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少女漫画と小説の感想ブログです

小学生レベルの恋の香りは、同じ道を共に進むブロマンスの香りに かき消される

ZIG☆ZAG 9 (花とゆめコミックス)
なかじ 有紀(なかじ ゆき)
ZIG★ZAG(ジグ★ザグ)
第09巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★(4点)
 

順調に恋を育む太陽と佐帆☆ 卒業する仁から佐帆と寮を託された太陽は、寮長として頑張る決意をする! 三年生になり、太陽はプロのコンクールに苑生と共に出場することに。苑生は太陽に「お前を負かしたい」と宣戦布告を!? 今、それぞれが夢に向かって歩き出す──。

簡潔完結感想文

  • 高校生活を描き切るためなのか2巻で10か月ほど時間が進む。落ち着かない最終巻。
  • お家騒動に巻き込まれたくないワガママ御曹司は金銭援助を受けて海外逃亡(留学)。
  • 個人成績は1勝1敗。俺たちの戦いは これからだッ! 女性は男性に付随するだけ…。

家騒動や恋愛すらも枝葉末節、の 最終9巻。

作品単体の評価は決して悪い作品じゃないから平均的な位置づけの5点でもいいのだけど、作者の進歩の無さや毎度 同じ話の展開、恋心を自然消滅させること3回などマイナス要素が多かったので今回は4点とする。男子寮設定、学校で出会った仲間と同じ店で働く結末など過去作の焼き直しが多いことも既視感を覚えて良くない。

最後まで佐帆(さほ)などヒロインが脇役に過ぎず、これなら太陽(たかあき)と苑生(そのお)に焦点を当てた物語でも良かったのではないかと思うほどである。そうならなかったのは作者の好みは仲良しグループの内輪カップル全成立だから、そのために女性たちが配置されたのだろう。でも同好会B・Bカンパニーでの役割が不明瞭だった諏訪(すわ)は行方不明状態になるし、彼の恋人となった芽(めい)も最終巻では いないも同然で、平等に愛情が注がれているとは思えなかった。しかも実家の事情からなのか諏訪と芽はラストの太陽たちの新企画にも参加させてもらえず登場すらしない。B・Bカンパニーも実態は太陽と苑生の活動だったし、あまり十全に機能しているとは言い難い。女性がいなくても話は成立するだろう。
男女3人ずつ6人の関係も描けていない部分が多く、本当に仲良しグループが成立したとは言い難い。まだ同好会の初年度の活動は一体感があったが、桜子(さくらこ)加入後は同好会で一つのことを達成する場面が少なすぎた。それなのに永遠に仲良しと言われても説得力がない。

男女の恋愛感情よりも確かに感じられる太陽と苑生の、相手の存在の不可欠さ

全体的な話の構成も歪つで、最初の1年間が5巻分、2年生が3巻半、3年生が0.5巻分という配分。しかも2年生は ほぼ桜子の猛アタック。そこに芽と諏訪の関係が入ってきて、太陽と佐帆は おまけ程度。しかも太陽たちの交際模様は時間を経ても同じように お可愛らしいもので変化が描けていない。特に『9巻』は残りの課題とイベントを消化しようと言う焦燥が見え隠れして落ち着かない。もう ちょっと余韻を残すような終わり方には出来なかったものか。

またライバルキャラの御手洗(みたらい)とか、高校生の園芸コンクールとか2年目だから描けることもあっただろうに、それを使わないのも惜しい。この辺は作者が考えるより早く作品の終了が決まってしまったのだろうか。そこは残念に思うが、作品が続かなかったのなら それは作者に責任がある。
新連載になっても毎回 代わり映えのしない恋愛模様、幼稚で意地を張るだけのヒロイン、実質3組のカップルが成立しているのに恋愛模様にバリエーションがない、など読者が作品に飽きる要素は いっぱいある。何年も同じ手癖で作品の連載をしていて、時代に合わせた変化や本書ならではの工夫が見えないから徐々に読者が離れてしまったのではないか(想像)。


して何より評価を下げるのは苑生のパート。何と最終巻では苑生の実家の華道の家元のこと、双子の弟・悠生(ゆうき)が登場しない。まるで苑生の実家問題など無かったかのように、苑生は家族の承諾を得ずに勝手に進路を決めてしまった。
これは本書(及び なかじ作品)における三角関係と同じ。最終的に正面から扱わないのに、その問題を障害として利用する。この不誠実さに私は腹が立つ。本書における苑生の残念さは『7巻』の感想文で言及しているので読んでみて下さい。最後まで苑生の進みたい、実家とは違う「道」が私には さっぱり分からなかった。

登場人物が皆 傷つかないように配慮していると思うけれど、それは作者が大事にする主要人物たちだけ。同好会メンバーではなかった仁(じん)は告白することすら許されず、その気持ちを自己処理しなくてはならなかった。ずっと気持ちを秘めているけど、その相手に大事な人が出てきたから、すごすごと引き下がる。これが何回 繰り返されたことか。ここで奮起して告白する、とならないのは作者が考える理想の展開にならないから許されない。その作為が透けて見えるから私は なかじ作品に夢中になれない。
また いつまでも女性に才能を与えない点も私は好きになれない。特に本書は佐帆も桜子も好きな男を後追いするだけで自立した女性として描かれていない。佐帆にとって花は太陽と一緒に居るための口実にしか見えなかった。

来年以降に次の長編を読みたいと思うけど、次の長編も作風が同じであろうことは容易に想像がついて嫌な予感しかしない。


2月はバレンタイン。B・Bカンパニーの女性陣は それぞれ意中の男性に渡すチョコ作りをする。桜子って佐帆や芽(めい)と距離を縮めるエピソードがないのに お泊り回をしている。作者のしたい方向性に強引に持っていっている感じが苦手。芽の中の桜子へのライバル意識は この回で少し触れられ完全消滅している。
チョコを渡す様子は それぞれのカップルに らしさは出ているけど、太陽と佐帆カップルは付き合ってから随分 経つのに以前と同じにしか見えない。2人の関係性の変化を もう少し上手に描けないものか。


いては卒業シーズン。3年生は卒業を控え、寮長の仁(じん)は男子寮の新しい寮長に太陽を指名する。自分がなってみて初めて寮長の仕事の多さに気づく太陽。ちなみに副寮長は寮長指名できるので苑生を指名する。
卒業間際になって仁は太陽にだけ佐帆への恋情を ほのめかす。佐帆が察知しないのは心を濁らせないためだろう。特に彼らは いとこ だし。最後まで過保護が発動している。そういえば仁は どうして少なくとも2年生4月から寮長になっていたのだろうか。その辺の設定があるなら出して欲しかった。

B・Bカンパニーのメンバー以外と恋を成就させることは許されない修羅の世界

『8巻』の感想文でも書いたけれど日向(ひなた)は諏訪(すわ)家の必勝恋愛法を駆使しないために恋が実らない。失恋はサイレントに行われるのが本書のルール。そんな日向はフラワーアートコンクールで全国一位になった という称号が与えられる。ただの花屋ではなかった。この設定があるから最後のコンクールの誘いが事務局から来るということなのだろうか。

そんな日向は太陽にとって心の師匠。日向の作品に目を輝かす太陽に佐帆はドキドキする。なかじ作品のヒロインって自分の夢を持たない。夢を持つのも努力するのも男性のことが多い。ヒロインは現実的な夢を持たないまま、彼の隣にいられればいい という お花畑で作品を乗り切る。

日向の個人回だけどアイデアの根幹は太陽が出す。それを日向が形にしていく。桜子への衣装のアイデアの時(『7巻』)は苑生が出したが、それがイレギュラーで本書のアイデアマンは太陽ということなのか。やっぱり苑生が間接的に桜子に花を贈るために ああいう展開になったのか。日向は失恋をしたから もう花(のアイデア)を捧げることすら出来なくなったのか。


校3年生となった太陽は進路を考え始める。彼は就きたい仕事の方向性は決まっているが、その前の進路は未定。佐帆は太陽と同じ道を歩みたいが、彼に進路を問われるとラクロスが強く、情報学部のある大学名を答える。前者は分かるが、情報学部は どこから湧いた設定なのか。最終巻で情報が渋滞している。

そんな時、太陽たちは日向からプロのコンクールへの参加を打診される。個人参加は『6巻』以来2回目だが、今回は花屋の名前で出場する。個人参加は苑生が願ったことで、彼は『6巻』の時は優勝しているが、アイデアの面で太陽に負けたと感じていた。その雪辱を果たすために苑生は再戦を望んだ。

テーマは花。花のアレンジで花を表現することに悩む太陽だったが、自分にとっての花とは?という根源的な問いを佐帆にしたことで、そこにヒントを見い出す。


生は卒業後にパリへの留学すると宣言する。歴史の長い本場で教育を受け自分の力を試したいのだそうだ。そのことに対する実家の反応は一切 描かれない。双子の弟・悠生(ゆうき)も出てこないし、実家問題は棚上げで終わっている。そういう部分が苑生の自分勝手さ(留学費用は どこから出るのか)を増幅させている。

太陽は苑生が進路を決めていること、彼と道が分かれることに落胆するが、彼の決断もまた刺激に変える。花に関することなら ずっとワクワクしていられる。それが好きってことなのだろう。佐帆は太陽と同じ道を進みたくて、太陽は苑生と一緒に居られる未来を夢見る。けれど苑生は太陽から刺激を受けつつも我が道を行く。そんな三角関係が最後まで消えずに存在している。

苑生の進路に一番ショックを受けるのは桜子。ただ苑生は桜子だけには手を差し伸べている。それが明るい兆しだろう。間もなく桜子はショックから立ち直り、1年後に苑生を追ってパリに行くことを彼に報告する。それを苑生は拒まない。彼なりの最大の愛情表現だろう。


陽は花は愛、苑生は花は人生とテーマを決めて作品作りに没頭する。
太陽の愛は佐帆に注がれるもの。だから作業中ずっと彼女をイメージして作品を制作する。2人は出会った頃と同じように太陽は苑生のセンスと技術に、苑生は太陽のは発想力と感性に刺激を受ける。佐帆は太陽の作品は自分のイメージだと知って号泣するが、どちらかと言えば男性2人の切磋琢磨の方がメインに描かれていて、佐帆は部外者に見える。

そして結果は太陽が3位、苑生が4位。プロの大会で立派な順位だが、彼らは不満気。より高みを目指す伸びしろがあること、ライバルがいることが彼らの成長になるのだろう。
大会後、太陽は日向の店で働きたい意志を彼に伝え、了承される。それは日向の願いでもあった。けれど日向は大人として基礎や経営をスクールで学ぶことを推奨する。

そして8年後、2組のカップルは再会し夢だったアトリエを開いたのだった…(完) おまけ にはページが足りなかった作者の反省と謝罪、そして8年後の彼らの現況が書かれている。