
中条 比紗也(なかじょう ひさや)
花ざかりの君たちへ(はなざかりのきみたちへ)
第12巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
佐野と両想いになれたものの、自分が「女の子」だと打ち明けることが出来ずに悩む瑞稀。勇気を持つため空手部の稽古に参加するが、体育倉庫で着替えていたところをある人物に目撃されて…!?
簡潔完結感想文
- 性別バレ第1波。自分の嘘より、見抜かれていたことにショックを受ける悲劇のヒロイン。
- 性別バレ第2波。恋愛だけでなく築いた友情や人間関係に迷惑を掛けないために出した結論。
- 最後の最後まで アッサリしている作者の幕引き。瑞稀の進路に関しては大いに不満が残る。
まるで親衛隊が用意したアイドルの引退ロード、などと茶化してはいけない 愛蔵版 最終12巻。
狙ったかのように『12巻』は瑞稀(みずき)の性別バレに関わる騒動が収められている。
印象的だったのは瑞稀が泣かないこと。ラストシーン、瑞稀は いくらでも泣くことが出来た。それは作者が物語を際限なく感動的に出来るということと同義だと思う。しかし作者は それをしない。それは作者の性格が作用しているのかもしれないし、瑞稀の姿勢を守るためかもしれない。
ラストで瑞稀が泣いてしまうと、彼女が この学園を去りたくないという気持ちが滲み出過ぎてしまう。でも それだと瑞稀は自分のついた嘘に自分で呑み込まれてしまう。自主退学という大きな決断をしたのに、泣くことで学園から指示されて出ていく被害者ポジションに回るリスクがある。作者は瑞稀を そういう勘違いポジションに置きたくなかったのだろう。
だから瑞稀は最後に自分の感情を表さない。ページ数の関係も大いにあるだろうけれど、見送る人たちに声を掛けられるだけで自分からは声を掛けないし、謝罪を繰り返さない。最愛の佐野からの思いがけない言葉に涙を浮かべる場面はあるけれど、出会った人たちには笑顔で別れている。
最後に「あたし」と普通の女の子に戻っていく姿も良かった。作風と瑞稀の性格が上手くマッチしたエンディングだったのではないか。泣かなかったこともあり、えらくアッサリとした終わり方になってしまっている面もあるけれど、瑞稀の態度一つで興醒めしかねない場面だったので最良の選択だったように思う。
また瑞稀が佐野に会いに来たように、今度は佐野が国境を越えて会いに行くというラストも2人が想い合っていることの証明のように感じられた。
最終回は瑞稀を中心にし過ぎているなぁ、と主人公補正がかかっていた。まるで全校生徒がいるみたいな感じになっているけど、有志が集まれば それで良かったのではないか。
気になったのは、瑞稀が女性だという噂が流れる展開。二段構えになっているのは面白かったけれど、難波(なんば)を含めた生徒側は瑞稀を守ろうとしたのに、結局 噂によって瑞稀が追い詰められていく様子は苦しかった。それに ここまで見守ってきた読者は どうしても瑞稀に肩入れしてしまうから、天王寺(てんのうじ)の暴走とカンナの口の軽さに、瑞稀の学園生活の破綻の責任があると思ってしまう。一番 悪いのは瑞稀なのに読者から嫌われるのは この2人。最後の最後に なぜキャラが叩かれるような展開にしてしまうのか疑問に思う。
桜咲学園(おうさかがくえん)を悪く描きたくなかったのか。普通に難波たちの話を第三者(絶対に匿名にすることで特定しない)が聞いてしまう、ぐらいで良かったのではないか。
最終回の瑞希は とても印象が良かったけれど、それまでの瑞希の言動は好きになれない部分もあった。最も唖然としたのは佐野に性別が早期にバレていたことを知って逃亡するシーン。この場面は瑞稀が容疑者として寮長に説明をする義務があるのに、そこから逃亡する自己中心的な思考に呆れた。逃亡後に佐野に連れられて寮長と再び向かい合うのも、男に寄りかかった弱い女に見えた。


また超長編作品の割に瑞稀の進路が雑に思えた。何度も言っているけれど無駄にモデル編を2回も経験しているんだから、その進路を取ればいいものの、急ごしらえとしか思えない夢を選んだことに違和感が残る。
それもこれも これだけ長い連載期間で、瑞稀が地に足のついた行動をしていないからダメなのだ。佐野の一緒に高跳びをするという夢も放棄しているし、部活動も やって来なかった。ヒロインに多い料理を頑張ったから その道に、という展開もない。夢が場当たり的になるのは、それだけ瑞稀が空っぽだと言っているようなものである。モデル関係でアーティスト、メイクに進んだ方が納得が出来たし、モデル編も無意味じゃないと思えたのに。
作中で何十話も寮の犬・裕次郎(ゆうじろう)を放置したのもマイナスポイント。作者・作品共に そこまで思い入れがないことを示しながら、瑞稀の夢にするのが残念な流れである。瑞稀の父親が獣医だから幼い頃から慣れ親しんでいた、という感じも あまり出ていないし。
ラスト10話ぐらいは、連載の区切りも変で時間に繋がるような盛り上がりがないまま、軽く流して1回分の連載が終わっているのも気になる。作者としては もう終わるだけと思ってのことなのかもしれなけど、読者としては最後まで1話1話面白い展開を期待しているのだ。1つのエピソードのラストが盛り上がらずにフェイドアウトしてしまう構成は最後まで同じだった。作者にとって最初で最後の長編といえる作品は、作者の長所も短所も詰まった漫画家人生が詰まった作品と言えるだろう。
性別を偽る自分の嘘と、空手を通じて向き合おうとしていた瑞稀の体育倉庫での着替えを校舎の高所から見られてしまう。第一発見者が女性に免疫のない第一寮長・天王寺(てんのうじ)だったため、彼は他二寮長に慌てて報告。そこで三寮長の間に男子校生徒の中に女性がいるという疑惑が浮かび、翌日 彼らは体育倉庫を監視し、中から瑞稀が出てくることを確認する。
この日、瑞稀は佐野に自分の性別の件を話そうとしていたが、その前から寮長たちに尋問を受ける。瑞稀が難波に連れられる場面を佐野が目撃し、佐野は会議室の外から彼らの会話を聞く。
瑞稀は性別がバレた事の経緯を聞き、真相を確かめられる。瑞稀が寮長たちの圧力を前に委縮するのを見て難波は まず2人きり話す。そこで瑞稀は この学校で初めて自分からカミングアウトする。その時点で瑞稀は退学を決意していた。難波は自分のレーダーが瑞稀に働いていたことに納得する。難波から佐野が真相を知っているのかと聞かれた瑞稀は彼の立場を守るため無関係を訴える。実際、瑞稀からすれば佐野は何も知らないはずだった。だから騙している罪悪感を抱えていた。しかし そこで佐野が入室し、事情を知っていたと告白する。
この予想外の事態に瑞稀は会議室から逃亡する。いや、お前の尋問対象で、お前に自由なんてねーから、と瑞稀のヒロインっぷりに辟易する。この逃亡ヒロインの瑞稀を佐野が追いかけ、屋上で佐野側の事情を話す。佐野は瑞稀に この学校に居て欲しくて黙っていた。それを知り赤面した瑞稀は、そのまま罪も有耶無耶にされる。佐野が知らなかったら瑞稀は責められる立場で、下手をすれば恋愛関係も終了していた可能性があるというのに。
男に連れられて偽称犯は会議室に戻る。見方によっては愛情を感じる場面だけど、私は この様子を見ていられなかった。こんな弱いヒロイン誰も望んでいないだろう。
しかも瑞稀は、瑞稀が女性だと過剰に意識してしまう天王寺に露骨に目を逸らされるとツライなんて言っているけど、それは瑞稀が考えていなかった嘘の代償だろう。少女漫画では男性が苦手だから女子校に進学する人がいたりするけど、そういう自分が安心できる環境を求めて男女別学を選んだ人もいる可能性に瑞稀は考えもしない。被害者意識も いい加減にして欲しい。
寮長たちは学園側に報告するか、黙認した現状維持にするか2つの方針を打ち出す。佐野の助言もあり寮長たちの意見は瑞稀の在学を継続する方向で進む。ただし寮長は男女である2人の同室には反対する。それも3年生になれば個室に移るので あと数週間は同じ部屋で生活することになる。
学園からの帰り道、瑞稀は緊張からの解放で足に力が入らず、佐野に おんぶ してもらう。どこまでも佐野頼りのターンになっている。下手に緊張感を醸し出すと、周囲に異変が勘付かれてしまうのだろうけど、瑞稀は佐野との恋愛には緊張しているものの、自分が土俵際まで追い込まれたことには割と平気そうである。
そして最終回間際なので瑞稀の進路希望の記入内容が明かされる。瑞稀の夢はドッグトレーナー。佐野が救った裕次郎(ゆうじろう)の件で その進路のことを考えたらしい。すごい直近の話題から導いた夢で驚いてしまう。
瑞稀は佐野と一緒にいることは誰にも不思議がられないが、外で手を繋いだりすることは出来ない。それでも佐野の服のポケットの中で手を繋いだり、佐野は どんな自分だって肯定してくれたりすることが嬉しい。瑞稀に厳しいこと言うと、佐野と一緒にいる時 限定とはいえ、瑞稀が女言葉を使うことでボロが出るのだから、気を抜かないで欲しい。お前は乙女心とやらを優先できる立場じゃないんだよ。
これで一件落着かと思われたが、この問題は思わぬころから波及する。その発端は聖ブロッサム学園で、そこの生徒であるカンナが婚約者の天王寺から「他の女の肌を見た」と謝罪を受けたことが発端。そこで聖ブロッサム学園の中でも、桜咲学園の中に女性が潜入しているという噂が出てしまう。
その噂は桜咲学園にも流れ始める。瑞稀はガサツな性格で除外されているが、少女漫画には難しいかもしれないけど、身体的特徴から容疑者を限定することは出来るだろう。そういえば最終巻で出す疑問じゃないけれど、この寮には浴場はないのか(第一寮では確認できたけど)。瑞稀だけが個室の風呂に執着している訳ではないのだろうか。それでも修学旅行とか、雪合戦の後の銭湯とか、だれも裸(下半身)を確認できていない人は そう多くはないはずだ。
噂は寮長たちの耳にも入り、関係者たちを集めた第二回対策会議が開かれる。噂に対処すること自体、その噂の信憑性を高めてしまうので、人の噂も七十五日を当てにして放置を決める。
3年背の送別会のために2年生たちは準備を進める。そこで これまでのキャラの多くが総出演し、送別会で使用する3年生の自然な姿を撮影するという名目で各寮を巡る。この場面は3年生が あと僅かになった学園・寮生活を噛みしめる内容でありながら、瑞稀にも適用されている。こんな楽しい空間に自分がいられたのだと瑞稀は実感しているところだろう。
その後、佐野に進路を尋ねた際、彼が一度 地元・北海道に戻るという話を聞き、瑞稀は自分たちの遠距離恋愛に頭が いっぱいになる。梯子に上りながらの作業で考え事と不慮の事故が重なり瑞稀が転落。その物音を聞いて駆け付けた中津は意識を失う彼女のために、気道を確保しようとシャツのボタンを開ける。そこで中津や周辺にいた人たちが瑞稀の胸を潰すためのベストを目撃し、目を覚ました瑞稀は「女性」としてリアクションをしてしまう。
到着した梅田によって その場は収められ、瑞稀と中津・佐野は保健室に向かう。そこで中津は瑞稀の性別を初めて聞かされる。中津は瑞稀に対して性別の壁を乗り越えた人だから、衝撃の事実も何とか受け止める。安堵と困惑が何度も打ち寄せても自分の中で処理しようとする中津は やっぱり格好いい。
瑞稀は佐野と寮に帰るが、噂と目撃証言により瑞稀への視線は より色濃くなっていた。中津から聞かされた萱島(かやしま)も自然に事実を受け入れる。彼の場合はオーラで分かっていたのだけど。
しかしクラス内にも瑞稀を揶揄する者がいて、それに我慢できずに中央(なかお)が一喝。そんな彼に触発されて、瑞稀は自分が「嘘つき」であることを認める。バレンタイン回といい瑞稀の行動は中央とリンクしている。感想文では存在を消去していたけれど、関目(せきめ)野江(のえ)もワンテンポ遅れたものの瑞稀の味方でいてくれる。青天の霹靂だった彼らの反応もまたリアルだし、時間差があることで友情が何度も確かめられる構成になっているのが上手い。


けれど難波が学校側に呼び出され、瑞稀は責任を感じ、彼のもとを訪れる。寮を出ていくために荷物を整理していた難波は生徒会にあたる「花桜会」で着る寮長の証・長ランを瑞稀に託す。寮長は瑞稀が後継者に指名されたのである。
それでも瑞稀は自分の中で結論を出し、友人たちに迷惑を掛け、彼らにフォローされる学園生活に幕を下ろす。佐野には先に自分の胸の内を話し、最後の夜は一緒に眠る。そして翌朝、自主退学を選んで瑞稀は寮を後にする。難波から譲り受けた長ランは彼の部屋の前に返却する。裕次郎に別れの挨拶をした際に、佐野の卒業と同時に裕次郎は北海道に行く将来が語られる(結局、裕次郎だけが北海道に行くことになったのか…?)。
この日は3年生の卒業式のはずなのだが、瑞稀が第一寮の門を出ると そこには3年生を含めた多くの生徒が列をなし、瑞稀の卒業式を始めてくれた。生徒たちが歌う校歌を聞きながら、この学校で知り合った1人1人に挨拶を交わす。ラスト2人は涙の中津、そして瑞稀に何かを告げた佐野となった。瑞稀は友人たちの前で「あたし」という一人称を使い、この最高の学園で出会った人たちと別れを告げる。
1年後、アメリカの地で髪が伸びた瑞稀に佐野が「俺から会いに行く」という約束を守り、目の前に現れる。これが どういう意味なのかは愛蔵版収録の次の番外編で明かされる。
「スペシャル番外編 花束」…
本編終了から4年。佐野は高校在学中から渡米を考え、アメリカの大学にストレートで入学していた。地元に帰るはずだった佐野の進路を変えたのは瑞稀という存在である。佐野は渡米しても高跳びを続けている。日本国内ならトップに君臨できるかもしれないが、米国内だとチャンピオンになれないのでは、と意地悪なことを考えてしまう。
その瑞稀は帰国直後は事後報告となった無茶な行動を怒られたらしい。けれど それは瑞稀の した事に対してではなく、相談をしなかったことへの怒り、というのが芦屋(あしや)家らしい。
瑞稀は自分が出られなかった自分の代の卒業式で来日しているから(『After School』の話)、3年振りの来日となる。今回の来日の目的は関目の結婚式(お互い学生結婚&授かり婚)。そこで瑞稀は女性として女性の姿で元・同級生たちの前に出る。4年が経過しているので、それぞれの高校卒業後の進路も語られる。中津はプロサッカー選手(今はJ2)、中央は大学生、萱島も大学生でバイトでソムリエ(この話は『After School 2』で出てくる)。野江はアニメ会社に就職、瑞稀はドッグトレーナーの修行中。この結婚式にはいないけど難波はモデル活動を始めたらしい。結婚式の後、佐野は瑞稀に同じように一生 そばにいて欲しいと告げ、瑞稀は それを承諾する。これで2人の愛は永遠となった。
