
鈴木 ジュリエッタ(すずき ジュリエッタ)
神様はじめました(かみさまはじめました)
第24巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
悪羅王編クライマックス! かつて仲違いにより分かれてしまった悪鬼と妖狐の絆が今ひとたび結ばれる。そして巴衛の「人になりたい」という願いに答えが!?いよいよ「神様」最終章。人と妖、禁忌とよばれた恋が選び取る未来とは!? 大人気24巻!
簡潔完結感想文
- 羽衣を纏った天女となった奈々生は、今回も決着が付いてから愛しい人の元に降臨する。
- 悪羅王の生き直しに反対する神々の意見を封じる奈々生。ヒロインは神様の上位存在☆
- 悪羅王亡き後には、伝説の妖怪は巴衛だけ。その彼が地位を捨てる私♥ という図式完成。
白泉社ヒーローは最高位の者しかなれない、の 24巻。
こんな意地の悪い読み方をするのは私ぐらいだと思うけれど、この『24巻』で本書は白泉社作品として完成した、と思った。その理由は巴衛(ともえ)が一時的にとはいえ最強妖怪の地位を手に入れたからだ。
白泉社作品と言えばヒーローの特殊性が挙げられる。それが学校や財界など作品世界のトップに君臨する者しかなれない、というバリバリのエリート思想である。生徒会長や御曹司はもちろん、一国の王や帝に愛されるのが白泉社ヒロインである。
その点、巴衛の位置付けは少し弱かった。異界で名を馳せた妖怪であったものの白泉社ヒーローに相応しいトップ オブ トップかは不明だった。長編化したことで悪羅王(あくらおう)という絶対悪が登場して巴衛との因縁が描かれていたが、もしかして裏テーマとして大事だったのは悪羅王と巴衛という二大妖怪の地位を確定させることではないか。
その悪羅王が今回 倒れる。すると自動的に巴衛が真のNo.1妖怪の座に就く。これで巴衛が白泉社ヒーロー(特に長編)の資格を ようやく手にしたと言える。しかも巴衛は決して悪羅王の命を奪うようなことはしていない。それは魂の座である霧仁(きりひと)、そして悪羅王に肉体ともに同じである。霧仁も、悪羅王の中にいる夜鳥(やとり)も思わぬ展開で命を落とす。巴衛は2つの存在に対して致命的なダメージを与えられていない。この辺は物語中盤から巴衛の漂白が始まり、それに付随した弱体化を感じる部分である。巴衛が最後に妖力によって命を奪ったり、相手にダメージを与えたのはいつだろうか。平和すぎて地位だけの無能ヒーローっぽくなっている。武力が低下しているから、学校での勉強が得意という知力で彼の有能性を補っているのか。
自分が同格の相手を倒すような真似をしないまま、相手が倒れたことで自動的にNo1になる。悪羅王編で描きたかったのは巴衛のトップ就任なのではないか と思うのは仕方がない。
そして もちろん、巴衛のトップ就任の恩恵に与るのが読者の分身であるヒロイン・奈々生(ななみ)である。巴衛は名実共にNo.1妖怪になりながらも今は一人の女性を愛して人間になることを願い、その地位を捨てようとしている。世界最高の男性が自分のために全てを捨てる。世界=ヒロインという図式が完成し、読者たちの承認欲求は満たされる。
奈々生もまた世界最高位の人間になったようで、悪羅王の肉体を巡る議論では神々の反対を押し退けて奈々生の案が採用される。これによって奈々生は神々よりも上位存在になったと言えよう。これは奈々生が神々のトップ的立場の大国主(おおくにぬし)の祖母・イザナミと懇意になったことで起こる現象。だけど様々な分野のトップに一目置かれて、かなりのことが自分の思い通りになる、そんな世界観が本書の到達点なのだろうか。奈々生が世界の中心に なり過ぎている。


また巴衛が不殺(ころさず)を宿命づけられているように、奈々生は作中における霧仁・悪羅王の死から遠ざけられる。『24巻』冒頭では火の山で巴衛の居る場所に一直線に向かていたはずが、なぜか寄り道をして、その時間のロスによって悪羅王(夜鳥)の消滅後に巴衛と再会し、彼の心を癒している。その上、巴衛の中の奈々生が戦闘中に登場してヒーローの迷いを吹っ切るヒロイン役を ちゃっかり こなしている。作者としては霧仁の時と同じく奈々生に無力感を与えないように配慮しているから、彼女を死から遠ざけるのだろう。少し過保護が過ぎて、長々やった割には生ぬるい結末に思えてしまう。
序盤は どちらの性格にも難がある凸凹コンビで、そこがコメディとして面白かったと思うのだけど、いつの間にか お互いに人畜無害の存在になり、どこに出しても恥ずかしくない最強の品行方正カップルになってしまった。今回のラストで まとまった資産まで手にしている。神様になったら他者の縁を結ぶよりも自分の幸運を結んでいた、という結論なのだろうか。
上述の通り作品の都合上、巴衛は悪羅王(夜鳥)を滅することは出来ないから、悪羅王の自滅のために黒麿が引っ張り出された。過去の出演者でダークサイドっぽい人だから選ばれたのだろうけど、黒麿のエピソードは私には よく分からなかった。
そして黒麿は、巴衛にはあれだけ契約の順守を徹底したのに、夜鳥との契約は自分勝手に破棄するのは こじらせ&引きこもりの身勝手な行動にも映る。対価として自分の命と引き換えの破棄だけど、そこに夜鳥を巻き込むのは、いくら夜鳥が悪役だからと言って不条理だ。黒麿は あんまり好きになれないキャラクタだ。
あと大国主が黒麿を彼と称しているけど、黒麿って男なの?? 冷静に考えれば名前は男性名なのか。イメージ映像でお送りします、という感じだったから相手が望む姿になっているのだろう。最後の最後で混乱したけど、どこかに黒麿の そういう設定 書いてあったっけ…?
奈々生は火の山の炎を無効化する「龍神の羽衣」をまとい天女となって最終決戦地に赴く。
火の山で悪羅王の肉体を得た夜鳥(やとり)は脱出を画策。巴衛が それを全力で阻むのは夜鳥が悪羅王として君臨することが我慢ならないから。そうなるぐらいなら自分が悪羅王になるという巴衛の決意を感じ取った夜鳥は巴衛に肉体の譲渡を提案する。
一方、大国主(おおくにぬし)は精神世界で黒麿(くろまろ)の説得を続けていた。こじらせた神堕ちは厄介で何を言っても応じない。引きこもりの人が外界に出るぐらい、そのハードルは高いのだろう。そこに巴衛のもとに向かったはずの奈々生が登場する(耳を澄ませて巴衛の場所に一直線に向かっている描写は何だったのか…)。
まさしく天女のように降臨する奈々生は昔馴染みである黒麿の存在を知り再会を望む。奈々生にとって黒麿は縁を導いてくれた恩人。その感謝を伝えることで黒麿の存在理由は満たされていく。大国主のホスト的な言葉より奈々生の実感のこもった感謝が伝わるのは道理か。


自分が人間になる未来が遠のくよりも巴衛は夜鳥=悪羅王という現状が許し難く悪羅王と一体化することを受け入れる。しかし その直前に奈々生が巴衛の心に降臨し それを阻止。奈々生は全ての戦いを止める休戦の女神となる。黒麿が存在理由を与えられたように、巴衛も存在理由を再確認する。
黒麿は夜鳥との契約を一方的に破棄して、彼の身体から離反する。自己を肯定できて満たされて逝く黒麿と反対に、夜鳥は自分の中の虚無を抱えたまま消滅する。黒麿は夜鳥より勝手すぎないか?? 悪羅王の肉体は未だに不滅なので、進化の水を飲ませるまで火の山に留置することになる。
奈々生たちは火の山からミカゲたちのいる場所へ集合。そこには変わらずに泣き崩れる霧仁(きりひと)の母親・亜子(あこ)の姿があった。そこで奈々生は冬山での霧仁の死を伝え、ミカゲは悪羅王の魂魄を亜子に見せる(ミカゲは何でも出来るな…)。それを知っても亜子は悪羅王もまた息子の一人のように慈しむ。少なくとも亜子の前では悪羅王は母親が望む姿でいてくれたのは事実なのだ。
御霊を取り戻した大国主は自分の博愛主義が軽薄だと痛感したのか落ち込み気味。それでもリスクが読めない進化の水での悪羅王の生まれ直しには反対する。その神々の意見を変えさせるのは奈々生の言葉。大国主の祖母であるイザナミを味方に付けているので誘導も簡単。奈々生は神よりも上位存在・上位の意思決定機関になったと言えよう。
それでも、瑞希が持参した進化の水はイザナミが飲んで検証し、100年後の1滴を悪羅王に飲ませるかどうか判断するという方針が出される。100年後では人間の奈々生と人間になった巴衛は悪羅王の生まれ直しを目撃できない。
そこに亜子が現れ、悪羅王の魂魄に自分が母親になって新しい肉体を与えるという。肉体が別なら悪羅王の復活は問題ないのか、その方針は一気に決まる。肉体の復活は進化の水で行うかもしれない。肉体と精神がバラバラになれば一層 安全ということなのだろうか。神々の判断基準が私には よく分からない。
それにしても亜子は20歳で霧仁を生んでいたとしても現在40歳前後。出産が25歳なら45歳。その年齢の女性が妊活を始めようとすることに色々と考えてしまう。自然と悪羅王が宿るとか、実は今 妊娠しているとかではなく、これから子作りをしますという宣言なんだもの。作中で未登場の同じような年齢の夫も色々と頑張れ。
問題解決後、奈々生はイザナミとの約束である お茶会に参加する。黄泉の住人にならないように術の施されたスプーンを再度 使っているのが芸が細かい。イザナミに次に会うのは人としての生を全うした時だと言われる。
地上に戻った奈々生はミカゲ社での生活に戻る。けれど巴衛は妖怪のままなので神使としての仕事を放置。奈々生は巴衛を慰労するためにも しばらくは そのままの状態にいさせてあげたい。満開の桜の下にいる妖怪の巴衛は500年前に見た姿。その姿を見て奈々生は自分たちが婚姻すると約束した500年後が今なのだと改めて実感する。そうして巴衛を異性として意識し過ぎた奈々生は巴衛との神使契約(キス)が出来なくなる。
そんなミカゲ社に大国主が来訪。そこで大国主は巴衛を人間にすると宣言(神の力、というザックリとした手法っぽい…)。それにミカゲが反対意見を述べる。理由は巴衛と奈々生が将来像を明確にしていないから。人になった巴衛と共に生きる道は、奈々生もまた人神ではなくなる選択をするということ。もうミカゲ社にいられないことになる現実を前にして、奈々生は高校卒業までの1年の猶予期間をもらう。それまでに自分の身の振り方を確定させることを決断する。
奈々生の決断に瑞希は静かにショックを受ける。瑞希はミカゲ社の神使ではなく奈々生の神使。彼女が人神でなくなったら瑞希は居場所や存在意義を失う。心に生まれた澱(おり)は我慢しても口から出てしまい、瑞希は奈々生を悲しませてしまう。
瑞希は そんな自分を嫌悪してクラマの家に家出状態。瑞希の悲しみは読者の悲しみだろう。このまま永遠があると思っていたけれど、終わりやお別れはやって来る。でも それは奈々生の幸せの実現でもあって、これまで見守ってきた人たちが絶対に拒絶してはいけない時間の流れなのだ。
巴衛との新生活のための資金を用意するため奈々生はバイトをはじめる。神様という地位に胡坐をかいていた奈々生が ようやく働き出した。少々無理してでも頑張るのは、父親を反面教師にして堅実な生活こそ大事だと思っているから(その割には神様になった後に お金を使うことに躊躇が無かったように見えるけど…)。
しかし無理が祟って体調を崩す。巴衛は奈々生が将来ばかり見て、案じていることが不満。それでも奈々生は お金を味方に付けようとするのなら自分が代役を引き受けようとする。初日こそ上手くいかず珍しく落ち込む巴衛だったけれど、容量が良いから2日目からは奈々生よりも上手に世間を渡る。そして生活には資金が必要だと知り、ミカゲとも日給500円の契約を結ぶ。
奈々生は その姿を見て落ち込むが、巴衛の動機が自分との幸せにあると知り満たされる。そして巴衛は奈々生の当面の心配事である金策も解決する。ミカゲとの日給500円の契約は500年間のバイト代の支払いとなる。計算すると9125万円。宗教法人ミカゲ社は破産宣告を受けることを決めました、というバッドエンドだろうか…(笑)
