《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

恋愛ゾンビから人間へ戻る手段は悔いのない告白。そこで獲得した免疫は周囲も救う。

先輩! 今から告ります!(5) (なかよしコミックス)
慎本 真(しんもと しん)
先輩! 今から告ります!(せんぱい! いまからこくります!)
第05巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

ついについに!大好きな神鷺先輩とお付き合いすることになった小春。先輩の言葉に、行動に、…甘いキスに、小春の心臓はいろんな意味でもうバクハツ寸前!先輩が「お母さんに挨拶したい」と言ってくれて、小春の誕生日は真砂家で過ごすことに! でもトラブル発生で、事態はとんでもない方向に!?さらに、小春が誰にも言えずにいた「ある思い」を先輩に打ち明けて―!? みんな全力でみんな青春、『告りま』胸キュン最終巻!

簡潔完結感想文

  • 10年以上 恋愛ゾンビ化している母親を救うのが小春と神鷺の初めての共同作業。
  • 自分の良い面だけじゃなく弱い面も共有できる、新しい神鷺への告白のカタチ。
  • 様々なバリエーションがあった告白のラストを飾るのは本書で初めての攻守交替。

スボスならぬ最終ゾンビが現れた! の 最終5巻。

もしかしたら本書はゾンビから世界を守る話なのかもしれない(違う)。でも本気で本書では徹頭徹尾、恋愛ゾンビ化した人々が人間に戻っていくことが描かれていたように思う。それは小春(こはる)や神鷺(かんざき)も同じ。

小春は神鷺にフラれることで元気な恋愛ゾンビとなり彼に告白し続けた。小春が「微笑みの処刑台(ギロチン)」という固有スキルで成仏しないことを知った神鷺は、彼女と交流し続けることで自分の秘してきた義姉・綾(あや)への恋心を語り始める。秘密を共有したことで小春が神鷺の成仏できない恋心を動かし、その過程で神鷺は小春の良いところを見つけ始める。

その途中で梗(こう)もまた こじれた恋愛ゾンビになりそうだったけれど、神鷺が自分が恋愛ゾンビから人間へと戻る過程で獲得した抗体を梗にも分け与えることで、彼を救う。

梗が当て馬として優秀な働きをしてくれたお陰で小春は神鷺と両想いになり、彼女もまた恋愛ゾンビから戻る。
そして真っ当な人間カップルになった2人の前に現れたのは、本書で最強の恋愛ゾンビと言える小春の母親だった。その彼女を救うのも自分たちが経験を通して得た抗体。私は神鷺との失恋や恋愛成就を通して小春が母親と対等に語り合える存在になったことが嬉しかった。これまで小春が父親のことを聞けなかったのは母親がシングルマザーとして一生懸命な姿を見てきたから。そこに遠慮があって父親の話題を自分からは出さなかったが、今回 父親の方からコンタクトがあって、母親と父について語り合い、時には娘(と その恋人)が母親の姿勢を正すことがあった。それは小春が人生経験を踏んで、恋愛の苦しさも喜びも知り、母に並び立てるようになったから。母親を形式的に真似していただけの小春が母親に意見を言えるのは、神鷺との恋愛成就という経験があってこそ。一つの達成が次の経験に生きていく連鎖的に繋がるストーリー構成が本当に良かった。

小春を含め恋愛ゾンビになりかけた人間は暴走しがち。神鷺は その制御が上手い

また神鷺との関係性が恋人同士に変わったことで、小春は神鷺に新たな一面を見せるという流れも素晴らしい。交際したことで弱さや甘えを見せることが出来る。キスやイチャイチャなど甘い特権もいいけれど、私は小春が神鷺の前で涙を流すことに深く感動した。これは もう一つの「告白」と言っていいだろう。恋愛的な告白も心情的な告白も、それは本音を漏らす相手が身近にいる幸せを意味しているように思う。

ラストまで大掛かりな告白や、まだバリエーションが残されていた本書で初めてとなる告白が用意されており告白尽くしの作品となっている。2人は いつまでも高校生の、それも出会った時のような会話をしながらも、その裏に流れる互いへの慈しみが感じられた。本書が「恋愛ゾンビ」を救う物語になっているのは、小春や神鷺が いつだって自分ではなく目の前にいる相手を優先しているからだろう。その相手は梗だったり母親だったりして、その優しさが人のゾンビ化を救う。やっぱり本書はゾンビの増殖を止める世界を守る物語なのだ。

そんな完璧な物語でも一人 恋愛ゾンビになりかけている人が残っている。ゾンビは 貴方の隣にも、いや貴方自身なのかもしれない。キャーー!!


親が娘から神鷺を奪略しようとしたのは、離婚した夫から久々に会いたいという連絡が入ったからだった。母親は夫の幸せために離婚を切り出したほど、彼のことが好き。その気持ちは今でも変わらないが、変わらないからこそ自分が独り身であると知ると夫が気に病むのではないかと心配したのだった。小春と神鷺の時もそうだったけれど、まず相手のことを優先する心持ちが良い。

神鷺は母親の乙女な部分に理解は示すものの、自分が偽装交際をすることは小春を悲しませると母の暴走を たしなめる。この暴走を注意する構図は梗(こう)の時と似ている。そして神鷺が梗に経験談を語れたのは綾(あや)への告白があったからのように、神鷺への数え切れない告白を経て それまでのポリシーを曲げ恋をした小春は母親と対等に一人の女性として助言を送る。これまでの小春なら言えなかった言葉が湧き出しているのが良い。また神崎は一つの恋を終わらせる告白をした身として母親に、告白の先に見えるものがあると伝える。母親は本書に残った最後の恋愛ゾンビなのだ。

ちなみに両親の馴れ初めや起きたトラブルは番外編ショートで語られる。最初は政略結婚だったのに、どんどん夫に本気になった母親が好きを こじらせてしまったようだ。この番外編で小春は大手玩具メーカーの孫だと明かされる(今の暮らしは母親の才覚によるもの)。

この騒動を通して神鷺は母親から人柄を認められ、彼氏としての挨拶を無事に終える。母親は告白企画をまとめるために自分の経営する会社に出ていき、2人きりになった恋人たちは2回目のキスを交わす。波乱が起きそうだったけれど小春の誕生日は明るい1年を予感して終わった。


親が元夫と会う日、小春も同席させようと考えていた。その提案への答えに小春は悩む。小春の無言の悩みを神鷺は察知して元気づけるため放課後デートを提案する。神鷺が自分を気遣ってくれたことを知った小春は「彼氏」に自分の心の内を聞いてもらう。小春が抱えていたのは父親への変わらない愛情だった。小春は母親との暮らしに不満はないし、愛情を身一杯に受けてきた。でも欠落した父性への追憶は消えることはない。そう思うぐらい父親は自分に愛情を注いでくれた。

その気持ちは母親にも、同じシングル家庭であることを共有していた梗にも言えないもの。だけど小春は神鷺には自分の思いを全て知って欲しい。それが小春の新しい「告白」なのかもしれない。そうして胸の内を吐き出して、会いたいという本音が飛び出す。
10年分の澱(おり)を濾過した小春は神鷺に弱くて脆い自分の姿を見せたことが怖くなる。もしかしたら神鷺は明るい自分を好きになったのかもしれない。キャラ変して幻滅したかもしれないと怯えるが、神鷺は どんな小春でも受け入れてくれた。

明るい前向きな告白も暗い後ろ向きな独白も聞いてくれる先輩のことが大好き

1か月後、小春は父親に再会する。父親は母親との復縁を望んでいた。彼は彼で元妻が幸せに暮らしていると思って連絡を我慢していた。けれど元妻が再婚せずにいることを知りコンタクトを取った。復縁は母親も望む関係だったけれど、離婚の契機となった夫が元カノの写真を持っていたという事実は変わらないから そこを突く。父親が劣勢になるのを見て小春は、過去の好きは必ずしも消滅させなければいけないものではなく、今 好きな人への気持ちが より大きければ良いのだと経験談を含めて語る。

娘が鎹(かすがい)になり元夫婦は良い方向に向かう。そして この10年間、再婚してもしなくても母親は娘と暮らした日々が幸せだったと語る。その大きな愛情に包まれて小春は真っ直ぐに猪突猛進に育った。両親から受けた愛情や遺伝子、思想は小春に脈々と流れている。


末年始は2人の予定が合わず、2週間ほど会えなくなる。神鷺は実家の洋菓子店がクリスマス期間は忙しくなり手伝う。彼は兄がいることもあり家を継がないと決めているから、手伝えるうちに手伝っておきたい。小春とのクリスマスは まだ何十回と機会があると考えていた。ちなみに小春はハワイ旅行。愛情だけでなく金銭的にも満たされているなぁ…。

会えない日々を神鷺から貸してもらったマフラーで乗り切る(そして譲り受ける)。2人の次のイベントは1月24日の神鷺の誕生日。そこで小春は母が父に告白するために用意し、父から告白されたため実行しなかったプランを自分が遂行することにした。この告白で フラれたら小春は神鷺への告白をやめる覚悟をもって挑むものだった。

小春の神鷺の良いところも悪いところも全てを受け入れる真っ直ぐな告白に神鷺も同じ気持ちを返す。…が、これは いつもの告白。小春の母親が用意していたのは10年を要する大告白だった。それは10年後も相手に好きになってもらえる自分でいるという自分への挑戦でもあった。まさに一世一代の告白を成功させるため、小春は10年間の長い期間を捧げる。


10年後。26歳となった小春は神鷺と同棲していた。社会人になって間もなく両親が再び一緒に暮らす(not 再婚)というので両親が新しい家で暮らし、小春は自分の家で神鷺と暮らすことになった(家賃が高そうだけど誰がどう払っているのか)。2人は同じ大学、同じ会社の先輩後輩という間柄。働いているのは祖父が経営する玩具会社。小春が どこまでも追いかけることで神鷺は「先輩」であり続けるのか。
20代の男女が同棲しているので当然 高校時代では描かれなかったことが描かれているけれど掲載誌は「なかよし」なので描写は先輩がパジャマのボタンを外すところどまり。でも会話がエロい。

高校時代の友人たちの10年後も描かれる。メロディ先輩に恋をしている友人だけが恋愛ゾンビっぽい。梗は顎ヒゲを生やしている。ちなみに綾は2人目を妊娠中だということがラストで判明。作中で生まれた小夏(こなつ)も10歳なのかぁ…。時が経つのは早い。

この年の神鷺の誕生日は約束の10年後。いよいよ神(鷺)による最後の審判が下される。誕生日当日に小春が巻いているマフラーは神鷺から奪った(譲渡された)品だろうか。
しかし小春から見ると この日の神鷺は暗く淀んでいる。最悪の事態を想定して暗くなる小春に神鷺は第一声でごめんと謝罪から始まる。でも それは胸キュンの準備体操みたいなもの。ここから作中で初めて小春より先んじて神鷺から告白がしてくれる。そして初めて結婚を望む。神鷺が謝罪したのは小春(の母)の10年プランを台無しにするからだった。この10年プランの証拠として撮影した写真で2人の10年間の歩みがダイジェストで分かるのが良い。5年目とか9年目とか特にイベントが無かったんだろうな、という感じだけど(笑)

それでも結婚はゴールではなく通過点。だから小春は いつまでも神鷺に告白し続ける。