《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

男性キャラにポッと出の女をあてがう、阿鼻叫喚の内輪カップルはじめました

神様はじめました 19 (花とゆめコミックス)
鈴木 ジュリエッタ(すずき ジュリエッタ
神様はじめました(かみさまはじめました)
第19巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★★(6点)
 

「遅かったな。あの女には俺の糧になってもらった」霧仁(きりひと)の挑発する台詞に巴衛(ともえ)がブチ切れ!! そして力なく横たわる奈々生(ななみ)を見て巴衛は…!? 一方、あみの救出に向かう瑞希(みずき)と鞍馬(くらま)だったがウナリの洞窟は罠がいっぱいで…!? 嵐うずまく沖縄に青い空は訪れるのか、波乱の修学旅行編・大団円♥

簡潔完結感想文

  • 主役カップル成立で あぶれた人たちに表層的な幸せを与える かりそめカップリング。
  • 目の前の人が雪路か奈々生か分からなかった巴衛は今回も悪羅王の精神を華麗にスルー。
  • 奈々生様は強くて正しいという宗教化。作者にしては安易なヒロイン性の付与で幻滅。

要アイテムを入手するためのRPGの おつかいイベントかよ!の 19巻。

そういえば奈々生(ななみ)は瑞希(みずき)に過去への時廻(ときまわり)で若き日のヨノモリ様に会ったことを瑞希に話していない『14巻』)。この放置は瑞希が思うほど奈々生は瑞希のことを大事にしていない、という非対称性の証拠のように見えて嫌だ。まさか作者が忘れているのか、奈々生の中で瑞希に話す必要のない話として処理されたのか。

過去編を通して奈々生と巴衛(ともえ)の出会いは何重にもエピソードを重ねているのを見た後だと特に今回のエピソードでの縁は薄く感じられる。そうならないようエピソードを厚くして欲しかったけれど瑞希の言動など希薄に思えた。
ここまで作品を描いてきた作者が そういう言動を取らせるのなら、私たち読者が瑞希を分かっていなかったんだな ということになり、自分の中での瑞希との齟齬の大きさに唖然として、悲しくなってしまった。

作者の中の瑞希と私の中の彼が随分と違うものだと終盤で明らかになって虚しい

の修学旅行編は相手の本質に触れる話だと思った。妖怪であること、人間でないこととか、素顔ではなく心に触れるとか そういうテーマで統一されていた。そして最初こそ奈々生が動くけれども、特に『19巻』はサブキャラによるサブエピソードの印象が強かった。

1/4の柱などを読むと作者はゲーム好きなようで、言われてみれば『神様』の一つのエピソードはRPGっぽい作りになっている。特に今回はアイテムをゲットするためにプレイヤーが操作する主人公キャラが おつかい に遣わされるイベントに似ている。長かった過去編も巴衛の復活に必要な重要アイテムが何なのかを探す旅とも言える内容だ。ただ過去編ほどの切実さはなく、奈々生が単独行動して、最強妖怪・巴衛は暴力による解決をしない牙を抜かれた存在だから、既視感が否めない。

そういうイベント感を感じる上に、今回は奈々生だけでなくクラマや瑞希を動かす必要のある話だから どんどんページ数や連載の回数を費やしていくのが もどかしい。本来なら このぐらいの内容なら1巻分以内に納めて欲しいけれど、キャラを動かしたり、休ませたりすると自然にページ数は増えてしまうのあろう。これは登場キャラクタが増えていく弊害と言えよう。話の交通整理をするだけでも手間だけど、その辺はスッキリしているのは流石なのだけど。


回は序盤で立てたっきりの友人・あみ とクラマのフラグ回収も目的になっている。物語が落ち着いて ようやく着手する問題なのだろうけど、ハッキリ言って あみ に思い入れがない。継続的に物語に出てきたのなら ともかく、一体 いつ以来の登場なのか、というキャラを急にヒロインポジションに仕立て上げるのは無理がある。

また自分の正体を知る者を制限したいクラマに対して、瑞希が奈々生の友人なら大丈夫、という自分の信念で彼の信念をねじ伏せようとするのも好ましく思えなかった。どうも作品全体で奈々生が正しさのバロメーターみたいになっているのは気持ち悪い。割と頑固なクラマの心を動かす魔法の呪文が奈々生なのだろう。でも瑞希は自分は繊細な被害者のようなメンタルなのに、クラマには自分の考えを押し付けていないか。

今回の後半の、人魚・ウナリへの瑞希の言い分も分かるようで分からなく腑に落ちなかった。間違いなく2人は共鳴して理解し合っているのだけれど、即座に瑞希が結婚の話を持ち出していて心の動きが掴めない。クラマに続いてウナリを騙して奈々生の利益を第一にしているように見えてしまう構成は これで合っているのだろうか。

このエピソードは奈々生が巴衛と両想いになった余波ともいえ、初期から登場していたイケメン妖怪3人組(瑞希は妖怪ではないか)の余った2人の つがい を見つける話とも取れる。読者も忘れかけていたフラグのあるクラマはともかく、瑞希の(精神的な)パートナーが こんな終盤に出てきたポッと出のキャラというのは いかがなものか。せめて瑞希は自分から結婚とか持ち出さずに、相手の痛みに寄り添うだけで良かったのではないか。結婚する訳ではないにしろ印象が悪い。

巴衛が悪羅王を前にして何も感知していないのも気になる。こちらは認識していない設定なのは分かるけど、巴衛ほどの妖怪が なぜ分からないのかという理由が欲しいところ。巴衛は奈々生と雪路(ゆきじ)の見分けも出来なかったし、どうにも間抜けに映る部分がある。分かっていないからこそドラマになるのは分かるけれど、作中の巴衛の扱いと見逃しとの整合性が取れていない気がする。


衛と霧仁が初めて真正面から対峙するが、巴衛は霧仁が悪羅王であることに気がつかない。霧仁を巴衛から引き剥がしたい夜鳥(やとり)らの働きで霧仁は退避させられ、巴衛は奈々生救出を優先する。奈々生の生命の危機に これまでになく巴衛の表情が歪んでいることで、彼の愛情の深さを感じられる。

奈々生がリスクを負って行動したことで奈々生の命は助かる。ヒロインの行動は いつだって周囲を巻き込む。奈々生が霧仁とキスしたことよりも巴衛にとって彼女の命の方が大切。だから これまでのように怒ったりせず優しく彼女を労わる。


衛が奈々生の体力回復に寄り添っている間に、瑞希がクラマを巻き込んで問題解決に動く。飽くまで人間として振る舞おうとするクラマを奮起させるのは、ホテルで2人の帰りを待つ事情を知りつつある奈々生の友人・ケイだった。あみ を助けるのは奈々生や巴衛ではなく彼女のヒーロー・クラマにするためだろう。ここでクラマが動かなければ あみ は人間に戻る機会を失っていた。

クラマは自分の秘密が少しでも漏れることを恐れているけれど、瑞希は自分の素性を知ってくれる人がいる安心感を優先させる。クラマは人に自分の本質に触れられることを躊躇っているようだ。クラマは山の天狗だから海が苦手。瑞希とも離れ離れになって孤独に震えている時にジュゴンの姿にさせられた あみ が寄り添う。そこでクラマは自分の本質を独白する。するとジュゴン化しつつある あみ は もう思考が働かなくなっているにも関わらずクラマを目的地まで運ぶ。

17年前からのクラマの下界での処世術を瑞希が理解する努力がないのが悲しい

魚の妖怪・ウナリは顔にコンプレックスを持っていた(ウナリを洗脳した母親の毒親っぷりが酷い)。クラマは図らずとも睡眠中のウナリを目撃し、彼女の焦りと怒りを買う。内心 動揺しながらもクラマはウナリの本質を見て、彼女を美しいと称する。そう言われたウナリはクラマを夫にすることにして、クラマに思うままの姿に変化することができる「進化の水」を飲ませようとする。少しの間 思案した後、クラマは この水を あみ に飲ませることを思いつく。

ウナリから羽衣を奪った霧仁と同じように騙す形になってしまったけれど、クラマの念頭には あみ の救出しかない。ウナリと自由に海の世界を支配するよりもクラマは別の選択を選ぶ。それに逆上したウナリは海を更に荒れさせようとするが、そこに瑞希が到着しバトンタッチとなる。

瑞希は登場と同時にウナリの素顔を見る3人目の男になる。ウナリの孤独を知った瑞希は同じ孤独を知る者としてウナリに寄り添うことを選ぶ。奈々生への思慕を基礎としながらもウナリの夫候補になる。瑞希が騙しているようにも読めてしまうけど、きっと純粋に人との関係が築ける人なのだろう。瑞希はウナリの孤独に共鳴するように、ウナリは瑞希が想っても届かない気持ちがあることを知り、そこに共鳴していく。普通なら裏切りにも思える奈々生の存在だけど、そこも共鳴ポイントにすることでウナリが再度 怒りに呑まれることを回避している。


うしてウナリの興味は瑞希に移り、自由になったクラマは あみ救出に向かう。広大な海の中、クラマは あみ の姿が見つけられない。ならば自分の方に彼女を呼び寄せようと、クラマは歌手として歌う。こうして あみ は進化の水を飲み元に戻る。あみ はクラマの本質に触れた。

奈々生は約束通りウナリに羽衣を返すが、ウナリはそれを瑞希に渡す。もう素顔を愛されたウナリには顔を隠す衣は必要がない。そして ずっと欲していた伴侶も必要ない。大切な人を想うだけで孤独は遠のく。だからウナリは瑞希を束縛したりせず放流する。そんなウナリに瑞希は年に1度会いに行くことを約束する。

修学旅行は本来の予定で動き出す。しかし巴衛は奈々生の体調を優先して この日は強制的に休ませる。憎まれ口を叩けるのは奈々生の命が危なくないから。冒頭の必死さとは対応が違う。実際 奈々生は疲弊していて夜までずっと眠っていた。起きた時、巴衛がそばにいてくれて社から遠く離れた場所で、花火を見ながら素直な言葉を呟く。