《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

過去編どころか ここまでのエピソードに 上から もう一つの色を重ね塗りはじめました

神様はじめました 17 (花とゆめコミックス)
鈴木 ジュリエッタ(すずき ジュリエッタ
神様はじめました(かみさまはじめました)
第17巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

最後の時廻りへと旅立った奈々生は“全てが終わった”時代で再び黒麿と出会う。そこで巴衛と雪路が辿った運命を見せてもらい…!? 巴衛と奈々生、二人の縁が巡り合う感動の過去編クライマックス!

簡潔完結感想文

  • 作中で不可避の不幸はヒロインが触れられないもの過去として間接的にしか見せない。
  • 過去編は大妖怪が抱いた愛情を2人の女性に愛と情に分ける分離手術。見事に手術成功。
  • 『1巻』や『4巻』の出来事まで一つの必然として包み込む。ここからが未知の世界!?

作自演はじめました!? の 17巻。

大失敗も多いタイムリープを扱った作品の中で壮大かつ綺麗に話をまとめて無事 着地に成功している。過去編の目的は雪路(ゆきじ)という元カノ的存在の丁寧な除去だけかと思ったけれど、それどころか『1巻』1話から全てのエピソードを一つの時間の流れにまとめ上げたところに作者の とんでもない努力と才能を感じた。しかもパーフェクトな両想いは記念すべき100話に持ってきているのが粋で憎い。

今回で奈々生(ななみ)と巴衛(ともえ)の500年にも及ぶラブストーリーも完成して、ずっとずっと作品を追いかけてきた読者が大満足するに足りる内容を用意してくれている。恋愛成就に関しては これにて大団円とも言えるけれど、まだまだ作中には悪羅王(あくらおう)がいたり、過去編では果たせなかった巴衛の好きな人と人生を歩むという大願があったりする。特に悪羅王関連の問題は恋愛中心の過去編の中に二大妖怪の因縁や あるキャラの誕生秘話を描き込んでいる構成に恐れ入る。作者は常に先を考えているようで、いつから奈々生の設定を考えていたのだろうと考えると恐ろしいほど早期から伏線としている。序盤の序盤は自分の描きたい妖怪学園にシフトしたがっていて連載が迷走していた印象を受けたけれど、長期連載の目途が立ったらすぐに大きな流れを考えたとしか思えない どっしりとした構成になっている。

ここまでの伏線の回収や、キャラの言動の謎に ほとんど答えを出しているのも凄い。私は ずっとミカゲが なぜ奈々生が時廻(ときまわり)でしていることを全て見通せているのか謎だったけど その謎も最後に解けるようになっている。それが1話の彼の行動に繋がっており、初読では無責任に取れる彼の行動が、巴衛を思い遣り、彼のために自分の席を空けたことが分かる。作中での疑問が一つ一つ解決していくこと、全てが一つの線上に描かれること、タイムリープで読みたかった それらの爽快感が味わえた。

そして奈々生の人生の展望において気になる点を残しており、これらが無事に解決するかが気になって仕方がない。


体的に絶賛したいけれど、気になる点もちらほら。
まずは本文の一文目に書いた奈々生の自作自演臭。奈々生にとって巴衛の元カノ的存在だった雪路(ゆきじ)への巴衛の想いは ほとんどが自分に向けられたもの。そうして巴衛の恋心や執着も上書きするのは別にいいのだけれど、上でも触れたミカゲが全てを知って行動する その契機となったのが、なぜか時廻(ときまわり)から途中下車できた奈々生がミカゲに報告していることで、作品は最初から奈々生の利益(恋愛成就・巴衛の心の独占)のためにあったのではないか、という疑念が入り込む余地が生まれてしまっている。
奈々生は、巴衛の人生から雪路に出っていってもらい、ミカゲに出ていってもらい、自分が巴衛の隣にいる人生を刻み込んでいないか…

500年前の過去は変えないけど20年前はガッツリ変える。出会えれば こっちのもん

こんなことを考えるのは余程 性格が歪んだ人しかいないのだろうけれど、私は その点が気になった。ミカゲが未来の情報を奈々生から知ることで奈々生の未来が決まった。そのパラドックスも気になるし、過去編全体で感じていた巴衛の気持ちは奈々生によって誘導されたもの という印象が更に濃くなってしまった。

その巴衛は奈々生と雪路を同一人物だと思い込む役割を与えられているとはいえ、ずっと その2人の違いを見い出せないことが間抜けに感じた。また雪路は奈々生によって その場所を追い出される形になっており、それでも巴衛は雪路に関わる固定された過去との整合性が怪しくなってきた。作品が少々 苦しい弁明を用意することで何とか切り抜けているけれど、全体的に雪路の扱いに手をこまねいている印象が否めない。

過去編の冒頭では過去に不干渉を貫く姿勢だったのに、がっつり過去を改変して来ている。それもまた歴史の許容範囲なのは分かるけれど、やっぱりミカゲに事情を話し彼にアシストしてもらっているのは、完全に歴史への介入で、巴衛の命を助けるという大義名分で彼の自由な心を縛っているように見える。現在のではなくて、過去の大妖怪・巴衛からすれば、妙に自分に馴れ馴れしい強気な女に人生を絡めとられた、と考えても おかしくはない。自分は彼と結ばれるんだという縁結びの神様の歴史的ストーカー、と過去編を まとめるのは さすがに乱暴だと思うが、心の何割かが それで納得してしまっている。


々生は最後の時廻(ときまわり)に向かう。飛んだのは また少し時間が経過した頃。要するに奈々生に改変してもいいところは改変してもらって、奈々生が目を背けて改変しそうになるような雪路の死や巴衛が雪路を慕って契約するところなどは奈々生が関与できないようになっているのだろう。

だから奈々生は それらの事象を時廻中の過去視という訳の分からない二重の術によって視る。呪いをかけた「神堕ち」に どうして そんな能力があるのかは謎。話の都合もあるのは十分 承知だけれど、こういう部分は正直 好ましくない。

雪路は婚姻後、家族を願ったけれど8年間 子供に恵まれなかった。家のことを考えると夫に他所(よそ)で子供を産んでもらうのが一番。だが夫は雪路一筋でいてくれて それだけで雪路は満たされる。その8年を経て雪路の中に命が芽生える。


の8年間、雪路が平穏に暮していたのは悪羅王が巴衛から渡された酒で長い眠りに就いていたからだった。眠りから覚めた悪羅王は以前と同じように雪路を標的にし、彼女の住まいを強襲する。優しかった夫は死に屋敷は燃え、使用人たちは命を賭けて自分と世継ぎを守ってくれる。絶望の逃避行の中で雪路は巴衛に出会う。雪路にとって妖怪は今回を含めて自分の人生を2回 滅茶苦茶にした存在。それでも雪路は巴衛の優しさに触れた経験から彼を頼る。そして巴衛は いつの日か強気な雪路(本当は奈々生)が自分を頼る日が来ることを切望していた。

巴衛は奈々生だった雪路とは違う雪路に違和感を覚えつつも、雪路が奈々生と巴衛の「簪(かんざし)の約束」を目撃しており、その発言をしたことで同定する。それでも雪路の感情面が見えないことで違和感は消えない。

その違和感を決定的にさせないために雪路は火の粉が目に入り巴衛を正面から見ない。目は口ほどに物を言うので、その目を見ると奈々生と雪路の違いが巴衛にも伝わってしまう。そうすると巴衛は目の前の雪路の療養を手伝わなくなってしまうかもしれない。それでも命を賭けても子供を産みたいと願う雪路の未来が閉ざされてしまう。

奈々生から学んだ愛情を雪路に情愛として注ぐ。死という焦燥も情愛の燃料か

から巴衛は、不老長寿の龍王(りゅうおう)の目を強奪した。『4巻』のエピソードが ここに繋がる。周囲に出産で命を落とした実例を用意することで雪路の命の火が消える絶望感を体験し、巴衛は目の前の雪路のために生きることを決める。

そこに悪羅王が再度 現れる。彼が数か月 現れなかったのは神と戦い続けていたからという理由が設けられる。そして この数か月で悪友・巴衛の意識が変わったことに悪羅王は怒りを覚える。タッグを組んでいれば無敵だった巴衛は完全に悪羅王から離反する。
その空いた席に「毛玉(けだま)」と呼ばれ疎んじられてきた存在が座るかと思われたが、機嫌の悪い悪羅王に拒絶される。替えの利かない席に座ろうとした毛玉も短慮だが、そんな毛玉の いじらしさを思い遣れない悪羅王も短慮である。


路は龍王の目により回復し、母になる準備を整えていた。知識のない出産に際し巴衛は交流していた女性たちに雪路を託す。奈々生を通して人間に興味を持ったとはいえ、ご近所づきあいのようなことが この頃の巴衛に出来ているのが不思議だ。女性の方が美男に対して態度が甘いから成立する関係なのか。
そして巴衛は出産に立ち会うことで命の重さを知る。雪路が生んだのは女児で柊(ひいらぎ)と名付けられる。それは妖怪に人生を狂わされた自分と違う人生を歩んで欲しいという雪路の願いだった。

雪路は自分の命に先がないことを本能的に察知していた。龍王の目により出産までたどり着いたが、その効能は柊に譲渡された。神堕ちの診断では雪路の一族は短命で、龍王の目のサポートがあって出産まで生きられるような状態。それが500年間続いて奈々生へと命のバトンが繋がれた。『4巻』で奈々生の身体の中に龍王の目が宿っていたのも、奈々生と雪路の間に遠い遠い血縁があったからだった。奈々生は その事実を知り喜びで震えているけれど、読者としては奈々生もまた長く生きられないのではないかと新たな心配が生まれる。この運命は作中で払拭されるのだろうか。


のことを知らない巴衛は雪路と一緒の立場で人生を添い遂げることを願い、契約を交わす。奈々生は巴衛が雪路と添い遂げようとすることに胸が痛むが、彼が契約の誓いに「桜の簪(かんざし)」を差し出したことに胸を打たれる。それは奈々生と奈々生の結婚の誓いの品。巴衛が望んでいるのは自分との婚姻だと奈々生にも分かった。

しかし この契約は失敗に終わり、双方の命が捧げられる。それだけリスクの高い契約を神堕ちが望んでいたのは、誰かとの繋がりを深く望んでいたから。言い方はあれだけど、ちょっとしたギャンブル依存症みたいな症状なのか。神堕ちの死を見届けて奈々生は現在に帰る。

その後、語られるのは奈々生が見なかった数々の死や因果。毛玉は人間の姿を手に入れた。それが後の夜鳥(やとり)である。毛玉=夜鳥の悪羅王との繋がりを切望するのも、妖怪ならではの一途な思いなのかもしれない。しかも その思いは悪羅王に伝わることはない。だから夜鳥は いつまでも満たされない。


ず奈々生が時廻から戻ってきたのはミカゲが土地神として存在していた頃(なぜ途中下車するような事態になったのかは謎。辻褄合わせ側面が強い)。そこで奈々生はミカゲに全てを話す。だからミカゲは全知の存在となる。そして その直後に巴衛に無断でミカゲ社を去ったのも、その後に奈々生との出会いがあると知っていたからだった。では『1巻』1話のミカゲの出会いは演技だったということか。すんなりと話が進むのも納得できる。でも やっぱりミカゲが奈々生に譲渡してからも ずっと神の力を保有する点は納得できない。

ミカゲは奈々生に巴衛を救う役割を託した。自分でも巴衛の命を蝕む契約から彼を守ろうとしたけれど上手くいかず、20年前に奈々生に出会ったことで480年間で初めて光明が生まれた。


中下車を経て奈々生が現在に帰ってきて そのまま神堕ちの居た場所へと向かう。

そして巴衛を鏡の中に封じ込めたミカゲは、彼に問題解決を伝える。そして巴衛が脆く儚い人間に対しての厭世的な考えを、巴衛の知らない雪路と奈々生の血縁を示すことで払拭する。守れなかった雪路だと思っていたけれど、雪路は自分の願いを見事に叶えていた。それでも引きこもる巴衛を契約の品物を持った奈々生が引っ張り上げる。それは2人の婚姻の約束の品でもある。今はもう自分たちが運命的に出会ったことを2人は理解している。そして巴衛はもう奈々生を雪路と呼んだりしない。

こうして想いを唇を交わした後、奈々生は副作用に見舞われ昏睡する。ミカゲからの説明で巴衛は奈々生のしたこと、自分の愛した人が奈々生だったことを理解する。彼の中の記憶は全て奈々生に上書きされていく。きっと雪路が巴衛との生活で彼のことを見ようとしなかったのは、自分が奈々生ではない雪路であることの罪悪感や、出産を優先するために憎んでいた彼を利用する後ろめたさがあったからなのだろう。雪路なりの巴衛との折り合いの付け方だったのかもしれない。また奈々生が雪路との縁を結ぼうとしたように、雪路は奈々生のために巴衛との一定の距離を置いたようにも見える。


の巴衛の心情が分からない奈々生は、巴衛にとっての雪路という存在をミカゲに聞く。ミカゲは巴衛にとって雪路は「情をかけたひと」だと表現する。それは恋愛感情ではない慈しみなのか。大切にしたいという気持ちは変わりなく、雪路の行く末を同じ立場で見届けたいという気持ちも偽りはない、という作品的な決着のように思えた。そして雪路は早々に命を落とすものの、彼女は未来を視て、大切な人の魂にもう一度出会って逝ったことが描かれている。

巴衛は一時 行方不明になるが、やがて戻ってくる。彼は「桜の簪」を新調したのだった。それを見て奈々生は自分たちの契約は有効か聞く。巴衛の奈々生への気持ちは愛だし、妖にとって想いは長い間保持される。500年前の2人の契約は今も将来に亘って有効である。両想いはじめました。