
鈴木 ジュリエッタ(すずき ジュリエッタ)
神様はじめました(かみさまはじめました)
第03巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★(6点)
巴衛の事を神使以上の存在として意識し始めた奈々生。そんな中、学校で白蛇が苛められているところを助けた奈々生は、その白蛇に気に入られ婚約者の証であるしるしを付けられてしまった! 心配した巴衛は、ずっと奈々生を守れるように高校生に扮して学校にやって来たのだが…!?
簡潔完結感想文
- 連載化で後日談や、同じ時間を2つの視点に分けたり過去に飛んだり豊かな時間が流れる。
- ヨノモリ社は神様が帰らなかった場合のミカゲ社の未来の姿。瑞希は巴衛の もう一つの姿。
- ヒロイン病欠なので代理ヒロインが登場し、彼女のヒーローは巴衛ではなくクラマになる。
鏡写しの2つの社と神使、の 3巻。
ずっと不平不満ばかりだった本書の感想だけれど、今回は純粋に楽しめた。
新キャラを投入しつつ、過去のキャラを再利用することで後日談を用意したり、キャラ同士の新しい交流が会ったり、また人数が増えたことで同じ日の出来事を2つのパートに分けたりと発展や工夫が見られた点が良かった。こうやって世界観を上手く広げられることが白泉社作家としての資格だろう。
また作者がどこまで考えていたか分からないけれど、今回 登場した瑞希(みずき)という神使(しんし)と巴衛(ともえ)の類似性と対称性が美しい形を描いている。※ネタバレになってしまうけれど、瑞希が仕えていた社(やしろ)は今はもう水の底に沈み、参拝者がいなくなったことで神様が不在となった社である。神様が滅すること、社が朽ちることを描き、それでも神様との思い出に浸ろうとする瑞稀の哀愁が漂うエピソードになっている。
そこで ふと気づいたのが、この瑞希の姿は奈々生(ななみ)が神様はじめなかった場合の巴衛の姿である、ということ。巴衛もまた本来の神様であるミカゲの帰還を20年待ちわびており、瑞希の悲しみの一番の理解者と言えるだろう。奈々生が登場しなければ、いつまでも巴衛は待ち続け、けれど神様が不在の神社には願いが成就せず参拝客が減る。そうすると社が朽ちるだけ。それでも巴衛は待ち続けたのだろうか。
瑞希が社の誕生から ずっと神使である聖神使なのに対して、巴衛は(荒ぶる)妖怪から神使になったというエリート街道と それ以外のルートという対称性も生まれている。


また もっと大きな※ネタバレになるけれど、恋愛的な問題でも2人の姿は対称的。巴衛は選ばれ、瑞希は選ばれない。火と水を扱う能力も対称的な2人だけど、その対称性は類似性と紙一重でもある。この後、瑞希は強引に社に居続けるが、この2人が奈々生の一番近くにいる存在というのは物語として収まりが良いと思える。作者が こういうことまで考えて瑞希という存在を用意したのなら本当に凄いことだ。
そして連載も15回を超え、登場キャラも増えたことで、同じ日の出来事を2つの視点に分けているのも新しい試みで面白かった。奈々生の風邪回に巴衛が奈々生の姿に化けてクラマと信頼関係を結ぶ一方、鬼の居ぬ間に瑞希が奈々生と接触を図るという無理のないストーリー展開が楽しかった。特に前者は巴衛が巴衛の姿ではクラマは喧嘩を吹っ掛けるばかりだったところを、奈々生への優しさで巴衛に接することで巴衛にクラマの良いところが浮かび上がって見えるという構成が抜群に良かった。
また この回は奈々生がヒロイン役お休みしました、なのでピンチに巻き込まれる代理ヒロインが立てられ、そのピンチを彼女のためのヒーローが救うという構成も素晴らしい。もしかして奈々生がいないと世界は平和なのではないか、とまで思ってしまった(笑)
奈々生が巴衛への恋心を自覚した頃、沼皇女(ぬまのひめみこ)から茶会の招待を受ける。以前は未熟な奈々生を外に出したくなかった巴衛も彼女に対する信頼感が高まったため外交を許す。奈々生は巴衛が選んだ着物を着付けしてくれると聞き、彼に密着されるため それを拒絶。恋する乙女は複雑なのだ。また巴衛が沼皇女と人間の小太郎(こたろう)の恋の話題から自分は人間を好きにならないと言ったことで奈々生は落ち込む。
ビジュアル面の問題なのか、沼皇女は巴衛の変化の術を気力で維持しているという設定。奈々生は巴衛を水の女性妖怪に奪われる形となり、その奈々生の心中を察した沼皇女は奈々生に恩返しの意味で綺麗な衣装を着せてあげる。ちなみに巴衛は奈々生が許可したため、女性妖怪に しつこく絡まれるハメになったと思っている。そんな巴衛の前に着飾った奈々生が登場する。彼女が美しく着飾るのは本書で初めてか。そして奈々生は巴衛に女性妖怪よりも選ばれることで赤面する。それで巴衛は奈々生の気持ちを察するが、巴衛としては困った事態なのかもしれない。
学校に白蛇が迷い込み、男子生徒たちから迫害されそうになるのを奈々生が助ける。浦島太郎か。けれど その際に奈々生は手首に蛇との婚約の印を付けられた。額には土地神の印、手首には婚約。その内、彼女の身体のどこにでも印が付くのだろうか。
奈々生は巴衛に恋をしてから彼の周辺に女性がいると苛立つが、それは巴衛側も同じ。色々と建前を並べているけれど、奈々生の婚約を阻止したいのは巴衛自身だろう。そこで巴衛が高校生になり、奈々生を護衛することになる。いよいよ学園コメディが始まるのか。ちなみに人間の名前は御景 巴衛(みかげ ともえ)。巴衛が同じクラスの隣の席にいることで今まで以上に彼を近くに感じる。主従関係も種族の違いも忘れて同じ立場のように感じられるからだろう。


慣れない新生活に頑張った巴衛が疲労で寝てしまい奈々生が単独行動した時に白蛇が動き、奈々生を拉致する。この白蛇はヨノモリ社の神使・瑞希(みずき)。ヨノモリ社は その名の通りヨノモリという神がいて、奈々生と瑞希の結婚を願っているという。
これまでの巴衛とクラマは強気な態度に出ることで奈々生がペースを握り、そして惚れられてきたが、今回は最初から結婚を前提にしており、瑞希の性格から奈々生を絡めとるような動きをする。奈々生は この社から脱出して帰還しようとするが、それは叶わない。瑞希は強引な手段を使わない代わりに奈々生が根負けするのを待つ。遠距離恋愛状態になり、奈々生は巴衛の助けを待つことしか出来ず、巴衛は奈々生がいないことに自分の想像以上に焦っていた。それでも巴衛は動かない。狐火に捜索させているが全国津々浦々にある社から一つを見つけるのは時間がかかる。
このヨノモリ社の暮らしの中で奈々生は違和感を覚える。瑞希の参拝者は誰も来ないという発言、何かが欠けているという感覚。それらを統合して奈々生は この社に神様がいないことに辿り着く。
一方、巴衛は水神の社がダムの底に沈んだ事実に辿り着く。ヨノモリは人に必要とされて生まれた神。だから人の住まなくなったダムの底では神は存在を保てない。それでも瑞希は この社を守ろうとしており、社のために奈々生という神様を呼び寄せた。それでも奈々生は巴衛のいる場所に帰ろうとするから瑞希は これまでになく強引に迫り、それが巴衛召喚の合図となる。
瑞希は巴衛と昔馴染みらしい。そして妖怪から神使になった巴衛より聖神使の瑞希の方が格上の存在らしい。しかし社は瑞希の想像上の産物でしかなくなり、瑞希も元・聖神使という肩書。だから水と相性が悪くても巴衛の能力は発揮される。今の瑞希にとって大切なのは疑似空間の社ではなくヨノモリ様が愛した梅の木。巴衛が その木を燃やそうとする奈々生が止め、奈々生は瑞希の本当のヒロインになる。結婚騒動を通して また2人の距離は少し近づく。
奈々生が疲労により高熱を出す。風邪回となるけれど看病されることもなく、奈々生の出席日数のために巴衛が奈々生に変化して学校に通う。実は これがSide-巴衛。久々にクラマが学校に登校し、彼は巴衛が転入してきたことを知る。けれど今の巴衛の変化の術を見破れず、奈々生にアピールするつもりが知らぬ間に巴衛の怒りを買うことになる。
そして巴衛は学校内の瘴気が強くなっていることにクラマ経由で気づき、その対処を行う。この回は同じクラスの女子生徒・あみ がヒロインのようである。奈々生は もう用済みなのか…。今回はピンチになるのが奈々生じゃないからヒーローはクラマの役割になる。そして この回は巴衛とクラマの距離を近づけるために存在している。クラマ側は知らないままだけど、巴衛はクラマと犬猿の仲(狐烏の仲)ではなくなる。
そして この風邪回にはSide-奈々生もある。巴衛を代理に送り込んだ奈々生は寝ていたが、そこに巴衛の留守を狙って瑞希が到来する。瑞希は巴衛の昔馴染みで、まだ彼の存在を許していないから悪し様に言う。奈々生は巴衛の主人であるが、瑞希から見ると巴衛が奈々生の心を掴み操っているように見えるようだ。
その証拠として瑞希は魂を過去へ運ぶ神具「時廻の香炉(ときまわりのこうろ)」を奈々生に使用する。今回は過去編のプロローグ的意味合いのようで、奈々生が過去に滞在する時間は短い。過去でも奈々生はピンチを巴衛に助けられるが、巴衛の雰囲気は今と違う。現在の巴衛を知っているから奈々生は恐怖に呑まれず、過去の巴衛にも一目置かれる。そして巴衛に間接的に逃亡の手助けをしてもらっている。過去で奈々生が死んだら現在でも死亡してしまうのだろうか。
この過去編では悪羅王(あくらおう)や以前も出てきた雪路(ゆきじ)という名前がキーワードになる。奈々生が目を覚ました後、巴衛が学校から帰ってきて彼の優しい手に過去の恐怖を拭い去ってもらう。ただ2人の巴衛は同一人物なのだ。その問題に奈々生は いつか直面するのだろう。
