なかじ 有紀(なかじ ゆき)
ZIG★ZAG(ジグ★ザグ)
第04巻評価:★★☆(5点)
総合評価:★★(4点)
文化祭で見事優勝したB・Bカンパニー☆ 古い温室を部室にもらい、諏訪も加わり5人の同好会が始動する! 温室の改修を終えた太陽は、苑生に一度実家に帰るよう勧める。久しぶりに父・昇山に会った苑生は!? 一方、太陽と佐帆の微妙な関係は…!?
簡潔完結感想文
- 父に何も言い返せない苑生。弟いるから自分勝手OKというワガママ三昧が目に余る。
- 太陽も恋心を自覚したけれど、両者何もしないまま時間が過ぎていく虚無期間突入。
- 男女5人で三角関係が2つ!? この手の複雑な状況を好むのに衝突させない作者の過保護。
連載期間も高校3年間も贅沢に使う 4巻。
『3巻』から本書は恋愛パートと、同級生5人がメンバーとなる花の何でも屋 B・Bカンパニーの活動の二本柱となった。
恋愛パートでは男女5人のメンバーで三角関係が2つ、静かに成立しているが、それを感知しているのは一部のメンバーだけで、三角関係によって彼らにとって恋の障害は多いという認識を確立させている。その内の1つ、太陽(たいよう)佐帆(さほ)苑生(そのお)の三角関係は、佐帆の主観であって、実は『4巻』で太陽との両片想いが成立している。登場人物たちは自分への好意に鈍感な人たちなので、気づかないまま膠着状態が続いていく。
この膠着状態の長さは なかじ作品の特徴で、両片想いを引っ張れるだけ引っ張って、青春の日々を浪費していく。彼らに告白できない理由は用意されていなくて、ただ勇気が出ないだけ。どの作品でも全員が同じ思考をしているのが、なかじ作品が代わり映えしない点だろう。争いを好まず、衝突させず、でも複雑な恋模様で読者をドキドキさせたいという作者の配慮(または独善)が同じような話を繰り返している原因だろう。
だから本書では その膠着状態を読者に感じさせないためにB・Bカンパニーの活動がある。この同好会があるため5人は自然に集まることが出来、胸キュン場面を自然に演出できたりする。そして恋愛成就がなかなか見られないために、B・Bカンパニーの活動内容が称賛されることによって読者に別のカタルシスを与えることが出来ている。何をやっても上手くいく彼らの快進撃に自分を重ねれば承認欲求が満たされる。


活動内容こそ規模が大きくなり、遣り甲斐を感じられるものであるものの、基本的に やっていることが寮祭(『2巻』)の頃と同じ。アイデアを形にするのに試行錯誤して、苑生が太陽の発想力に感心して、成功裏に終わる、というワンパターンが続く。花は丁寧に描かれているのだけど、こうも一方的に称賛されるだけだと飽きる。太陽と苑生が衝突したり、時間との戦いで苛々が噴出したり波乱があれば緊迫感が出るのだが、なかじ作品は平和を好み過ぎる。だから途中経過も結果も いつも同じ。
1つのイベントにおいて2人に与えられた課題がない。乗り越えるべき壁を用意していないから、天才・太陽が光り輝いているだけ。せめてイベントによって太陽・苑生が順番に主導権を握るとか変化が欲しい。イベントを経験して一歩一歩成長していく2人の姿が描ければ この期間も楽しかっただろう。でも作者は そういう長期的な視点を持たない。ただ主人公たちが称賛されることに気持ちよくなってしまっている。
繰り返しになるが、太陽のスキルも謎だが、苑生の自信過剰な態度も謎。今回、実家に帰っても何も自分の意見を発せなかったのに、自分の道は貫くという姿勢が見えて、一層 彼のことが幼稚な人間に見えてしまった。後述するが双子の弟・悠生(ゆうき)の扱いも可哀想。実家の援助は受けるが、実家の言いなりにならないという姿勢は最後の最後まで続く。それで成長した気になっている彼が虚しい。
冒頭で諏訪(すわ)が植物にまつわる多角経営をしている会社の御曹司だと言うことが発覚。諏訪はB・Bカンパニーにおいてのスポンサーの役割で配置されているのだろうか。
そして苑生は母親から太陽と一緒に自宅に いらっしゃい と書かれていた手紙を貰う。ようやく苑生は実家と向き合うことになる。諏訪も苑生もブルジョア。太陽だけが庶民、というのも白泉社ヒロインのようである。
帰宅した苑生の姿を久しぶりに見て母は涙、双子の弟の悠生(ゆうき)も つれない態度だが内心は嬉しそう。父は すぐには顔を出さないが、息子の選択を全肯定するという、なかじ作品らしい波乱の無さで、苑生が悩んでいた期間が彼の狭い世界のことでしかなくなる。
私には苑生の生け花と父親の手が入ったものの違いが分からないし、父親に何も言い返せない苑生、そして説教した割に苑生の作品を認める父親の感情が理解する よすが がない。それっぽいことを描いているようにしか見えないのは私の読解力不足と、作者の説明不足だと思う。悠生は伝統の中にこそ個性が発揮され、苑生は自由を得た方が才能が発揮されるという父親の見立てなのだろうか。華道の美を理解できない苑生の青臭さばかりが目立っている一方で、苑生は才能を与えられ、悠生は伸び悩むような印象を受ける。B・Bカンパニーのメンバーではない悠生は作者の寵愛を受けない、という区別に見える。双子の弟として配置したのなら もう少し悠生の道も示してあげればいいのに。
こうして苑生は自分の意見を何も言えないまま、家族から家出≒ワガママを許される。衝突も挫折もなく、両親からの教育と援助を自分のために使うモンスターの誕生、と思えてしまうのが本書の欠点ではないか。


クリスマスシーズン突入。このシーズンはB・Bカンパニーの女性メンバー2人の誕生日がある設定。けれど最初に触れられた芽(めい)の誕生日のことは顛末が分からないまま。なぜ取り上げたのか。佐帆(さほ)の誕生日判明の前振りでしかないのが可哀想。
そしてB・Bカンパニーの顧問である担任教師の妻が妊娠したということでクラス一同から花を贈ることになる(出産時でいいのでは…)。ここでも太陽の謎のセンスが発揮され、苑生の知識と合わせて方向性が決まる。
部室で太陽が作業しているところに佐帆も同席し、太陽の夢を応援する。その言葉に太陽の心は撃ち抜かれたようだ。茉莉花(まりか)へのサイレント失恋も曖昧な状況で、簡単に新しい恋が始まる。それが なかじ作品。作者の考えたカップリングが成立すれば それでいいようだ。
続いて生徒会から、来年度の受験生を招待するパーティーの飾りつけの依頼が舞い込む。学校見学にしては時期が遅すぎると思うが、作者の お花畑の頭では そんな些末な問題は無視される。
その大仕事のことを太陽が一番 最初に伝えたい相手は佐帆だった。喜びの余りスキンシップ過剰な太陽に対して佐帆は照れ隠しの暴力をお見舞いする。本当に小学生並みというか、昭和感のあるリアクションで幻滅。読者として素直に両片想いの成立を楽しめばいいのだろうけど。苑生の太陽に対するスキンシップも意味不明だが、作者の中で流行し続ける。これは太陽が苑生が佐帆を好きだと勘違いする材料にしたいのだろうか。女1男2の三角関係で男同士の関係性に女性が嫉妬する、というのは『ビーナスは片想い』でも見た構図だ。
もう一方の三角関係では諏訪が芽の苑生への気持ちに勘付いているが、諏訪は芽への気持ちを少しも揺るがせない。芽は苑生には緊張で何も言えないが、諏訪には遠慮なく物が言える。それは恋愛感情の有無が理由なのか、それとも安心感なのか。
当たり前のようにパーティーは大成功。B・Bカンパニーの快進撃は続く。
そして このクリスマスイブは佐帆の誕生日。メンバーがそれぞれ別れ、帰り道は太陽と佐帆の2人だけになる。そこで太陽は以前から約束していた誕生日の花のプレゼントを佐帆に渡す。太陽から佐帆への花の受け渡しは2回目。そして今回は太陽側の好意が その花に込められている。互いに好きなのに行動しない、なかじ作品特有の何も起きない状態が しばらく続く。
「HEAVENカンパニー」…
本編の主人公・太陽の いとこ の藤沢 茉莉花(ふじさわ まりか)が、「屋内外を問わず さまざまな生活空間に植物を飾る仕事をする人」、グリーンコーディネーターを目指す物語。バイトとして入った「HEAVEN」は そんな人たちが集まる事務所。
良い人揃いの事務所で辛辣な言葉をかけるのが荻倉 鉄哉(おぎくら てつや)。第一印象最悪の2人が、というパターンである。鉄哉は茉莉花が好きな空間を作った人。そして仕事に打ち込む姿を見て惹かれていく。新人女性が先輩男性社員に憧れる典型的なパターンである。本編なら佐帆が口の悪い苑生に惹かれるという感じか。
友人の結婚式での仕事の依頼が入り、茉莉花も担当を任される。悩みながらアイデアを形にしていくのは太陽と よく似ている。こうして満足のいく作品が出来上がり満面の笑みを浮かべる茉莉花に鉄哉は顔を赤くする。話に過不足はないが無味無臭なのが なかじ作品という感じ。優等生的と言うか個性や引っ掛かりがないと言うか。