
松月 滉(まつづき こう)
王子と魔女と姫君と(おうじとまじょとひめぎみと)
第02巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★(4点)
女子モテ♥な王子系女子・大路 昴(おおじ すばる)の日常は幼馴染の仁(めぐみ)&前世が××という3人のイケメン男子達からアプローチされ波乱万丈!? そんな昴の前に、さらに前世の記憶を持つ美少女や先輩美男子が現れて!? 新キャラ満載♥ときめき度大幅UPの第2巻、登場!
簡潔完結感想文
- 新キャラ投入祭り。描きたいのは恋愛の行方じゃなくて今回も全員に愛されるヒロイン??
- あっという間に100%愛してくるプリンスと違って、吉野と仁は じわじわと愛してくれる。
- プリンスたちが個人回1回なのに仁だけ2回目。トラウマロックが解除されないのも彼だけ。
初の個人回直後に終わる彼の恋 の 2巻。
おそらく この『2巻』までが主要な登場人物が勢揃いする拡大期と言える。この後、全員が揃ったところで白泉社名物の何も起きない日常回へと続くのだろう。ここまでで誰も好きなキャラがいなければ引き返すのが宜しいかと。そして ここから一向に話が進まない停滞期に入る。


これは全員に適用される絶対のルールではないし公式のものではないのだけれど、選ばれないプリンスたちには救済策が講じられているように思えた。それが自分を本当に好きになってくれる女性の存在だ。学校のプリンスたちは その容姿から学校内で絶対の人気を得るのだが、それらの女子生徒たちはファンと言っていい。そうではなくてプリンスの本質を好きになってくれる女性(モブではなく固有キャラ)がいることが、選ばれなかったプリンスの救いになっている。
それは つまりプリンスを好きになる女性が出現した時点で そのプリンスは昴(すばる)に選ばれない、という暗示でもある。今回、そのルールが適用されるのが隼人(はやと)。『2巻』で初登場した彼は初めての個人回の その次の回で このルールが適用される。彼に可能性があったのは わずか1話の間だけと言える。ただでさえ存在意義が怪しい後発の先輩組の上に、驚くべき速さで望みを絶たれる隼人に意味はあるのか…。
個人回の2回目は仁(めぐみ)だったり彼だけ特別待遇が目立って ただでさえ横一線という感じがしないのに、先輩たちは初回から登場する4人の男性たちの更に後ろに位置している。遅く登場したから彼らに良いエピソードや場面を用意しているか というと そうではなく、大変 残酷な言い方になるが最後まで いてもいなくても大丈夫な存在であった。先輩組の もう一人の夢路(ゆめじ)なんて抱える問題も弱すぎて可哀想だった。
ここまで2巻分、新キャラ投入と最初の個人回となったが、結局 ヒロインは世界一美しい心と笑顔を持っている、という松月作品の主題が繰り返されるだけで辟易した。(本書は王子に見える必要があるのだろうけど)ショートカットヒロインが笑顔を武器に皆から愛される話は『幸福喫茶3丁目』で15巻分 読んだってば…。作者のヒロイン大好き病は治らないのだろうか。
新キャラが続々と参入する。まず昴の友人枠として女性キャラが登場。彼女もまた前世の関係者で「元・赤ずきん」で現世では同級生の緋頭 米子(ひとう こめこ)。ただし赤ずきんは王子とは純粋な友人関係だったから現世も女性として生まれた。そして米子は愛だの恋だの下らない、と恋愛から距離を置いていた。
これは彼女の1年前の恋愛トラウマによるもの。米子には親が決めた婚約者がいたのだが婚約を破棄された。3歳年上の相手は米子を妹としか見られなかったが、米子は そうではなかった。その失恋が米子の考えを変えた。プリンスたちのパターンと同じく、その話を聞いた昴がトラウマを癒やして仲を深める。
米子という同性の友人を得て、昴は米子に恋愛相談を始める。自分の父親は亡き母親との出会いを運命だと思って、死別した後も その気持ちは変わらない。だけど自分には運命の相手が分からないことが昴の悩み。
続いての新キャラは この緒伽林(おとぎばやし)高校の理事長。米子を含めた前世関係者が理事長室に呼ばれる。そこに魔女の転生者であることを周囲に隠している仁も呼ばれたことで彼は警戒心を強める。実際、理事長は仁が魔女であることを知っており、彼もまた自分の観察対象だと理事長は考えていた。
理事長は姫ではない。けれど昴のことを王子だと知っている者。理事長は自分を「昴(王子)の運命を見届ける者」と定義づける。そして理事長が全員を呼んだのは、もっと派手な恋愛バトルロイヤルを開催しなさいと焚き付けるためだった。
退室後、生徒たちは理事長が魔女ではないかと推定する。これはプリンスや昴たちが仁という存在を深く考えないミスリードの意味があるのだろうか。
昴たちが2年生に進級する前後に、高等部に関係者が集合する。
それが残りの2人の王子、1学年年上の元・人魚姫の魚住 隼人(うおずみ はやと)と元・眠り姫の茨城 夢路(いばらき ゆめじ)。彼らも お伽話に基づき色々とキャラを作っているが、私は最後まで彼らの区別が怪しかった。というか『1巻』の感想文でも書いたけれど この先輩たち、ハッキリ言って不要。追加キャラが選ばれる可能性は限りなく低いし、描き分けやキャラ分けなどの問題にぶつかるぐらいなら出てこなくても、と思ってしまう。画面に同時に存在する人の数が多ければ多いほど、作者には絵の手抜きが必要になるし…。


これまでのプリンスたちと同じように、プリンスが昴を助けることでヒーローの資格を得て、昴がプリンスの問題を救うような言葉を掛けることで皆が昴を大好きになる、という結論となる。隼人のトラウマは家族を巻き込んだ重いものだが、夢路の問題はオリジナルのもので薄味。読者人気も6人の男性たちの中では夢路が最下位だろうか。
プリンスたちが揃ったところで学校イベント・球技大会が始まる。プリンスたちは この結果によって「昴が一つだけ何でも言うこと きく権利」を得ると決めてしまう。昴に拒否権はなく、男性たちが盛り上がる。いよいよ昴が この世界(学校)で最高の女性として崇め立てられ始める。
前世の関係者が勢揃いした後も新キャラの投入は続く。それが初の一般人である染井 吉野(そめい よしの)という同級生の女子生徒。
吉野は昴に私怨があり敵対視する。その彼女とも心を通わせていくことで昴の人たらしが見える。すぐに昴を気に入るのではない吉野は一番 攻略が難しく長期化するキャラと言える。彼女の心の動きで長編の進み具合が分かるのだろう。ちなみに吉野は隼人が好きという設定。自分のことは鈍いのに物的証拠から昴は吉野の恋心を見抜き、彼女に対して一つ手札を持つ。吉野も本当に昴を嫌っておらず、そして昴の私物が無くなる事件でも動機は昴への嫉妬や嫌悪ではなく、結局 昴は愛される存在となる。
ラストは『1巻』ラストと同じく仁の個人回。プリンスたちに女性キャラが加わって一層 賑やかになる中、仁は輪の中にいて輪の中にいない。
仁は吉野と同じく、時間をかけて心が動いていくキャラだろう。彼が絶対的に心が動かないのは、彼だけが秘密を抱え、そしてトラウマが解消されていないから。陽気に昴にアプローチ出来るプリンスたちに対して、昴に後ろ暗いところのある仁は恋心を含めないまま、自分にとって「昴」が大切だということを彼女に説いていく。
