
アリハラ ナオ
きよく、やましく、もどかしく。
第02巻評価:★★★★(8点)
総合評価:★★★☆(7点)
見た目はいかついが、中身はいたってピュアな女子・円城寺遥は遥に対してだけ挙動がおかしい風紀委員長・藤井と付き合うことに。そんな矢先、遥を姉貴と慕う不良・筧がライバル宣言&遥を強奪――!? ライバル登場で風紀委員長・藤井の××度がさらにヒートアップ!?
簡潔完結感想文
君に何かをしてあげたいと思う心が愛なんだ、の 2巻。
要約すると単純な話で、毎回毎回 ヒロインの遥(はるか)が意地を張って空回って、最後に本音を曝け出すだけの話だ。なのに面白い。なのに温かい。それが凄い。
私が今回好きだったのはデート回。デートの内容も良かったけれど、それよりも藤井(ふじい)の特性の描かれ方が興味深かった。遥はヤンキーギャルで心の美しさとは反対に周囲から怖がられ、傷つくことも多い。そんな遥だから読者は応援したくなるし、藤井に見つけてもらって良かったね、と安堵する。
一方で藤井は そつがなく、周囲の、特に大人や教師からの受けがいい。だけど それは大人たちが藤井の中に模範的な人間像や生徒像を投影しすることに繋がる。遥が不必要に怖がられるように、藤井は不必要に偶像化される。そこに共通するのは本当の自分を見てもらえない苦しさではないだろうか。大人たちは藤井の価値観を無視し、良い子という枠に落とし込む。それは藤井の感じる生きづらさだと思う。遥と藤井は正反対のようで、共鳴する部分が少なくない。


誕生回で明らかになるように家庭内で我慢し、学校内で美化されることで藤井の苦しさは無くならない。本当は変態紳士という愉快な人格を持っていることを誰も知らない。それを遥の前だけでは存分に出せるから、こんなにも藤井は溌溂とした変態として描かれているのではないか。
恥ずかしさや照れくささを隠そうとして、それ故に間違え続け、藤井の前では恥の多い人生を送っている遥だけど、遥は藤井を甘やかす天才でもある。『1巻』の風邪回や、今回の誕生回が顕著だが、藤井がワガママを言うタイミング誰よりも早く誰よりも強く察知する。それは遥が強く彼を想っているからだし、誰よりも共鳴しているからではないか。
毎回、お互いが相手の本音や弱さに触れて、それをカバーしようとする試みが見られるから本書は温かい。本書の中に当たり前にある相手を想う心が、泣きたくなるほど美しい。本書は胸キュンの構造として一回 落としてからの復活の他に、大いに笑わせてからの泣きなくなるほどの愛情という落差があるから読者に より強い胸キュンを提供しているのではないか。
遥だけじゃなく藤井も この恋によって救われているのが嬉しい。
ドSとか俺様彼氏とか何が良いのか全く分からない私ですが、大好きという前提があっての意地悪とか先回りとかは好物。2人の関係性で最も近いのは宇佐美真紀さん『ココロ・ボタン』かもしれない。彼らの良いところは性格が基本的に変わらない、という点だろう。自称ドSとか俺様彼氏は長編化するとキャラ変する運命から逃れられない。それは最初から最後までヒロインのことをイジメたいほど好きで仕方がないということでもある。
最初から最後まで お互いがお互いを大好きという双方合わせて200%の愛情を感じられるから この2作品は幸福感で溢れているのだと思う。
竜太郎(りゅうたろう)の登場にも余裕を見せていたら彼に遥を奪われてしまった藤井は動揺する。竜太郎が遥を連れて行ったのは実家。遥は昔も出入りしていたし、祖母がいるので本気で遥を奪うつもりのない竜太郎にとっても安全地帯となるはずだった。しかし祖母は不在で遥との間に一瞬だけ男女の雰囲気が流れる。そこにご近所さんから祖母が音信不通だと聞かされ、祖母と2人暮らしの竜太郎は動揺する。遥は彼を落ち着かせて近所を捜索し、遂に藤井を応援に呼ぶ。竜太郎は自分が喧嘩を売った藤井が協力するはずないと思っていたが、遥は藤井が協力しない訳がないと信頼する。
藤井は竜太郎の祖母と共に現れる。祖母は竜太郎のために高校まで傘を持っていくはずが入れ違いになり、学校内で迷っているところを藤井に助けられた。この一件で竜太郎は藤井への偏見と暴言を謝罪する。それを藤井が大らかに許したのは、祖母との道すがら竜太郎の恥ずかしいことを色々聞き出していたからだった。こうして竜太郎は藤井に頭が上がらなくなる。
帰り道、遥は竜太郎のデート宣言に藤井が制止しなかったことに不満を述べる。今回も遅れて本音を言えたことで2人は正式にデートの約束をする。一方、遥は自分も藤井を透真(とうま)と名前で呼べるようになろうとするが、恥じらいがある遥の密かな練習を聞いた藤井は赤面する。竜太郎はデートの約束の口実となった。竜太郎は当て馬じゃなかったけど咬ませ犬っぽい働きである。
デートのためにクールビューティーという役作りをする遥(アホ)。しかし当日、遥の全てを褒めてくれる藤井のペースに結局ドギマギしてしまう。
このデート回で、遥が彼女の本質よりも悪く見られる特性の逆として、藤井が過剰に優等生に見られる弊害が語られる。中学時代の教師と遭遇し、その教師に遥からの脅迫を疑われてしまった藤井。教師は藤井の交友関係を自分が望ましく思う理想像で考えていて、それ以外の遥のような人間をナチュラルに悪く言う。そのことが藤井は許せず教師を威圧する。大事なのは他人からの評価ではなく本人の気持ち。藤井が遥の本質を見てくれたから遥は恋に落ちたのだ(逆も然り)。クールビューティ―じゃなくてもドギマギしても藤井は遥の全てを褒めてくれる。それが遥の自己肯定感に繋がる。
しかし藤井を御神体とする風潮で彼が女子生徒に触られまくる日比が始まる。ここで竜太郎の初登場の時と逆に、遥の藤井に対する嫉妬が話題になるが、クールビューティ―を引き摺っているのか、遥は藤井に対して やきもち を焼いたことがない、と言ってしまう。
口では平気と言いながら我慢の限界を迎えつつある遥。精神的に疲弊した遥は保健室で休み、目を覚ますと藤井が横にいた。それに安堵したはずなのに まだ平気の振りをする遥は藤井を女性たちのもとへ送り出す。一人になって気持ちの限界が涙として溢れると、一人ではなかったことを知る。そこで ようやく本音を言う。遥が意地を張ってくれると弱みが出来て それに付け込める、という藤井側の幸福がある。
7月に入り、遥は藤井の誕生日(7/5)を初めて知り、それが間近に迫っていることに気づく。しかし藤井には誕生日を隠す素振りがあり、遥は それが気になって仕方がない。
紆余曲折あって藤井の誕生日の件を彼に告げると、藤井は小学生の頃に久しぶりに父親と過ごせるはずの誕生日がドタキャンとなり、親に友達と遊ぶ約束をしていると嘘をついて独りで過ごしたことがあった。だから誕生日に過剰な期待をしない。それが藤井の防衛本能なのだろう。
本人が気にしないと言っているので遥も それに従おうとするが、彼に何かをしてあげたいという気持ちが湧いてくる。だからサプライズパーティーを企画し、藤井が遠慮や引け目を感じても、それを強引に実行する。このぐらい強気で遂行することで初めて藤井の固まった気持ちは砕かれるのだろう。自分が祝いたいから祝う。来年も当然 一緒にいると思っている。そういう遥の姿勢に藤井は救われるところが たくさんあるのだろう。そこに気づかない無自覚なヒロインへの藤井の好きに限界は無い。
この回の一文目が前振りになっている本当は怖いお話だったというオチが良い。


追試を受け忘れて留年の危機を迎える遥は切羽詰まって早朝から藤井の家を訪問して勉強を教えてもらう。2回目の勉強回である。おそらく この回で初めて調子に乗った藤井を遥がグーパンで撃沈させるシーンが登場する。もしもの場合 ヒロインは暴力で危機回避できる というギャグ漫画の お約束が成立する。
藤井のベッドに入ると寝てしまうのが遥の特性らしく一度は寝てしまう。留年の危機を前にしての藤井の留年ポジティブシンキングが大いに笑えた。作品的にも本当に1年留年すれば連載も長く続くかもしれない。
普段 勉強しないから遥がオーバーヒートして風邪回が始まる。『1巻』とは逆の立場だ。遥は藤井を道連れにすること、また藤井が堕落することを阻止したいという気持ちが勉強のモチベーションになっていた。そういう他者を思う心が藤井は好きなんだと思う。
そしてベットに入ると寝る遥(2回目)。そして寝ている間に藤井は遥のために単語帳を作ってあげる。そんな藤井の優しさが遥は好きなんだと思う。『1巻』ラストで幼なじみ的なポジションの竜太郎に出会って騒動が起きたが、『2巻』ラストでも遥の過去を知る男性が登場する。
