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少女漫画と小説の感想ブログです

白泉社お得意の御曹司との格差恋愛のように、逆境を乗り越えるヒロインはじめました

神様はじめました 21 (花とゆめコミックス)
鈴木 ジュリエッタ(すずき ジュリエッタ
神様はじめました(かみさまはじめました)
第21巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★★(6点)
 

「──奈々生ちゃんは強くなったよ、最初に会った時よりもずっとずっと」  狐になってしまった巴衛を元に戻すため、大国主に会いにいくミカゲたち。一方、奈々生も巴衛をおいかけて出雲へ!しかし道中、怪しげな策士・夜鳥に遭遇…!!  巴衛と奈々生と雪路と悪羅王──今と昔すべての縁を巻き込んで、ついに“悪羅王編”の火蓋が切られる!

簡潔完結感想文

  • 本来、奈々生が介入しなくていい悪羅王問題に どうにか介入させようとする試行錯誤。
  • 過去編でリスクを冒して雪路のために行動したように、巴衛のために行動する聖女再び。
  • ドラマ性のために奈々生は巴衛に大切な話をしない。世界は それを自己満足と呼ぶんだぜ。

いを解くまで数巻、人間になるまで数巻、の 21巻。

今回の表紙の奈々生(ななみ)は友人・あみ のように見える。そして内容的に『20巻』の表紙を『21巻』にすれば良かったのに と思った。

相変わらず作者は話の進め方が上手くて、奈々生や巴衛(ともえ)が部外者だった悪羅王(あくらおう)問題に どうにか介入させる流れを作っている。今回は他人事を自分ごとにさせるための巻といえる。そして長かった過去編で奈々生が自分の利益のためではなく、雪路(ゆきじ)と巴衛の縁を結ぼうとしたように、今回も奈々生は巴衛を人間にするという目標を達成するためにリスクを冒す。過去編では巴衛の命に7日間というタイムリミットがあったが、今回は奈々生が病に侵された状況になり無理をすれば それだけ時間が奪われるけれど、それでも奈々生は巴衛への愛を証明するかのように動き続ける。2つのエピソードでの2人の状況の対称性は綺麗だけど、人の余命で演出するな、と言いたくなるような展開に首を傾げる部分もある。

長い長い別離の過去編の出口を抜けたら、また別種の別離が待っている。奈々生を清い状態にしたいのかもしれないけれど、読者が望んでいるのは こういう「お預け」じゃない。そういう作者や作品との齟齬が どうしても拭いきれない。私は全25巻の作品と分かっている上での読書だったから、この悪羅王編にも意味を見い出せるけれど、リアルタイム読者にとっては両想いの交際編を差し置いて、よく分からない悪羅王編に突入して、以前よりも糖分補給が ままならない先の見えない連載は苦痛に変換されかねない状況だろう。

一度 立ち止まっても覚悟を決めたら それ以降のヒロインは無敵。最強の奈々生 誕生

奈々生の余命に関しても彼女は秘密主義を貫く。これまでの失敗から奈々生は、霧仁(きりひと)とのキスなど自分に起きたことを正直に話す姿勢に変化したはずなのだけど、結局 今回も巴衛に何も伝えない。このことを伝えれば巴衛は大妖怪の頃の衝動性を取り戻し、そこで起こす罪や価値観の違いによって、人になることが困難になるからなのだろう。今回は特に伝えられない重い内容なのは分かるのだけれど奈々生の姿勢の不一致が気になる。

そして物語中盤からの巴衛の無力化にも拍車が掛かる。最初に そう思ったのは最初の出雲編ぐらいからか(『8巻』)。その頃から巴衛の善人化が始まっていて、出雲編では相手が神だから巴衛が無双するシーンは割愛されていた。その後の天狗編では巴衛が殴るべき相手は出てこないし、過去編に至っては神使・巴衛の活躍はゼロ。両想い編になって男性として成熟しかけていたけれど、神使の巴衛はヒーローになり切れない。そして現在は狐の姿になって男性としての機能を失っていると言えよう。

それもこれも巴衛は暴力を行使して奈々生を物理的に守るのではなく、精神的に守るという姿勢の移行があって、作者は それに準じて巴衛の行動を制御している。作者が それだけ巴衛の心境に真摯に寄り添っているから起こる現象なのだけど、どうも巴衛という存在がピリッとせず、それが作品としての煮え切らなさに繋がっているように見える。

巴衛は現在も大妖怪と噂されるほどの存在で、今回 奈々生は御曹司との恋愛のように格差を まざまざと見せつけられる。それは巴衛に価値を再付加させる試みなのだけど、昨今の巴衛の牙の抜かれ方を見ると、かつて有名だった隠居した大妖怪という方が正しいような気がしてきた。

以前も書いたけれど私が巴衛に抱く失望は、俺様ヒーローが社会常識を持った時の感情に似ていて、作中でいえば悪羅王が人間で腑抜けになる巴衛に抱く感情とも似ているだろう。巴衛も そして作品・作者も個性を失って万人受けする属性に変わっている。そこに寂寞を覚えるのだろう。


強ヒーローだからという側面もあるのだろうけれど、この世界において巴衛は情報弱者。悪羅王が霧仁の中にいることを奈々生に教えられて初めて知る。巴衛は悪羅王に憎しみを抱いていないと言っていた割には すぐに彼への敵意を丸出しにする(憎悪などの悪感情ではないのだろう)。

巴衛が奈々生と出会って変わったように、霧仁(悪羅王)も奈々生と断続的に会うことで影響を受け始める。さすがヒロイン様である。そして巴衛が悪羅王のことを知ったように、夜鳥(やとり)は霧仁に彼が悪羅王であることを既知であると腹を割って話す。それが彼の忠誠の証。夜鳥は悪羅王に一目置かれ一番になりたい。

霧仁は大願成就のために動き、最近は不良生活を送る。その別人のような変化が母親を心配させ、干渉を招く。霧仁は母親を拒絶するけれど、母は強し で霧仁を心配する姿勢をハッキリと見せる。霧仁は女性の直情的な、真剣な感情に弱いところがあるようで母親を邪魔者扱いせず、その存在を受け入れる。奈々生の時と同じような動きに見える。


カゲ社では巴衛が狐の姿だから奈々生が家事をすることになったのか。しかし失敗続き。勝手が違うのだろうけれど、父子家庭で放蕩の父親を持つ奈々生は家事全般をこなしているからドジっ子設定は違和感がある。

その巴衛の姿は大国主(おおくにぬし)の力によって元に戻る目途がついた。てっきり奈々生が再び出雲に赴くのかと思ったら、その役目はミカゲが担う。それはミカゲが奈々生を出雲の剣呑な雰囲気に触れさせたくなかったからだった(ミカゲは奈々生の身体に起こっていることが分かっているから なのか…??)。

苦しい時の神頼み。解決策を他者が握っていることで その人の運命に巻き込まれる

だからといって物語的に奈々生が留守番で終わるはずもなく、瑞希は社から入る出雲への神様への道を教える。神様しか通れないので奈々生の単独行動になる。瑞希聖神使で、この社での生活が長いとはいえ奈々生が知らないことを知っているのは なぜなのか。
この道中で奈々生は夜鳥に遭う。奈々生も疑問に思っているけれど なぜ夜鳥が この神の道を通れるのかが謎となる。夜鳥は人間の女性たちの霧仁への悪影響を懸念しているので奈々生の排除も厭わない。


こでバトル漫画のような展開が久々に始まり、お札を使った近距離型の奈々生は防戦一方。そこで窮地を脱するために上層の神の道から魑魅魍魎の下層界へ脱出する。奈々生の乾坤一擲の奇策も通用せず、奈々生は巴衛が人間になることの重大さを夜鳥から説かれることになる。この辺は白泉社の庶民ヒロインが御曹司と恋をして結婚しようとする格差の話に通じる。

夜鳥の示す圧倒的な現実を前にしても終盤の最強ヒロインとなった奈々生は揺るがない。けれど奈々生は霧仁に精気を吸われたことで自分の命が長くないと言われ、直感的に それが正しいと理解してしまう。そのピンチに鞍馬山(くらまやま)から二郎(じろう)が表れる。奈々生が霊道に穴を空けたのは鞍馬山の真上だったため二郎が実働部隊として動いた。東京(?)から西に向かえば鞍馬山は通過点で、天狗たちの再登場に無理がない流れが生まれている。

夜鳥と二郎は騙し騙された間柄。二郎は夜鳥にリベンジし撤退させる。そのまま奈々生は鞍馬山に運ばれ、目が覚めた時、二郎が奈々生の魂魄が吸い取られているため余命半年であると話しているのを聞いてしまう。巴衛の妖怪としての寿命を縮めても一緒に生きることを決めたはずなのに、自分は巴衛と一緒にいる時間は僅かになっていまった。


狗たちとの4か月ぶりの再会で、奈々生は子供たちの成長や この山の統治体制の復活と平穏を見る。そして冷静な気持ちで自分が去った後の この世を見通す。遺される巴衛のために彼の心を支える手筈を整えていく。その奈々生の気丈さを飛べなくなった天狗の翠郎(すいろう)は認め、しかし悲しみに共感することで奈々生の中にある感情が溢れ出るようにしてあげる。

翠郎から今後は長生きのために邪気に当たらないように言われ、そして助かる手段に他者の精気を吸い取ることがあると教えられる。しかし それは相手の死によって成立する手段。または下界の穢れのない鞍馬山で暮らせば命は永らえる。ただし鞍馬山は元来 女人禁制なので反対派もいて手続きもある。二郎は奈々生のために尽力して、鞍馬山での年に数度の逢瀬なら保証すると約束する。

様々な選択肢で混乱する中、奈々生は自分の処遇を巡って開かれる会議に出席する(もう少し人目を避ける努力をするべきなのでは…)。鞍馬山は意見が割れており応援してくれる人、見守ってくれる人、この地の風紀を憂う人を見て奈々生は自分の意見を自分で発する。奈々生は清い天女でいることよりも、俗世にまみれて巴衛と生きることを決める。それは生きたいと願う自分を再確認する行為だった。


3日前、大国主の御霊は悪羅王の手によって奪われた。大国主の不在は人の世に滞りを引き起こす。しかし巴衛は奈々生の心配が先に立ち、出雲から帰ろうとする。その姿勢をミカゲは たしなめる。巴衛としては雪路のトラウマがあるから奈々生にずっと寄り添い後悔をしたくないのだろう。

鞍馬山を後にする奈々生に、山から連絡を貰って奈々生を追いかけてきた瑞希が合流する。そして瑞希から出雲でキーパーソンである大国主に事件が起きていることを知り、2人は出雲へと向かう。

そこで大国主の御霊は夜鳥によって奪われ、その御霊を保持していたから夜鳥は霊道を通れたという推測が生まれる。実際、霧仁は大国主の御霊を使って黄泉への道を通じさせる。夜鳥は二郎から受けた傷の回復を待つため、黄泉へは霧仁と式神が突入する。黄泉への道の開通の異音を聞きつけ霧仁の母親が息子の部屋を覗くと、そこには夜鳥がいた。母親を好ましく思わない夜鳥は わざと傷つける言葉を並べるが、息子に何かが起こっていると察知した母親は夜鳥に強い態度で出る。それが夜鳥には不快で、彼は母親の首を絞める(エヴァンゲリオン参号機のようだ)。夜鳥は今、巴衛に呪いの契約をした神堕ち・黒麿(くろまろ)と同化していることが明かされる。