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少女漫画と小説の感想ブログです

ピンチの度に駆けつけていたヒーローが、ピンチを放置するようになる愛の変化

砂漠のハレム 6 (花とゆめコミックス)
夢木 みつる(ゆめき みつる)
砂漠のハレム(さばくのハレム)
第06巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★★(6点)
 

心配せずとも、必ず守る──。俺様でケダモノなジャルバラ王国第三王子・カルムの正妻を目指すミーシェ。王妃主催の茶会にて、ミーシェをめぐってカルムと第一王子・メフライルが手合せをすることに…? 二人をとめるべく、ミーシェはどう動く!?

簡潔完結感想文

  • 女性の自立を描いてきた本書では、正妻とは自分で考え自分で行動できる人なのだろう。
  • ただ暴力ヒロインだったのに いつの間にかに聖女ヒロインになっていて温度差が気になる。
  • これまでとは違う内容と分かりつつも、これまでと同じ誘拐劇。セキュリティがばがば問題。

ーディション途中で化けるスター候補生、の 6巻。

全10巻(本編)の折り返し地点というのは偶然だろうけれど、この辺りからミーシェとカルムの役割に変化が訪れる。これまでの話はカルムが絶対的なヒーローとなってミーシェのピンチに颯爽と登場していたけれど、この辺りからミーシェが単独で動き、事件を解決する展開が多くなっている。それは さながら探偵役のバトンタッチのように見える。これはミーシェの成長で、彼女が自分で考え自分で動くことで正妻になる器が完成しつつあることを描いているのだろう。

『6巻』で思い出したように描かれる後宮内でのミーシェの苦難を、カルムが認知しつつも放置するのは この問題に自分が首を突っ込むことで起きる副作用としっかり理解しているのと、このような問題を自力で解決しなければミーシェも ここまで、というスパルタ教育の側面もあるだろう。『5巻』の感想文でミーシェは今 正妻オーディションの最中だというようなことを書いたけれど、カルムもまた審査員の一人なのかもしれない。ミーシェに目をかけつつも、彼女が自分の正妻という地位まで上り詰めることが出来るかは本人の器量と努力次第だと分かっている。そういう冷静なカルムだから、二次審査である正妻オーディション放置する姿勢を見せるのだろう。


だ頑張っている中、申し訳ないけれど『6巻』のミーシェは ちょっと鼻につく。きっと それは女性の中ではミーシェだけが王妃や王子などと同等の視野の広さを持っていることが強調されすぎているからではないか。だから『6巻』の評価は低め。

王妃主催の独自オーディションでも結果を出すミーシェ。もう勝ち確で つまらん

正妻オーディションのライバルであるコレルが早々にミーシェよりも狭い視野なことが分かったし、将来の王妃に最も近い存在と言える第一王子・メフライルの妻で隣国から嫁いだ設定のハルカもミーシェに守られてばかり。ミーシェの自立を描くのが目的なのに早くも無双状態に突入していて展開が早すぎるように感じられた。
それはヒロイン絶対主義にも通じる。いつもいつもミーシェ様の言動は正しいもので、彼女の正しさが周囲の意識を変えて、誰しもがミーシェを尊敬し始める。これまで暴力的で短絡的だった出発点を知っているからこそ、急なキャラ変に付いていけない。唐突に私情よりも政治的な影響を考えられるようになったし、自己犠牲を厭わない聖女になった。

上述の通り、これはカルムの手を離れて自立するために必要な能力と展開なのは分かる。でも私にはミーシェを通じて読者に万能感を与えて承認欲求を満たすような安易な手法にも思えてしまう。ちょっと成長のギアチェンジが上手くないかな、と思う。

また再び誘拐劇が発生したり内容的にも重複しているのも気になった。もしかしたら これもミーシェの単独解決を描くために意図的に以前の事件と同じような内容にしているのかもしれないけれど。期待していた後宮内での衝突は描かれずに、出掛けたら誘拐というワンパターンに陥っているのは残念だ。


妃の不興を買ってミーシェが追放処分になるなら自分が利用価値を見い出すという第一王子・メフライル。それを阻止したいカルムの意向を見て、王妃は王子2人の決闘の商品をミーシェにする。カルムは自分の勝利で現状を維持できるとあって、ミーシェに勝利を約束する。アーレフは仮想敵であったけれど、友好国の王なので戦うことは選ばなかったが、今回はカルムがミーシェのために死力を尽くしている。

メフライルが目を付けたのは茶会でミーシェが詠んだ詩だった。アーレフの国の奴隷だったミーシェは、アーレフの国とは反対側の隣国の詩を知っていた。それこそアーレフが奴隷を使って その国との繋がりを持とうとする意志の表れで、母国を挟む形での二国間の交流は王子であるメフライルは見逃せない兆候だった。アーレフの真意をミーシェは知っている、というのがメフライルの考え。

不毛な兄弟の争いを止めようとミーシェは王妃に直談判する。これは他の妻たちがしなかった行動。そしてミーシェには この勝負が後の国王後継者争いの噂になりかねない、という大きな視点も持ち合わせていた。けれど王妃はミーシェの行動を黙殺するので、ミーシェは男たちの間に割って入る。それは守られるだけの自分ではないということを体現する行動でもあった。

王妃は唯一 ミーシェだけが王子たちを慮って行動したことを評価し、追放処分の撤回、それどころか次に会う機会を与えることを匂わす。将来の義母に認められ、正妻に少し近づいた(または首の皮一枚つながった)。
またカルムはヤキモチ焼きなので、アーレフといいメフライルといいミーシェが目をかけられる男性の存在で嫉妬心が燃え上がる。アーレフと頻繁に会う機会もないので、メフライルが当面の恋愛上の仮想敵なのだろう。


ーシェが正妻の階段に足をかけたことで、本格的な嫌がらせが始まる。まずミーシェはカルムに泣きついたりしない場面を描いてから、イジメがミーシェだけでなく彼女と仲の良い側妻たちに範囲が広まる。自分がイジメられていることには鈍感だが、他者に被害が及んで初めて解決に動く、という流れにしてミーシェを聖女に仕立てている。まんま現代の学園モノでも通用する設定でファンタジー感ゼロ。

カルムもミーシェが後宮で目立ち始めていることを気に掛ける(あれだけ寵愛して贔屓いたけれど)。だからカルムはトラブルを静観したままミーシェの単独解決となる。イジメの首謀者とも心を通わせて女性同士の争いを女性同士の関係内だけで終わらせてから、不慮のトラブルに対してカルムが動く。それはいいのだけど、結局 序盤と同じようにカルムが29人の側妻を平等に愛さないことも原因なんじゃないかという思いも湧く。根本的にハーレム制度が邪魔なのだ。

アイドルグループHRM30(ハレム30)でリーダーになる器。結局 下積みの長いエリート

ルムたち一行はメフライル王子の治める北州に向かう。ミーシェが同行するのは茶会の時にメフライルの妻・ハルカをミーシェが助けたことで彼女から招待を受けたから。またもイジメの対象になりかねない展開だ。

バザールでのデートを期待したミーシェだったがカルムは用事で出掛けて単独行動になる。ようやく合流したらデートの前に迷子を保護して2人で親を捜し回る。その途中でミーシェはカルムが社会見学をしていることに気づき、彼に市井の暮らしや情勢を見せる、妻としての配慮を見せる。
誰かのために動いたことで きちんとミーシェにも ご褒美が待っている。休息で立ち寄った街での出来事という内容通り、大きな流れの前の1話完結の物語になっている。


州でハルカと再会したミーシェは彼女から宴への出席を要請される。これはハルカが1年振りに厳格な父と再会することに緊張していたから。その裏には気丈なミーシェと一緒にいることで父親に臆することなく話したいハルカの願いがあった。
ハルカの父親は隣国・カタートの国王(アーレフの国とはカルムの国を挟んで反対側)で、ハルカはメフライルの正妻という立場。ハルカは両国の友好の象徴であり、だからこそ失敗が許されない立場にある。

ミーシェは今回も自分を犠牲にしてでもハルカの目標を達成させようとする。今回も そのご褒美をカルムから貰うが、その直後にハルカの誘拐現場を目撃してしまいミーシェも連行されてしまう。場所や人物は違えど誘拐劇は3度目ぐらいだろうか…。


フライルの宮殿はハルカとミーシェの誘拐で揺れていた。しかも この国の臣下の一人が血のついたハルカのストールを燃やそうとしており、その者は2人は既に殺害されていると証言した。その上、臣下は一連の犯行はメフライルの命令だと言い放ったことで、誘拐劇は一気に国際問題になる。

カルムは自力でミーシェたちの捜索に動こうとするが、カタート国王は首謀者と思しき この国の王子たちの行動を制限する。問題を解決する探偵役であるカルムの動きが早々に封じられてしまい、事件はミーシェによって解決するしかなくなる。軟禁状態になったカルムだが殺害の証拠として出されたストールの血液が人間のものではないと推理して、2人の生存の可能性は高いと判断。臣下を動かして手掛かりを探らせる。

ミーシェが目を覚ましたのは誘拐実行犯の部族が設置した檻の中。遊牧民である彼らは金銭目的で誘拐を実行し、移動の際にミーシェたちを国外に放置することで仕事を完遂しようとしていた。ミーシェは部族の者から この事件が国際問題に発展しかねないことを聞かされ、動揺するばかりのハルカと違い、どうすれば事件が解決するかを考え、ハルカの帰還を第一目的にするのだが…。

「特別編」…
ミーシェとカルムの深夜の捕物帳(鳥だけに)。