
吉住 渉(よしずみ わたる)
ウルトラマニアック
第05巻評価:★★(4点)
総合評価:★★☆(5点)
紗也香のじゃまが入ったけど、魔女っ子仁菜と辻合くんは無事カップルに。でも幸せ気分も束の間で、魔法王国から仁菜の迎えが突然現れて…!? ついに感動の完結編!!
簡潔完結感想文
- 感情に従って恋愛に耽溺するはずが、理性に従って将来の方を選ぶ変わりやすい乙女心。
- エリート学校のスカウトは、まるで期限を設けて相手を焦らせて判断力を鈍らせる悪徳業者。
- 3年後の番外編は、知らない新キャラの暴走と留学目的が不明確になっていてモヤモヤする。
魔法は本当に人を幸せにするツールなのか、の 最終5巻。
この作品は魔法を使えるヒロインによるドタバタラブコメだったように思うが、どうも魔法で人が幸せになっているとは思えない。『4巻』の紗也香(さやか)の暴走や、番外編の仁菜(にな)の偽物騒動は どちらも魔法を使える人による逆恨みが動機である。彼らの自分勝手さを見ると魔法関係者は人格的に劣り、自分の能力を悪用して人間界に害悪を撒き散らしているようにも思えてしまう。その辺のバランスの悪さが あまり快く思えなかった。どちらかというと魔法差別主義を助長させるような作品である。それもこれも作者が「自分が思っていた以上に魔法に興味なかったこと」が原因だと思われる(カバーそで「作者のことば」より)。魔法に対する希望とか肯定感が乏しいことが、この殺伐とした魔法世界を生んだのではないか。
対して人間界の住人は穏やか。仁菜の別離に際しても彼らは仁菜の意志を尊重する。本当は行くなと言いたいところを我慢している。人間界のキャラは性格が良い、というのも反対に…という含みが出てしまう。
それにしても辻合(つじあい)は不憫である。かなり早い段階から仁菜に好意を見せながらも本気にしてもらえず、両想いになった途端に別離が確定する。架地(かじ)なんて蚊帳の外だからこそ悩みがないまま亜由(あゆ)とチュッチュチュッチュしているだけのヒーローなのに辻合は恋愛的に幸せな期間が短い。作中でしたデートは仁菜が別れの決意を隠してのダブルデートと別離決定後の世界旅行だけ。これだけの思い出で3年間 気持ちを維持しろ、というのは確かに難しいだろう。いるだけヒーローだった架地に比べれば聡明さや優しさが十分に発揮されているので作品的には辻合が おいしいポジションなのだと思うけど


最終盤、そして番外編で よく分からなかったのが仁菜の魔法学校進学の動機。読者には仁菜が人間界の幸福を捨ててまでエリート街道や魔法職に固執する動機が まるで伝わってこない。布石として仁菜が魔法界への未練を強く残していることを所々に描き込んでおくべきだった。自分にポテンシャルがあると分かったら急にエリート路線を希望したようで仁菜に対する心象が壊れた。
しかも その直前に仁菜は どんな困難があっても辻合との異世界間恋愛を貫くと決めて彼の想いを受け入れたはずなのに、それを簡単に翻すのも納得がいかない。仁菜もまた魔法関係者特有の自分勝手な人間だったのか、と落胆してしまった。
それにしても魔法学校は、すぐに結論を出しなさい、10日以内に入学しなさいと、まるで焦らせて契約させる悪徳業者みたいな存在だ。最初から進学による遠距離恋愛危機を描くつもりなら、この魔法学校の存在や仁菜の憧れを挿入しいた方が良かった。どうも最終回付近は話の出来が良くない。作者にとって予想外の進行(人気低迷など)だったのか。上述の通り、作者の魔法に対する一種の冷淡さも相まって、作品への愛情を感じられない。
そして番外編で仁菜が人間界の高校に通うのも謎の展開。彼女が魔法学校に進学したのは魔法を使う職業のためではなかったのか。関係者全員同じ学校で内輪カップル成立は掲載誌「りぼん」的なハッピーエンドだけど子供騙しすぎる。進学や別離の意味を帳消しにしているだけだ。その辺も序盤に比べて明らかに終盤の出来が悪いと思う部分。
ダブルヒロイン体制も成功しているし、全5巻で無駄のない話運びも流石だと思う。でも何が余計かと考えると魔法要素だと思ってしまうのが本書の最大の欠点だろう。おそらく作者も自分の適性を思い知って、二度と魔法には手を出さないだろう。そういう作品である。
紗也香から辻合とは、文字通り住む世界が違うことを指摘されて気に病む仁菜。だから両想い直前の辻合との関係も保留にする。
仁菜から話を聞いた亜由は自分で紗也香の真意を確かめるために、ある仕掛けをして彼女を屋上に呼び出す。そして亜由は自分の推論を紗也香に ぶつける。紗也香は本当に辻合が好きなのではなく、仁菜と辻合が上手くいかなければ ずっと仁菜が好きだったユタにチャンスが巡って来ると考えたようだ。同じ世界の住人同士の恋の方が困難は少ないし、2人の間に生まれる子供も戸惑わない、というのがハーフの紗也香の考え。そこに自分の想いはいらない。ユタが幸せになれるよう悪役令嬢になっただけだった。その話を魔法で透明化してユタが聞いていた。そこから秒で両想い。疑心暗鬼が多い割に、あっという間に良いムードになる展開は吉住作品に多い気がする。
ユタは最後まで仁菜への想いを隠し通したのだけど、仁菜よりも紗也香を選ぶ理由が乏しい。本人の言う通り、危なっかしい人が好きなのだろう。でも その紗也香も いずれ精神が安定するだろう。となると次の困った女性をユタは…、などと思ってしまう。
最後の障害もクリアになり、周囲の異世界カップルから好きという気持ちを大事にする、という即物的な考えを教えられた仁菜は亜由や辻合と一緒に この世界で暮らす決意を固める。こういう事例が少なくないのだから魔法王国の事務局はルールを制定すればいいのに。


しかし辻合との交際が始まった直後、仁菜に魔法王国のエリート学校からスカウトが来る。留学前に魔法学校で受けた潜在能力(ポテンシャル)テストで仁菜の数値が非常に高かったが先入観からミスとして処理されたという。異世界転生アニメの1話で起こるヤツである。仁菜がポンコツだったのは強すぎる力をコントロールする術を持っていなかっただけで未完の大器とまで言われる。
諦めていた立派な魔法使いの夢を叶えられることに喜びを見せる仁菜だったが、それは この世界との別れを意味していた。学校が全寮制のため、こちらの世界からの通学は許されない。卒業まで最短でも3年、最長で8年。いくら未完の大器でも卒業できる保証はない。
それでも仁菜は進学を決意する。カップル2組のダブルデートに誘われた時は進学話の記憶を消去する魔法を自分にかけて全身全霊で楽しむ。しかし途中で魔法が切れ、仁菜は号泣し亜由と一緒に帰宅する。そして亜由に進学と自分の意志を伝える。亜由は自分の感情を封じて仁菜の将来を祝福する。
ユタは別ルートから仁菜の進学の話を聞き、仁菜を思い止まらせようとするが彼女の意思は固い。
そして辻合はユタと紗也香の会話を聞いて、仁菜の現状を知る。仁菜を問い質し出発は10日以内だと知った辻合は最初で最後の2人だけのデートをする。行き先は国内外の名所。
辻合は心変わりするかもしれないからと冗談めかしながら最短の3年で戻ってくるよう仁菜に願う。しかし彼は仁菜を思い止めたりしない。相手の意思を尊重することは本書における「好き」の表現方法である。
こうして仁菜は別世界に旅立つ。架地をはじめとした生徒にはアメリカに行くという話になっており単なる転校だと考えられている。送別会や見送りはしてもらわずホームステイ先の家族にだけ お別れを言って出発するつもりの仁菜だったが最後に魔法で、部活で試合中の辻合と亜由に会いに行き、そして魔法のように姿を消す。
その1か月後、突然 仁菜は辻合の前に現れる。寮生活だが休みの日は外出できる。許可を取れば人間界にも行けるようで平均して2か月に1度、また長期休暇の際は長い間 こちらに滞在できるという。3年間 絶対に会えないかと思ったけれど、ただの遠距離恋愛になる。辻合の後は亜由(と架地)に会いに行き、ハッピーエンドとなる。最後の3年間の別離騒動は仁菜の最後のポンコツエピソードなのだろうか。
「ウルトラマニアック 番外編」…
3年後、人間界では高校2年生になった彼らの姿を描く。亜由と架地は交際継続中。ちょっと大人びた架地はママレードなボーイにしか見えない。ユタと紗也香も交際中。ちなみに辻合を含めて全員同じ学校。
仁菜は最短の3年で魔法学校を卒業。この1年は受験生のように卒業試験対策で こちらの世界に遊びに来ることを我慢して勉強に没頭していた。亜由たちが最後に会ったのは半年前。卒業後は こちらで生活を始めるらしいが、そうなると就きたかった魔法で人を幸せにする仕事とは一体何なのかが謎だ。
こちらの世界に来た仁菜は最初に亜由に会いに来る。そこで仁菜は魔法能力が成長したところを見せる。しかし連続で見せびらかすような仁菜に亜由は彼女の変化を感じ、喜べなかった。
その後、架地と辻合も呼び出され、番外編で初めて架地に仁菜の素性と魔法の存在が明かされる。そこで魔法の実演をする仁菜は やはりやり過ぎ。そんな仁菜の姿勢を亜由が咎め2人は険悪になる。臍を曲げた仁菜は魔法界に残ると言い出すが、そこで辻合が この仁菜は偽物だと指摘する。さすが名探偵。いや愛の力か。成長後の辻合は外見が変な方向に変わってしまって残念。
偽の仁菜の正体は魔法学校でクラスメイトのテス。テスは仁菜に魔法王国に残って欲しくて仁菜が悪い方向に変わったと思わせて幻滅させたかった。紗也香と同様、人間関係の崩壊が目的か。こうしてテスが反省することで番外編終了。番外編で いきなり新キャラ、そして自己中心的な悪意を出されましても、という感じである。仁菜が人間界で生活するのなら、彼女の進学目的も よく分からなくなっている。
