
渡瀬 悠宇(わたせ ゆう)
イマドキ!
第01巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★☆(5点)
北海道の田舎から、東京のエリート校・盟王学園に補欠入学した山崎たんぽぽ。学園ライフが待ちきれず、入学式前に学校を見に来たたんぽぽは、そこで九卿公暉(くぎょうこうき)と出会う。たんぽぽは学校の片隅に咲いた花を大切に扱う公暉に好感を持つ。だが、入学したたんぽぽを待っていたのは別人のような公暉で…!?
簡潔完結感想文
- 公私で仮面を使い分ける二重人格ヒーローの素顔に触れて関係は お友達から始まる。
- 一度 衝突することで以前よりも仲が深まる緑化委員。喧嘩友達であっても友達は友達。
- ヒロインに恋心を自覚させる女性が連続で登場。恋人は友達よりも道が険しい予感。
世界を変えるためには まず仲間集めから、の 1巻。
『ふしぎ遊戯』をはじめ、ファンタジー作家としても著名な作者の ごく普通の少女漫画作品。しかし本書には異世界転移こそないものの、そのフォーマットは『ふしぎ遊戯』との共通点が多いように感じられた。
ヒロインの たんぽぽ は、生まれ育った北海道から大都会を夢見て東京の学校に進学する。その新天地で たんぽぽ は これまでいた自分の世界とは違う世界を生きる人々に出会う。常識や文化の違いによる衝突はあるものの、ヒロインの芯の強さによって彼女は認められていき、徐々に人の輪を広げ、やがて その力が世界を変革していく。たんぽぽ が緑化委員のメンバーを集めるのが序盤の主な展開で、個性の強すぎるメンバーを一人一人 仲間を集めていく様子も『ふしぎ遊戯』を思い出させる。本書の場合は救うべき世界=舞台となる特殊な学園なのだが、高校生にとって学園の姿が変わることは革命に等しいことだと思われる。


田舎者(といったら北海道民に失礼かもしれないが)ヒロインが、常識外れの行動をして やや特殊な学校の中に新風を吹き込む、という物語の構造は少女漫画では珍しくないだろう。そんな見飽きたような設定だからこそ、それでも ちゃんと面白くしてしまうところに作者の手腕を感じられた。
印象的なヒーローとの出会い、彼の口調が変わることによる彼の中の意識の違いが表れていた。異分子を排除しようとする日本人特有の過剰棒絵による やや重いイジメの描写の中でも笑いの要素が入っているから独特の軽妙さが失われない。自分の不遇や不幸を嘆かずに、それを水に流して相手との関係を築けるヒロインの中に本当の強さと優しさが見える。
私なら自分の都合で たんぽぽ に厳しくしたりフォローしたりするヒーローの九卿(くぎょう)の中途半端な態度や、イジメを扇動していた西園寺(さいおんじ)に対して罰を与えたいと思ってしまうだろう。でも たんぽぽ が望むのは彼らの反省や改心ではないのだろう。いつでも未来志向の たんぽぽ がいるから、この物語は途切れることなく面白い。
2000年連載開始の2025年現在からは四半世紀も前の作品なのに、その古臭さよりも魅力の方が勝り、グイグイと読ませるところにストーリーテラーとしての能力の高さを実感した。管理社会の やや誇張された学園の在り方、極端な登場人物たちなど立ち止まって疑問に思うような部分もあるのに、そこで足を止めさせない圧倒的なパワーがある。ヒロインの たんぽぽ自身も天然で底抜けに寛容という いかにも少女漫画ヒロインという造詣で本来は苦手なのだけど、こういう人もいるかもしれないと不思議と思える。作者の作り出すキャラクタは皆 魅力的で忘れ難い。その辺も人気の理由の一つなのだろう。
代表作は『ふしぎ遊戯』で間違いないのだけれど、作者は決して一発屋ではなく、どの作品も高水準で面白いのは間違いない。まだ未読の作品があることが嬉しい作家さんの一人だ。
東京に憧れて、生まれ育った北海道を出てきたヒロインの山崎 たんぽぽ(やまざき たんぽぽ)は補欠入学した学校を見学しようと入学式前日に盟王学園(めいおうがくえん)を訪れる。そこで印象的な出会いをした男子生徒がいたのだが名前は聞けずじまい。


スコップ片手に植物を友達と呼び愛する通称「スコップ君」との学校生活を楽しみにしていた たんぽぽ だったが、クラスメイトとして再会した彼は会話を拒絶され、たんぽぽ のことを知らないと言い切る。代わりに口を開いた女子生徒たちから、彼が この学校の創立者の御曹司で公家の生まれの九卿 公暉(くぎょう こうき)であることが伝えられる。
前日、九卿は植物のタンポポを学校の敷地内に植えていたが、この学校は花粉アレルギー対策で植物の持ち込みは禁止されており、敷地内の植物は全部 創りものだという。たんぽぽ との出会いの場所に植えられたタンポポを九卿は引き抜いて捨てる。まるで別人のような彼の行動に呆然とする たんぽぽ。
入学式の会場で新入生代表として挨拶する九卿に たんぽぽ は植物という友達を大事にしない反論する。だが九卿は この学園における人間関係は将来のコネクション作りだと断言する。九卿のオフィシャルな対応を理解した たんぽぽ は彼と友達になることを宣言する。
学園で たんぽぽ の猛烈なアプローチが始まる。恋愛ではなく友情を築くための行動だが自分を知ってもらうという点は恋愛での接近と変わらない。
盟王学園は両家の子女が推薦で入学する学校で たんぽぽ のような一般庶民の受験組はヒエラルキーの最下層に位置する。だからクラスメイトから九卿の友達として失格の落胤を押され、身の程の知らない たんぽぽ へのイジメが始まる。それでも雑草魂を見せる たんぽぽ は九卿と分かり合う道を探る。そして出会いの日と同じく九卿が植物に対して愛情を見せている場面に遭遇し、そこで九卿は たんぽぽ に本当は息苦しい学園生活への怒りをぶつける。イジメられている たんぽぽ よりも苦しい九卿の本音を知れた たんぽぽ は初めて彼の心に触れた気がした。それが友達への第一歩だと思えたのだ。
この場面のように九卿のオフィシャルとプライベートの切り替えとして、標準語と関西弁が用いられている。彼が関西弁を話す時は本音を言う時。関西弁の彼の優しさがあるから、読者も それを希望にして辛い話も読み進められるようになっている。この切り替えが無ければ もっと嫌な気持ちになっていたかもしれない。
たんぽぽ は校内の植物を育てる緑化委員を勝手に立ち上げる。その暴走を快く思わないクラスメイトに吊るし上げられそうになる たんぽぽ を九卿は それとなく守る。そしてクラスメイトの西園寺 月子(さいおんじ つきこ)が たんぽぽ の提唱する緑化委員に参加を表明する。西園寺へのイジメの波及を心配する たんぽぽ だったが、西園寺は気にする様子がない。そして九卿もニセモノだらけの この学園で、たんぽぽ がホンモノだと九卿を認めさせることが出来たら緑化委員への参加をすると言う。西園寺は他のクラスメイトと違って たんぽぽ を「雑草」呼びせず名前で呼ぶ九卿の対応を見抜いていた。
緑化委員として たんぽぽ は敷地の一画にホンモノの植物を植える。校則違反で停学処分もあり得る行動だが、たんぽぽ が九卿に学園内にホンモノがあることを証明するための手段だった。ちなみに たんぽぽ は近所の公園の植物と この学園の造花を入れ替えたらしい。停学よりも多い社会的処罰が彼女を待っているかもしれない…。
しかし その直後に豪雨に見舞われ植物がダメになる危機を知り、たんぽぽ は体調不良の中、無理をして植物のために動く。しかし体調が悪化して花壇の前で たんぽぽ は倒れ、それを九卿に発見される。金銭面と精神面から病院が嫌いだと駄々をこねる たんぽぽ を九卿は彼女の家に送り届ける。そこで彼女が一人暮らしをしていることを知り、服を脱がせて看病を始める。目を覚ました たんぽぽ に誤解される場面を挟んで、彼女が また花壇に向かいそうになるのを九卿は制止する。
たんぽぽ の部屋はプライベートな空間で、そこで九卿は彼女の背景を知っていく。それは家柄や利害の関係しない、その人の素顔を知る作業である。帰りがけに九卿は自分の「優しさ」に対して感謝されたことに驚く。そして たんぽぽ が この家で、自分との出会いのキッカケになったタンポポを丁寧に育てていることを知る。
翌朝に体調が回復した たんぽぽが朝一番に花壇を見ると西園寺によって踏み荒らされたはずの花壇は綺麗に整っていた。横にはスコップを持つ九卿の姿があった。その様子を見て西園寺は ますます機嫌を損ねる。
九卿と一定の進展があった たんぽぽ は、陰で自分に敵意を燃やす西園寺との関係性を構築していく。
イジメの対象が西園寺にまで拡大する頃、たんぽぽ が学校にホンモノの植物を育てていることが露見する。ただでさえ浮いている たんぽぽ への攻撃の機会とばかりに生徒たちは花壇を踏み荒らし、たんぽぽ を吊るし上げる。西園寺にも直接的な暴力が及びそうになるが、たんぽぽ は彼女は無関係だと庇う。
それでも停学処分を免れない たんぽぽ だったが、その前に九卿が創立者である父親に改変すべき校則として報告していた。九卿は父親の命令で入学後に学園の改善すべき点を伝えるように言われていた。
この時点で校則違反ではない花壇を踏みにじったことに対し九卿は謝罪と修繕を命令する。こうして九卿は緑化委員の参加を表明し、校内の植物はホンモノへと変わる。花粉アレルギー対策は どうなったのだろうか…。副作用は語られない。
この一件で九卿との仲は近づいたが、西園寺が離れていく。西園寺はイジメの先導者であったが、たんぽぽ への加害を続けることは九卿を敵に回すと空気を読み、イジメは終焉に向かう。ここから暗躍する西園寺の様子が続くかと思いきや、西園寺の裏の顔を たんぽぽ が見てしまい、あっさりと西園寺は素顔を見せることになる。


たんぽぽ の天然を利用して、西園寺は悪行を正面から責められることなく、むしろ九卿と西園寺の仲を邪魔したと たんぽぽ が罪悪感を抱く。そこで たんぽぽ は恋の仲介役を引き受け、告白の場面をセッティングするが、その自分の行動に割り切れないものを感じていた。
しかも西園寺は九卿に対して恋心を抱いておらず、財産目当ての接近であることを当人にバラす。金銭欲と権力を渇望する西園寺にとって九卿の家は格好の相手だった。
長期戦で接近する予定だった西園寺の計画を狂わせたのは たんぽぽ の存在。現時点で九卿に一番近い女性が一般庶民であることが許せず、西園寺は正面突破することにした。こうして西園寺は たんぽぽ にも九卿にも素顔を見せ、彼らの間に友情が芽生えていく。西園寺は天然やマイペースの多い緑化委員の良いツッコミ役となる。
たんぽぽ が九卿に対する恋心を考え始める頃、暗躍するのがクラスメイトの京極 葵(きょうごく あおい)。
天才ハッカーである京極によって、コンピュータ管理の学園が一斉に停電し大混乱に陥る。エレベーターに閉じ込めれた2人は密室で接近し、協力して脱出を図る。しかし脱出直後に たんぽぽ は京極に捕獲され、モデルガンで身動きを封じられる。京極の目的は九卿。彼に土下座を強要することで、この学園や都市を支配する九卿家を ひざまずかせたい。九卿は彼女のために、友達を守るために自分のプライドを捨てた。これで直接的に九卿は たんぽぽ を助けるヒーローとなる。
その九卿の態度に京極は彼を認める。京極は管理された この学園を面白くしたいだけ。九卿に恨みはない ただの愉快犯だった。2人の面白さに触れた京極は緑化委員への参加を表明する。
人数が増えてきたため、たんぽぽ は緑化委員会の発足を提案する。九卿を通じて生徒会に かけあってみると前向きな検討が約束された。生徒会よりも絶対的に権力を持つ九卿家の御曹司の頼みは無下にされない。
生徒会室を辞する際に、九卿は生徒会長から兄の話題を振られる。たんぽぽ にとって初耳の兄弟情報で、事情がありそうな兄のことを たんぽぽ は知りたかったが九卿から拒絶される。たんぽぽ は出会った頃のような九卿の態度に違和感と疎外感を覚える。
翌日、九卿は学校に姿を見せない。心配した たんぽぽ は京極の情報網を利用して九卿の自宅に向かう。期せずして緑化委員が全員集合し、九卿を見舞う。だが九卿は家にいなかった。彼は行方不明の兄の情報をもとに捜索に出ていた。
九卿の代わりに出会うのが この家に住む柳原 江里花(やなはら えりか)という女性だった。九卿の安否を異常に心配する彼女の手には指輪が はめられていた。やがて帰宅した九卿は江里花に、植物に対するような優しい態度で接する。
九卿家の内情を知りたい一行は九卿から話を聞く。長男である兄は表向きは留学中になっているが実際は2年前から家出による行方不明。長男の行方が知れなくなったことで次男である九卿 公暉の人生は大きく変わった。九卿の人生は途中で方針転換し、周囲の態度も大きく変わってしまった。そんな長男に九卿は怒りを禁じえない。
そして九卿は兄の消息が消えたため、兄の婚約者であった江里花と婚約状態にある。江里花は幼い頃から結婚すると信じていた兄が行方知れずになったことで精神的に不安定になり、九卿との婚約によって ようやく落ち着いた。だから九卿は この家の後継者として兄の責任を取り、彼女に出来る限り優しく接しようとしていた。九卿に婚約者がいることを知り、たんぽぽ は静かに涙を流す。




