《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

梨子田さんへの願望や欲望は果てがないから、夏秋くんは今日も思いを告白したい。

夏秋くんは今日も告白したい(5) (別冊フレンドコミックス)
さとる
夏秋くんは今日も告白したい(なつあきくんはきょうもこくはくしたい)
第05巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
  

クラスメイトの梨子田さんに告白したい夏秋くん。一生懸命だけどちょっぴりズレた夏秋くんのアプローチは、鈍感な梨子田さんにはなかなか伝わらない! だけど…ついに!!告白が成功した夏秋くん! 両思いになっても増すばかりな「好き」を、今日も告白したい☆ 夏秋くんを応援してくれていた森川さんにも、ついに告白のチャンスが…!? 全員の「恋する気持ち」が尊すぎる☆ 夏秋くんの告白大作戦、完結巻!!

簡潔完結感想文

  • 告白以降、自分が どれだけ夏秋くんに真剣に想われているかを知る梨子田さん。
  • 恋愛成就後、友情崩壊の危機。森川さんが真島をフォローすることでフラグ成立。
  • 梨子田さんのことを今日もカワイイと思い続ける夏秋くんは、今日も求婚したい。

編で出来なかったことは表紙で させてあげてるんだね、の 最終5巻。

誉め言葉として最後まで中学生、いや下手をすれば小学生レベルの恋模様だった。そのぐらいピュアピュアな想いで恋をしているキャラたちが愛おしい。色々な恋愛イベントが残ったままだけど、だからこそ本書はネバーエンディングなストーリーになっている気がする。

夏秋くんが梨子田さんにしたいこと、それが彼の原動力で成長の源だった。だから アレをしたいコレをしたいという欲望を抱える限り夏秋くんの成長と、それに伴う梨子田さんの幸福は約束されていると言える。最後に夏秋くんは、これまで読んでいた告白指南本からプロポーズ指南本へとステージを変える。開始から8か月ぐらいかけて告白に至った夏秋くんの物語は、ここから8年ぐらいかけて求婚に至るのではないか。そこまでに至る道筋や求婚できる自分になるまでなどなど想像の余地は まだまだある。編集側が許すのであれば第二部『夏秋くんは今日も求婚したい』を描いて欲しい。
アレすらしないままの2人だけど、アレをしている2人を想像したくない自分もいる。そういう小学生レベルの気持ちの通じ合いこそが本書の本質だと思うから。ちなみに表紙の2人は手を繋いでいる。良かったね、夏秋くん!

ようやくタイトル詐欺回避(付き合うところまで描くとは言っていない)

だ1つ小学生や中学生では そうはならないな、と思うのは、これまでも繰り返し述べてきたけれど、本書には相手の欠点を含めて好きになっているという大らかさがある。
例えば『1巻』で語られる夏秋(なつあき)くんが梨子田(なしだ)さんを唐突に好きになる、歯に海苔が付いていたエピソード。これは夢見がちな中学生なら相手に完璧さを求めてしまい、そこから幻滅しかねないエピソードだけど、夏秋くんは高校生だから そこもカワイイ!と思えた。

また相手が自分のために動いてくれたことや、相手の気持ちの大きさを しっかりと理解するのも高校生の判断力があってこそ だと思う。梨子田さんが夏秋くんに惹かれたのは彼の気持ちや行動を間近で見続けた結果。甘いマスクや甘い言動によって恋に落ちたのではなく、気持ちで気持ちが動いたことが きちんと描かれている。作中で夏秋くんは ほとんどの女性に容姿を褒められているけれど、梨子田さんは容姿で人を判断していない。もしかしたら夏秋くんが梨子田さんに惚れたのは、そういうマイペースなところ、自分の容姿に少しも色めき立たないところなのではないか。

夏秋くんも男性だから梨子田さんの天然っぽい性格に恋のハンターとしての本能を刺激されたのかもしれない。何度告白しても、何度アピールしても響かない。自分が恋をしている自発的な能動的な行動をさせてくれる相手として梨子田さんは最適だったのだろう。他の女性は、すぐに告白を快諾してしまう。それでは作品にならない、というメタ的な理由もあるだろうけれど…。


点も受容するという態度は今回の森川(もりかわ)さんの真島への態度にも出ていた。真島は今回、突然 夏秋くんから交際を報告されて現実を受け止めきれず、何も言ってくれなかった夏秋くんを無視してしまう。

それは『3巻』で真島が語っていた、中学時代に理不尽に無視された自分と重なるエピソード。しかも当時の被害者で夏秋くんに助けられた自分が今度は加害者として彼を無視してしまった。そんな自分に当惑と自己嫌悪を抱える真島に森川さんが動く。
森川さんは ここで真島の心を救ったことで、この後 彼女は ご褒美に与(あずか)ったといえる。誰かのために動いたことは決して無駄にならない、という作品のルールは、好きを加点方式で考えるルールと加えて本書の美徳となっている。夏秋くんの交際の余波で友情崩壊の危機となり、その回避の流れで森川さんにフラグが立つという流れがスムーズで良い。

真島・森川組では森川さんが夏秋くんのように相手の視界に入るために積極的に動き、そして最後に真島にとってのヒーローになっている。中盤で夏秋くんと梨子田さんの役割が交代したような感覚と同じように、夏秋くんと森川さんは同じスタンである構成が面白いと思った。

1話のエピソードは薄くて あっという間に読めてしまう欠点もあるけれど、ちゃんと好きが積もっていく様子、相手の心が動く様子が描かれていること、それに納得が出来ることは本書の大きな長所だと思った。


25話。遂に夏秋くんが本気の告白。下校時間が迫ったため返事はもらえないままだけど、告白だけで夏秋くんは達成感を味わう。告白を兄に報告すると、兄は弟に彼女が出来たと早合点してしまい、そのまま梨子田さんを自宅に呼ぼうとする。

自宅に招待され、梨子田さんは初めて弟であり兄である夏秋くんの自宅での様子を目の当たりにする。兄は梨子田さんと面識があり会話をするが、そこで梨子田さんが返答をしていないことを初めて知って焦る。梨子田さんは告白の返事も固まらないまま この家に来たことを気にしていたが、兄は どんな返事でも弟なら受け止めると告げてくれた。
2人は夏秋くんの部屋に入り、向き合う。そこで梨子田さんは夏秋くんが どれだけ自分を想っているかを改めて知り、彼との交際に前向きな返答をする。


26話。夏秋くんは夢みたいな交際開始に浮かれる。そんな2人にイノシシ襲来のピンチが訪れ、いつものように夏秋くんが梨子田さんを庇おうとするが梨子田さんは夏秋くんと一緒に戦うことを決意する。それは彼女にとって いつもヒーローとしたい夢見ていたこと。梨子田さんの中で夏秋くんは紛れもないヒーローであることを自覚する。これが彼女の中で好意と結びつくのは いまいち よく分からないエピソードだった。梨子田さんだから仕方がない。
しかし この学校は敷地内にイノシシが出るような場所に位置しているのか??


27話。晴れて両想いになり一緒に下校の約束をするなど順調な交際を見せる夏秋くん。しかし真島への報告、そもそも好きな人が誰かすら言っていなかったことで男同士の友情に隙間風が吹いてしまう。真島は夏秋くんを無視し避けるような行動を取ってしまうが、それは真島が自分の鈍感さに腹を立て混乱していたからだった。そんな彼に寄り添うのが森川さん。本書で ずっと描かれたように森川さんは「真島くんにダメなところがあったとしても 真島くんのいいところがなくなるわけじゃない」と彼の価値を示す。本書のキャラたちは皆ちょっとズレているけど、それを決して否定しないところが良い。
真島が態度を改め、また夏秋にとっても真島は大切な存在ということが示されて友情崩壊は回避された。

真島にとって夏秋くんが大切な存在だからこそ、疎外感が強くなってしまうのだろう

28話。梨子田さんと一緒に帰る機会も多くなり、もう少し恋人らしい交際を考えた夏秋くんはカフェで放課後デートを企画する。そこで自分のストーカー時代のメモを発見されて万事休すとなるが、今は梨子田さんも相手のことを知りたい気持ちが理解できる。こうして2人はまた距離を縮める。


29話。クリスマス回。夏秋くんは恋人同士の時間に期待を膨らませるが、森川さんが告白する機会を得るために、梨子田さんから元・文化祭実行委員の4人でのクリスマスパーティーが提案される。梨子田さんの言うことは全部カワイイので夏秋くんは承諾してしまう。
しかし真島を誘う段階で、彼が気を回し、カップルの邪魔はするべきじゃないと言われて計画が頓挫寸前。だから梨子田さんのために自分の意見を封印し、夏秋くんは真島の説得に動く。

こうして4人+夏秋兄弟の6人でパーティーが始まる。そのパーティーの最中、真島は夏秋との友情崩壊を回避してくれた お礼として森川にプレゼントを渡す。

30話。当初の構想と違い、夏秋家にいる時に勢いで真島に告白してしまった森川さん。しかし その言葉が耳に入ったはずの真島は聞こえないフリをした。森川さんは仕切り直して空元気を出すが、その様子が かえって心配。

帰り道、森川さんと2人きりになった途端に真島は聞こえていた告白の返事を切り出す。梨子田さんが そうであったように片想いを受ける側は鈍感。だから真島にとって予想外の展開だったが彼は友達から始まる交際を提案する。希望があることを知った森川さんは前のめりになる。実は夏秋くんより奥手っぽい真島には森川さんのように自分に全力で向き合ってくれる人が合っているのだろう。

それを隠れて見届けた夏秋たちは別れ際にプレゼントを交換し合う。そして もう少し距離を詰めたい夏秋に、梨子田さんは予想外の行動に出る。告白を達成した夏秋くんの次なる目標は、夏秋くんは今日も求婚したい になるのだった…(笑)