
ななじ 眺(ななじ ながむ)
あるいとう
第02巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★(4点)
主人公・くこの笑顔の理由。強がって、無理やり笑わなきゃいけない理由。それはくこが生まれた年に起きた出来事の中に。日常が崩れて動き出す、恋と成長の物語。
簡潔完結感想文
- 年上の男性。笑顔を返して欲しくて笑顔を向けたが、無自覚に彼の表情を曇らせてしまう。
- 幼なじみ。くこ に笑顔でいて欲しい人。彼女のキャラ作りを認めているのに強制はツラい。
- 異邦人。これまでの くこ を知らないから ありのままの彼女の評価を下せる人。彼女持ち。
傷つくヒロインに集まる共感や同情にも限度がある、の 2巻。
『1巻』に引き続き、ヒロイン・くこ とキヨ・授(さずく)・桜太(おうた)3人の男性の関係性が描かれる。人物紹介的だった『1巻』から発展し『2巻』では くこ と3人の男性の それぞれ相手に求める姿が明らかになる。
その中で幼なじみのキヨが いち早く告白してきたり、授が遠距離恋愛をしていることが より鮮明になったり、くこ が桜太への想いを明確にした途端、彼には想い人がいるという複雑な恋模様が浮かび上がってくる。
この辺りは ちゃんと少女漫画しているなぁ と思うのだけど、くこ が向ける/向けられる恋心に頭を悩ませるのではなく、それを起点に自分の存在に悩むから自己完結の物語にしかなっていない。何をしても どんな言葉を向けられても「でも自分は…」とネガティブ発言を繰り返す くこ に読者はは呆れとうよ…。
今回くこ が どうして そういう性格や信念を獲得したのかが描かれ、その背景にある生い立ちには確かに感情を揺さぶられた。少女漫画的にくこ に焦点を当てなくてはならないのは分かるけど、考えてみれば記憶の無い くこ よりも壮絶な体験をした父親の方が深刻で彼が どう立ち直ったのか、どうして笑顔でいられるのかが知りたくなった。父親の人生観が くこ の袋小路の出口になるのだろうか。


ずっと笑顔問題に執着する くこ に対して、キヨは わざとらしさを含めて くこ の笑顔を肯定した。これは自分の存在意義や考え方を認めるということで くこ の救済に繋がる、かと思われたけれど、くこ は自発的な笑顔を認めて欲しいけれど、笑顔を強要されることへの負担を感じる、と自己中心的な考え方を爆発させる。
桜太との関係もそうだけど、何をやっても地雷を踏んでしまうような面倒臭さが本書にはある。自分の考えていることを的確に相手に見抜いて欲しい、という究極的なワガママを爆発させている女でしかない。『コイバナ!』もヒロインが自分の男嫌いを振り回していて好きじゃなかったけど、今回も同じ印象を受ける。作者は以前の作品よりも一段 深い描写を狙ったのに、どこまでも自分の考えしか持てない主人公は少女漫画の典型のように思う。幼稚じゃないはずなのに一周回って幼稚さに帰着している。メンタル病んでいる人の自分語りブログ(読んだことないけど)みたいで、読んでいて ただただ こちらが疲弊するばかりなのだ。
くこ が強い自分であろうとするのは彼女の生い立ちに関係していた。
1995年1月2日に生まれた くこ。しかし1月17日に阪神淡路大震災が発生。早朝から仕事に出掛けた新米の父親は地震発生後に自宅に戻り、そこで崩壊した自宅の下に妻と子を発見する。妻は子供を守り くこ は無傷。倒壊した建物の隙間から くこ を救い出すが、妻は身動きが取れず、やがて火災が近づき父親は母親の最期の願いを聞き、その場を離れる。避難所生活と2年間の父子の別居を経て、くこ は今の家で2人家族の生活を始める。
2人での生活の中で父親は笑っていた。そして くこ も成長と共に笑うことで周囲との関係が良好になることを学び、やがて笑顔が癖のようになる。しかし神戸に暮らす人たちは笑顔の下に多くの悲しみを抱えていることを1月17日の追悼行事で くこ は知る。それが記憶にない震災と母親への悲しみに繋がり くこ は涙を流す。
そして くこ も多くの神戸人と同じように悲しみの上にある笑顔を作る。学校で孤立しがちな衣舞(いぶ)にも声を掛け、偽善的だと思われようとも彼女と関わり続ける。いつしか髪をくくることが笑顔のスイッチになった。
しかし笑顔でいても良好な関係を築けない時もある。くこ と桜太(おうた)は悪意が無くても近寄ると互いに傷ついてしまう 。桜太が好きだからこそ その事実が くこ は苦しい。くこ の表情を曇らせていることに最初に気づくのは隣家のキヨ。しかしキヨの くこ に笑顔を取り戻して欲しいという純粋な願望の裏に笑顔を強制していると授(さずく)は指摘する。この交流からキヨと授は交流を始める。授の学校での様子は分からないけれど、キヨとの交流は授に神戸での居場所を与えるものであるのは間違いがない。
そして くこ に相談された衣舞は桜太には見返りを求めた くこ の動機は恋だと指摘し、くこ も それを否定しない。それでも平穏を取り戻すために くこ は桜太への感情を なかったことにする。それが最善だと思った直後、キヨから告白されてしまう。『1巻』お告白直前の雰囲気とは違い、言葉にされた今回は流石に誤魔化し切れず くこ は受け止める。でもキヨの気持ちを知ってて受け止めきれないから気づかない振りをしていたと告げる。そしてキヨの気持ちを受け入れられないことが彼の表情を曇らせるのが悲しい。そういう くこ の混乱もキヨは受け止めて受け入れる。


これまで通りの くこ を受け止める存在が救いになるはずなのに、くこ は それが新たな呪縛となる。ここが くこ の面倒くさいところで話が面白くないところだと思う。自発的な笑顔は保ちたいけれど、他者から笑顔を強制させられるのは負担だそうだ。キャラ作りして それを求められると苦しくなるって どうしたいんだ、この女は。
その相談相手は遭遇した授。授は くこ の これまでを知らない異邦人だから客観的な意見を述べてくれる。一面的な自分しか見せようとしない くこ が「本当の自分」を分かって欲しいという面倒くさい人にしか見えない。
桜太は くこ のアイデアを剽窃した絵を描き進める。出入りするアトリエの主人の妻・有名(うな)に横恋慕するのと同様 自傷行為のようにも見える。
