
吉住 渉(よしずみ わたる)
ウルトラマニアック
第04巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★☆(5点)
人前で魔法を使った仁菜は、ユタに抱きしめられながら怒られてしまった。運悪く、その現場をユタの彼女・紗也香に見られてしまい…。ときめき不思議ダイアリー。
簡潔完結感想文
- 悪役令嬢化してもトラウマを克服してもカップルクラッシャーとして動く あの人。
- 生まれた世界は違っても子供を授かることは出来る実例。仁菜の未来は明るい?
- 脅迫犯の推理や事件の多重構造など作者の理屈っぽいところが好き。魔法 イラネ。
友情も愛情も壊そうとする破壊神が大暴れする 4巻。
※ネタバレになるけれど『4巻』は紗也香(さやか)巻である。人間関係の全てを破壊するために大暴れして、精神的に落ち着いたと思ったら巻を跨ぐ間際まで火種を投げ込んでいる。ここまで大暴れしたら もはや爽快だ。


大変 面白かったのは作者の芸の細かさ。連載開始時点から紗也香を登場させるつもりだったのかな、と思うことが2つある。
まず1つは、名前の表記によるミスリード。この作品では人間界と魔法王国(マジックキングダム)という2つの世界が存在するのだが、後者の住人は名前の表記に漢字の当て字はあるものの、仁菜はニナ、由多はユタとカタカナでルビが振られている。これによって読者は魔法王国の住人が何となくわかる。もしかしたら この感覚は魔法王国の住人同士は相手が そうだと分かる「波長のシンクロ」に近いのかもしれない。読者はルビによって出身地を無意識に振り分けている。そして紗也香は さやか とルビが記されたことで魔法界の住人じゃない ≒ 魔法は使えない というミスリードになっているのではないか。
もう1つは紗也香を作品で初めて登場する人間界と魔法王国の2つの世界のハーフにするために、仁菜のホームステイ先の夫婦に子供がいないのだろう。ホームステイ先に子供がいると2つの世界の血を引く存在、魔法能力の有無、また その人が抱える特有の問題について仁菜 = 読者の分身が紗也香の登場の前から思索してしまう。ハーフという立場は一種の盲点でなければんらないのだ。
この盲点の作り方もミステリ作品っぽかったが、もっとミステリっぽかったのは脅迫状の犯人の絞り込み。辻合(つじあい)による推理は論理的で彼の賢さが感じられた。また脅迫状事件が大きな一つの事件ではなく、二つの事件に細分化されるという構成もミステリっぽい。仁菜の周囲だけでなく亜由の周囲も私物が消失するという伏線が張られていた。
作者の描く「好き」という感情に信用に置いていない私だけれど、作者の こういう理屈っぽいところは好き。自分の欲望のままに動いている破壊神の紗也香にも ちゃんと論理や狙いがある。
低年齢のリアル読者でも読みやすい物語だけど、ちゃんと1人1人に行動理由や背景があって、作者じゃなければ ここまで上手く語れないのではないかと思うほど思惑が重層的に重なっている。
本書の「好き」は嫉妬と紙一重。亜由(あゆ)は架地(かじ)に近づく先輩女性、架地は亜由に近づく辻合に嫉妬し独占欲から行動に出る。今回 彼らが達成するキスも紗也香の邪魔があってのことと言える。しかし架地は影が薄い。『4巻』はキス以外 ほとんど見せ場が無かった。
仁菜も紗也香が辻合に近づくことで気持ちを固める気配があるし、嫉妬と無縁なのはマイペースな辻合ぐらいじゃないだろうか。架地と辻合なら絶対 後者の方が待遇が良い。キャラを作っている架地よりも本物の優しさを備えている気がするし。
脅迫状に悩まされているのに隙の多い仁菜をユタは思わず抱きしめる。彼女への想いは隠し通すが、その場面を交際相手の紗也香に目撃されてしまう。
紗也香はユタに裏切られる形になったのだが、その足で彼女は自分が架地を誘惑しにかかる。2人の間に「秘密」が生まれたことで架地は亜由に何かを誤魔化すような素振りを見せる。それに勘付いた亜由は紗也香に事情を聞くと彼女は架地とキスをしたと爆弾発言をする。後日、このキスの真相が未遂で終わったことが架地によって説明される。誤解を乗り越えて2人は初めてのキスを交わす。ある意味で紗也香に感謝しなくてはならない。
新しい脅迫状に加え、人間関係がギスギスし始める仲間たち。そこに魔法によって脅迫状の犯人が判明する。なら最初から魔法を使えよ、と思ってしまう。魔法には何が出来て何が出来ないのかが分からないから理屈っぽい私は魔法要素を受け入れられない。
犯人は亜由のファン。熱心になり過ぎる余り亜由の私物を窃盗し、亜由を独占しているように見える仁菜を逆恨みしたという。彼氏である架地は お似合いだからセーフという独自理論を繰り広げる。しかし これまで3通の脅迫状の内、彼女が関わったのは2通だけ。魔法王国の存在を匂わせた手紙の犯人は別にいることが判明する。
4通目の脅迫状は架地とキスをして幸せの絶頂にいる亜由に届く。その内容は亜由を体育館に一人で来いというものだった。夜の体育館で亜由は魔法を使ったとしか思えない現象に遭遇してダメージを受ける。
そこに推理によって犯人を割り出した仁菜と辻合が到着する。真相を見破ったのは辻合だった。この事件は もう一人の犯人が脅迫状に便乗していること、そして手紙の形式を真似て便乗できるのは脅迫状を目撃した人間だけ。仁菜が他者に脅迫状を見せたのは花火大会に行った時。犯人は その際のメンバー6人で、絞り込むと犯人は紗也香だと浮かび上がる。ちなみに亜由が体育館にいると分かったのは仁菜の魔法による。人に居場所を勝手に監視される魔法って規制されるべきだと思う。


魔法王国の住人同士は波長がシンクロするらしいが、紗也香には それがなかった。それなのに彼女が魔法が使えるのは人間の父親と魔法王国からの留学生だった母親のハーフだから。
母親は物心つく前に死別しているため紗也香は魔法について何も教わらなかった。だから その特殊性もコントロール方法も学ぶ機会のないまま、魔法を使ったことで人間関係で失敗を繰り返していた。彼女がアイスドールとして生きてきたのは自分を守る処世術だったのかもしれない。
魔法は使えるけれど、魔法王国の住人は自分の波長に気づかない。どちらの世界の住人でもない自分は宙ぶらりんの存在だと紗也香は絶望した。しかし そこに仁菜が現れた。そして彼女は自分の魔法を打ち明け理解者を増やした。自分が失敗した人間関係を簡単に構築する仁菜を紗也香は許せなかった。だから仁菜に近づき人間関係を壊そうとした。ユタとの交際は その足掛かりに過ぎない。紗也香が架地に接近したのも手始めに彼を離反させようとしたから。どこにも彼女の愛情は無かった。
亜由は、これまでの人間関係は知識も精神も未熟だったからで、中学生の自分たちぐらいになれば違いを受け入れる準備が整うと説得しようとする。しかし失敗し、紗也香は強力な魔法を行使する。その魔法で仁菜の飼い猫が傷つき、仁菜は怒りで我を忘れる。仁菜が放った魔法は これまでに見たこともない強力なもの。怒りが潜在能力を引き出したのか。その暴走とも言える力で仁菜を加害者にしないために走ったのが辻合、そして紗也香を庇ったのがユタだった。それぞれ大事な女性のために思わず行動したのだろう。
翌日、ユタは紗也香を屋上に呼び出し話し合いをする。紗也香の目的を知ってもユタは交際を続行する意思を見せる。そして紗也香に魔法王国には彼女の母親の肉親が健在であるという調査結果を知らせる。そして自分が事務局に申請を出すから一緒に会いに行こうと彼女に提案する。そのユタの優しさに紗也香を知る。どうやらユタは その世界から零れ落ちそうな世話の焼けるタイプが好みらしい。
そして仁菜は自分の想像以上に辻合の自分への好意が軽くないことを知る。彼は人として仁菜が面白いと、彼女自身に惹かれていたのだ。一度は距離を取るものの辻合の真剣な気持ちに触れて仁菜は彼の気持ちを受け止め、気持ちを重ねようとする。
両想いの直前に紗也香が仁菜を強引に引っ張る。どうやらユタによってメンタル的に安定したようで仁菜に正式に謝罪をする。しかし同時に紗也香は辻合の人柄に惹かれ、彼を譲って欲しいと願い出る。仁菜と辻合は違う世界の住人だから、同じ世界の住人である自分の方が相応しいと紗也香は言うが…。
