《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

君に笑って欲しい純粋な願いが相手の負担になる負のスパイラル、のスパイラル

あるいとう 3 (マーガレットコミックスDIGITAL)
ななじ 眺(ななじ ながむ)
あるいとう
第03巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★(4点)
 

私の強さは桜ちゃんにとってはトゲ。傷つけてしまう。好きな気持ちをナシにしようと決めたのに、桜ちゃんが想いを寄せる人を知った瞬間に、くこの気持ちは吹き飛んで…。【同時収録】せんぱい/まなみ

簡潔完結感想文

  • 読切短編の、その番外編以外 全員が苦しい恋をする。寄せる好意どころか存在が脅威。
  • キャラ作りであっても そのキャラを纏えることが くこ の強さだと判断する桜太。
  • 小さなカタストロフが起こってから人の心は復興する。これから本当の強さが必要。

星が落下しなくても全員 失恋!! の 3巻。

私は読書経験から少女漫画の『3巻』では三角関係が始まる傾向があると思っているのですが、本書の場合、『3巻』終了時点で全員の恋が上手くいかないという結果となっている。ヒロインがモテる困った状況になるはずの『3巻』で本当に困ったことになった。
この惨状に既視感があると読書経験を検索したところ やまもり三香さん『ひるなかの流星』の『3巻』だった。その時のタイトルを「ひるなかの流星が落下した地球には、両想いという概念が消失しました。全員、失恋!」したけれど、本書も まさにそれである。

この2作品は同じ2011年に「マーガレット」で連載が始まったという共通点がある。本書は作者の病気療養による救済があるため『3巻』の発売は「ひるなか」の9か月後とズレがあるけれど。この恋愛関係を一度 徹底的に破壊するのは2011年の震災が影響しているのだろうか と思ったけど、2011・12年の作品を思い返してみたけれど、この2作品の展開が偶然 似ているだけだった。

この『3巻』はラストに収録されている読切短編の番外編の8ページ以外、誰の恋も上手くいかない。その番外編は8ページのセリフの無いサイレント劇になっていて、言葉は誰かを傷つける凶器になる、が『3巻』の総括なのかと思ってしまう。

桜太が芸術家の卵じゃなければ好意的に受け入れられた くこ の感性は脅威となる

ロイン・くこ の自分語りが徹底的に嫌いなので、その部分の多さに辟易するけれど、読み返してみると恋の矢印が誰にも到達しない苦しさは間違いなく少女漫画だと思えた。特に相手を思い遣って自分が出来ることをしようとしたのに、それが かえって相手を傷つけてしまう悪循環に陥る くこ やキヨの青臭さが良い。そして自分の存在や言葉が相手の棘になると思っても、それでも一途に相手を想う純粋さも良かった。

くこ は相手に対する悪循環だけでなく、自分が かつて自分がされて不快に思った行動と同じことをしているという気づきも苦しい。そして自分ではキャラを作って気を張っていると思っていることが、他者から見ると そういう自分でいられること自体が強さだと認識されることも知る。自分の存在自体が棘となる事象は もう逃れられない業(ごう)のようなものだ。
しかも それを指摘するのが好きな人という残酷さ。『3巻』までで日常の崩壊という災害にも等しい経験をした くこ。ここから立ち直れるか、立ち直る気力を持ち続けられるかが くこ の再構築の試練である。


なじみのキヨに告白されて彼との関係の変化を、自分の変化を受け入れなかったことで、くこ はキヨと1か月以上 気まずい状態が続く。それでもキヨは くこ一筋。くこ以外の女性からモテても彼の心は揺るがない。

もう一人 くこ が避けていた桜太(おうた)と遭遇してしまい、互いに地雷を警戒して気まずい状況が続く。それは相手も同じで言葉を上手く選べない会話となる。そんな現状でも くこ は桜太への気持ちを封印できない。くこ は明るい太陽のようなキヨではなく陰気な雰囲気を纏う桜太が気になってしまう。そんな時 くこ は、桜太と人妻・有名(うな)の間に流れる男女の空気を察知し、桜太も それを認める。


の桜太は くこ のブログのアイデアをパクって作品展に出品する。良く言えばオマージュだが、桜太に くこ に顔向けできない意識があるため剽窃だろう。桜太は くこ の在り方そのものが眩しい。それを桜太を見守る者たちは「脅威」と称する。

自分が桜太の圧になっていることに無自覚なまま くこ は桜太に有名を好きでいるのは茨の道だから自分と一緒に歩く道もあると間接的に告白する。けど桜太にとって くこ と一緒にいる道は自分の小ささを突き付けられる環境だろう。茨の道から抜け出せるようにしたい くこ だが、見返りを求めない お節介は本音を隠したキャラ作りで あざとい と衣舞(いぶ)は指摘する。

心の安寧を願うヒロイン的な行動が かえって心を乱すことに くこ は無自覚

こ は桜太を外の世界に誘い出そうと関わり続ける。ただ他人に浮かべる表情を求めるのは負担だとキヨにされて嫌だったことを自分がしている矛盾に気づく。そして桜太は くこ に関わり続けることで傷つき静かに血を流す。強くあろうとする くこ が強いと認識するから桜太は傷つく。どうにもならない現状に くこ は混乱を増す。

桜太に授(さずく)を紹介しようとするが、自分と違い音で自己を表現している授のことも桜太は眩しく、桜太は くこ との行動から離脱する。涙を流し始めた くこ に2人を追跡していたキヨが追いつき、桜太の くこ の見方に異議を唱えた後、彼女の涙を拭いに向かう。八つ当たりに近い言動をした桜太を現実は更に苦しめる…。

「せんぱい」…
高校3年生の「せんぱい」が好きな夕日(ゆか)は彼の卒業を前に感傷的になっていた。見ているだけの日々が卒業を前に少しだけ接点が生まれる。けれど自分の想いは叶わないことを夕日は知っている。せんぱい との最後の日々を切なく描いた一編。
読切短編だから描ける切なさ。卒業すること、どうしても手が届かないことが、せんぱい が免許を取得のため教習者に乗って追いつけなくなる様子で描かれる。人の想いに応えられないことに対して罪悪感を覚える名前のない優しい せんぱい。その性格を含めて好きになった恋でした。

「まなみ 「せんぱい」番外編」…
せんぱい が彼女を獲得するまでを描くサイレントな短編。百年の恋が冷めずに守ろうとする せんぱい が素敵。