
オザキ アキラ
ふしぎの国の有栖川さん(ふしぎのくにのありすがわさん)
第09巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★☆(5点)
ずっと見守っていたいふたりのピュア恋、ついに最終巻(フィナーレ)です。 恋愛事には超鈍感な有栖川さんですが、野宮くんとおっかなびっくりお付き合い中。お祖父さまに交際を反対されて、大ピンチのふたりですが、修学旅行で秘密のデートをすることに…。野宮くんと菅谷の中学時代を描いた描きおろし番外編も収録です! 【同時収録】番外編 眼鏡の向こうの王子さま
簡潔完結感想文
- 北の地での再会の予定が崩れ、夜にホテルを抜け出してランデブー。そこにラスボス出現。
- 広大な大地の中でも鈴がいる場所が野宮には分かる。2人の足並みを揃えて祖父を説得する。
- 2回目のクリスマスは点灯したツリーを見るけれど、きちんと門限は守る。それが未来への約束。
箱入り娘のお嬢様は旧態依然のヒロイン、の 9巻。
作中の1年目で出来なかったことが2年目で出来ていて、3年目4年目と年数を重ねるごとに2人で一緒にいる喜びが増えていく予感を感じられる。そういう優しい世界だという評価のある作品だけど、一つのエピソードが その後の作品世界に全く影響を及ぼさないから長編の意味を為さないと言っていいだろう。作品では仮想敵も含めると計4人のライバルキャラが多くは身内から大量発生したけれど、彼らは役割を果たした後は それまでいた元の位置に戻っていく。一時的に悪い夢を見ていたんだ と言うかのような大量のリセット癖は目に余る。


そして最後まで野宮(のみや)が格好いいだけの作品だった。それだけで少女漫画の役割は果たしていると思うけれど、結局ヒロインの鈴(すず)が彼にフォローされるだけの物語に見えた。また恋愛を邪魔した者たちを野宮が寛容に許すことで世界の平和は保たれているように見えた。
21世紀の作品で ここまでの男性上位は珍しいように思う。もう少し鈴の芯の強さや、野宮にとって鈴が救いになっていることなどが描けていれば良かったのに。最初からフワフワしていた鈴だけど、作者が本当に鈴を理解しているのか怪しい。鈴の核となるものが見えてこず、彼女を好きになり切れなかった。落語好きという設定も中盤以降は完全に消失していて、作者のキャラ作りの甘さを感じる。
全体的に愉快な物語だと思うけれど、それはノリで生きている人たちを集めただけだからではないか、と疑う部分がある。作品もキャラも底が浅い。鈴の友人たち、野宮の友人たち、誰もがテンションが高いだけで賑やかしに過ぎない。「友人の恋」が苦手な私ですが、ワガママを言うようだけど ここまで友人に恋をさせない物語も薄情な気がいてならない。花森(はなもり)はレギュラーになるのは早かったけど、あまりいる意味を感じなかったし、律(りつ)は放置される期間が長くて しれっと復帰するのが可哀想に思えた。そして やっぱり即席の幸せを手に入れた ほのか は作中に戻らなかった。野宮が転校生・律を放置したように、鈴は大切な友人の ほのか を放置した。このキャラへの愛の無さが見える部分は好きになれない。
キャラが浅いのはラスボスである祖父も同じ。作風もあって あまり深刻な話にしたくなかったのだろうけど、それにしても鈴を洗脳し、迷惑を掛けた割に あっという間に改心して、孫に嫌われることもなく罪を忘れて楽しく暮らしていることに腹が立つ。老害とは このことか、という お手本のような人である。祖父の行動は一貫しておらず、その信念も浅いため終盤に厚みが生まれなかった。ラスボスの祖父もまた遠距離恋愛危機を宣言する役目しか担っていないのだ。与えられた役割しか こなさないキャラの連続には辟易とする。
作中で悪目立ちする菅谷(すがや)編。彼だけが野宮に対抗できる、野宮に影響を与えることが出来る存在なのは分かるけれど、2巻分も翔知った割に このエピソードも全リセットが発動する。本来、作者は こういう癖のある男性キャラを描きたくてウズウズしており、正統派ヒーローの野宮を描くのにも飽きたから、菅谷編は思わず筆が乗ってしまったのではないか。でも読者の望まない位置からの当て馬の出現、ダラダラと長いエピソード、そして何事もなかったかのように友人ポジションに復帰するという3連続の悪手によって読者の熱を奪ったように思う。
同じように「ふしぎの国」の住人であることが判明した鈴と野宮は長編を支えるには刺激が弱かったのかもしれないが、脇キャラが想いを伝えることも許されない厳しい世界になってしまうぐらいなら、どこまでも2人だけを描いて欲しかった。恋を知って鈴が一般的なヒロインに堕落したこともあるけれど、作品前半の良さを帳消しにするような中盤以降の展開なのが残念。後半を読み返すと腹立たしい気持ちさえ湧いてしまったので総合評価は限りなく6点に近い5点にした。あまり長編に向かない作家さんなのだろうか、と思うけれども、発行部数も次回作も順調なのだから私と合わないだけなのか。
少女漫画あるある の「カップルが別の学校だった場合、修学旅行の行き先と日程が被らせる」が発動して、疑似お泊り回が実現。祖父の刺客である臨時教員・慧(けい)も無力化しており、最終日の野宮との合流を楽しみにする。しかし男子校の生徒が旅行先で女性にガッついて連帯責任で生徒全員が謹慎処分を受ける。会えない落胆も野宮にフォローされ、暗に暴走を自粛するように言われる(伝わっているかは微妙)。
それでも会いたい鈴の気持ちを後押しするかのように友人や慧が手助けをしてホテルを抜け出して野宮に会いに行く。野宮も同じことをしており、鈴たちは北の大地で邂逅を果たす。が、いよいよ祖父が動くタイムリミットが迫る。
てっきり地元に帰ってから祖父との対決が始まるのかと思っていたけれど、祖父が北の大地に乗り込んでくる。鈴は最悪の形で野宮を紹介することになり、祖父の野宮への第一印象を悪くする。
私は祖父が逃げ回っていたことが引っ掛かるのだけど、祖父は そんな自分の弱さを認めず高圧的な態度で野宮に接し、鈴の転校を宣言する。それに鈴が激昂して祖父を平手打ち。孫からの行動に祖父は魂が抜ける(本当にショック死しかねない)。


地元に帰ると悪夢が始まると思い、鈴は帰路に就く最終日に脱走。鈴が その行動を選ばずにいられなかったのは自分のフォローが足りなかったからだと野宮は責任を感じ、鈴の捜索を自分一人で背負う。鈴を見つけるのは野宮の役割なのは分かるし、『7巻』の お祭り回の時のように もう菅谷に鈴を確保してもらい隙を作るような轍を踏みたくないのだろうけど、これこそ青臭い。
野宮は鈴を闇雲に捜索するのではなく、鈴の言動から彼女の行きそうな場所を推理して、鈴と再会する。鈴は強制転校によって2人の関係が終わると思っているけれど、野宮はそう思っていない。2人の足並みが揃わないこと、鈴の弱きに野宮はキスで喝を入れる。
そうして2人は手を取り合って冷静に祖父と向かい合う。慧も現実を祖父に見せて、鈴も籠の中の鳥である期間を高校までと設定する。それが鈴の覚悟。卒業後も進路によっては野宮と一緒の時間は少ないかもしれない。でもゼロじゃない。だから鈴は野宮との未来を描く。
祖父が鈴を厳しく育てるのは、数十年前、世間を知らなかった自分が痛い目を見たから。自分の後悔が深いから孫に同じ悲しみを与えたくない。その事情を知り、次は野宮が祖父に決意を語る。野宮の中に自分と同じ青臭さを発見し、祖父は黙り込む。自分の時と違い、孫が愛した相手は孫と同じ空気を纏っていた。だから祖父は強制転校を撤回する。そして あっという間に手の平を返す。
この日のチケットが2人分しか取れなかったため、祖父と慧が先に帰り、鈴と野宮は一泊することになる。いよいよ本当の お泊り回が始まる。いくら祖父が交際を認めたからと言って2人を同室にする=大人にする手伝いをするとは思えないけど、それだと誰もドキドキしないので観光シーズンのホテルには飽きがないという理由と慧の助力によって同室になる。理由として ぎりぎり納得できるラインか。
鈴が早く目が覚めてしまった朝、起きた鈴に野宮が気づき、寝ないと疲れてしまうと一緒のベッドで寝ることを提案。もちろん性的なことはなし という条件で。これが現時点での2人の到達点なのだろう。交際編が長く続けば性行為完遂まで描けたのだろうか。案外、鈴は思い切りがいいので高校卒業したら前のめりになるタイプのように思う。
その後、祖父は自宅で野宮、そして弟の晴人(はると)を歓待するようになる。念願の祖父公認でありながら祖父の監視下にある交際となる。
そして作中2回目のクリスマス回、野宮の誕生回が始まる。仲間の協力もあり この日は2人きりで過ごせる。今年は門限が緩くなり、ライトアップされたツリーを見ることが出来た。
この日、野宮は鈴に自分が進路(建築関係か)を決めたことを告げる。しかし それは この土地ではなく遠い土地で進もうとする道。その道を進むために早くも勉強に力を入れている野宮だけど、その決意表明は鈴を悲しませると少し気が重かった。けれど鈴は感情が昂って涙が流れても、彼の進もうとする道を祝福する。そんな鈴の強さに野宮は安心し、そして自分が安心できるように鈴にペアリングをプレゼントする。右手の薬指に指輪ははめられるが、それは2人が生涯に亘って同じ道を進む証のようにも見える。この日も野宮は許された門限までに鈴が帰れるように家に送り届ける。
約2年後の、大学生となって初めての夏、鈴たちは4か月ぶりに再会する。会えない日々に負けるような2人ではない。
「番外編 眼鏡の向こうの王子さま」…
中学1年生の夏前後、野宮は菅谷のいる学校に転校してくる。野宮の出現により菅谷は学校No.1の座から引きずり降ろされ、運気も低迷。それでも邪気のない野宮を恨むことは出来ず2人は親友になる(後にライバルになる)。
