
夢木 みつる(ゆめき みつる)
砂漠のハレム 永久の契り(さばくのハレム とわのちぎり)
第XX巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
30人目の妻として後宮に迎えられたミーシェは、晴れてカルム王の正妻に!……でも、新婚生活は刺激が強すぎて!?式の準備に奔走する「婚礼編」、二人きりで過ごす「新婚旅行編」、ついに二人が結ばれる「初夜編」。本編完結後の2人を描いた特別編3本、待望のコミックス化!!描き下ろしもたっぷり10p!
簡潔完結感想文
- グイグイ迫る俺様や王子様は時間をかけて女性の心身をほぐす(少女漫画あるある)
- カルムの2度目の誕生日。お互いに初回とは違う立場・関係性、そして初めての夜。
- 掲載媒体が違うと白泉社の雑誌コードが適応されないのか描写が一気に過激に♥
物語のハッピーエンドの後の少女漫画のハッピーエンド、の 特別編。
本編の最終『10巻』で4ページで終わった婚礼前後の蜜月期間を1巻分に拡大してお届けする。読者の読みたかったシーンや描かれずに終わってしまうのかと思ったシーンが満載で、ずっとミーシェとカルムの2人の愛の軌跡を辿ってきた読者は絶対に満足すること間違いなし。本来なら『10巻』の特装版に付いてきた小冊子が読者サービスの役割を担っていたはずなのだけど、このボリュームと内容を出されてしまったら小冊子は不必要なんじゃないかと思ってしまった(そんなことはない)。
『10巻』までが2人が国王と正妻になるまでを描いたとするならば、『11巻』とも言える本書は2人が真に夫婦・家族になるまでを描いている気がした。中盤以降は どちらかというと舞台となったジャルバラ王国の騒乱が中心になって、その中で2人は国王と正妻になる資格を得た。それにより少女漫画的な甘いシーンが入る余地が無くなり、序盤のような淫靡な雰囲気は霧散してしまった。
しかし国が安定したため、2人は経験豊富な王と初心者王妃という以前のような関係に戻ることが出来た。


考えてみれば作中2人が これだけ長い間 一緒にいることが珍しい。特に中盤以降はミーシェが功績や強さを示すために何かと事件に巻き込まれ続けてきた(主に誘拐)。別離期間を経ることで絆を強めてきた2人だけど、婚礼も終わり もう愛を育てる期間ではない。婚礼後は当たり前に愛する人が近くにいる幸せを享受するターンとなっている。その平穏な空気を感じられるだけで読者は嬉しい。
本編では俺様王子様ヒーローとしてミーシェを引っ掻き回していたカルムだけど、彼女を正妻にした余裕なのか、別離期間で大事にしたい気持ちが育ったのか、これまでのように強引にミーシェに迫らない。これは現代劇のモテモテ男子高校生と同じ行動。キスを強引にしてくるような人間だけど、性行為は相手の了解と覚悟が見えるまで なかなかしない。
この特別編はカルムがミーシェが自分の身体を受け入れるまで じっくりと見守ってきた時間といえる。最高の「初めて」を彼女に与えるために時に我慢し、時に身体の反応を待ち、その日を迎えた。とてもハレムに君臨していた王子様とは思えない。というかカルムはミーシェのために1年間ずっと禁欲していたのか?など下世話な疑問が湧いてくる。
本編でミーシェとカルム、そして初連載の作者が ずっと頑張ってくれたから こんなに幸せな日々を感じることが出来るのだと思う。いつか作者がネタに困ったら次世代編とかアーレフの嫁探しとか そういう番外編で この世界のことを描いてくれたらと願ってしまう。
「婚礼編」…
本編『10巻』では描かれなかった正妻として臨む婚礼の儀までを描いた短編。婚礼を前に凶兆が出たと姿勢で噂になってしまい、それをミーシェが払拭しようとして空回りする、という いつものパターン。その花嫁のピンチにカルムは2か月後の予定だった婚礼を10日後に変更する…。
ピンチをチャンスに変える夫婦の初の共同作業といったところか。花嫁が人外だという噂は可歌まと さん『狼陛下の花嫁』でもあったような。この日が本当は初夜なのだけど初夜編が別にあるということは、いつもの「するする詐欺」が発生することを意味する。
「新婚旅行編」…
タイトル通り海辺のリゾートに新婚旅行にきた2人。初夜編が別にあるということは…(略)
冒頭から海を前にしたカルムが服を脱いだりスキンシップ多めで ずっと距離が近い。本編の終盤は戦争回避のために個別に東奔西走していたから こういう蜜月は久しぶり。序盤よりミーシェ側にも愛情や信頼感はあるのだろうけど経験値を上げられていないので、序盤と変わらない ぎこちなさが漂う。
実はカルム側は一線を設けており、ミーシェの動揺を楽しんでいるはずだった。しかし自分の予想以上にミーシェを好きすぎる国王は不器用な花嫁に胸キュンが止まらない(笑) こういうカルム側の可愛く間抜けなところを描けるのも特別編ならではだろうか。
本編で徐々に相手を信頼して愛していく過程を描いたようにミーシェはカルムと物理的な距離を縮めるように努め、少しずつ彼の身体に慣れていく。婚礼でホップ、新婚旅行でステップ、そして いよいよジャンプする!
「初夜編1」…
初夜編は雑誌掲載ではなく配信。掲載媒体が違うからか本編では考えられない露出度を見せる(主にミーシェが)。
カルムの誕生祭当日に身体を重ねることを約束したミーシェ。カルムの誕生祭は『2巻』でも出てきたイベント。ということは あの日から1年ということか。妻になってから1年間 性交渉をしないのは異常事態だけど、知り合ってから1年で運命の人だと思い込んで結婚するのは現代的な感覚からすれば早い気もする。燃え上がるのが早ければ冷めるのも早そうと思ってしまうけど、少女漫画なので問題なし。
ミーシェの恰好は『2巻』の誕生祭の時と同じ。その時と同じように お祭りデートを楽しむ2人。カルムは誕生祭を夫婦で楽しめた思い出だけで十分。ミーシェの緊張を感じ取っており彼女が本当にリラックスできる時まで待つつもりでいた。しかし寝所に戻るとミーシェがいて…。


「初夜編2」…
ただ致すだけの回。初夜編だけあって行為が約12ページに渡って描かれる。
世界観や時代設定が違うだけで、経験豊富な俺様ヒーローが本命の女性とは なかなか性行為に至らない、という少女漫画の法則が ばっちり適用されている。
王妃にはプライベートがないようで2人が事に至ったことは周囲の者に周知の事実になる。
「描きおろし」…
その結果の妊娠を描いた話。良かったのは生まれてくる子供の性別を発表しないところ。どうしても世継ぎが必要な世界なので王と結婚した白泉社ヒロインは男児を設けている(前出の『狼陛下』、仲野えみこ さん『帝の至宝』)。物語の世界や読者の心を安定させるためには そうするのが有効なのも分かる。でも どちらの性別であっても祝福されて生まれてくることを描いているように思えて嬉しくなった。
