経営者の顔を持つ。そして彼の側には佐之次(さのじ)の姿があった…。