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少女漫画と小説の感想ブログです

正ヒーローを導き出す少女漫画方程式を無効化するためにプリンス全員にトラウマを付与

王子と魔女と姫君と 1 (花とゆめコミックス)
松月 滉(まつづき こう)
王子と魔女と姫君と(おうじとまじょとひめぎみと)
第01巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★(4点)
 

女子にモテモテ☆の王子系女子・大路昴は、昔住んでいた街に引越し&転校することに!そこで待っていたのは幼なじみの仁をはじめ、元親、真白、零時の「プリンス」と呼ばれる男子たち。なんと彼らは××の生まれ変わりで、前世から繋がりがあり……!?

簡潔完結感想文

  • 転校したら俺TUEEEじゃなくて私MOTEEE。どうやら転生&転性していたみたいです。
  • 前世の因縁じゃなく今の彼女に惹かれる男たち。前世は逆ハーレムを成立させる道具。
  • 本当に横一線の元・姫という設定なら楽しめたのに横一線じゃないから答えが明白。

想や設定を高く評価するけど作品として評価しづらい 1巻。

本書はヒロインの昴(すばる)が前世からの因縁を持つ5人(または6人)の男性から恋をする相手を選ぶという乙女ゲームのような手法が取られている作品である(『1巻』の時点では4人)。しかも その前世というのが いわゆる「ディズニープリンセス」たちのいる お伽話の世界で、この お伽噺に登場する「王子様」が共通の人間である という発想に本書のオリジナリティがある。

2ページで分かる『王子と魔女と姫君と』。呪いは少女漫画では逆ハーレムのための救い

しかも前世から転生したら非常にモテるという2025年現在で流行し過ぎている設定を先取りしたかのような作品で人気が再燃しても不思議ではない。ヒロインの昴を始め前世のキャラクタたちは転生する際に「転性」も果たしており、そこに前世の因縁を利用することでヒロイン(元・王子)がヒーロー候補(元・姫)無闇にモテるという逆ハーレムの成立を自然にしているし、お伽話というモチーフがあるために分かりやすいタイプの違うキャラクタから求愛される様子を楽しまない少女漫画読者はいない。

それなのに面白いと思えないのは、1人のイレギュラーな存在が原因だろう。タイトルにある通り本書は『王子と魔女と姫君と』が登場する物語で、魔女もまた この世界に転生している。『1巻』ラストで それが誰かが明かされた時点で、ヒーロー候補たちが完全な横一線じゃない時点で、物語の結末は自明と言える。ネタバレになるけれど幼なじみ属性まで加えられたら他の候補たちに勝ち目はない。この時点で男性キャラが1人と それ以外のモブ化してしまい、せっかく凝った設定が台無しになったと言える。

折角、男性キャラ全員にトラウマを与えて、トラウマによる「ヒーローバレ」を回避したのに、一人だけ特殊な状況を与えてしまったら その努力も無駄になる。しかも全員へのトラウマ付与によって ただ男性全員が ちょっと暗い性格になっただけ。性格の描き分けは頑張っているのに、似たような背景を加えては それも台無しである。前世は忘れて底抜けに明るいラブコメで進めて欲しかった。
その弱っている男性をヒロインの公明正大な笑顔が救う、という前作同様のヒロイン至上主義が見え隠れしてしまった。作者は自分の描くヒロインが好きすぎて、自己陶酔感を助長させてしまう。


は最終巻まで完読してから再読して感想文を書くスタイルなのですが、本書は再読する意欲や集中力が失せている。本書は逆ハーレムの中からヒロインが一人を選ぶ物語なのだけど、作者の考えた結末は選ばれた一人以外の人権を踏みにじるものに思えたからだ。男性は正ヒーロー以外は物語の装飾や目くらましでしかないことが読み終わった私を大変 悲しくさせた。作者はラストの どんでん返しを最初から構想していたことが『1巻』の再読のフェアな描写によって気づかされるけど、その どんでん返しは私には物語の前提を ひっくり返すだけの壊す最悪なものに思えた。

また前作『幸福喫茶3丁目』に続いて、作者はヒロインが登場人物に愛される世界が描ければ それでいいのかな、と作者の自己満足のための作品のように思える部分がある。色々と設定を凝ったはずの作品だけど結局 作者の手癖は一緒なことが分かり、そのスタンスや表現方法の限界が見える。
物語の基本構造も同じで、ヒロインは片親で天然の良い子。そしてヒーローは家庭環境に問題があり、感情が表情に出ないというのも前作と類似した設定のように思えた。今作で日常系ではないストーリーのある作品に挑戦したけれど、それが成功裏に終わったとは言い難い。


きることなら5人のプリンス(元プリンセス)の中から誰かを選ぶというフェアな戦いを読みたかった。これなら本当に最後まで誰が選ばれるか分からない緊張感が継続するし、選ばれなかった側も同じ条件で同じだけの努力をした過程が残り、彼らの存在や行動に意味が出る。

横一線の状況から一人を選ぶ理由を作るのが難しそうではあるが、同じ白泉社『遙かなる時空の中で』『金色のコルダ』のように多くの選択肢の中にあった一つの可能性として作品の結論を出せば読者も納得するだろう。


想や作品の設定自体を高く評価していて、ある種あざとい この設定ならアニメ化も狙えたのではないかと思うけれど、漫画作品として悪いところがビックリするほど列挙できるので、そういうマイナスで作品人気が出なかったのではないかとも思う。

まず画面が白い。序盤は頑張ったが中盤で力尽きたのか画面が本当に白い。背景がないし、トーンすら使われない。遠くにいる人物は指人形のようなデフォルメ体がデフォルトになっていて、月2の連載の苦労が見え隠れする。終盤から ようやくアシスタントを導入したのか背景が復活。でも時すでに遅し。画面に関する作品の悪評は ずっと残るだろう。

そして画力が拙い。まず1人のヒロインと6人のヒーロー候補が登場するのだけど、人物の描き分けが出来ておらず見分けが付かない。しかも あからさまな追加キャラである『2巻』から登場する先輩たちは顔もキャラクタも いまいち安定しない。描かれているのが誰なのか集中力が必要。最初の4人だけで良かったけど、ディズニープリンセスから有名作品を選ぶと絞り切れないのだろう。中盤から女性キャラも増えていくけど全員、男に見える。
少女漫画特有の絵に耐性があるわたしでも「取り敢えず、全員その鬱陶しい前髪を切ろうか」と思ってしまった。この長さは かなり気になるレベルで全員の髪が脂ぎっていて清潔感がないように感じられた。前髪が長いと顔のバランスが取りやすいと聞いたことがあるけれど、作者は前髪に依存し過ぎて加減が分からなくなっていそうだ。2010年の作品なのだけど画力だけ見ると その10年、いや20年前の作品に思える。

6人のヒーロー候補で同じことを繰り返す。2話から個人回が始まり、そこに風邪回・告白回・お断り回が5~6人分 繰り返されて全12巻となる。内容の重複は飽きる。
この繰り返しの中でヒロインが特定の一人を選ぶヒントが散りばめられていれば よかったのだが、本書の場合、そんな高等テクニックは駆使されない。それどころか上述の通り、酷い結論によって再読時にはページを埋めるためのイベントだと思えて虚無感が生まれる。

これらの理由によって全体的にブラッシュアップ前の粗削りな作品という印象が拭えなかった。折角のアイデアを作者自身が活用し切れていない もどかしさを覚えた。


親が海外から戻ってくるため、高校1年生の3学期で寮生活を送っていた女子校から共学校に転校することになった大路 昴(おおじ すばる)。父親と暮らすことになる住居は9歳まで住んでいた家で、隣には幼なじみの男性・黒森 仁(くろもり めぐみ)が住んでいた。7年ぶりの再会となった仁は昴より背が高いイケメンに成長していた。

仁とは緒伽林(おとぎばやし)高校の同級生でもある。小学校以来の共学で、その時に逆恨みしてきた男子に「男女」と呼ばれて以来、昴は自分は お姫様にはなれないと憧れに蓋をしてしまった過去がある。

新しい高校で昴は仁を通して一瞬でイケメン4人と知り合いになる昴。その4人は学校内ではプリンスと呼ばれる人気の4人(プリンスは他にもいると予告される)。初回で登場するメンバーは仁の他、同級生の雪梨 真白(ゆきなし ましろ)、1学年年下の中学3年生・指宿 元親(いぶすき もとちか)。そして同じクラスの煤原 零時(すすはら れいじ)。


のメンバーが一堂に会している時に、唐突に男子生徒からの女子生徒への嫌がらせが始まり、それを察知した昴がヒーロー行動に出る。まず昴が女子生徒を庇い、そこからプリンスたちが男子生徒に制裁を加えて退散させる。こうして よく分からない理由で現れた共通敵を退治したことで昴はプリンスたちと心を通わせる。そして昴は自分を女性として扱ってくれる彼らに好感を持つ。

最初にトラウマを消去したのはヒロイン。この場の4人がヒーロー候補。先輩たちマジ蛇足

その後、昴は彼らから自分の前世が「王子」であることを告げられる。学校のプリンスたちは前世の記憶を持っているという。その記憶というのが現代 お伽話として広まる お姫様と王子の物語。独立した話だと思われているが、その物語に登場する王子は ただ一人。そこで手当たり次第 姫を誘惑する好色王子と その被害者である姫たち。姫たちは王子を巡って争奪戦を繰り広げたが誰一人 譲らなかったため決着は来世に持ち越された。その醜い争いに大魔女が介入し、王子に呪いをかけ来世は女性として生まれることを運命づけた。ちなみに「大魔女」と表記していることから最初から あの登場人物の設定はあったことが窺える。

大魔女の呪いは王子へのものであるが、付随して姫たちも男性に「転性」したのか。全員の性別を逆転したら また醜い争いが継続するだけではないか。どうせなら同性として出会い、真実の愛に目覚めたら王子の性別が男に戻るぐらいしないと王子のホスト気質は変わらないだろう。結局、少女漫画の逆ハーレム成立のために性別が逆転しただけで深い意図がない。そういう作品である。転性させないで性的不能にして王子が心で結ばれる人を見つける方が合理的な呪いのように思うけど…。
しかも この王子なら女性になったら同性として女性に近づく喜びの方が勝りそう。そもそも異性愛を前提にしているのが旧時代的に見える。望まぬ性を押し付けられた性自認が不明な人の話であり、それなら昴の精神は もっと不安定になりそうな予感がする。

こうして王子の愛を現世でゲットすると幸運が付与されるため、シンデレラの零時か、おやゆび姫の元親か、白雪姫の真白か、はたまた別の姫かを選ぶ責任を昴は持って生まれた という。

気になるのは、では この世界では お伽話の結末は全部アンハッピーエンドなのかということ。どういう風に物語が伝わっているのか謎だし、ホスト王子による悲恋の実話が何百年も伝わり続ける力を持っているかも怪しい。あまり深く考えてはいけないのだろう。


な話に昴は戸惑う。彼女は王子時代の名残りなのか女性からモテた方が嬉しく、恋をする自分に想像が付かない。

それでも昴はプリンスたちから熱烈なアプローチを受けることになる。そしてプリンスたちが前世に引きずられた恋ではないということを証明するために個人回が始まる。元親、真白と続く。今の彼らが、今の昴に惹かれていく。そういう普通の恋の始まり。前世の設定は逆ハーレムを無理なく成立させるための手段であって、それが達成できたら設定は用済みのような気がしてならない。

個人回では それぞれのプリンスたちの背景やトラウマが語られ、それを昴が肯定的に捉えることでプリンスたちは改めて昴に恋をする。現世の境遇も前世と似ていて、そこに由来するトラウマが設定される。ヒーロー候補が全員トラウマを持っているというのは誰が正ヒーローなのか分からなくさせる 良い目くらましだと思う(が上述の通り、イレギュラーの存在で全てが台無し)。


く零時はバレンタイン回。零時は素直になれないツンデレという特徴があり、プリンスの中では昴に対する あたりが厳しい。シンデレラ時代の鬱憤を自分より下の立場の者に与え続けているように見えて、シンデレラによる弱い者イジメに見えて、ストレスの負の連鎖やパワハラという言葉を連想させ、ちょっとだけ嫌な気持ちになる。

乙女ゲームなら攻略が難しいキャラなんだろうけど、一度 零時の思考パターンを理解できれば案外チョロいキャラでもある。転校から1か月余りが経過したバレンタイン時点では昴の心は全く定まらない。


ストとなる5話は仁回。ここで仁の母親、そして昴の父親が初登場する。昴の父親は仁と全く年齢が変わらないように見える。7年間 この父娘は別居生活をしていたみたいだが、昴は ずっと寮に入っていたのだろうか。その辺の設定が謎である。

ここでは仁の父親は、仁が7歳の頃に余所に女性を作って家を出て行ったことが明かされる。それが仁のトラウマとなり彼は恋をしないと誓ってしまった。壊れてしまう関係なら初めからいらない、というのが仁の極端な思考。

父親が出ていったシングルマザー家庭に育ったヒーローって まんま前作の設定では??

その彼の思考を少しずつ軟化させるのが昴という存在。9年前に言えなかったことを成長した昴は言語化できるようになって彼に伝えられた。それが仁にとって昴が特別だと感じさせる。その気持ちに気づきながら仁が気持ちを封印してしまうのは彼が秘密を抱えていたから。仁は王子を呪った魔女だったのだ。

あっという間に前世のトラウマを消滅させたプリンスたちと違って、仁が現世と前世トラウマを消滅させるのには時間がかかる。それを達成しないと恋愛解禁にならない、というオーソドックスな構成が予感される。