
鈴木 ジュリエッタ(すずき ジュリエッタ)
神様はじめました(かみさまはじめました)
第13巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★★(6点)
巴衛(ともえ)と共に、犬鳴沼(いぬなきぬま)に乗り込んだ沼皇女(ぬまのひめみこ)! しかし、捕らわれていたはずの奈々生(ななみ)巴が現れ、錦(にしき)とのお見合いを勧めてきた!? 更に、「妖(あやかし)と人間じゃ一緒になれない」という奈々生の言葉に巴衛大ショック!! 一方、龍王(りゅうおう)の助けを得て小太郎(こたろう)も沼を目指すが!?
簡潔完結感想文
- 錦は強気な奈々生に惹かれたのではなく、「友人の恋」枠での三角関係・当て馬要員。
- 自分が より良い方向に導くのだと思い込む年長者は やがて強引な手段を取る(2回目)。
- 奈々生も巴衛も自分の能力を使わず騒動終焉。2人の協力プレイもないし物足りない。
妖術が解けはじめました、の 13巻。
ほぼ2巻分使った沼皇女(ぬまのひめみこ)と小太郎(こたろう)の話も想定内の結末に終わる。ここまで長くしなければならなかったのか、という疑問を持ちつつも、空気の読めなかった錦(にしき)が立派な当て馬になってくれて愛着を持ったりしている。ただし錦の側近のエピソードはクラマ編の二郎(じろう)(『10巻』)と ほぼ同じような失敗で既視感があった。
奈々生(ななお)も巴衛(ともえ)も自分のスキルを少しも使わず展開が地味なのも気になる。今回はクラマ編とは違って悪意が物語に持ち込まれていないからスキルを発揮する必要はないのだけど、奈々生が ちょっとキーパーソンの心に触れただけで事態は解決してしまった。奈々生は間接的に錦に影響を与え、彼の成長を促す役割はあるが、巴衛は完全に無力で無能。それが気になった。てっきり錦は勘違い男を指導する奈々生を好きになるのかと思ったら、いつの間にかに沼皇女にフラグが立っている展開は よく分からなかった。沼皇女たち3人での恋模様を描くのが目的だったのだろうけど、それにより奈々生の部外者感が強まってしまった。


良かったのは小太郎には龍王(りゅうおう)が、錦には側近が ずっと手を引いて、独り立ちしたのを見計らって彼らが手を放すというシーン。龍王も側近も対象を弱い者だと思っていたけれど、男子三日会わざれば刮目して見よ、の慣用句のように短期間で自分の欠点を克服して成長していく男子達の姿が描かれている。この2人の成長を読めただけでも このエピソードに意味がある。
逆に上述の通り、巴衛は無力化されているのが気になった。以前も書いた通り巴衛は善性化する必要があり、無意味な暴力を本当に行使することが出来なくなっている。特に今回は明確な悪意が存在しないため、巴衛は誰かを罰するヒーロー行動が取れない。その上 奈々生と合流することも最後まで許されないから、巴衛まで奈々生と同じように騒動に「巻き込まれる側」になっていて、以前のような強さを失っているように見えた。
ラストは いよいよミカゲの記憶の封印や過去の契約を巴衛が思い出し始めている。沼皇女は『1巻』でお巴衛の変化の術が ずっと解けなかったけれど、巴衛は それよりも長い術がかけられているという設定。そこに触れることは両片想いの終焉が近づくということなのだろうか。巴衛は『11巻』で幼女の奈々生に告白したように、今回は別人と入れ替わった奈々生に自分の中にある凶暴な愛情を伝えている。全部 奈々生が感知しないという残念な点はあるけれど、巴衛から好意が言葉となって溢れ出る2つの実例となっている。最近は奈々生よりも巴衛側の愛情の強さが描き込まれている。それが物語の転換点なのだろう。
逆に奈々生は巴衛への恋心を表だって出さないし、構成上の問題で巴衛と一緒にいるシーンすら少ない。巴衛は奈々生を求め捜しているのに、奈々生は別の男性キャラと一緒にいることも多く、奈々生の方に浮気者疑惑が出ている。
物語の核に向かうことで ここのところ めっきり減少した奈々生と巴衛の日常的なラブが見られることを祈るばかり。スキルも恋心も使わないような展開は もう お腹いっぱいだ。
沼皇女(ぬまのひめみこ)と巴衛が錦の住まいに到着したため、沼の外に出ていた錦は側近によって帰宅させられ、奈々生は妖術で別の場所に さらわれる。
初対面のはずの沼皇女が人間界で出会った者だと知り錦はパニック。それを見た側近は錦を再洗脳して落ち着かせる。自分や他者に考えを巡らせる状態はリセットとなる。この2人のお見合いの席は気の短い巴衛によって中断させられるが、彼の懸念であった奈々生は すぐに戻ってくる。しかし この奈々生は どうも様子がおかしく、沼皇女に錦との縁談を進め小太郎との縁を切ろうと話の舵を切る。
沼皇女は妖怪同士の婚姻と地域の平和を優先すると奈々生の話を肯定。その前に錦と2人きりで話がしたいと側近や奈々生を引き剥がして散歩する。お見合いにおける あとは若い人たちだけで、状態である。けれど沼皇女は小太郎の怪我の責任を錦に取らせようと刀で強襲。沼皇女が弱いのか錦が強いのか分からないが、その一閃は錦に届かない。それでも沼皇女の小太郎への想いや本心は錦に届き、理解される。人間の姿でい続けられる限り人間であろうとする沼皇女の乙女心を理解できるまでになった錦は本心から彼女との婚姻を望む。てっきり奈々生に恋をしているのかと思ったら、沼皇女に矢印が向かう。これは読者はあまり感じない人種の差が大きいのだろうか。
沼皇女が承諾したため2人の婚約が成立。そこで錦の側近は今の奈々生が別人であることを白状する。巴衛は見抜けなかったということなのか。能力設定が作者の塩梅一つで変わっている。錦は沼皇女との結婚を望み、それが叶いそうだけど彼女の心の在り処が分からない。だから もっと対話したいけれど それも許されない。
巴衛が無能化しているので本物の奈々生の救出は瑞希(みずき)とマモルくんの役割となる。沼皇女も奈々生の異変に気付いているので阿呆は巴衛だけ。いくら2人の合流を先延ばしにしたいからといって、この巴衛の間抜け化はファンが怒るのではないか。マモルくんの探知能力で間もなく瑞希たちは奈々生と入れ替わった妖怪の姿になった彼女を発見する。しかし その現場で捕獲され結局3人とも身動きが取れなくなる。
婚約期間中に2人は文の遣り取りをして愛を育てているように見える。しかし それは恋に浮き立つ錦側だけ。一つの恋心を長く胸に秘める妖怪が簡単に気持ちが切り替わるはずもなく、沼皇女は婚約に浮き足立ってなどいなかった。それを知った錦はショックを受けるものの、小太郎が龍王と一緒に自分の邸宅に乗り込んできたのを感知しても見逃し、それどころか彼のピンチを救う。それが沼皇女のためになるならば錦は その流れに逆らわないということなのか。


間もなく結婚式が始まる。龍王は手引きする者によって奈々生たちが捕らわれた場所に案内され、小太郎は単独行動で沼の中に転移したミカゲ社へ向かう。小太郎が助力なしで怪我をおして一直線に沼皇女のもとに向かうシチュエーションが大事なのだろう。小太郎は沼皇女が誓いの盃を交わす直前に到着。相手の正体が何であれ好意は変わらないと、言わなければいけない言葉を伝え、沼皇女は笑顔で小太郎を抱きとめる。それは錦がずっと見たかった沼皇女の笑顔だった。この事態に錦の側近は激怒するが、錦はトップとして彼の動きを制御する。
しかし偽・奈々生は自分の欲望(性欲?)のために この結果を認めない。逃亡した沼皇女たちに攻撃を加え、その攻撃から小太郎を守るため沼皇女は妖術を使い本来の姿を初めて小太郎の前に現わす。今の小太郎は沼皇女がどんな顔であろうとも彼女を好きだと思える。沼皇女は本当の意味で初めて両想いになれた。
こうして残された偽・奈々生は巴衛だけは失いたくないと彼にキスして主導権を握る。
真・奈々生は龍王によって救出され、自分に起きた現象を理解する。しかし妖術をかけた本人が奈々生の身体を手放さない限り元に戻れないと厳しい条件を知る。そこで奈々生達は術者の上司(側近)に掛け合うことで身体の返却を実現させようとする。この作品にしては遠回りな手段だけど、術者がどこにいるか分からないのなら これが一番手っ取り早いのか。
奈々生はカエルの身体だから簡単に上司の住まいに潜入できる。その部屋には錦の誕生からの思い出の品が陳列されていた。側近は錦の手を引いてあげていたはずが、自分の望む方に誘導していたことを錦の変化で痛感していた。この辺の信念を貫いていたことが他者に悪影響を与えていたという皮肉な結末はクラマ編の二郎(じろう)と重なる部分がある。だから再放送感が強くなる。二郎と同じく奈々生は自分を悔いる人の聖女となる。そこで側近に被害を訴える余地が生まれるのだが、その前に奈々生の身体は戻る。
これは、巴衛が偽・奈々生が全てを捨てようとする発言で ようやく事態を理解し、術者を恐怖に陥れて身体を放棄させたからだった。ここでの巴衛の発言は本心で、奈々生の気持ちに遠慮せず自分の気持ちを暴力的に奈々生の身体にぶつけられる良い機会だと考えたようだ。奈々生への好意で働いている理性のリミッターが外されて、神使(しんし)ではなく妖・巴衛として彼女を味わおうとしたようだ。
今回の巴衛は間抜けで、奈々生が元に戻ったことに気づかず、彼女に重い愛を告白してしまう。けれど それが乱暴な言動を伴っていたから奈々生の怒りを買う。言葉だけで言うならば とても情熱的で両想いになれる奈々生の欲する言葉なのだけど。
クラマ編と違い今回は後日談が少しあって終わる。二郎と同じように錦は再登場するのだろうか。
その頃、巴衛の身体にはアザが浮き出ていた。それは過去の約束を違えた者にでる呪紋(じゅもん)だと その副作用で意識を失った巴衛を診た医者は伝える。そこから巴衛が(もしくはミカゲ)が封印していた過去が顔を出すキッカケとなるシーンが続く。いよいよ沼皇女と小太郎のように人種の違いを乗り越えようとした巴衛の過去が明らかになりそうだ。
