
渡瀬 悠宇(わたせ ゆう)
イマドキ!
第03巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★☆(5点)
江里花(えりか)とのカケに負けた たんぽぽ は、約束通り公暉をあきらめ、緑化委員もやめることに。仲間たちにも本当のことを言えないまま、再び一人ぼっちになる たんぽぽ。そんなとき、やさしく支えてくれたのは公暉の兄・耀司(ようじ)。しかも耀司は たんぽぽ に告白! 二人の姿を見た公暉は、迷いながらも婚約者・江里花の元に戻ってしまい…? たんぽぽ の恋と友情の行方は!? 感動の完結編ほか、番外編「ずっとね!」と読切作品「すんでにTOUCH!」を収録。
簡潔完結感想文
- 家という洗脳から逃れたい九卿。家が洗脳を止めたことで放り出される江里花。
- 出産・自殺未遂・病気、2人の関係に波乱を起こすための大味な展開が連続する。
- 有佐が同級生でなくなった時点で どこにいてもズッ友は成立。だから別離エンド。
ヒロインは田舎者のまま、の 文庫版最終3巻。
文庫版『3巻』に突入してからの展開は急に慌ただしい。そして大味。2025年現在からすると約25年前の作品なのだけど、その もう25年前の作品のような昭和の少女漫画のような印象を受けた。2人の恋愛を成就させないために ありとあらゆる手法が取られて、周囲の人が その影響で一時的にとはいえ どんどん不幸になっていく。
色々とドラマを連発する一方で、どうもヒロイン・たんぽぽ と九卿(と読者)に都合のいいことばかりの結末に見えた。まず九卿(くぎょう)の家の後継者問題も、結局 彼の次男という特性を使うことで ややこしい しがらみ から彼だけ解放されている。誰かが後継者にならなければいけない伝統ある公家の家を兄の耀司(ようじ)に押し付けた形となり、九卿は自由を手に入れる。九卿のいう家との付き合い方は具体的な方向性が示されず、青臭い理想論のまま終わる。
また、いくら九卿が次男で後継者でなくても九卿との結婚は色々と問題が起きそうだけど、そこまでは語られない。恋愛の障害となる家の問題も最終盤では全く触れられず、苦難の多かった2人幸せになりました、とハッピーエンドだけが伝えられる。
たんぽぽ という異質の存在によって変化し始めた学園の様子が最後まで見られなくて残念だった。なぜ彼らが植物に興味を持ち出すのかも いまいち分からないし、では なぜ彼らは洗脳のような状態にあったのかも いまいち説明がつかない。たんぽぽ が2年生からの転入なら1年間で学園や生徒の雰囲気が醸成されたという説明がつくが、入学直後から偏見で固まっている(中高一貫校という説明も無かったと思う)。生徒たちは洗脳から目覚めた、というよりも新たな宗教を信じ始めている感じを受けた。
本編も番外編も子供の誕生が、壊れかけた人間関係の修復の一助になっているので もしかしたら たんぽぽ が九卿家に認められるのは出産後なのかもしれない。多くの少女漫画では結婚エンドに至る場合、高校時代から相手の両親に挨拶が終わっていたりするものだが、本書の場合、たんぽぽ の家族に九卿が挨拶する場面はあるが、その逆は無い。顔を見せる程度で、九卿の両親は たんぽぽ が九卿の交際相手であるという認識は一切ない。高校時代に両親に少なからず認めて貰えていれば結婚への道は容易になるが、それがないということは やっぱり結婚への道のりは険しいのかもしれない。兄・耀司が結婚しなかったり子供を授からなかったりして、たんぽぽ との子供が後継者候補になることで初めて九卿の家の子供と認められたりして。…って妄想が長いですね。
本書は家のしがらみ から離れることを是としているが、その反対にいる江里花が可哀想に思えた。
この たんぽぽ をヒロインとする物語では江里花は女性ライバルで嫌な立ち位置で語られる。でも本当に そうなのだろうか。彼女が一番 家のことを考え、家のために生きている。なのに九卿兄弟は自分さがしを始めて、家に縛られない俺が格好いいと思い始める。そうして江里花は思い描いていた将来像を何度も壊され、心が壊れていく。


江里花に九卿の家に嫁ぐことを優先させたのは江里花の両親や周囲の者からの洗脳も大いにあると思われるが、その両親が急激に自分たちだけ洗脳が解け、自由に生きなさいと江里花を放り出す。江里花は ずっと被害者だ。それでも自分の理想とする将来像の実現に積極的に動いた。なのに それが少女漫画における女性ライバルだと捉えられ、彼女は結局 この物語世界からの追放を言い渡され、異国で物語の終結を迎える。
そう考えると江里花は九卿兄弟に慰謝料を請求して良いのではないか。勝手に心変わりした2人の事情に巻き込まれただけだ。親からの洗脳もあったし、江里花だって自分なりに考えて自分の道=家のために生きる ことを選んだかもしれないのに、作品は家に縛られることを格好悪いことと決めつける。江里花の生き方の一方的な否定があるのに対し、たんぽぽ の教義は全肯定される。そういうヒロイン至上主義が見えたのは残念だ。
たんぽぽ は九卿も耀司も生徒会長・尾形(おがた)も惚れさせる魔性の女である。そう考えると近距離にいながら彼女に心を動かされなかった京極(きょうごく)が異質に見える。
九卿家の後始末のことも書かれないし、重い病気になった後遺症なども全く無視される。生徒会長の尾形もなぜか改心して有佐(ありさ)にとって良い結果が待っているし、格差や病気・妊娠などを扱いながらエンディングが軽いように思えた。終わりよければ、またはヒロインたちが幸せならば総て良い、という大雑把な少女漫画的ハッピーエンドだった。
江里花が口を滑らせたことで女性たちの間にカケが行われたことを知った九卿は たんぽぽ に会いに行くが、そこで彼が見たのは兄・耀司と抱き合う彼女の姿。抱き合っていたのは事故なのだが、この時点で耀司は本気で たんぽぽ に恋をしていた。九卿も たんぽぽ が兄を好きだと思い込み、自分のために必死になる江里花と寄り添い始める。こうして誤解から再び距離が生まれ、緑化委員会は空中分解寸前。
そんな たんぽぽ の孤独を救うのは耀司の存在で、たんぽぽ は風邪を引いた耀司を看病しにマンションの階下に住む彼の家に向かう。彼なら自分に笑顔を取り戻してくれると思い、寄り添うことを考える たんぽぽ だったが、そこに彼女のことを心配した身重の有佐が現れる。出会った頃とは逆に有佐が お節介を焼こうとするが、そこで陣痛が始まる。
母子ともに命の危険がある出産となり、運ばれた病院に緑化委員のメンバーたちが集う。有佐は たんぽぽ のことを最後まで信じてくれており、彼女の友情が他の人の姿勢にも波及していく。有佐は精一杯な恋をして、全力で友達を信じる もう一人のヒロインと言えるかもしれない。
九卿は京極と耀司が迎えに行く。その日、九卿は江里花と両親を交えた食事の予定だったが、京極の顔を見ただけで九卿は会食をキャンセルする。すぐに両親と鉢合わせるが、京極が自分の母が学園の設計技師であることを明かして突破する。京極の最初の愉快犯的な嫌がらせは九卿に対するものではなく、親の言いなりになって学校に入れさせられた息子からの せめてもの反抗だったのだ。しかし今の京極は かつての自分が幼稚で親への反抗は自分の生き方で示すべきだったと考えている。
残された江里花に対応するのは耀司。元婚約者同士の言い争いが始まるが、耀司は江里花が弟のことを愛している訳ではないと見抜いていた。
緑化委員のオリジナルメンバーが揃った時、有佐は無事に出産を終える。子供と出会う未来を選択し、有佐は自分色の花を咲かせた。久々に顔を合わせた たんぽぽ と九卿だったが、別れ際に たんぽぽ は耀司と交際することを彼に告げる。てっきり出産がキッカケで復縁状態になると思っていたのに、その前の決意を たんぽぽ は優先してしまった。
たんぽぽ のいない緑化委員会は卒業予餞会の企画を任される。
その間 たんぽぽ は耀司とデートを重ねるが、耀司からのキスを受け入れることが出来ない。そんな たんぽぽ に西園寺が友達として緑化委員会に戻ってくるよう伝える。西園寺は緑化委員会の会長代理として仕事を進めていた。だが江里花は たんぽぽ の復帰を良く思わず反対の意思を示す。その江里花に西園寺は家柄ではなく個人を見てくれる たんぽぽ の必要性を、友達という存在を説く。これまでの江里花に対する我慢も爆発しているのだろう。
それを聞いていた たんぽぽ が顔を出すが、不意の登場に動揺した西園寺が乗っていた梯子から転落する。怪我による痛みを訴える西園寺に たんぽぽ は復帰を宣言。一芝居 打った西園寺によって たんぽぽ は本音を言うことが出来た。江里花は たんぽぽ とのカケには勝ったが、人間力という面では敗北して今度は彼女が緑化委員会から距離を置くことになる。
怒涛の高校1年生が終了する頃、たんぽぽ は耀司との関係を清算し、自分が本当に好きな九卿に今度こそ好きだと伝えると心に決めていた。耀司は その雰囲気を察して自分から別れを切り出す。このまま気づかない振りをせず、傷が深くならない内に自分で けりを付けた。
弟である九卿もまた別れを切り出していた。江里花が約束していた手編みのセーターを差し出しても受け取らず、結婚できないと宣言する。それは兄と同じく九卿の家の言いなりになることから脱することを意味する。江里花との婚約を破棄し、彼女に家に戻るよう頭を下げて懇願する。
耀司と別れた直後の たんぽぽ の前に九卿が現れ、告白の絶好の機会となるが、九卿のもとに江里花の自殺未遂の一報が入る。九卿は事実確認のため家に戻り、彼と別れた たんぽぽ も帰宅する。自宅の留守番電話で たんぽぽ は親代わりに自分を育ててくれた祖父が病で倒れたことを知る。
北海道に急遽 飛んだ たんぽぽ は祖父が一命を取り止めたが意識不明の重体であることを聞かされる。たんぽぽ と合流した祖母が安心から崩れ落ち、彼らを置いて自分だけ東京で生活することが わがまま に思えてきた。
江里花は一命を取り止めるが傷は深く、それは彼女の絶望の深さを表しているようだった。婚約中の両家の親族会議で婚約を破棄したと発表した九卿は吊るし上げに遭うが、それでも彼の意思は変わらない。そこに兄の耀司が登場し、自分の責任であると弟を庇う。耀司は自分勝手な人であるが、その責任が取れる人だと分かる。自業自得の面もあるが損な役回りばかりしている。
しかし親族会議の場を離れ礼を言おうとする九卿を耀司は殴る。これは恋のライバルへの一発。兄は江里花に囚われて身動きの取れない弟を奮起させる。その九卿に たんぽぽ から連絡が入り、祖父の病気により北海道で暮らすと告げられる。そして たんぽぽ は別れの挨拶として九卿のことが好きだったと初めて伝える。後悔のない選択をした たんぽぽ だったが、翌朝 九卿が北海道の家の前にいることに仰天する。
たんぽぽ の祖父の入院する病院で九卿は眠り続ける祖父に語り続ける。それは覚悟を持った一人の男性としての言葉だった。家から しがらみ から完全に決別して自分色の花を咲かせた九卿に応えるように祖父の手が少し反応を見せる。
一足先に北海道の家に戻った たんぽぽ は江里花の姿があることに また仰天する。絶望した彼女は氷の張る水辺を歩き、再び自殺を試みる。たんぽぽ が救出しても尚、死のうとする江里花の顔面を叩き、たんぽぽ は死の悲しみも恐怖も知っている自分の前で死ぬことを許さない。そして江里花に自分色の花を咲かせようと元気づけ、一度 死んで生まれ変わったと気持ちを切り替えさせる。
九卿は祖父の意識が回復したという朗報を持って帰って来た。そこで江里花は九卿と扉越しに話をして、家の言いなりで楽な道を進むのではなく自分の足で歩く決意を固めたことを報告する。それは彼女が婚約の破棄を認めた瞬間だった。九卿と顔を合わせないまま この家を去ろうとする江里花に たんぽぽ は いつか江里花とも友達になれる気がすると伝える。その後、江里花は元の学校に戻っていく。
学校の選択は たんぽぽ も同じ結論を出す。祖父が回復しても たんぽぽ の決意は変わらなかった。1年生が終了したら北海道に戻るという。遠い場所にいても友情は変わらない。そう思える濃密な1年間を過ごせた。学校にいないのは たんぽぽ だけじゃなく有佐もである。学校が同じじゃないと友情が維持できないのなら、それは有佐との関係の終了になってしまう。
そもそも論になるけれど、祖父母に育てられた たんぽぽ が田舎を離れる決断をすることが よく分からない選択肢だったのだ。1年の短期留学と思えばいいのか。そこで異文化に触れて 最高の男性に巡り合ったのだから、諸々 湯水のごとく使ってしまった金額も高くないのかもしれない。
意見が変わったのは耀司。彼は色々な経験をした後、家を継ぐのも悪くないと思い始めていた。これは耀司の将来的な決断が九卿の将来を変えるということなのだろう。
だから学園祭後の日、入学式前日と同じように2人きりの学校で九卿は たんぽぽ に彼女が捨てたスコップを渡し、初めて想いを伝える。
九卿は たんぽぽ を追って北海道に行くことも考えたが、彼は この学園で たんぽぽ に負けない自分の花を咲かせることにした。その九卿に たんぽぽ は およそ1年前に2人が出会った時のタンポポを彼に渡す。再び花を咲かせようとするタンポポが季節の一巡を思わせる。タンポポの花言葉が用意されていたということは この別れは必然なのだろう。けれど離れても気持ちは繋がっている。それは友情も恋愛も同じだろう。


2人の恋の成就を見届けた西園寺と京極は、自分たちが花壇に蒔いた種が5種の花を咲かせていることに気づく。
その後、九卿からの たんぽぽ への手紙で九卿周辺の近況が語られる。緑化委員はメンバーが激増、そして西園寺と京極がイイ仲になりつつあること、そして生徒会長の尾形(おがた)が将来的に認知をすることが語られる。尾形の行動はハッピーエンドのためという印象が否めない。江里花はイギリス留学を決めた。女性ライバルは追放される運命か。
そして九卿は北海道の大学を選び、彼らは約束通り再会する場面で物語は終わる(手紙の時間軸が よく分からない)。
「ずっとね!」…
たんぽぽ が中学2年生の頃、まだ北海道にいる時の幼なじみの男女3人の話。たんぽぽ・るり・一孝(かずたか)の3人は たんぽぽ の知らない内に三角関係が成立していた。たんぽぽ が一孝に告白されても恋が分からないことに、告白を聞いていた るり は怒りをぶつける。るり は一孝の恋心を知らずに慕っていたことのショックが大きすぎたのだ。そこで るり は想われていることに無自覚な一孝に告白し実力行使に出る。
崩壊寸前の3人の関係を結び付けたのは拾った狐の出産だった。これは本編における有佐の出産同様である。そして3人は、衰弱して死んでしまった母狐の代わりに生まれた3匹を3人で分ける。感想文では触れなかったけれど本編で たんぽぽ が狐と行動を共にしているのは こういう訳だったのか。
「すんでにTOUCH!」…
本編とは無関係の読切短編。ページ数の都合で収録されたのだろう。
潔癖症の美雪(みゆき)は自分のハンカチの落下を防いでくれたイケメン男性から体臭を嗅ぎ取ったことで彼を突き飛ばしてしまう。自分でも呆れる症状で恋から一番 遠くにいることを自覚する。しかし そのイケメン男性・昭生(あきお)が大学受験の下見で1週間 美雪の家に居候することになり…。
美雪の事情を知った昭生は潔癖症克服のために美雪に まず自分という異物に慣れさせようとする。昭生の試みは順調で、美雪は彼を異性として見始める。昭生の動機も下心という、短期決戦の恋愛模様である。




