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「同世代の異性との接近」がヤキモチの条件ならば、教師の僕にとって学校は地獄

さくらと先生(4) (別冊フレンドコミックス)
蒼井 まもる(あおい まもる)
さくらと先生(さくらとせんせい)
第04巻評価:★★★★(8点)
 総合評価:★★★★(8点)
 

さくらは2年生に進級し、担任が藤春先生になった。うれしい反面、上手くやっていけるかちょっぴり不安…。そんな中、修学旅行の時期になり、さくらは飛行機の席が先生と隣に。周りに生徒がいる中、こっそり手を繋ぐ2人。さらに、旅行先で――!?「別冊フレンド」にて大人気連載中! 桜舞う坂道で恋をした。先生に片想いラブストーリー、第4巻。

簡潔完結感想文

  • ただの憧れでも片想いでもないから、2人の関係は一層 誰にも知られてはならない。
  • 匂いフェチ匂わせヒロインは、コーヒーだった先生周辺の香りの上書きを試みる。
  • 学校内で一線を越えかねない『思い出だけではつらすぎる』JKとガス抜きデート。

年の春はどこも行けない、今年の夏もどこも行けない、の 4巻。

本書の中で『4巻』は交際編と言えるパート。でもデートは1回きり。キスも2回きり。両想いになったはずなのに何も出来ない。1回のキスで約8か月分 生きなければならない。1回目の思い出があるから つらいし、2回目の展望が見えないから つらい。少女漫画で こんなにも抑制的な交際編は初めてかもしれない。教師との恋愛という禁忌よりも我慢が前面に出ている。

ただのクラス写真撮影も2人は緊張感をはらむ。このスリルこそ教師モノの中毒性

そして2年生になり藤春(ふじはる)先生が さくら の担任になったからこそ一層の我慢が強いられるという皮肉な展開も よく考えられている。2人が慎重になるのは『3巻』の学校内での噂があるから、という関係性の暴露危機を交際より前に置いた意味が よく出ている。一般的には交際後に、交際発覚の危機というクライマックスを用意するところだけど、作者は それを前倒しした。そこで より我慢が強調される。
また2年生進級時に さくら の親友・ルナを同じクラスにしなかったのも考えあってのことだろう。1年生の時はルナのお陰で藤春先生との会話が生まれ、彼女が動くから接触の機会があった。でも2年生は さくら の協力者はいない。両想いになったのに、それ以前よりも何気ない会話が少なくなるのが本書の稀有な特徴だろう。孤軍奮闘かつ自制が必要とされることで両想い後の方が前途多難となっている。

同級生との恋愛であれば両想いは一つのゴール。だから私は その先に興味がないのだけど、本書の場合は その先も緊張感が続く。教師モノというジャンルの強みを存分に活かした構成が本当に素晴らしい。


くら の一途な純粋な想いも好きだけど、私は藤春先生視点での本書も好きだ。さくら がジャージ姿や寝顔など どんな藤春先生も新鮮に思うように、藤春先生にとっても さくら の姿は いつも気になる。それが好きという感情の副作用である。

以前も書いたけれど「教師モノ」は実は先生の方が地獄なのではないかと思う。特に藤春先生は同級生の瀬戸(せと)と一緒にいる彼女の姿を すぐに見つけてしまう。今回、教育実習生の女性という先生と年齢の近い「大人の女性」が出現し、さくら はヤキモチを焼くが、考えてみれば藤春先生にとっては、さくら には同級生という「子供の男性」との接触が絶えない。それは教育実習生と違って ずっと心が休まらない状態の継続を意味している。

そして これも以前から書いている通り、藤春先生は さくら の気持ちの見極めとコントロールが必要である。例えば さくら の気持ちが年上の人への一過性の憧れかどうかを見極める必要がある。彼女の気持ちを確かめずに自分から動いてしまえば、それで人生が詰む。だから藤春先生は年長者として大局を見ながら、同時に さくら の気持ちが自分に向くようにコントロールしている。『4巻』でもあった ご褒美を設定したり、自分からは絶対に言えない好きという言葉を引き出すために彼女が希望を見い出すような言葉選びをしている。

この『4巻』ラストでは恋愛成就のエネルギーだけでは生きていけない さくら の心情を見て取り、彼女との初めてのデートを決行する。リスクの高い行動だが、これ以上 さくら が学校内で暴走して破滅するよりは安全と考えたのだろう。愛情に10歳の年齢差は関係ないが、精神力や処世術などには年齢差が表れている。この点で2人を同等とせず、ちゃんと年齢差による違いを出している点が私は好きだ。
初めてのデートが さくら のガス抜き ≒ 自分の保身になってしまうのが藤春先生の つらいところだ。

知り合ってから もうすぐ2年、両想いからは10か月ぐらいだろうか。手を繋いだのは おそらく5回(迷い犬、繁華街、文化祭、飛行機、教室)。そしてキスは2回。通話は1回。学校で お互いの姿は確認できるとはいえ、こんな調子で10代の女性が満足するはずがない。
さくら は一度キスをしたからこそ二度目のない つらさがあるが、藤春先生も さくら を繋ぎ止めておく手段がなくて つらいだろう。好きな人を喜ばせることの出来ない自分、そして別れを切り出されるかもしれない不安、そういう大きなストレスの中に藤春先生はいるのではないか。

JKの恋の相手としても、そして交際相手としても不釣り合いなのが藤春先生なのだ。


年度、さくら の担任は藤春先生。
嬉しいはずの さくら が喜ばないのを見て瀬戸(せと)は疑問に思う。さくら が喜びを態度に出せないのは自分たちが両想いになったから。憧れなら友達に言えるが、交際は秘匿しなければならない。進展が孤独を生んだ。ただし友人・ルナを飾り物にしないために、彼女には いつか言うというスタンスを取る。言うと軽率になるし、言わなくても薄情に見えて友情が偽物になる。だから このラインが正解だろう。こういう部分が本書の好きなところだ。

新クラスの集合写真で3列目に並んでいた さくら だが、背が低くて隠れてしまうため最前列に回される。そこは藤春先生の隣。隣同士で写る写真は以前なら家宝にするところだろうが、今は その喜びも慎重に隠す。嬉しさと不安は表裏一体となる。


春先生が担任になったことで彼が正式なルートから さくら の連絡先を入手する。これで万が一、誰かに通話履歴を見られても生徒に連絡することがあった、と言い逃れが出来る。

だから藤春先生は さくら に初めて連絡をして、彼女に何か困ったことなどがあったら連絡するように伝える。ただし さくら の携帯電話に連絡先を登録と意味が出てしまうので、さくら には暗記を求める。そして必要な会話の後、2人は恋人同士の会話をする。そこで2人が それぞれ『1巻』ラストの月の綺麗な夜に好意を自覚したことが判明する。そして さくら は先生に好きといって電話を切る。

この日曜の夜、さくら が よく眠れたように先生もまた同じだろう。声を聴きたいと思うタイミングも きっと2人は同じであるはずだ。


2年生の学校イベントは修学旅行から始まる2泊3日の北海道旅行。さくら はクジと話し合いで移動の飛行機で先生の隣の席をゲットする。偶然である。
そこで手を繋ぐ2人。この時の言動は脇が甘いとしか言えないが、少しぐらい甘い思い出を作ってあげたいという配慮だろう。知らなければ交際しているとは思わない程度の会話で抑えている。

さくら は飛行機が初めてで緊張で手が冷たくなる。その自分の経験で『3巻』の文化祭回で藤春先生の手が冷たかったのは彼の緊張だと知る。言葉にしなくても伝わる想いで さくら は藤春先生を信じられる。やがて藤春先生は眠ってしまい、さくら は初めて彼の寝顔を見る。


学旅行中、藤春先生は遠い。そこで さくら は藤春先生に渡すために彼をイメージした香水を作る。しかし そのプレゼントを土産物店に置いてきてしまい、自由行動後にクラスメイトの協力を得てホテルを抜け出す。そんな さくら の行動も藤春先生は見逃さない。
忘れ物を無事 確保した さくら だが初めての街と方向音痴で迷子になってしまう。緊急連絡として藤春先生のことが頭に浮かぶが、瀬戸に助けを呼ぼうとする。藤春先生は先生だから悪いことに関して連絡できないのだ。

しかし その前に藤春先生が到着。悪いことを目撃されてしまった。だから さくら は合わせる顔がないと逃亡しようとするが、方向音痴を放っておけない藤春先生は さくら を抱えて街中を歩く。なかなか目立つ行動だ。修学旅行を振り返る会話で さくら を落ち着かさせ、2人は北海道の地に浮かぶ月を一緒に見る。
修学旅行中に宿泊先から抜け出す恋人たちのイベントが脱走と追跡で実行されているのが面白い。


土産は先生の手に渡る。
そして先生からは その香りが漂う。これまで職員室のコーヒーの香りだった先生の周辺が、さくら の香水によって上書きされたということか。まさに匂わせ。さくら は匂いフェチなのかな。

教師モノは新キャラ兼ライバル役として教育実習生の登場が定番。といっても本書は この回のタイトルにもなっている通り「ヤキモチ」のためにいるだけ。固有キャラの女性ライバルになることはない。本書は藤春先生がモテる過剰な演出がない。例えば教育実習生が好きになれば競争率が高まる。自分が勝ち残ることに自信を覚える人もいるだろうけど、さくら は そうじゃないし、作品も そういう切り取り方をしない。
教育実習生も匂いを通して、女の人の香りという今の さくら が手に入らない香りを持っている。年齢差が10歳の さくら たち高校生に対して大学生の教育実習生は4歳差。そこに差が出てしまう。

背伸びしようと さくら は化粧や髪形を変えたり色々チャレンジする。さくら のことは視界に入る藤春先生だから すぐに気づくが、それを校則違反だと注意するだけ。好きな人が怒られるのは嫌なのだろう。でも さくら は好きな人のための背伸びが逆効果になり落ち込む。


く大人になりたい さくら は、自分の将来像を描くため大学のパンフレットを見る。そして実際 成績優秀で学校生活に問題がない さくら には指定校推薦が提案される。直前に藤春先生が化粧を注意したのは指定校推薦の話に影響が出るから、厳しい先生の授業の前に忠告したのだった。

瀬戸は好きな子の変化に気づく。さくら が何かに悩んでいるから声を掛け、自分が力になると伝える。この時、瀬戸は ずっと秘めていた彼女への気持ちを間接的に伝える。諦めて、そして純粋に力になるという意思表示だろう。『3巻』で藤春先生に悪意を覗かせた時点で敗退は決定的だったか。

こうして さくら は また新しい悩みが出来てしまい、先生の顔を見に行く。さすがに先生に瀬戸の話は出来ず呑み込む。この辺のデリカシーと慎み深さが やっぱり好きだ。だから代わりに先生に早く大人になりたいという。すると藤春先生は待ってるから急がなくていいと言葉をかける。ただ残り1年半の学校生活は さくら にとっては永遠。そこは10歳差。時間の流れる速度が違う。そして先生に触れられない我慢の連続に さくら は悩む。


節は秋に変わり、さくら は瀬戸の想いに対して初めて言葉をかけ、好きでいてくれたことの感謝を伝える。問題をすぐに解決しないで、冷却期間を置いて、気持ちを整理してから話すのがリアルだ。問題を一気に解決しようとしない姿勢も好き。

でも先生との距離感は変わらない。キスは1回だけ。触れることも許されない。だから さくら は資格検定に不安のある生徒向けの藤春先生の勉強会に、成績優秀なのに参加する。だが先生は不用意な接近を許さず距離を取る。

もしかしたら片想いの時期よりも将来的な展望も希望も見えない 先生との両想い

そんな さくら の どうして先生になったのかという質問に検定での満点で回答するという。満点というのが無理な目標じゃないし、検定に受かること、成績が良好なことは さくら の将来の選択肢の広さにもなるのだろう。
さくら はワガママを言わない。デートして欲しいキスをして欲しい、先生を困らせることは言わないが それを態度で示す。この辺で藤春先生が さくら の心情を察しなければ さくら は学校内で暴走していたかもしれない。

こうして『1巻』の時とは違い今回は さくら は満点を取る。そして先生から日曜日に待ち合わせ時間を指定され、2人で電車で遠出する。誰も自分たちの関係を知らないところに出掛け、デートをする。そこで先生の経歴・苦手な食べ物、先生になった理由。それを教えてもらう。

さくら にとって というよりも一般的に10代の女性は同年代の人と交際するべき。それが年長者としての藤春先生の考え。でも さくら は それを受け入れない。勿論 藤春先生だって別れ話として切り出したわけではない。これは先生側の年齢差の問題。藤春先生と教育実習生と同じように、学校の生徒同士の恋愛はヤキモチの対象なのだ。

海岸で2人は2度目のキスをする。そして先生は初めて好きだと言ってくれる。