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少女漫画と小説の感想ブログです

この夜は落ち込んでいなかった彼女の家を訪れたのは、自分の心を浮上させるため

月読くんの禁断お夜食(2) (BE・LOVEコミックス)
アサダ ニッキ
月読くんの禁断お夜食(つくよみくんのきんだんおやしょく)
第02巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

【心もとろける美味しい時間は、独り占めしたい秘密のご褒美…】パーソナルジムのトレーナーを務める御神そよぎと、ミステリアスな料理男子・月読悠河は恋愛禁止の契約のもと、夜食を作って食べるだけの関係。月読くんの作る美味しい夜食に甘やかされて、ネガティブだった自分の変化を実感したそよぎ。少しずつだけど、二人の関係も近くなってきた…と思っていたのに、月読くんは、そよぎの知らない「過去」に囚われたままで…!?

簡潔完結感想文

  • 明らかになる人間関係。ラストでライバルジムのイケメン食事指導員の正体がバレる!
  • 月読が一緒に食卓を囲まないのは自分の魔性が人を狂わせることを知っているから??
  • そよぎ が月読の料理で心が満たされるように、月読は そよぎ の言葉で満たされる。

けない夜がないのだから、この関係にも終わりがある、の 2巻。

この手の付かず離れずの男女の物語は動かざること山の如し、である。特に本書のように恋愛とは別に料理漫画である作品では、料理ネタに重きを置いて連載を永遠に継続させることも可能だろう。そして本書は連載の早い段階でドラマ化が決まり、人気が高かったはず。しかし作者は常に物語を動かし続け、全6巻とコンパクトにまとめた。読者が許容する偉大なるマンネリに突入しないまま、少女漫画として面白くあり続けたことは驚きに値する。

この『2巻』では二重スパイのような動きをする月読(つくよみ)が葛藤する姿や、彼の過去の失敗が描かれて、『1巻』では ずっと悩み続けていたヒロインの そよぎ よりも悩みが深いのではと思う部分もあった。

月読のお陰もあって心が闇(病み)に呑まれないと、相手の表情の暗さに気づく

どうも月読には料理の才能だけでなく、心理カウンセラーの才能もあるらしい。そよぎ より前にも悩みを抱えて仕事に影響が出た人がいて、その人のために料理を作り交流することで、月読は相手の心を軽くした。しかし自分の才能の大きさに気づかなかった月読は相手を癒やすばかりか、相手を自分に依存させてしまった。その線引きを間違えた関係は現在にも影響を及ぼし、そよぎ より月読の方が沈んでいるという珍しい現象が起きた。

この失敗は月読の苦い経験となり、だから月読は そよぎ と一緒に食卓を囲まないと心に決めていた。おそらく引き抜きという そよぎ に内緒の裏の任務のために手っ取り早いのは一緒に食事をすることだと思われる。そうすれば そよぎ は自分に依存し、思い通りに動いてくれるようになるだろう。
けれど それを月読は望まない。その手段は月読にとって「禁断」で、そうして得た そよぎ の心は彼にとって偽物に思えるのではないか。過去の経験から自分は魔法使いであるという自覚が月読にはあるはずだ。だからこそ禁断の魔法は使いたくない。それは築いてきた心地いいはずの人間関係を破壊するもの。引き抜きに際して月読は私情を挟みまくっていることが この線引きからも よく分かる。

月読は相反する目的を そよぎ という対象から引き出そうとしている。それでも一緒に食卓を囲むことなく、恋愛・性的な関係になることもなく、ただただ そよぎ が健やかに過ごせることだけを祈る。月読はプラトニックな究極の愛を望むロマンチストと言える。

これまで月読は盗聴器でも仕掛けているんではないか と思うほど、そよぎ の心情を把握してきた。彼女が凹んでいる日を見極めて、その夜に彼女のマンションを訪問する。しかし上述の通り、月読の方が沈んでいる夜がある。その日は そよぎ に嬉しいことがあった日で、月読のセンサーが通常に作動しているのであれば、訪問しないことを選んだはずだ。それでも月読が訪問したのは、彼女を癒やすのではなく彼女に癒されたいと思ったからだろう。それだけで お互いのギブアンドテイクが きちんと成立している。
『1巻』のラストは そよぎ が月読を不可欠と思って彼の存在を願ったが、今回のラストは その逆が描かれている構成が良かった。

そんな2人の良いバランスは最後に崩壊の危機を迎えている。契約や欺瞞によって2人の関係性が動かないのなら、周囲を動かそうという試みがあり、そのために最初からキャラの配置は考えられている。そういう下準備の周到さは私が作者を好きな部分だ。


局、年末年始に帰省しなかった そよぎ。その頃は月読との夜が終わってしまうことで頭がいっぱいだったのだろうか(『1巻』ラスト)。
また そよぎ が実家に帰らないのは月読と同じ年の23歳の弟が早くに結婚し二児に恵まれ、親と同居しているという面が多少なりともある。自分が頻繁に家に帰ると、弟嫁から鬱陶しがられるのではないか、という余計な気遣いが家族を心配させてしまう悪循環に入っている。

そよぎ が悩むと月読が現れる。今回のピザ餃子は そよぎ も餡を包むのを手伝い、月読との共同作業になる。そこで互いのプライベートの話になり、そよぎ は悩みの種である実家との距離感、月読は兄弟構成に兄がいることが明かされる。月読と兄との距離感もまた複雑なものを感じる。美味しい物を食べて、前向きになった そよぎ は帰省を実行しようと決意する。

その頃、いよいよプレオ―プンの運びとなった大手・アサヒナのパーソナルジムに、そよぎ の勤務先の若手がスパイに出向く。そこで目撃したのは立地と内装の良さ、引き抜かれたスタッフたち。そして専門の食事指導員とされる月読の姿だった…。


パイの報告を聞く そよぎ だったが盗撮したはずの月読の姿はブレブレで、そよぎ は月読がアサヒナ側の人間だと分からないまま。
そよぎ は同僚たちに引き抜きの件を黙っていたが、後輩の男性トレーナー・司(つかさ)は彼女の悩みを見抜いていた。そして司も月読と同じく悩み過ぎる そよぎ の心を軽くする助言をする。それに喜ぶ そよぎ を見て、司の顔が赤くなっていることを酔っている そよぎ は気付かない。司は そよぎ を家に送り届けた際に、月読の姿を初めて認める。司にとっても月読にとっても自分のライバルが具現化した瞬間だろう。

この頃になると月読と連絡先を交換する仲となっていたが、そよぎ の悩みを自分以外に後輩男子が共有していたことに月読の心は穏やかではない。だから自分も器の大きさを示そうとするのだけど、そよぎ が差し出したのは おかわり を要求する器だった…。酔っ払って眠ってしまう そよぎ に触ろうと手を差し出す月読だったが、寸前で自重。自分の中に動かしてはいけない気持ちがあることを思い出す。

自分に無頓着&ほろ酔いで男たちの視線の意味に気づかないヒロイン。読者の大好物

読が司の存在にライバル心を燃やしたように、司は月読の姿を見て、自分が そよぎ の頼れる存在になろうと新たに資格を取得しようと動き出す。

そんな司とは対照的に そよぎ はアサヒナの存在で無意識に焦っており、顧客に対して理想を押し付け結果を求めてしまい失敗する。その落ち込みを察知したかのように月読から連絡が来るが、その返信内容に月読は異変を察知する。だから そよぎ のリクエストに反するメニュー、ココアフレンチトーストを提案する。自家製のジャムや『1巻』での あんこ など、手の込んだ月読の料理には彼の悩みが隠されている。それを そよぎ は知っているから、彼も誰かに甘やかされる必要があると考える。必要ないと答える月読だったけれど、彼は そよぎ といる この時間に甘やかされていると激甘の言葉を続ける。


読が そよぎ と一緒に食事をしないのは、自分の苦い経験があったから。これは彼が自分の魔力の大きさを思い知った一件と言えよう。

昨年、月読の兄・朝日奈(あさひな)とアサヒナスポーツの同期だった遠野(とおの)という男性は離婚してから生活が荒れ仕事にも影響が出始めた。兄の代わりに その遠野の様子を見ることになった月読。ちなみに兄とは ずっと別々に暮らしていて、姓も違う。
当時の月読は新人トレーナー。得意の料理を通して遠野の心を癒やしていった月読はカウンセラーのような役目を果たす。現在の そよぎ と同じである。ただ違うのは遠野に勧められるまま彼と食卓を囲んだこと。

それ以降、遠野は月読に依存し始め、朝日奈と月読に二度と近付かない約束を交わすことになった。しかし地元に戻って就職したはずの遠野は月読に執着をする様子を見せる。今回は登場した兄によって事なきを得る。この回で月読が兄・朝日奈と同居し、家では兄の食事を作っていることが描かれる。この日のメニューはウエボス・ランチェロス。月読の料理は ご馳走というよりは その土地土地の定番料理が多いように見える。


読が訪れる夜、そよぎ は自分が指導した客が目標を達成し幸福を掴んだと珍しく浮かれていた。今回は自分がハッピーで発光しているからか、そよぎ には鯛のアヒージョを作る月読が逆に沈んでいるように見える。

しかし契約書の存在と、踏み込むとまた月読は距離を取る経験が そよぎ を臆病にする。それでも そよぎ は月読に感謝する。仕事の嬉しさが ずっと持続するのは自分が満たされている証拠。それを与えてくれたのは月読の料理だと そよぎ は伝え、沈んでいる月読の心を浮上させようとする。そうして月読は自分のしていること、したことを満たされ目に涙を浮かべて嬉しさを噛みしめる。ただ その表情の意味にも そよぎ は踏み込まない。そうすることが関係性の継続の暗黙のルールなのである。


れが分かっていても悩んでしまうのが そよぎ という人。そこから自分は月読を求めていて、失いたくないから打算的になっているが、その逆の月読から見た自分には大した価値がないのではないかと考えセルフ陥落する。

今回、2人は まず料理を作って、その後に初めて そよぎ の部屋を出る。夜の公園に出掛けて桜が散ってしまう前に お花見を楽しむ。まだ肌寒い夜に月読は変わらずに自分で作った台湾のスープ・ルオボータンを食べることを拒否する。それならばと そよぎ は自販機でココアを買い求め月読に手渡す。
それは そよぎ が自分たちの需給のバランスの悪さを考えての行動でもあった。少しでも彼のために動きたい、そういう気持ちがあることを伝えると月読は自分を必要とし続けて欲しいと望む。『1巻』のラストの話も2人の関係性の再点検だったけど今回も そんな内容だ。しかし その関係性が外側から崩れかねない事態が発生する…。