
ななじ 眺(ななじ ながむ)
あるいとう
第06巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★(4点)
くこのブログのアイデアを盗んで作品を描いてしまった桜太。心苦しさからくこにスニーカーを贈ります。一方的な罪滅ぼしだとわかっていても、くこは抱きしめられたような気持ちになって…。 【同時収録】荷物が多いコのハナシ
簡潔完結感想文
- 桜太とキヨ、それぞれ以前と同じような問題で悩み始めて物語に進展が見えない。
- 授は くこ の影響で他者と交わる道を選び、桜太は くこ の影響で自分の道を諦める。
- 「主人公が理屈っぽすぎる漫画って読むの疲れる」とか図星を突くメタ発言に辟易。
神戸の街を舞台にした乙女ゲーム状態、の 6巻。
本書の特徴の一つが移動の多さではないだろうか。一般的な少女漫画ならば学校の描写が自然と多くなるところだけれど、本書のヒロイン・くこ と3人のヒーロー候補、キヨ・桜太(おうた)・授(さずく)は それぞれ学校が違うため学校が物語の基点にならない。彼らと会うには舞台となる神戸の街中。くこ は男性にエンカウント(遭遇)するために街中で撮影するブログを開設している設定なのかもしれない。このブログは桜太に影響を与えるという役割を終えたため作中の登場頻度が下がるのだけど。
くこ が神戸の街を歩いていると男性に遭遇してイベントが発生。そのイベントで発言をすると好感度が下がったり上がったりするのは恋愛シミュレーションゲームのようである。攻略対象が3人というのは乙女ゲームとして少なすぎるけれど、それなのに くこ の男性遭遇率は異様に高い。


乙女ゲームと違うのは相手からの好感度や関係性が高値安定しないこと。時には会うのが気まずくなるほどの関係値になるのがリアルと言える。けれど例え誰か2人と気まずくなっても残る1人が慰めるように登場するところが乙女ゲームっぽい。エンカウントから逃げ出し、イベントの失敗で逃げ出しても絶対に くこ を助けてくれる男性が登場する。今回は それが授となる。前回はキヨだった。その前は桜太で終わっている。ここ3巻は巻末に男性とエンカウントして次の展開を予感させているのか。3人が順々に巻末で登場するなんて ますます乙女ゲーっぽい。
3人が横並びになっているから話に徹底的な展開がなく、1巻における進展度が通常の1/3に感じる。『5巻』が授巻だったように今回は桜太巻となっている。今回、桜太に大きな転換点があるが、それによって他の2人との関係が進みそうにないのが内省的な本書の欠点だろう。きっと くこ は桜太の決断を自分のせいだとグダグダ言うに違いない。
「主人公が理屈っぽすぎる漫画って読むの疲れる」という衣舞(いぶ)の指摘は本書の本質を突きすぎていて笑えない。咲坂伊緒さん『サクラ、サク。』も頭でっかちの極みだと思ったけれど、あちらは最終的に恋の疾走感が盛り込まれてた。全てが くこ の最後の跳躍のための助走だったら どんなにいいと思ったか…。少女漫画読者は乙女ゲームを望んでいるのですよ。
桜太を抱きしめたいと思った くこ は それを我慢し、その直後にキヨに抱きしめられ混乱する。これが以前の桜太を笑顔にしたいと、キヨに告白されたターンと どう違うのか。堂々巡りな印象がある。それに いちいち情動を分析して、自分の精神状態と絡める くこ の描写も内省的すぎて少女漫画感を奪う。
くこ に賞金を受け取ってもらえなかった桜太は賞金を使ってスニーカーをプレゼントする。桜太が くこ の足元の記憶があり、彼女を想って品を選んでくれたことが くこ を浮き足立たせる。それは2人が傷つけ合いながらの交流が具現化したものに思える。


キヨとは告白直後と同じ気まずさが漂う。告白時と違い今回はキヨが くこ との接し方を気にする。くこ は桜太との交流の喜びの方が大きいのだろう。キヨは衣舞(いぶ)を誘い気晴らしをし、それが衣舞の思い出になる。
くこ はキヨとの関係を元通りにしたい衝動に従う。そうすればキヨとは絶縁関係には絶対にならない。そこが桜太との違いだろう。その幼なじみ2人の強固な関係性に授は上手く入れない。
授は自分の思うがまま生きるのではなく、他人に合わせる生き方を学ぶためサックスを人と演奏する道に挑戦する。その道は険しいけれど楽しい。その動機に くこ の存在があることを授は否定しない。
くこ の存在が好影響を与えるのが授ならば、桜太は自分に見切りをつけた。桜太は絵を描くのは変わらずに好き。しかし美大に入学して自分の感性の在り処が分からなくなった。最初の壁は有名(うな)が自分の絵に魅力を感じてくれたことで乗り越えたが、くこ の感性を拝借した自分に限界を感じる。
そんな時、桜太は自分の渡したスニーカーを履く くこ に遭遇。くこ は それで桜太が笑顔を見せたことが嬉しい。けれど自分が桜太の前で女子モードに入ることに抵抗する くこ は話したいという桜太の提案を拒否し逃亡する。逃亡先は衣舞の家。しかし そこにキヨが登場し、くこ の新しい靴が桜太に贈られた物だと見抜き、恋の矢印が交錯する同級生3人の雰囲気は悪くなる。
そこから抜け出した限界の近い くこ は授に遭遇する。
「荷物が多いコのハナシ」…
高校1年生女子生徒・曙(あけぼの)は必要以上の荷物を持って登校する。それは自分が誰かに物を貸せる有用性を示すため。だが その曙を同級生の男子生徒・相江(あいえ)は断捨離させ改革させようとする。その交流の内に好意が芽生える。
曙の荷物が少しも減っていないラストが逆に良い。彼女を変えさせて自己満足するのではなく、相江が彼女の生き方を肯定し、自分が彼女の荷物の分担する姿勢を見せるところが格好良い。そして曙は自分のための、自分を女の子にする荷物を増やすのも良い。
