《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

悲劇のヒロインっぽいけれど傷ついている誰かを支える正統派ヒロインでもある

あるいとう 8 (マーガレットコミックスDIGITAL)
ななじ 眺(ななじ ながむ)
あるいとう
第08巻評価:★☆(3点)
 総合評価:★★(4点)
 

「絵をやめる」。北野から出て行こうとする桜太のアパートに走るくこ。「絵をやめんといて」なんて絶対言えない。でも、せめてこれだけは伝えないと。あの絵をもらった時の気持ちを。

簡潔完結感想文

  • 下手の考え休むに似たり同様に、歩き続けたからといって思索が深められる訳ではない。
  • 桜太がいない街は平和かと思いきや、次の自分のストレスを くこ にぶつける怪人が登場。
  • さっさと海に行ってればいいものを…。加速するべきところで減速しちゃう運転センス。

が魅力的すぎるから いけないんだわ…、の 8巻。

びっくりするほど つまらない巻。
今回はヒロイン・くこ の親友・衣舞(いぶ)巻。作者は群像劇として それぞれが抱える悩みを掘り下げたいのだろう。衣舞を取り上げるのは このタイミングしかないけれど、ここじゃない。この『8巻』は衣舞のエピソードを断腸の思いでカットしてくれたら どんなに良かったか…。それが出来ない時点で私は本書を作者の自己満足でしかないと判断させてもらいました…。

他者から望まれる自分問題は以前もやった…。望まない迷路を歩かされている気分

これまで くこ が惹かれ、同時に彼女を傷つける存在だった桜太(おうた)が物語からフェイドアウトして、彼と接近禁止状態だった『4巻』と同じような経過を辿る。『4巻』では10代の同世代ばかりの少女漫画らしい展開になっていたが、今回は そうなるはずの海回が始まらず衣舞回となってしまう。ここで海回にしておけばキヨと授(さずく)の二者択一の『パフェちっく!』の再来になったのに、テンポを崩して陰鬱なメロディを奏でてしまった。作者の目標は「脱・少女漫画」なのかもしれないけれど、非少女漫画的な展開は読者を失望させ続けているだけだ。


うしても波長の合わなかった桜太がいなくなって神戸の街に平和が訪れると思ったら、身内から くこ を傷つける怪人・衣舞が大暴れする展開も良くない。私には桜太が提示する問題と衣舞のそれの差異が全く分からない。

話の流れは分かる。くこ の感性が桜太のコンプレックスを増幅させてしまったように、衣舞はキヨへの想いを外に出せないままでいる現状への我慢が利かなくなりはじめているのだろう。衣舞にとっては くこ が好きだった桜太がいなくなったことで くこ がキヨを恋の選択肢に入れるかもしれないという焦燥が生まれた。だから衣舞はイチャモンのように くこ を傷つけることで自分のストレスを発散させたのかもしれない。でも桜太が くこ にコンプレックスをぶつけるターンが終わった直後に今度は衣舞が傷つける役を担ったことに読者が辟易しただけ。

脱・少女漫画でありながら くこ が第三者から理不尽に傷つけられる悲劇のヒロインという構図は少女漫画そのもの。これは逆説的に くこ は他者が羨むような感性や魅力を持っているというヒロインの特別性を強調しているようにも思う。同時に くこ は自分を自覚的に傷つける桜太や衣舞にも優しく歩み寄り続ける聖女に映るような展開が用意されている。そういう部分で少女漫画しないで、読者が読みたいものをストレートに提供して欲しいと強く思った。

作者の自分の主張や主題と少女漫画らしさの比率のバランスが悪すぎる。作者からも くこ からも強力な自己愛しか感じられない。そんな くこ だから恋愛する気配が感じられない。


太が自分の作品を捨てていることを知り、くこ は逡巡の後、彼の家に向かう。そして桜太の作品に心を動かされた人がいることを告げる。『7巻』に引き続き、くこ の会話は玄関先で髪型は下ろしたまま。最初で最後の桜太との自然体での交流だった。ずっと見たかった桜太の笑顔を くこ は忘れないだろう。

3人の男性に自分の外とナカを見せて本格的な恋愛模様スタート、しない(絶望)

こうして桜太は最初の恋になる。桜太問題が片付くと ようやく同世代だけの恋物語になる。上述の通り『4巻』と同じで歴史は繰り返し、堂々巡りが始まるのか…。

まずは幼なじみ3人での たこパ回。キヨにも非ポニーテールの自然体を見せたからか以前のような緊張感は漂わない。くこ は学校の友達や幼なじみの前で自分の精神状態を正しく伝える。でも そんな くこ を衣舞(いぶ)は「腑抜け」と表現して快く思わない。キヨの言う通り衣舞は勝手で、また この問題に戻るのかと溜息が出る。衣舞は くこ の悩みを見てきたから、こういうこと言わない人だと思っていたのに、また くこ に他者による価値観の押し付けが始まった。それでも くこ は衣舞に傷つけられたと思っておらず、衣舞が自分を傷つけていたと思う。


うして前進したかと思った くこ は同じ歩数だけ後退する。そんな くこ に声を掛け、無理矢理にでも その位置から動かすのは授。でも授は簡単に くこ に寄り添えない自分の力量の不足を痛感する。ただ簡単に くこ を慰めないのが全肯定のキヨとは違う姿勢だろう。授の お陰で客観的な自分の現状が見えて、くこ は衣舞問題に着手する。

しかし衣舞は頑固で くこ にナカを見せない。和解するどころか喧嘩を売って喧嘩別れになって、くこ は授のもとに向かう。慰めてもらう気マンマンである。この時、くこ が授の思考を見通しているのは2人の理解の深まりなのだろう。そして授との会話は答えを与えてくれなくても いつも くこ に出口を与える。分かりやすく解決しなくても解決への道筋を見つけられれば前に進み続けられる。