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少女漫画と小説の感想ブログです

会話量が少ないままでも、花束をくれた人を絶対に好きになる分かりやすい恋模様

ZIG☆ZAG 2 (花とゆめコミックス)
なかじ 有紀(なかじ ゆき)
ZIG★ZAG(ジグ★ザグ)
第02巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★(4点)
 

佐帆や芽、諏訪たちと仲良くなり、同室の苑生とも少しずつ打ち解けてきた太陽。苑生の父・昇山の個展を見て、太陽はますます花に魅せられていく。そんなある日、太陽は寮長のジンジンから、寮祭の喫茶店の卓上花を任される。はりきって準備を始める太陽だが…!?

簡潔完結感想文

  • 苑生の父親の個展を巡り、彼の家族問題に介入するヒロイン的立ち位置の太陽。
  • 男子寮イベント寮祭でコーディネイトを任される素人・太陽。由来不明の謎スキル。
  • サイレント失恋をしたので いよいよ本命女子との交流が本格化。花は恋の必需品。

勉強せず天性の才能による快進撃の始まり始まり 2巻。

『1巻』の感想文でも書いたけれど、作者の作品は恋心のスイッチのオンオフが簡素すぎる。一度 恋心を発生すれば それは簡単に維持される。しかも現状維持で、どうしても その好意を相手に伝えたいとか、付き合いたいとか具体的な進展を望まず、その可愛らしい恋心は枯れることがない。

私の好みとは全く反するのは、その恋心が全く交流がないような状態で始まっていること。時間をかけて人となりを知るとか長所を知るとかではなく、直感的に恋に落ちる。その象徴的な動作が本書においては花を渡すことである。どうやら それが恋をするスイッチのようだ。本書は本当に花を貰ったから好きになるという機械的な流れが目に余る。佐帆(さほ)は太陽(たかあき)に花を貰い、芽(めい)も苑生(そのお)に花を贈られ好きになる。芽に関しては諏訪(すわ)も野性の花を贈っているから どちらを選ぶのか気になるところ。そして今回、太陽は失恋直後に佐帆から花を贈られ、それがフラグとして成立する。

佐帆の「やる」は照れ隠しにしても乱暴。小学生男子メンタルのヒロインは ちょっと…

ほんの些細なキッカケで好きになる気持ちは分かるが、それが育っていく様子を作者は放棄してはいないか。好きのスイッチが入ったら、一定の好意が延々と続いている印象を受け、募っていく様子とか我慢できない様子が感じられない。その辺が味気なく映る部分である。

そもそも絶対的に交流・会話量が少なすぎる。これも『1巻』の感想文でも書いたけど、目まぐるしく視点が移り、恋仲になる(かもしれない)2人での交流の描写が少ない。女性が男性を好きになる描写が あればあるほど読者も彼女の恋心に自分の気持ちを託すことが出来るのに、本書の場合は あっという間に好きになって、その後の落ち着いた会話は皆無である。

『2巻』のラストで初めて、佐帆の太陽との交流が苑生との分量を越えたのではないか。それに気づいたら笑いが込み上げてきた。それでも会話らしい会話はなく、イベントの中で一緒に過ごしただけなのだけど。

そして作者の作品において告白とは成就率100%の時にしか起こらないのだろう。何組かの内輪カップルが出来上がる本書だけど、実は失恋する者もいる。だが彼らは直接的に失恋せず、上述の通り、自分の中で恋心のスイッチを静かにオフにして、周囲(特に相手)に自分の想いを悟らせないまま「サイレント失恋」を覚悟する。そうすれば物語は濁らず、誰も嫌な気持ちにならないのだろう。けれど作者の都合で恋心を消滅せざるを得なかった人々の想いは まるで偽物だったのかという気になってしまい新たな不満となる。

今回は太陽がサイレント失恋しているが、彼にとって その想いは両親との同居ではなく寮生活を選ぶほど強いものだったはずなのに、その気持ちに静かに蓋を出来る程度のものに矮小化されていることに首を傾げる。作者には もうちょっとキャラの気持ちを大事にして欲しいと思う。


書のヒーロー・太陽は女の子と見間違えるほどの容姿を持っているという設定だが、そのまま太陽がヒロインの方が物語がスッキリするような気がしてならない。苑生の家庭の事情に介入するヒロインの役目を果たしているのも太陽だし、行事が苦手な苑生を巻き込んで彼にも青春を味わわせているのも太陽である。

男子寮の同室での出会いという物語の端緒が無くなってしまうが、この2人がカップルになった方が単純明快な物語になっただろう。佐帆も芽も読者が好きになるような手掛かりすら描かれず、気持ちを託すことが出来ない。それなら太陽が お節介ヒロインとなって苑生を巻き込み続ける方が2人の継続的な交流や会話が見られたように思う。

ただ その場合も苑生の身勝手さは変わらないため、太陽が苑生を好きになる意味が分からなかったかもしれない。苑生への違和感は↓の感想文で言及します。


屋を営む日向(ひなた)と関わるようになって太陽の毎日は花一色(代金を払っているのか、どこに そんなお金があるのか)。アレンジメントは初めてなのにリースやらブーケやら最初から上手く作れる謎の才能を発揮している。『1巻』で白木蓮の枝物の手入れ方法は分かっていなかったのに、佐帆(さほ)に対してはブーケの手入れを しつこく教えたという設定の曖昧さも気になる。

太陽は学校内で会った苑生の双子の弟・悠生(ゆうき)から苑生に彼の父親の個展のチケットを託される。苑生は それを逡巡の末、ゴミ箱に捨てる。苑生にとって華道は窮屈。「しきたりと伝統の上に あぐらをかいて、新しい物や他の者をみとめたがらない」という いかにも10代らしい狭い視野の意見を恥ずかしげもなく披露している。それに対し部外者で家の事情も華道のことも知らない太陽は苑生に簡単に切り捨てないように介入する。完全に太陽がヒロインの位置だ。

それでも苑生は迷い続け、学校内で会った悠生に挑発され、苑生が嫌味を言って2人は殴り合いの喧嘩となる。それを仲裁するのもヒロイン役の太陽。自分が殴られることで その場を収拾する。そんな太陽に苑生は自分は華道で父親に認められなかったと本音を漏らす。華道で父親を満足させられるのは いつも悠生で、苑生は劣等感と疎外感があった。そんな苑生に太陽は彼自身の価値を認める。完全に好きになっちゃう言動である。ただ太陽は何も知らない状態だから全てが表面上の言葉でしかない。なかじ作品って全部がそんな感じ。本当に相手のことを考えた上での、理性や配慮が感じられる台詞じゃない。その辺が薄っぺらさの要因となる。

恋愛的な意味ではなく、人が人を好きになる説得力が一番高いのが太陽と苑生の関係

太陽に誘われて ようやく苑生は個展に足を運ぶ。作品を見て太陽は涙し、苑生も かなわないと思いながらも実家や華道には戻らない。個展会場に居た父親と遭遇し、苑生は父に自分の道を行くと宣言する。彼が父の作品を見た上で どのような道を描いたのかが全く分からず、父親も それを寛容に受け止めるから、ますます苑生のワガママが悪目立ちしているように思う。そして苑生の問題は最後まで こんな感じなのが残念すぎる。これだけ家の問題を用意しながら、苑生の言う自分の道を明確に描かない。学費や生活費を払ってもらいながら、好きなことだけしていく。苑生は ただのワガママ二世、世間知らずの坊っちゃんでしかなく、全く格好いいと思えない存在だ。

太陽の謎の才能、苑生の謎の傲慢、作品の根幹が好きになれない。あと太陽が花が好きなことに対して登場人物に、男のくせにとか乙女とかデリカシーのない言葉を言わせる作者の神経が分からない。


子寮で寮祭が開催される。太陽は相変わらず花を佐帆に見せ、渡すことを続けており、それが佐帆の心で好意に変換される。太陽の佐帆への気持ちは無自覚だから出来るのだろうが、罪な男である。

この寮祭で喫茶店に使う食堂を花で飾ることを太陽は任される。しつこいようだが先日、初めてブーケを作った人間が どうしてここまで才能を発揮するのかが全く分からない。家柄のことを知った寮生が苑生に頼み込む、という流れなら分かるが、それだと絶対に拒絶されてしまうからだろうか。だから花での空間コーディネイトに太陽は苑生を誘う。これ本当に太陽がヒロインで いいんじゃないか。

花材の調達方法で、日向ばかりに甘えられない太陽は、諏訪(すわ)の伝手(つて)を頼るが、諏訪が紹介したのは日向の店だった。日向と諏訪は兄弟だったのだ。こうして花材の目途がつき、何だかんだで苑生を巻き込み寮祭の準備に入る。


の問題は花器。そこで太陽は食堂の食器を花器として使うアイデアを思いつく。
そして寮祭前日の夜、2人は準備を始める。今までの謎の才能は どこへやら、今回は太陽が やろうとしていることは上手くいかない。そこを実用的な知識で苑生が助ける。それ以外は太陽の謎の才能が発揮される。そして苑生の扱いが上手い太陽はメインの花飾りを苑生に任せる。苑生が作った作品は、太陽を感動させる。そこに太陽は彼が父親から譲られた血を感じたようだ。

寮祭には佐帆と芽(めい)、そして太陽が誘った憧れの いとこ・茉莉花(まりか)も顔を見せる。茉莉花は上司の男性と連れ立っており、太陽は名刺を貰い、太陽は2人の所属する「花や緑で さまざまな空間を彩る会社」のイベントに誘われる。


6月に入り席替えが行われ、太陽は佐帆の隣になる。でも佐帆の言動がガサツすぎて好きになれない。チビとか男のくせに花が好きとか、人に対するデリカシーが全く感じられず、小学生、それも小学生男子並みの知能と性格にしか見えない。
太陽が花好きだと知っている佐帆が放課後に紫陽花の綺麗に咲く場所に彼を連れて行き、そこで太陽は茉莉花の上司と再会する。ここで重要なのは太陽が この上司の技術や姿勢を認める という点なんだろう。

会社のイベントに一緒に行くのは苑生。またもや巻き込まれる。苑生父の個展の時と同じで、太陽はワクワクしてきたぞ状態に突入する。今は良い作品に触れて造詣を深める時期なのだろうか。


日、佐帆と一緒に居る時に今度は茉莉花と遭遇する太陽。太陽の好意は茉莉花に全く伝わっておらず、そこに上司が登場し、2人はデートっぽい雰囲気で立ち去る。こうして太陽は現実を知り、茉莉花への好意を萎ませていく。徹底的な失恋をしないのは なかじ作品の優しさか中途半端さか。

太陽の好意を見抜いていた佐帆は、今度は自分から太陽に花束を渡して彼を元気づける。こうして想いが叶わない時に拾う神が現れた。その花が向日葵だったため、太陽は「いつも太陽を見ている」という花言葉から佐帆からの好意かと尋ねるが、それを佐帆は暴力で誤魔化す。そういうところだよ、私が佐帆を好きになれないのは。

ラストおの球技大会で太陽は佐帆と男女混合ソフトボールで佐帆を巡って寮長の神原 仁(かんばら じん)と三角関係のような状況になる。太陽と佐帆は相変わらず会話量は少ないが、この回は交流があり、そして同じ目的に向かって同じ方向を見ていた。もしかして本書で初めて太陽が苑生との交流より、佐帆との交流が多い回なのではないか。