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少女漫画と小説の感想ブログです

愛蔵版は単行本約2巻分。そのせいで1冊の中で似たような瑞稀のピンチが2回起こる

愛蔵版 花ざかりの君たちへ 2 (花とゆめコミックス)
中条 比紗也(なかじょう ひさや)
花ざかりの君たちへ(はなざかりのきみたちへ)
第02巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

ついに学園祭開幕!第一寮の魔の手が第二寮の瑞稀(みずき)に忍びよるなか、初日のスポーツ勝負スタート!

簡潔完結感想文

  • 愛蔵版『1巻』が瑞稀の気持ちで、『2巻』は佐野の気持ちが確定するまでが描かれる。
  • バイトでゲストキャラに瑞稀が狙われピンチ。ピンチを助ける佐野は自分と向き合う。
  • 学園祭で初登場キャラに瑞稀が狙われピンチ。ピンチを助ける佐野は自分と向き合う。

装ヒロインだけど正統派ヒロインしてる 愛蔵版2巻。

愛蔵版『2巻』から白泉社らしい季節イベントを取り込んだ日常回が始まっている。夏はバイト、秋は学園祭。この2つのイベントが『2巻』のメインイベント。特に学園祭は白泉社らしい良い意味でスケールの大きいものになっており、読者に こんな青春を送ってみたいと思わせる力がある。

また『1巻』後半の瑞希(みずき)の兄の襲来から始まっていた感じがあるが、登場人物たちの親族を続々投入したり、この学園の新キャラで鉱脈を発掘しようとしたり とにかくキャラ数が多くなってきている。『2巻』終了時にも20名以上のキャラが入り乱れているけれど、シンプルな絵柄の割にキャラの被りは少ない。誰が誰だか分かるようなデザインとキャラ付けがあるから、長期連載に耐えられたのだろう。

新キャラの中でも特に難波(なんば)以外の2人の寮長のデザインとキャラクタは力が入っているように見え、新しい寮長たちの個性と魅力の お陰で学園祭が成功裏に終わった。この寮長たちは連載を更に発展させた立役者と言える。

ところどころで佐野のシャワーシーンや2人の接近シーンを入れて読者サービスが挿まれるのも読者を飽きさせない工夫なのだろう。最初の設定勝ちから どのように連載を継続させていくか、長編未経験の作者には試練だったと思うけれど、それを無事に乗り越えた印象を受ける『2巻』だった。

他二寮長は後発でも難波に負けない個性がある。最高学年の威厳も ちゃんと出てる

だし今回のタイトルにもしたけれど、俯瞰してみると同じことが2回繰り返されている印象を受けた。

ヒロインの瑞稀を ちゃんとヒロインの座にするために彼女を狙う悪意を用意して、それをヒーローの佐野(さの)が成敗する展開になっていて、もはや時代劇のようなテンプレ構成になっているように見えた。

その再放送感がある中で面白いと思ったのは、読者の先入観を利用した悪意のミスリードだった。バイト編では最初から怪しい人物が悪役だったけれど、学園祭編では怪しさを放っている人物は悪役ではなかった。そういうプチミステリが小技として効いている。難波(なんば)が名探偵ミステリを上演しているのも関連があるように見えてくる。

しかし可愛いから性暴力を振るおうとする、目に余るから暴力を振るおうとする、90年代後半の少女漫画における男性の描き方は2025年から見ると野蛮な人間に見える。ただ『1巻』の感想でも書いたけれど、瑞希も90年代らしい元気印のヒロインである。自己のエネルギーを持て余すほどの感情は、物分かりが良すぎる面もある現在の少女漫画にはない魅力にも変換された。

『2巻』は佐野側の恋心が確定していく様子が見られるので まだまだ作中で少女漫画の原動力である恋心は動いている。問題は この後だ。瑞稀と佐野、どちらも瑞稀の性別に言及することが出来ないというジレンマがあり、それが物語の停滞予測を強めていく。作者にとっての本当の試練は、設定がもたらす不可避の停滞を どう乗り切るかなのかもしれない。その停滞期に今回と同じようなヒーローショーが繰り返されるなら、初速の人気も落ちるだろう。単行本で全23巻まで連載が続いた秘訣を分析していきたいと思う。


台となる寮が改修工事のため瑞稀たちは夏休みの前半をペンションバイトで過ごすことになる。作中で寮から出て新展開を用意しようという試みはマキノさん『黒崎くんの言いなりになんてならない』でも見た。勿論、本書の方が発表は随分と前。

バイト編で登場するのがゲスト悪役キャラの男子大学生・蒔田(まきた)。彼の毒牙に瑞稀は無防備で、それを佐野が嫉妬交じりに注意して警戒心のない瑞稀と衝突する展開が起こる。佐野は、瑞稀が女性だと知っていることを本人に伝えられれば、その忠告も簡単に嫉妬だと分からせることも出来るが、それが出来ないから難度が高い。

また白泉社作品らしく登場キャラの家族を続々と投入して話を膨らませる。ペンションのオーナーは寮長・難波(なんば)の母親だし、宿泊客は佐野のライバル・神楽坂(かぐらざか)と妹たち。上の妹の一人が佐野に恋心を抱き、瑞稀と佐野は それぞれ異性に狙われる夏の危険が描かれる。ちなみに中津(なかつ)は下の妹に好かれる。ただし この神楽坂姉妹は二度と作品に登場しない(はず)。


稀は普段、寮の大浴場を利用せず、自室のユニットバスを使っているため佐野以外に遭遇する可能性は ほぼゼロ。しかし今回、従業員用の風呂で中津と全裸遭遇するが、中津の自滅で瑞稀は風呂場という密室から脱出する。ちなみにバイト先でも瑞稀は佐野と部屋と同室で寝泊まりする。中津と一緒だったら、青少年らしい彼が下心で性別を確かめそうだ…。

バイトの日々の中でも自由時間があり、海回・水着回が始まる。この頃、瑞稀は どんどんと女性らしい身体になってきているらしい。そういう身体変化がタイムリミットに繋がったりするのだろうか。ただ今回の胸の成長による体調不良は男性水着(胸の露出)の回避に必要なだけかもしれない。プールの授業を回避するために塩素アレルギーにしたので海には入れる。


野にとって蒔田は瑞稀を女性として狙う初めての仮想敵なのか。中津は瑞稀を男性だと思って悩んでいるが、蒔田は自分の直感を信じて瑞稀を遊びの対象と決めている。彼は瑞稀が本当に男性でも自分が気に入ったから細かいことを構わなそうな雰囲気がある。そして初の仮想敵で佐野の中の瑞希への感情の輪郭が鮮明になる。

そして瑞稀は神楽坂の妹のように自分が女性である前提で動けることに羨望を感じる。ただ それは今の関係性や学校内での立場を危うくする。自分から動かないことは連載当初から心に決めていること。この葛藤は事あるごとに出てくる。

唐突にオーナーである難波の母親に瑞稀は着替えが見つかる。瑞稀の警戒心の無さは最初から最後まで変わらない。ただし今回は最終回になる予定はないので、難波の母親は事態を胸に仕舞ってくれる。ただし これまでバレた梅田(うめだ)とは違う、子を持つ母親としての態度で感心しないと厳しい言葉を述べる。
それでも女性として瑞稀を応援。初めての同性の理解者として瑞稀が直面する問題を提示する。この後も難波の母親は同じ女性として生理用品を手配したり、何かと面倒を見てくれる存在となる。瑞稀は梅田と この母親の姉弟に お世話になりっぱなしである。


よいよ蒔田が本性を現し、瑞稀は性暴力に晒される。この時になって初めて瑞稀は自分を傷つけかねない存在だと理解しただろう。自分の見解の甘さを理解する手痛い体験になった。そこにヒーローが登場。どこにいるのか分からないのに あっという間に駆けつける不思議現象が起こっている。

蒔田を成敗したが、恐怖を覚えて泣き叫び気を失うように眠った瑞稀を おぶった佐野が足を滑らせ地表の割れ目に落ちる。遭難回である。瑞稀が怪我をしたため移動が難しく、2人は身体を寄せ合って このバイトでの すれ違いを修復する。足の怪我と過度なストレスで瑞稀が発熱し看病回も始まる。佐野は瑞稀のために献身的な看護をし、その一環として眠る彼女に水を飲ませるために口移しを実行する。1回目の酔った佐野のキス魔事件とは反対に、今度は瑞稀が意識がないときに佐野がキス。瑞稀を ちゃんと女性だと認識した上でキスをしている。この時、瑞稀に口移しをしてまで水を飲ませる状況でもないように見えるが…。

2人は中津と犬の裕次郎(ゆうじろう)に発見され無事に帰還。蒔田はバイトを自主的に辞める。でも考えてみれば蒔田は去年もバイト先で女性を悲しませるようなことをしており、それを見抜けなかったオーナーは無能という結論な気がする…。
こうして それぞれの夏の恋は終わっていく。


2学期のイベントは学園祭。瑞稀は学園祭後に転入してきたので初めて。作品としても学校イベントは初。
私立・桜咲学園(おうさかがくえん)の学園祭は3日間あり、体育祭と、一般客の有無で違う2日間の文化祭で構成される。そして この学園祭は寮対抗戦でもある。瑞稀たちがいる第二寮は運動部と文化部の混合クラス。第一寮は運動部中心、第三寮は文化部中心。体育祭は寮ごとの点取り合戦。文化祭は人気投票で順位が出る。そして優勝寮には特別待遇と金一封が用意されているため、自然と生徒たちのボルテージは上がる。

設定の説明ゼリフが多いため、この学園祭編から再び連載が仕切り直されたと思われる(愛蔵版には雑誌掲載号の記載がないのが不親切だ)。そして新展開には新キャラが投入される。それが各寮長たち。難波と同じ3年生の第一寮長・天王寺 恵(てんのうじ めぐみ)が体育会系代表の脳筋として描かれる。第一寮で頭脳派なのは副将の九条(くじょう)らしく、彼は曲者として描かれる。バイト編の蒔田みたいなものか。

女性であることを心配する佐野を鈍感にスルーして瑞稀は体育祭に出る気満々。体育会系の第一寮の喧嘩にアメリカ育ちの江戸っ子の本領が顔を出し、第一寮からの勝負を受けて立ってしまう。その流れで勝利のために文化祭では「女装」をするミスコンに懇願されて出場することになる。


園祭は寮長たちにスポットが当たっているイベントだからか、頼もしい難波にも悩みがあることが匂わされる。愛蔵版『1巻』でも瑞希の兄の来訪やイジメなどの同時展開があったが、作者は やたらとエピソードを入れまくる。関連がない訳ではないが、一緒にする効果も それほど感じられない。

体育祭の途中で、文化祭の活躍が見込まれる第三寮長のオスカー・M・姫島 こと姫島 正夫(ひめじま まさお)が登場。演劇部部長で こちらも天王寺に負けないキャラの濃さを見せる。姫島が ここで登場したのは三寮長が横一線に並ぶ応援団戦で出番があったからなのだろう。

そして瑞稀を主人公にし続けるために、体育祭で活躍が目立った瑞稀が第三者からターゲットにされる。この頃の瑞希は まだ運動神経抜群だったんだなぁ…。これは逆恨みでイジメをした中央(なかお)、バイト先の蒔田に続いて、ヒロインが被害者になることで同情を買おうという似たり寄ったりの展開に思えてしまう。

騎馬戦中に わざと直接攻撃を受けて落馬する瑞稀を守るために騎馬となっていた佐野と中津が身を挺して瑞稀を守る。イケメンに助けられてこそヒロインである。この騎馬を組んだ時も瑞稀の股に「ない」ことがバレそうな体勢である。瑞稀は『1巻』でも中津の肘にぶつかっていた。
瑞稀は相手の明確な悪意を胸に仕舞う。落馬は佐野たちに助けられるが何もかも助けてもらおうと思わないのが彼女の長所だ。ただ その隠し事は佐野には お見通し。それがヒーローの観察眼だ。


育祭の結果は2位。そして文化祭では第三寮が有利。不利な状況の中で得点を稼ぐため、難波は寮生たちを焚き付ける。

文化祭と言えばコスプレが90年代からの常識らしく、登場人物の女装が見られる。中津は お笑い方面だが、佐野は綺麗という、瑞稀とは逆の「漫画的」な場面となる。体育祭の競技でも活躍した瑞稀だが、文化祭では「本職」といえる女性の姿で また目立ち、それにより再度ターゲットにされる。

男装ヒロインよりも、綺麗な女装ヒーローの方が少女漫画的(=非現実的)だ

また瑞稀だけが難波が苦悩する女性問題に関わり、彼の初恋が相手の結婚という形で絶対的に終わったことを知る。瑞稀は傷心の難波に抱きしめていいかと問われ、それに応じる。これは瑞稀のガードが緩いのか、男性として思考したからか。ただ事情を知らない佐野が2人の抱擁を見て動揺する。佐野にとって難波は ずっと仮想敵だ。難波に その気持ちが1mmもなくても、瑞稀に近づく男は全員敵というのが恋する男の見解なのだろう。
そして自分の嫉妬や心配を瑞稀に対しての冷たい態度にしてしまうのが佐野という青い人間。こうすることで2人に距離が生まれて、その距離が生まれることで接近したかのように思わせる手法なのだろうけど、似たようなことの繰り返しと思ってしまう。


がて本格的に瑞稀に悪意が向けられる。エスカレートする様子も中央の時と同じように見える。また女性と接触の機会が少ない佐野だけど、接触の機会があると必ず女性に言い寄られる。ヒーローは格好良いという読者へのアピールなんだろうけど、2人の嫉妬のラリーが繰り返しに見える。

中津が、瑞稀をターゲットにした第一寮の暗躍を知り、瑞稀を守るため佐野と協力する。相手の裏の顔を立ち聞きするのも蒔田の時の佐野と同じ。
瑞稀を捜索する2人だったが、第一寮生に拉致されたという情報を入手する。佐野は怪しいと踏んでいた九条を犯人扱いするが、佐野は名探偵ではなく、彼は実行犯ではなかった。実行犯は天王寺の もう一人の片腕。目的は勝敗に大きく関わる最終種目に瑞稀を出場させないこと。寮の名誉を寮長に差し出そうと部下が暴走したようだ。

ここで蒔田とは目的が違うが、脅迫のために瑞稀は服を脱がされそうになり、そこに佐野たちが駆けつける、という似たような展開だ。2回目のピンチ救出では一層 佐野の気持ちが明確になる。