《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

白馬に乗った王子様は、私の人生を明るく温かい方向に何度も導いてくれる。

砂漠のハレム【通常版】 10 (花とゆめコミックス)
夢木 みつる(ゆめき みつる)
砂漠のハレム(さばくのハレム)
第10巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

カルム王子死去の報せを受けたミーシェ。一方のアーレフ王は、ジャルバラへの進軍を決定。開戦の時が迫る――…!ジャルバラとアナトリヤ、そしてミーシェとカルムの運命は!?キングダムラブロマンス感動の完結巻!

簡潔完結感想文

  • 奴隷時代の悲痛な記憶が伴う牢獄で最愛の貴方と再会してトラウマは塗り替えられる。
  • 自分たちにしか出来ないことをするために別行動をする信頼の上に成立する夫婦関係。
  • 戦争、正妻もろもろ争うことなく自爆や辞退によってトップ オブ トップの道が拓ける。

もが幸せな結婚をするために、正妻の座は どこも都合よく空席、の 最終10巻。

一番 気に入ったのは最終話の展開。隣国・アナトリヤと戦争直前まで突入した王子・カルムの国・ジャルバラ。両国は衝突を回避したが、醸成されてしまった不穏な雰囲気は解消されず何かしらの政治的決着が必要となる。そこで提示されたのがアナトリヤの王家の血を引くコレルがカルムの正妻になるという両国の和解の演出方法だった。
作者は この展開を描くために早くからコレルを用意したのだと分かるし、二国間を不和にするために第一王子・メフライルの存在があったことも分かる。

これによってヒロイン・ミーシェはカルムの愛を獲得したけれど正妻オーディションは敗退するという試合に勝って勝負に負ける状況となる。どれだけ愛を語らっても どれだけ功績を残してもミーシェは時代や血統という大きな流れに勝てなかった。最後の最後で(最終話1話だけで)ミーシェにオーディション不合格をもたらす仕掛けが実に壮大だった。数多く存在する王族と庶民の悲恋の一つとして、誰にも知られることなく終わった恋となる、という現実的な結末を一度 提示したのが素晴らしい。

最終話までずっと くっついては別れ また くっついての連続。ちょっと くどい

だし早い話が この際のミーシェの絶望を描くためだけに戦争をおっぱじめようとしたと言っていいだろう。しかもカルムは非戦論者だから動いてくれない。ならば動いてくれる傀儡の存在が必要だろうと生み出されたのがメフライルなのだろう。

終盤の大きな不満としては、このメフライルとアーレフ王、2人のカルムよりも年長者の男性たちの深みが全く出せていないところだろう。特に前者は本当に道化。自分の正妻・ハルカが誘拐された事件では理知的なところを見せていたが、アーレフ王との戦争では第二王子・ユーゼフ並の知能に低下していた(酷い言い様)。

現実主義者とか必要悪とかならばメフライルの行動に背景とか信念を与えてあげればいいのに、それを考案することを放棄してカルムの格好いい演出ばかりに専心していたように見える。『9巻』の感想でも書いたけれど、他国の侵略より まず自分の国王就任を目標にして地盤を固めなよと言いたくなる。でも そんなことしているとミーシェが婚期を逃す一方だから、メフライルが脳筋キャラになってしまったのだろう。

それでいてメフライルへの処分は甘い。死罪もやむなしだけど、カルムの治世で そんなことはさせづらいし、妻のハルカとミーシェは交流があるため、彼女を悲しませるわけにいかないのだろう。そもそもメフライルは国王の死に関与しているような描写があったような気がするのだけど、気のせいだったのだろうか。

各人に思考を持たせると少女漫画らしからぬ複雑な知略が絡み合う展開になってしまうから簡略化した、という事情は多少あるにしても、メフライルの思考は奪われ過ぎている。カルム夫妻を戦わずに勝つ姿勢に固定してしまっているために、周囲が勝手に戦い出す必要があったのだろう。その元凶は主人公夫婦を綺麗に描きすぎたところにも ありそうだ。


してアーレフも深謀遠慮がありそうでなかった。ミーシェへの個人的な関心も明かされることはなかったし、虚仮威し(こけおどし)にばかり利用されている印象が残った。メフライルやアーレフを もう一段 魅力的に描けると作品の質もグッと高まるのではないか。本書が初連載なので、この辺の成長は次回作以降に期待したい。

ミーシェはアーレフの妻候補だったのだろうか。彼が なぜミーシェを捨てたのか、そして なぜ捨てたはずのミーシェを近くに置こうとするのか、その辺は謎のまま。もし『10巻』開始時点のようにカルムが本当に死んだという世界のままなら、ミーシェはアーレフに囚われ続けることになる。モルジアナや付き人は惨殺され、恐怖による支配でミーシェは飼い慣らされたのだろうか。アーレフならカルムの死を予想して、ミーシェが隣国に帰らない未来の到来を見据えて、彼女を人質にしたとも考えられる。

作品はずっとミーシェが女性に優しく、女性たちを味方につける様子を描いてきた。仲良くなった3人の側妻も最初はライバルだったし、困難を共にして親交を深めたハルカはメフライルに甘い処分となり決して不幸ではない。ラスボス的な王妃も すっかりミーシェを目にかけており意地悪な義母にはならないだろう(後述の小冊子や特別編を読むと尚更)。

そして正妻オーディションに共に挑んだコレルは、正妻に選ばれたはずなのに土壇場で逆転される。しかし作品は不幸にはしない。先にコレルの帰国は決定していた。そして彼女が想っているのはイトコのアーレフ王だったというネタばらしもある。『10巻』序盤のミーシェのアナトリヤ脱出の際に わざわざアーレフに現在 妻がいないことを確認しているのは、その空席に座れるチャンスがあるということなのだろう。帰国した後のコレルにアーレフが折れて妻になるまでの様子を見届けたい。その際に猛アタックするとカルムの妹・ヤスミンと被るから、常に冷静に それでいて強引にアーレフの退路を断つような ちょっと怖い恋愛の模様でも良い。

しかしハレム設定いらなかったなぁ…。カルムは自分で後宮を作ったのにミーシェの登場で それを解体。『1巻』の感想文でも書いたけど、その間5年の時間が流れているのに、誰一人 出産も妊娠もしていない不思議すぎる状況
後宮後宮として機能していないのなら、仲野えみこ さん『帝の至宝』可歌まと さん『狼陛下の花嫁』のようにヒーローが後宮を望まないという方式にした方がスッキリしただろう。
白泉社の前例とは違う設定を持ち出した割に、白泉社の典型のようなファンタジー設定を貫いたのには違和感があった。もう少し大人の内容にして欲しかったけど、そんな話を受け入れられるほどミーシェは大人じゃないから無理だったのか…。


フライルからアーレフ王に届いたカルムの遺髪を見てもミーシェは彼の死を信じない。なぜなら彼は自分を この国から奪還すると言ってくれたから。
しかしアーレフはカルムが権力を失ったと判断し隣国との戦争は不可避と考え出兵する。彼が人質・ミーシェの処遇は保留したものの、付き人たちの殺害を許可したことでミーシェは この国から脱出を決意する。わざわざアーレフがミーシェの前で発言したことは、自分の不在中に起こったこととして処理するためで、彼の間接的な後押しと考えることも出来る。

ただし第一種警戒態勢なので警備が多い。そこでミーシェは妻が不在の後宮を通り抜けようとするが、警備兵に見つかってしまい、モルジアナと付き人を逃がすために自分は逃げないという選択を取る。どこまでも同性に優しいヒロインである。

捕らわれたミーシェが連行されたのは奴隷時代に入れられていた牢獄。トラウマの誕生地に戻された形になる。不安と恐怖でパニックになりかけるが、ミーシェは自分からカルムに会いに行く希望を捨てない。その ご褒美のように門兵に変装したカルムが登場する。この場所に2人が集うことが、ミーシェのトラウマの完全克服を意味しているのだろう。わざわざカルムが ここに来る意味がある。
それにしても海賊船掌握の時もカルムの臣下たちが変装すればバレなかったが、そういうルールのようだ。カルムの登場により一気に活路が開け、彼らは母国へ帰還する。

ミーシェの精神的なアーレフの支配を解いてきたカルムが今度は物理的に解放する

った南州ではアナトリヤの開戦を前に市民が殺気立っていた。出身地で差別し、逆らうと密偵と見做される社会情勢は、カルムの妹・ヤスミンが巻き込まれた時代の再来といえる。

またカルムは現場にいたザハールという旅の者から事情を聞き、水源が止められ、その報復として隣国出身者への厳しい処置が始まったことを知る。平和主義者の夫婦の最優先事項は、見せしめに磔(はりつけ)になっている無辜の隣国出身者の救出。その無謀とも思える行動にザハールも協力する。

いつものようにミーシェが子供と知り合いになり、子供を足掛かりにして話が展開する。ミーシェがカルムの死を聞かされても自分を奮い立たせ不安に打ち克って平常心でいようとしたように、カルムも自分が改革した町の変貌に忸怩たる思いを抱えている。でも今は お互いに失うことを恐れていた最愛の人が目の前にいる。そうして心の安定を補い合えるのが夫婦なのだろう。


ルムの手配によってミーシェとハルカを誘拐した砂漠の部族の手を借りて、彼らは拘束者の奪還を目指す。カルムは自分の側妻たちを この砂漠の拠点で保護するように手配していた。部族たちは誘拐実行犯だれど、それを利用してもカルムが構築したコネを使っての反撃する展開は爽快感がある。

しかし奪還終了後、この街にメフライルが現れる。ミーシェとカルムは鉢合わせる寸前で身を隠し、ここでメフライルによりザハールと名乗る者が もう一つの隣国・カタートのザハド王であることが明らかになる。当たり前だがカルムは承知していたようだ。なぜならカルムは この数か月前にザハド王にメフライルとの軍事協力の中止を要請していたから。ザハドが この地にやって来たのは内情を見聞するためで、今回の拘束者の解放で彼は心を決めたように見える。


の時の会話で王妃がメフライルに傾きつつあることを知ったカルムはミーシェに自分の生存を王妃に知らせる役割を担わせる。カルムの生存を知れば非戦論者の王妃の気持ちは反対に傾くとカルムは推測していた。再び別行動を取ることになるが、2人は笑顔で別れ、カルムは次に会えた時にプレゼントがあると伝える。まるで死亡フラグである。

重要な任務を言い渡されたミーシェに、彼女の生存を知ったメフライルの追っ手が忍び寄る。開戦のタイムリミットが迫り、目的地まで馬で あと1日の距離まで近づいたところでミーシェは弓で撃たれる。負傷しながらもミーシェは治療よりも王妃のもとに行くことを優先する。その迷いのない行動のお陰で王妃が開戦を宣言する直前にミーシェの陳情は王妃に届く。しかし彼女は その場で崩れ落ちてしまう。てっきり死亡フラグはカルムの物だと思っていたけどミーシェに立っていたのか…。


ーレフとメフライルの軍が対峙し、開戦は待ったなしの状況になる。両軍が激突する その直前、カルムの計画により両軍が向かい合っていた地面が割れる。それを合図にするかのように王妃軍を率いていた第四王子・ヨハネが離反、そしてメフライルは義父であるザハド王に動きを封じられる。

こうしてジャルバラ王国の代表となったカルムは丸腰でアーレフ王の前に現れる。活用した水路を使ったにせよ ここまで近づけるのか、と思うけれど漫画的な演出だろう。アーレフはカルムの話を聞き兵を撤退させる。こうして死者を出すことなく、開戦することなく、両国の剣呑な雰囲気は霧散する。第一王子を出し抜く その手腕に国王としての期待を寄せない者はいないだろう。

事態が収束した後、カルムはミーシェの重傷の知らせを聞いて彼女の元に走る。再会を果たした頃にはミーシェの容態も峠を越えており、彼らは少しだけ言葉を交わす。


4か月後、ミーシェはカルムから手厚い看護を受けていた。過保護なカルムを内心で喜んでいたミーシェだが そこに王妃から話を切り出される。
ミーシェは二度も隣国との戦争を止めた立役者。それは王族の妻になるに値する功績。しかし今回のアーレフ王との戦において、その終戦宣言として相応しいのはカルムが隣国出身のコレルを正妻に迎える必要があるという。これが政治上の正しい判断。カルムは もちろんミーシェも正妻に迎えたいから逡巡してしまっており、王妃は その判断を鈍らせないためにもミーシェが身を引くよう願い出る。

だからミーシェは後宮を出て就職を考える。だから後宮で挨拶回りをする(人質に出される前もしてたけど)。コレル、そしてメフライルの妻・ハルカに遭遇し、メフライルは王都の王宮で軟禁状態なことが ほのめかされる。北州の管轄から外れるようだが、実質的な処罰はないようだ。
コレルはミーシェの意向を知っているようで、彼女に今後の身の振り方を助言してくれる人を紹介する。言われた場所に赴くと そこにいたのはカルム本人。そこでミーシェはカルムが国王に就任することを初めて知る。それを心から祝福するミーシェは、彼に甘えそうになる自分を断ち切って その場を去る。


ルムは2つの隣国の王を招集し、アナトリヤと休戦協定を結ぶ算段を付けていた。そのためには正妻にコレルを迎えるのが正解。しかしカルムが今回3つの国の王が一堂に会すようにしたのは、この三国での同盟を締結させるためだった。
これにコレルを正妻に迎えるのを回避する二次目的があるのは明白。現にカルムは側妻たちに正妻を迎えるにあたって後宮の解散を宣言していた。側妻に頭を下げて感謝を示した王子は、正妻にだけ愛を注ぐことを決めていた。

ミーシェが どれだけ悲しんでもカルムは絶対に迎えに来る。それは自明なことである。1話の出会いのようにミーシェの前に馬に乗って登場したカルムはミーシェに心からの言葉を紡ぎ、指輪と共に自分の正妻になるように命じる。
こうしてミーシェは正妻となると同時に王妃になった。めでたしめでたし。

「小冊子」…
コミックス未収録の特別編8Pに加え、特装版でしか読めない描き下ろし後日談をたっぷり収録した小冊子。

  • 「カルムへの疑惑」…カルムの弱点を探るミーシェが目撃したものは…。白泉社らしいコメディ感と、少々デリカシーに欠ける内容かと。
  • 太后、××を作る。」…本編最終回の後の話。厳しい姑を演じていても甘い祖母になりそう、という話。
  • 「お付きの疑問」…実は恋愛脳のカルムのツッコミ役は お付きの人という話。最後に読者が疑問に思っていたことが解決する。お付きの人ファンは これだけで小冊子を読む価値あり!?
  • 「夫婦、買い物に行く。」…爆買い設定は国王っぽいけれど、まんま現代劇でも流用できるエピソード。というか既視感が凄い。