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少女漫画と小説の感想ブログです

黒伯爵が定着しないまま「THE 黒公爵」が登場するから、黒伯爵は臍(へそ)を曲げる

黒伯爵は星を愛でる 2 (花とゆめコミックス)
音 久無(おと ひさむ)
黒伯爵は星を愛でる(くろはくしゃくはほしをめでる)
第02巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

吸血鬼ハンターの伯爵・レオンと仮初めの結婚をすることになったエスター。離れ離れになった兄・アルを探す中、エスターはある男爵が催すバザーに行くことに。「あなたを他の者の目に曝したくない」というレオンだけど、エスターは一足先にバザーへ…。そこでおきた事件は…!?

簡潔完結感想文

  • 貴族様は社交が お仕事なので大切な人から目を離しがち。単独行動 ≒ 吸血鬼との遭遇。
  • 男装していても作中の上流階級イケメン(吸血鬼)に気に入られるのが白泉社ヒロイン。
  • ヒロインの運命の人、レオンの過去、吸血鬼との協定、アルの現在地。物語が動き出す。

ストダンスは私に、の 2巻。

『2巻』から定期連載となり、作者が当初から考えていたキャラたちが投入され物語が本格始動していく。行方知れずだった主人公・エスターの双子の兄・アルの居場所も読者には判明し、人間と吸血鬼 2つの陣営に分かれた彼らの運命が ますます気になる。

再読すると分かるけれど本書は様々な溺愛で溢れている。読者に分かりやすいのがレオンのエスターへの溺愛なのだけど、その溺愛はエスターに伝わりにくいという側面があり、その気持ちの行き違いの解消が恋愛面での長期目標となっている。

レオンのエスターへの溺愛は年長者から年少者へのもので、レオンは年長者そして男性という立場からエスターに彼女に伝わる分かりやすい言葉で愛を囁けない。男性は純情をこじらせると素直になれず、頭でっかちになってしまうものらしい。そしてエスターは身分や年齢・経験値の違いからレオンの態度が こじらせたものであることを見抜けない。だから自分が いつも からかわれていると思ってしまい、彼を信じられず拒絶から入ってしまう。この辺は白泉社の強情ヒロインに通じる性格である。

その関係に似たものを『2巻』で発見した。それがレオンと吸血鬼の王と呼ばれる新キャラ・クリスとの関係だ。クリスの前に出るとレオンは年少者が年長者に反発する時のような強情さを発揮しているように見えた。信じたいけど信じられない、そんなアンビバレントな感情はエスターのそれと類似している。これは再読したから分かること。作者は最初から設定を作っていたらしく、そう読めるようになっているのが作品の完成度の高さに繋がっている。

クリスはエスターのモテ演出のためではなく、レオンの過去に関わる者として登場

回 登場する2人の新キャラは どちらもレオン関連。こじらせて何も話さないレオンに代わって、エスターが彼を理解する一助として新キャラは登場しているように見えた。エスターからは完璧に見えるレオンをイジるキャラが複数いることでレオンの不器用さ・間の悪さ・ポンコツっぷりが強調されている。レオンは実はイジられキャラだと思う。

そして吸血鬼ハンターと吸血鬼という2大勢力の頂点にいる者に目を付けられるヒロインを演出することで読者の承認欲求を満たしている。これが現代劇ならクリスはライバル名門校の生徒会長やヒーローに引けを取らない大財閥の御曹司といったところなのだろう。ちなみに私はクリスの容貌が少しも好きではない。長髪とか目の描き方とか耽美すぎるところがダメなのだろうか。

溺愛モノといっても ここでクリスがエスターを本気で好きになってレオンと三角関係になったら物語は陳腐になっただろう。そして何年生きているか分からない吸血鬼とヒロインの恋物語は まるで前作『花と悪魔』である。その重複を避けるために その展開にしなかった作者は賢明である。

行く先々で事件に巻き込まれるミステリ短編のような日常回が続くかと思ったが、予想よりも早く物語が動き出している感覚があったのは嬉しい誤算だった。社交にかまけた貴族様がエスターを放置した後の彼女の単独行動、という展開は早くも飽きてきたところだ。


期連載となってから新キャラとしてゲイリーが登場。彼は男爵で そしてレオンの従兄弟。レオンと同格の理解者で同情者というのがゲイリーの役割だろう。天涯孤独なエスターだからレオンの知人を招聘して いわゆる「友達枠」を作る。本書2つ目の恋愛エピソードも彼にまつわるものとなる。

連載化による仕切り直しなのでレオンとエスターの関係性が もう一度 繰り返し説明され、レオンはエスターを溺愛しているのに、エスターはレオンの思い遣りが伝わらず、彼に踏み込めないと感じている。
そしてエスターが唐突なレオンとの結婚を受けた理由も語られ、双子の兄・アルの手掛かりかもしれない貴族の新しい息子という話題をゲイリーから提供され、エスターはゲイリーと2人で行動する。仕事で手が離せないレオンはゲイリーとの接近が面白くないため不機嫌。せめてもの監視役として女性のメイドを同行させる。


イリーが この家の主人と挨拶をしている間、休憩場所を探している間に使われていない聖堂を発見したエスターとメイドだったが そこで吸血鬼に襲われる。殴られて意識を失っている間に手足を拘束されて大ピンチ。

ピンチの際に強さを発揮するのがエスターで今回もメイドよりも自分を犠牲にして彼女を助けようとする。その後にレオンの登場かと思いきや目を覚ましていたメイドが反撃する。しかし吸血鬼の傷が浅く、今度こそピンチになったところでレオンとゲイリーが揃って登場。メイドにも きちんと見せ場を作ってあげているようで嬉しい。

吸血鬼撃退後、エスターが捕縛されていたことを知ったレオンは彼女の身体の点検をする。レオンの行動は ちょっとセクハラめいている。出会う以前は こうやって他の女性に甘い言葉を囁きながら致していたのではないか、という性癖が見え隠れする。

レオンはエスターを溺愛し過ぎているために彼女に何もしなくていい不自由のない生活を与えたいが、その考えはエスターに上手く伝わらず、彼女は再び自分の意志を無視されているように感じる。こうして夫婦は話し合いの後、お互いを支える姿勢を確認し合う。しかしアルが養子となった家の候補だった貴族の調査は空振りに終わり、手掛かりが失われる。


る貴族の誕生日の小さな舞踏会に行くことになり、エスターの淑女修業にダンスが加わる。レオンは訛りの矯正の時と同じく時間を見つけてはエスターに手取り足取りダンスを教え、自分以外の男が妻に触れることのないよう手配する。

そして この頃にエスターに過去のエピソードが追加され、幼い頃「黒髪で青い目の男の人と結婚する」と言っていた時期があり、実際に黒髪の男の人と出会った記憶があるらしい。

当日、ゲイリーはエスターを男装させる。それは「今まで数々浮名を流しつつも特定の相手を作らなかったヴァレンタイン伯爵(レオン)が」「急に女性同伴で現れれば回女王が色めき立つのは必至」で息抜きが出来ないからだった。エスターは遠縁の男の子という設定で貴族社会でのレオンの様子を垣間見ることになる。そこからイケメン演出が始まり、レオンは社交界白薔薇様、ゲイリーは赤薔薇様と周辺の女性が色めき立つ。


の日、エスターと重要な参加者との出会いが待っていた。それが黒髪の吸血鬼・クリスティアン・V・A・ギルバート公爵(以下:クリス)。レオンはエスターがクリスが吸血鬼であると知らせる前から それを承知していた。吸血鬼ハンターのレオンに顔見知りの吸血鬼がいるという不自然な状況が浮かび上がる。そしてクリスは これまでエスターがレオンと同行して関与した吸血鬼のことを眷属と呼ぶ。吸血鬼の中の上位存在ということか。

そういう偉い人に目を付けられるのが白泉社ヒロイン。レオンの活躍の裏に秘密があると勘付いているクリスは「発見器」である男装エスターに近づこうとするが、2人の男性が それを阻む。


はレオンがハンターとして退治した吸血鬼は異端者。人間と吸血鬼の間には「吸血鬼は無闇に人間を襲わないこと」「人間は吸血鬼に血液を提供すること」という協定が存在する。異端者を狩るのが吸血鬼ハンターだが、その他の吸血鬼を管理するのがクリス。吸血鬼の頂点に立つ、吸血鬼の王である。男性の社会的地位で恋する相手を決めかねないのが白泉社ヒロインだが、エスターはクリスの黒髪に運命性を感じたようだ。

エスターは男装と、ダンスの未熟さで舞踏会では壁の花になる。そしてレオンの関係者ということでエスターは、最近レオンに妻が出来たという噂や女性たちの間で囁かれるレオンの流した浮名の多さを知り胸を痛める。それでも「男性」としてエスターが踊りに誘われればレオンが助けに来てくれる。でもエスターは自分がレオンと踊れないことを残念に思う。それは彼女の中に生まれた願望だった。


分差もわきまえない自分の願望に恥じたエスターは一人で外に出る。そこでエスターはクリスが同胞を粛清している場面に遭遇する。本書では単独行動すると吸血鬼に遭遇するエスターさんである。

エスターはレオンに一発でダンピールであることを見抜かれる。そしてエスターがダンスの件で落ち込んでいることも。だからクリスはエスターと踊る。エスターが男装している男性でも構わない。その心遣いにエスターは初めて吸血鬼に対する警戒心を解く。ただクリスは吸血鬼の王として同胞を粛正することもある。それが協定を守るためにクリスがするべきこと。

男装エスター、アル、幼き日のレオン。もしかして黒公爵は美少年を愛でる って話!?

一方、レオンは屋敷内で ある場所に誘導されていた。これは吸血鬼ハンターの襲撃計画の一環。クリスが同胞を粛清したのは計画を知ったからなのだが、その協力者は屋敷内に潜んでいた。今回、ピンチになるのはレオン。レオンは吸血鬼の狙いは察知していたが数が多すぎる。ちなみにゲイリーも吸血鬼ハンターの一族の人なので戦えるっぽい。

襲撃計画の存在を知ったエスターは自分の能力を使い、吸血鬼の居る位置を特定しを試みる。しかしエスターが到着した時には事件は解決していた。何とかレオンたちは場を制圧する。そして最後の吸血鬼はレオンとクリスの2人が動いて退治する。レオンはクリスへの不信感を隠さない。どうやら過去に何か因縁があるようだ。険悪なように見えるがレオンに対するクリスの嫌がらせは、エスターに対するレオンの からかい に種類が似ているように思う。それは大人と子供の関係である。


つもと逆でエスターがレオンの傍を離れたことでレオンがピンチになってしまったことをエスターは反省する。エスターが あの場にいれば吸血鬼だと感知し、レオンに警告が遅れてしまった。
しかも帰りの馬車でレオンが不機嫌なこともエスターの落ち込む要因。しかし それはエスターの男装がゲイリーの お下がりだという些細な理由と、エスターがクリスと接触したことも不愉快だったようだ。

レオンはエスターにドレスを着せ、2人きりの舞踏会を始める。レオンは きちんとエスターの踊りたい気持ちを気づいていてくれた。この日、クリスとレオン、2人の男性と踊ることで、エスターは どちらの男性にドキドキするかを理解する。上手く踊れない方を意識している。さしずめ吸血鬼の王・クリスは当て馬といった立ち位置か。

そしてラスト、協定を守らない吸血鬼たちの後始末を部下に任せたクリスが馬車に戻ると、そこにはあるがいた。1話でちょっと出てきたアルが いよいよ本編に関わり出した。