
さとる
夏秋くんは今日も告白したい(なつあきくんはきょうもこくはくしたい)
第04巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
クラスメイトの梨子田さんに告白したい夏秋くん。一生懸命だけどちょっぴりズレた夏秋くんのアプローチは、鈍感な梨子田さんにはなかなか伝わらない! 文化祭当日、Mr.コンテストに推薦されて出場する夏秋くん。梨子田さんもイベントを観にきてくれたけど…ナンパ目的のお客さんとの間でトラブルが!! ステージ上から梨子田さんのピンチに気づいた夏秋くんは、そのままステージを飛び降りて救出へーーその姿はまるで王子様のよう♪ 超天然な梨子田さんにも、さすがに夏秋くんの気持ちが伝わっ…たかな!? ポンコツ美少年→天然女子…この片思い、尊すぎ♪ 夏秋くんの告白大作戦、第4巻☆
簡潔完結感想文
- 目で追う人が見当たらずに怪我も忘れて必死に探す梨子田さんの行動はヒロインのそれ。
- 夏秋くんが今日も告白したい情報を知り衝撃を受ける梨子田さん。これも一種の仮想敵?
- 4話とは逆に梨子田さんから夏秋くんへのプレゼント選び。喜ぶ顔が見たい、その動機は…?
水面下で大きな流れが生まれつつある 4巻。
全5巻の作品で、ここまで4巻分やっていることは同じ。ただただ「夏秋くんは今日も告白できない」。同じことの繰り返しでも飽きないのは、大まかに言うと1巻内で変化があるからだと思う。
例えば『2巻』では夏秋(なつあき)くんは自分の兄に恋の相談をして、物語に兄の視点が生まれている。また『3巻』では森川(もりかわ)さんという女子生徒が登場することによって三角関係が成立したのかと思いきや、男女2組4人の恋模様と作品の枠組みが広がった。
そして この『4巻』からは いよいよ梨子田(なしだ)さんの中に生まれた感情によって彼女から動く場面が多くなっている。そして そんな梨子田さんの行動は、これまでの夏秋くんの行動との類似点が多い。最も似ているのは夏秋くんの誕生日が間近だと知った時の梨子田さんの行動。彼女は夏秋くんに喜んでもらいたくて彼が欲しいモノをリサーチしてプレゼントすることを計画する。これは『1巻』4話の夏秋くんのプレゼント作戦に とても似ている。適当な理由で相手のために何かをしてあげたい、という想いは重なっており、その意味では告白前から両想いといえる関係になっている。
『4巻』ラストまで作中で半年ほど時間が経過していると思われるけれど、この半年の夏秋くんの奮闘があったから梨子田さんの心は動いた。告白は出来ていないままだけど、彼女のために動いた事実は着実に積算されている。文化祭の日、梨子田さんが夏秋くんを捜したのは、ずっとずっと身近にいてくれた人が見当たらないから。彼女の隣にい続けたことが梨子田さんの中での夏秋くんの存在感へと変換されている。


梨子田さんが夏秋くんと遊ぶ際のメンバーの減少も彼らの心の距離の近さを表しているようにも思える。夏休みの海回(『2巻』)ではクラスのグループで遊んでいたけれど、文化祭の個人的な打ち上げは実行委員の4人だけ。その次は2人きりで待ち合わせて会うデートしかない。それも もう間近のイベントだろう。
また梨子田さんの気持ちを焦らせる存在の描き方も上手い。『3巻』の感想文でも書いたけれど森川さんの存在は梨子田さんにとって一瞬 仮想敵になって、その後 森川さんは安全圏へと離脱していく。そして今回は夏秋くんに告白したい相手がいるという情報により梨子田さんは また心を囚われる。それが自分とは思わない梨子田さんは、その告白相手を仮想敵のように考えたからこそ、無自覚ではあるけれども、不安になったり夏秋くんに より近づく自分を意識したのだろう。
これまでとは逆パターンの梨子田さんからの行動を ちゃんと描いてから、夏秋くんのラストの行動に到達しているのが良い。何度も空振りに終わった夏秋くんの告白だけど、少しずつ梨子田さんの心に刺さり、そして今回は これまで学習と反省を生かし絶対に勘違いさせない言葉を使っている。どんな結果でも夏秋くんは受け入れるのだろうか。彼のことだから、オレの告白を きっぱり断る梨子田さんカワイイ!とか言い出しそうだけど…(笑)
19話。Mr.コンテストの途中で梨子田さんのピンチを助けた夏秋くん。このまま王子様のコスプレで告白するかと思われたけれど、いつも通り有耶無耶に。
しかし その後、動き出したのは梨子田さんの方。後夜祭に夏秋くんの姿が見えないことで梨子田さんは捜索に向かう。2人は一発だけ打ち上がる花火の下で出会う。梨子田さんの行動で夏秋くんは嬉しくなり笑顔になる。夏秋くんの無邪気な笑顔、そして彼に喜ばれたことで梨子田さんは何かが胸に到来する。また梨子田さんは自分が怪我をした足の痛みを忘れていたのは夏秋くんのことを考えていたからだと同じ症状になった森川(もりかわ)さんに教えられる。
20話。森川さんの提案でクラスの文化祭実行委員の4人での打ち上げが提案される。男女4人のダブルデートっぽい雰囲気に夏秋のテンションは上がる。梨子田さんとハイタッチをしたいけど出来ていない夏秋くんは森川さんの恋を応援することで ご褒美に与(あずか)る。赤面する梨子田さんに勝機を感じた夏秋だったけれど、梨子田さんは夏秋くんを推し認定する。
21話。梨子田さんが自分を推してくれるなら それに全力で乗っかる夏秋くん。ファンサービスをして彼女の喜ぶことをする。今回も ご褒美が貰えるが、梨子田さんが夏秋くんは好きな人に告白したい、ということを聞いてしまう。
22話。夏秋くんの告白について梨子田さんは無自覚に落ち込み、そして夏秋くんも告白して上手くいかないことを初めて考え始めて告白への意欲が減衰する。また森川さんは真島とまた会う約束をしようとするが、真島は4人でのグループ行動を念頭に置いていた。好意は しっかり言わないと伝わらないのが本書のルール。
分かりやすく落ち込む夏秋くんと森川さんの影で、夏秋くんの告白相手のことが気になる梨子田さんの様子も変。そのことに気づいた夏秋くんは彼女にカウンセリングをする。これは推しの応援へのファンサービスじゃなくて個人的な好意だと告白するが、今回も梨子田さんには通じない。それでも夏秋くんは自分が梨子田さんを元気にした実績に喜ぶ。


23話。10月28日は夏秋くんの誕生日。それを隣の席で聞いていた梨子田さんは夏秋くんの欲しいモノを調べるために身辺調査を始める。上述の通り、相手へのプレゼントは『1巻』4話のエピソードでもあったもので、今回は贈る側と贈られる側が逆になっている。
しかし当日、用意していたはずのプレゼントを梨子田さんは紛失していることに気づく。彼女の当惑を感じ取った夏秋くんは梨子田さんのために捜索に協力する。夏秋くんが秒で解決すると、ご褒美として梨子田さんから誕生日プレゼントを贈られる。その夏秋くんの笑顔に梨子田さんは また撃ち抜かれる。ちなみに梨子田さんの選んだプレゼントは夏秋くんが4話で買おうとしていた品(服のデザインが違うけど)。センスが似ているのか。
24話。梨子田さんは夏秋くんに告白したい相手のことを聞くのを憚(はばか)られる。それは夏秋くんから他の女性の名前を聞きたくないという彼女の願望があるからなのだけど、そこには気づかない。そこで森川さんに相談に乗ってもらうが、知っているけれど言えない森川さんは言葉を濁す。
その会話を聞いていた女子生徒たちによって噂が広まってしまい、森川さんは責任を感じて夏秋くんの告白に協力を申し出る。そこからサプライズな告白を計画し、それを秘密にしようとする余り梨子田さんに素っ気なく対応してしまう夏秋くん。そんな寂しさからのサプライズという安堵は梨子田さんに胸キュンをもたらしたに違いない。
夏秋くんは6月5日の、祝い損ねた梨子田さんの誕生日を祝うために企画を立てていた。現在11月だけど お返しがしたかったのでしてみた。そういう愚直で考えなしなところも夏秋くんの性格だと今なら分かる。そして本来 誰の誕生日でもない この何でもない日に夏秋くんは想いを真正面から、誤解のないように伝える…。
