
ななじ 眺(ななじ ながむ)
あるいとう
第09巻評価:★★(4点)
総合評価:★★(4点)
キヨ、授と一緒に海へ行くくこ。衣舞の予言通り、授がトラブルメーカーになってしまう? それぞれが少し大人になった夏。その終わり、不安な知らせがくこのもとに。 【同時収録】番外編「本日の衣舞」
簡潔完結感想文
- 海回。授が想いを告げて三角関係成立。この王道展開が ずっと続いて欲しかったのに…。
- 『パフェちっく!』と重複を避けるために どうにか桜太を舞台に復帰させる状況を作る。
- 桜太がいる限り くこ の想いや悩みは堂々巡り。傷心の末に寄りかかるのが恋なの…??
青い夏は一瞬で過ぎ去る 9巻。
陰のある青年・桜太(おうた)問題で7巻分を消費して彼を物語の外に置いたはずなのに、作者は桜太が戻らざるを得ない状況を作る。桜太が戻ってくることで くこ の胸の痛みも復活し、彼女は同じことで悩み始める。ストーリーは確かに動いているのに くこ の悩みだけが同じ所にあるから読者は既視感ばかり覚える。桜太の亡霊は いつ消えてくれるのか…。


周囲を不幸にしてまで桜太を物語に戻す手順は通常なら私が唾棄する展開だと思う。けれど本書の場合、2つの意味で その展開を否定できない。
1つ目は くこ にも人の死を疑似体験させる意味があるから。震災で母親を亡くした くこ だけれど、生まれたばかりの彼女自身に その記憶はない。だから今回 くこ は ある人にとって大切な人を失う意味を知る。まぁ くこ は自分でも驚くほど恋愛脳で、桜太を基点にしてしか物事を捉えられていないのだけど…。
2つ目は作者自身のエピソードが反映されていること。同じような病気(と一括りにしていいかも分からないぐらい知識がないけれど)を経験し、そこから復活して本書を描いてきた作者にしか出せない説得力がある。他の人が安直に桜太を物語に復帰させるために、キャラを不幸にさせたのと訳が違う。くこ が死を身近に感じることで自分と向き合うように、作者も その人の闘病を通して本当に回復していくのかもしれない。作者が読者受けを考えずに描きたいことを描いている本書は、一層 作者にしか描けない物語になった。
…と、否定は出来ない展開なのだけど、肯定もしたくない。
以前も書いたけれど『4巻』で桜太を避けていた時と同じように、桜太がいない間だけ作中に青春の香りが漂う。今回の海回は三角関係・恋愛要素が満載で桜太不在の世界は こういう展開があるのだと明るい未来を予感させた。けれど『4巻』終了と同時に桜太がカムバックしたように今回も桜太は戻ってくる。新しい展開に ぬか喜びさせた分だけ読者を落胆させるのが本書のデフォルト構造らしい…。
くこ で気になるのはラスト。授(さずく)の気持ちを知りながら自分の悩みで彼を呼び出し彼に寄りかかってるように見えるところ。キヨではなく授を選んだ描写から これが くこ の判断なのかもしれないけれど、自分にとって都合の良い人を選んだように見える。そして授の気持ちは無視している。このシーンで授かキヨの二択しかないのが くこ の問題ではないか。距離感の問題で衣舞(いぶ)には話せないだろうけれど、相談するのなら自分のナカをさらけ出し始めた学校の女友達でも いいのではないか。ここで男性の二択しかないところに くこ の本当は男に寄りかかろうとしている あざとさを感じた。
生死の境を彷徨う事態に接しても自分の恋愛問題で頭がいっぱいなのも含めて、くこ は完璧な少女漫画脳の持ち主。深い悩みを抱えているようで結局そのレベルなのではないかという疑いが消えない。
1巻分の回り道を歩かされてから予告済みの海回が始まる。
物語を陰鬱にさせる桜太(おうた)がいないと普通の少女漫画に戻ってくれて ありがたい。前回の授の(元)彼女・森香(もりか)の到来の時とは違い、今回はキヨも授も くこ を好きな状態。三角関係ありがとうございます。そして その三角関係に鈍感ヒロインだけ気づかないというのも王道。これが『3巻』あたりで始まってくれていれば…。印象的なシーンを作るためなんだろうけれど、海の水深が安定しない(笑)
やや短気のある効率を重視する授は くこ の鈍感さに痺れを切らしてキヨもいる前で想いを ぶちまける。くこ は恥ずかしさではなく、授の物言いに不服で逃亡ヒロインになる。恋愛問題が絡む前にキヨと授の友情は成立していて、しかもキヨは大きな意味で くこ の幸せを願っていて、完全に自分は身を引く当て馬に なっている。
これまで自分が発する桜太への恋心に悩んでいた くこ は桜太の退場後 間を置かず、誰かに想われる自分に悩む。海でのナンパから彼女を守るという王道展開をキヨと授が達成した後、くこ は2人に心にまだ桜太がいることを告げる。新展開が起きても、強い弱い問題が絡んできて同じ味付けになっていることが残念すぎる。


くこ は有名(うな)の夫が搬送され、脳出血で意識不明だということを知る。病院に駆け付けた くこ は、夫婦でお世話になっていた桜太には、新天地での生活の安定を有名が優先したため事実が伝えられていない。桜太は地元の姫路に戻って就職したばかり。事実を知れば絶対に駆けつけ、そして神戸の街に置いてきたものたちに心が揺らいでしまう。有名は大人の分別で そう判断した。
有名が動けないなら子供の自分が動くと くこ は住所を調べて桜太の実家に向かう。桜太が通る道が見渡せる広場で くこ は彼を日が暮れるまで待つ。しかし再会した桜太は有名の意図を汲み取り動こうとしない。それは後ろ足で砂をかけて出ていった自分への けじめ でもあるのだろう。それでも桜太の表情に逡巡を読み取った くこ は彼の背中を押す形で神戸に連れていき、有名と桜太を再開させる。そこまでが くこ の役目。その先の2人の会話には入れないし入らない。くこ の お節介は無駄ではなく有名は桜太には気丈に振る舞わず自分の不安を吐露する。
抱える問題に限界を覚えた くこ は、キヨではなく授に連絡する。それは授が部外者だから。部外者でいてくれるから どんな表情も彼に見せられる。
「番外編 ~本日の衣舞~」…
衣舞にとって特別な一日。自分の気掛かりや落ち込みをヒーローが一気に解消してくれる王道胸キュン展開。
