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少女漫画と小説の感想ブログです

井戸の形に切り取られた丸の外に/狂いながら眺めた四角い窓の外に 世界は広がる

明治緋色綺譚(2) (BE・LOVEコミックス)
リカチ
明治緋色綺譚(めいじひいろきたん)
第02巻評価:★★★★(8点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

「君の代わりなんているわけないだろう」遊郭(くるわ)から身請けされた少女・鈴(すず)と青年・津軽(つがる)の歳の差LOVE! 明治時代に華開く、少女と青年の運命の恋物語。――青年津軽に遊郭から身請けされた鈴は、自分を救ってくれた津軽に対し幼いながらもほのかな恋心を抱くように。そんな折、身請け金を貸した津軽の親が鈴を訪ねてきて――!? 鈴と津軽の出会い編も収録。

簡潔完結感想文

  • 奈落の底から這い上がる地力がない子供たちは、その才覚で上手く大人にSOSを伝える。
  • 自分の存在に良い顔をしない頑固な彼の父と、小さな恋心を否定しない柔軟な彼の母。
  • 読切作品を敢えて『2巻』に配置したことで1冊にまとまりが生まれた。編集者が優秀か。

さぁ 読者に望まれて外に出よう、の 2巻。

『2巻』は構成が とても好き。本来なら『1巻』に収録されるはずの最初に発表された読切を『2巻』に持ってくることによって、ヒーロー・津軽(つがる)の2人の親のエピソードが1冊の内に納まっている。これは短期連載分5話でページ数が埋まってしまったから先送りになっただけのようにも思えるけど、偶然か必然か これにより統一感が生まれた。主人公・鈴(すず)に対する2人の態度の違いも明確に浮かび上がっているし、エピソードの繋がりも生まれている。もしかしたら読切の父のエピソードが『2巻』に送られたから母のエピソードを作ったのかもしれない。

序盤は随所に作者の対応力と適応力を感じる。これは連載作家にとって絶対に必要な才能だろう。短期連載から定期連載になった際も作者は主人公・鈴の家族関係を再構成して、いると明言されていなかった兄の存在を生み出している(いないとも言っていない)。この兄の存在が作品の性格を短編集から長編へと変化させる。それは作品が当初の設定以上の、外の世界に出たことを意味しているように思えた

そして『2巻』には鈴や津軽が外の世界の広さを知る という共通点がある。また予想外に狭い世界で人生を追えるかもしれない危機に際し、同じような年頃の2人が それぞれ機転を利かせて他者の助けを上手く利用して窮地から脱出するのも共通点だ。鈴も津軽も一度「転落」を経験することで、どうすれば そこから出られるのかを考える。また その狭い世界を知ったからこそ日常的で退屈だとすら思っていた世界の広さを再確認している。そういう共通点を無意識に感じ取ったから津軽は鈴を遊郭から出そうとしたのかもしれない。今回 改めて描かれる2人の出会いを読むと、『1巻』で鈴が気にしていたような津軽が自分と重ねる幼なじみの影響は薄いと思われる。

順風満帆な津軽の初めての転落。この経験が無ければ道楽者にはならなかった

像以上に鈴は重い過去を背負っていたけれど、最初から鈴は利発だった。これまでのエピソードだけだと鈴は津軽に出会い、彼を慕うからこそ彼の真似をしているだけかと思った。しかし今回 出会いが詳細に描かれることで、鈴は津軽の影響を受ける前から自分で物を考えて行動する人だった。年齢差があるから津軽の恋愛対象外になっているけれど、津軽は人間として鈴を一人前だと思っていることが分かる。年齢差はあれど ちゃんと会話や議論が成立したから津軽の目を惹いた。鈴が閉じ込められた世界から出られたのは見た目ではなく その賢さを認められたからだ。

大切な人を失った直後でも理路整然と自分の行動を語った鈴が、自分の死を前にして生への執着を見せ、涙ながらに幸福を望む(鼻水も垂れるがまま)。そんな鈴を津軽は助けたいと思って、手段があるならば自分の人生を犠牲にしても助けようと思った。『1巻』のラストでも鈴が どうして津軽に身請けされたのか の謎に一つの答えが出ていたけれど、今回の方が より分かりやすい。津軽に似ていると自認する母親が鈴を一人の女性として扱うのも良かった。そして母親が言う通り そこには熱意がある。少々 体温を感じづらかった津軽や鈴に温かさを覚えた。

お話の並びでは津軽が名探偵として覚醒し、その趣味に興じる津軽のエピソードゼロ、そして鈴と出会い彼女とコンビになる2人のエピソードゼロが用意されているのが良い。ただ折角 このコンビでの事件解決を待望する土壌がうまれたのに作品のミステリ色は これ以降 薄くなってしまう。年齢差はあるものの機転や思考に それほど差のない2人のコンビが好きになったのに残念だ。ダブル探偵モノとしてイチャつきながら殺人事件を解決するような展開を読んでみたかった。


服屋に生まれた津軽は新しいものを店に入れる。こうして文明開化と共に呉服屋は百貨店に形態を変えていく。津軽は頭が良いだけでなく次代を先どるセンスも持ち合わせているのだろう。

河内(かわち)が掏摸(スリ)被害に遭い、津軽と犯人を追う。単独行動となった鈴は落とし物を捜している様子の男性に協力する。今回は鈴が相手の職業や性格を見抜くホームズのような洞察力を見せる。そして その人にとって大切な落とし物もアイデアを駆使して発見する。そして鈴は その男性が欠点だと思っている性格も視点を変えると長所になることを指摘してあげる。人を使う才能は津軽にもあって、誰かに指示することが津軽の仕事。それを手短に済ませるから津軽の自由時間は多い。

折角、発見した物が今度は掏摸被害に遭い、鈴は犯人を追いかけるがピンチに。そこに津軽がヒーローとして参上する。悪党をこらしめるのは河内の役割なのだけど(意外に強い)。
遅れて登場した落とし物の男性は鈴の素性を知り態度を硬化させる。それを感じ取った鈴だけれど津軽だけは変わらずに手を差しのべてくれる。『1巻』での津軽の実家の場面で弟以外が出てこなかったのは それが短期連載では余計なノイズになるからなのだろう。


2話目は津軽が初めてオリジナルの才能を発揮した探偵誕生編。
少年の津軽(鈴と同年代の頃だろうか)は自分の才覚を理解しつつも呉服屋の跡取りという道があることで人生全体を冷静に達観するような子供だった。そんな時に知り合った外国人夫婦に3年前に行方不明になった息子がいることを知る。息子の行方が分からないまま離日することになった夫婦のため、津軽は彼らから聞いていた息子の情報を基に性格を想像しトレースしてみる。

自分も同じピンチに陥るものの津軽は才覚を発揮。この一件によって津軽は自分の外にある世界の美しさを知り、子供を厳しく育てる父親が確かに自分を思う愛情を知る。3年間の人の成長が2人の少年の運命を分けた。3年前の少年は機転を利かせるには幼すぎたのだろう。また時間経過は生々しい対面を避ける時間だったのだろうか。ちなみに この時点で津軽の弟・淡路(あわじ)は生まれているけれど名前すら出してもらえていない。淡路の不遇は いつまでも続く。


品作りに不慣れな新人作家の連載初期には親族を投入するのが お約束で今回は津軽の母親が初登場する。母親は堅物な父親と違い、津軽に似た自由人。そして同じように洞察力があり、津軽以上に人との接し方が上手い。初対面の鈴が委縮し畏(かしこ)まるのを見た母親は鈴も連れて買い物に行く。

目的は夫の誕生日プレゼント。津軽と河内の男性チームと対決形式を採り、母親は鈴にプレゼントの品を選ばせる。それを鈴は母親からの審査だと感じた。鈴は一度 会った父親の性格の延長線上にある品を考えるが、刺激が欲しい母親には物足りない。

失格の烙印を押されるような状況が続いた時、呉服屋の贔屓筋が津軽が遊郭から女を身請けした噂で縁談を破談にさせてもらうと言われる。鈴が我慢ならず津軽を援護してしまい呉服屋は客を一人失う。けれど母親は鈴の言動を咎めない。
母親は津軽の鈴への行動を「粋」だと感じていた。息子が絶対に呑まないと考えていた跡継ぎを承服してまでも鈴のために大金を引き出した。津軽は最初から親が取引を持ち掛けることを狙っていたのだろう。なんでも卒なくこなす息子が一世一代の勝負に出たことが母親は嬉しかった。そして その対象となった鈴が大人し過ぎたから本音を知りたくなったらしい。

母親は鈴の津軽への想いを見抜き、そして それを否定しない。子供相手というより同じ女性として対等に話し合う。自分の経験談として夫婦仲は夫婦となってから始まることを伝える。津軽には今は好意はないかもしれないが、鈴を助けた熱意はある。それが いつしか恋の炎に着火する可能性もあると母親は告げる。

最後に鈴は母親が満足するプレゼントの品を思い付き、いよいよ母親の お墨付きを貰う。津軽の家から最初の応援団が現れたことで鈴の視界は開ける。しかし同時に鈴の家族関係が新たに提示されて暗雲の到来も予感させる。


ストは鈴と津軽の出会いを描いた2人のエピソードゼロ。冒頭で「時代は明治を半ば過ぎ」というモノローグがあるけれど、いつ目線で誰目線なのだろうか。少なくとも明治の終わりを知っている者でないと今が半ばという認識は出来ないと思うのだけど。

出会いは鈴が売られた吉原。津軽は初めての遊郭。性に淡白な清純ヒーローの選出なのか。逆に河内は遊びに遊んでいる。欲望に正直で遊びだと割り切れるからトラブルを起こすことは ないようだ。

姉が見た最後の夕日、姉と見た最後の夕日。いつか自分も同じ心境で眺める夕日

2人についた遊女の内の一人が心臓発作で突然 亡くなる。その事態に「複雑な」表情を覗かせた鈴が津軽の印象に残る。津軽に出会う前から鈴はホームズ的な相手の素性を見抜くスキルを身につけている。これも津軽の興味を引いたポイントだろう。そして逆に津軽は鈴の素性を見抜く。交流を続ける中で、『2巻』でも登場した鈴が引き出しの中に しまっている風車が渡される。また直前の話で鈴が嫌っていた夕焼けのエピソードも出てくる。

『1巻』ラストでは津軽の幼なじみが不幸に転落していたが今回は鈴の側。そして同じように「その女」の罪は2人の胸に しまわれる。『1巻』と共通するのは家庭環境は女性の人生に大きく影響を与え、そして心を破壊していく点。2人の女性は共に自分という存在の足元が揺らいでしまったことで変調してしまった。

改めて2人の出会いを描く時に鈴の家族構成が固定される。姉だけの姉妹だと思っていたが兄もいることが発覚。これもまた新たな親族キャラによるエピソード作りなのだろう。