なかじ 有紀(なかじ ゆき)
ZIG★ZAG(ジグ★ザグ)
第01巻評価:★★(4点)
総合評価:★★(4点)
私立青風学園に入学した朝倉太陽は男子寮に入寮。同室には超マイペースの謎の人物・桐原苑生、隣室には小学校以来の再会・諏訪巽己が!? 一方、クラスでは佐帆や芽とも仲良くなり、ドキドキの新高校生活への期待は膨らむばかり! はなやかBoysグラフィティ★
簡潔完結感想文
- 描きたかったのは男女5人の群像劇&ジグザグな恋の矢印 なんだろうけど…。
- バカ騒ぎするクラスメイトに うるさい というだけで怖がられる変な世界。
- いっそ女性キャラを排除したらいいのに、それだと過去作の二番煎じなのか?
なかじ有紀ファンなら、の 1巻。
安定のなかじ有紀作品。どの作品も一定に楽しい。でも どの作品も一様に同じ。
本書の特別に出来が酷い訳じゃないのだけれど、ここまで長編3作品を読んでいて どれも同じ展開で同じような結末で、作者は こういう作品しか描けないのではないかという限界と、その世界を誰よりも作者が愛している自己満足を感じてしまった。
そして『1巻』や全体の構成が歪で、作家生活20年以上の作者の技量に疑問符が付くものとなっている。最初に提示された人物像が全てで、作中でキャラの成長や奥行きが出せていない。主要キャラを必ず幸せにすることも含めて作者がキャラを愛でるための世界=箱庭感が ずっと つきまとう。
私が これまで読んだ なかじ有紀 長編3作品の特徴はヒーローが専門分野を持っていることが挙げられる。『ハッスルで行こう』では調理師専門学校に通う男性が主人公で、『ビーナスは片想い』ではヒーローは考古学を学んでいた。
本書は花がテーマで、高校で出会った男女5人が花や恋に夢中になりながら、いつも通りの なかじ有紀的ハッピーエンドに到達する様子を描いている。
なかじ有紀ファンなら夢中になる世界観は変わらず、複雑に恋心が絡み合いながら、途中で作者によって丁寧に絡んだ部分が解かれて、誰も失恋しない見事な内輪カップル成立漫画となっている。作者が描きたいのはテーマとなる題材での成功と、ハラハラさせつつ軟着陸する恋模様なので、その人の どこに惹かれるのかとか、この想いをどう伝えようかという内面に深く踏み込まないのは相変わらず。私は この部分が なかじ作品で最も物足りない部分だ。手酷い失恋して落ち込むことがないから成長しないし、作者の思うままに恋心の矢印が発生していて その人個人の切なる想いとは感じられない。スイッチをオンオフするかのように切り替わる恋心は共感しづらい。
相変わらず中学生みたいな恋愛模様で、特に本書は全力で喧嘩・拒絶していた人を いつの間にかに好きになるという流れが多かった。本書は全員 魅力に欠けるというか、人となりが分からない作品だと感じた。その中でも特にヒロインたちに魅力を感じず、男性たちは彼女たちの どこを好きになったのか分からなかった。そろそろヒロインの方が才能に恵まれているという設定が見てみたい。


そもそも この作品に女性がいる必要性を感じない。
舞台は2年前に共学校となった私立高校。主人公は その男子寮に住むのだが、その寮に住む愉快な仲間たちでも話は成立したのではないか。どうしてもヒロインを用意して恋をさせる必要があるなら、隣の女子高とか そういう一つ距離を置いた関係性の方が距離が近づく過程も描けたし、物語も落ち着いただろう。
恋愛させる必要性はないけど、少女漫画だから恋愛させないとね、という感じでヒロインたちが配置された印象を受ける。それなら いっそ最初から居ない方が物語の輪郭がスッキリするのでは とすら思ってしまう。
本書の欠点はズバリ欲張りすぎ、ではないか。寮生活・花との関わり・恋愛と描きたい要素が詰め込まれすぎ。特に『1巻』は漫画が下手、だと率直に思った。作者は どうやら同じ高校の5人の男女の群像劇が描きたいようなのだけど、その5人の視点が短いスパンで飛ぶ。だから誰の人となりも理解できないままで、作品内が騒がしいだけに感じられた。
読書中、次々に場面が切り替わるので、音楽鑑賞で言うところの「音飛び」している感覚に陥った。そんな違和感と不快感が ずっと つきまとったまま『1巻』が終わった。残ったのは ぎゃーぎゃー騒がしかったという記憶と耳鳴りだけ。しかも過剰な騒がしさというノイズを除去すると主旋律は貧相である。登場人物を駆け足で紹介しないといけない1話が落ち着かないのは ある程度 仕方がないけれど、その感覚が最後まで続く。良かったのは主人公たち2人の男性が同じ釜の飯を食うではなく、同じ風呂の湯に使った2話ぐらいではないか。その後も個人回や特定の2人の関係に重きを置けばいいのに、5人全員を一気に描こうとして失敗しているように思えた。
この時点でデビュー20年を超えているベテラン作家なのに、ここまで話の運び方が下手なのは いかがなものか。恋愛描写は中学生レベル、内輪カップルを基本にするのなら それで構わないが、もっと作品の全体の構成を整えるとか、描くべきことを しっかり描くとか作品の質を上げられる部分は たくさんあるだろう。
特に本書では作者の手書きで状況を説明する手法が悪目立ちしている。妙に高いテンションで「これこれ こうしてる(笑)」みたいな説明文を見る度に、それを話の流れや絵で表せ、と腹立たしさを感じた。デビュー20年以上で若手の頃と同じようなテンションで自分語りをするのも今回ばかりは、その頃のまま成長していない作者の内面が出ているように思えた。
気になったなのは、主人公の太陽(たかあき)の園芸スキルと知識のチグハグさ。『1巻』のラストで太陽は初めて花でブーケを作り、その才能を発揮する。一方で憧れているイトコの影響で園芸雑誌を何冊も購読しているはずの太陽は もらった花の枝物を ただ花瓶にさす。同室の生け花宗家の嫡男・苑生(そのお)との交流のためという必要性があるにしても、太陽の設定も あやふやで これが作品への不安に繋がってしまう。


連想して笑えてきたのは、天才型で才能の輝きを見せる太陽は『ドラゴンボール』における孫悟空で、彼と呼吸が合わないながらも永遠のライバルになる苑生はベジータのように感じられた。本書からは2人の性格が あまり見えてこないので、むしろ こっちのイメージで、戦闘民族が同じ寮の同室にいる違和感が面白く、作者は そういう いい意味でのチグハグさが描きたかったのかなと理解できる部分があった。
奇しくも直前に読んだ餡蜜さん『高嶺の蘭さん』と同じく園芸男子が登場する作品。ただ『高嶺~』が素晴らしかっただけに、悪い比較になってしまったように思う。
太陽は本当に ずっとオラ ワクワクすっぞ、と言っているだけで、才能だけで人生を進んでいく。実になかじ作品らしいイージーモードだな と溜息が出た。この後、太陽がバイトを通して知識を得るなどの描写もない。参考文献からの うんちく だらけになって文字量が多くなるのも嫌だが、太陽が理由なく無敵という設定が私は落ち着かなかった。
一方、苑生は才能に家柄という理由があって、家の問題と対峙すべきだったのに中途半端にしか着手しなかった。どうしても苑生は自分勝手にしか映らず、双子の弟・悠生(ゆうき)を用意したのは苑生の自分勝手さをフォローする存在(生け花宗家の後継者としての価値)として用意したようにしか思えなかった。
親や社会、全ての環境が彼らの才能を認め、許し、仲良しごっこを続けたまま人生は続く。悪い人がいない、悪いことが起きない人生は人類の夢なのだけど、ユートピアは きっと退屈である。『ビーナスは片想い』でも書いたけど、なかじ作品は苦労の裏の成長のないモラトリアムワールドだと改めて思った。出会った人と ずっと一緒の環境でいる、というピーターパンのような夢から いい加減 覚めて欲しいと思う。
主人公・朝倉 太陽(あさくら たかあき)が父親の転勤先である沖縄についていかなかったのは、この街には茉莉花(まりか)という女性がいるから という動機が語られる。その茉莉花は2話目で いとこ だと語られる。
男子寮に入った太陽だったが、同室の桐原 苑生(きりはら そのお)はマイペースで同居には向かない。この苑生は双子で、弟の悠生(ゆうき)同じ学校にいるのだが、元々 兄弟は同じ学校に入学予定で苑生だけ寮暮らしを選んだのだろうか。その辺の経緯は最後まで明かされない。作者の脳内設定はあるだろうに、それを読者に伝えてはくれない。
寮長である2年生の神原 仁(かんばら じん)はカリスマ性のある人で、隣室には太陽の小学1年生の時の同級生・諏訪 巽己(すわ たつき)と一気に作品が賑やかになる。男子寮の話オンリーでも十分に作品は成立したのではないか。
諏訪が好きなのは小田切 芽(おだぎり めい)という女子生徒。その友達として剣淵 佐帆(けんぶち さほ)が登場する。3人は同じ中学出身。佐帆は暴力で人に意見を言う人で、芽は佐帆の影に隠れて意見を言う。2人とも どうかと思う性格をしていて最初から好きになれそうもない。ちなみに佐帆は寮長・神原 仁の いとこ。男性は いとこ の女性に恋をする という事例が作品内で2つも出ているのは意図的な設定なのだろうか。
ガサツで荒っぽいところのある佐帆を最初に女の子扱いしてくれたのが太陽である。ここでフラグは立つのだが、この後の2人は暴力の応酬のみ(主に佐帆から)。それなのに いつの間にかに好きになっているから意味不明な部分が多い。単発的な交流で少し褒められたら恋に落ちる。短絡的で直線的な恋で、友達関係から好きになっていく というのが作者の王道路線なのだろうか。
2話目で茉莉花からガジュマルの木が届くが、いつまで登場するのやら。全く部屋にある気配が無かった。いつまで描かれているか注視していきたいと思う。
この回の主題は苑生との交流。苑生は寮の風呂を使わず銭湯通いをしている。知った顔ばかりで落ち着かないというのが苑生の意見だが、それは彼が まだ寮に馴染んでおらず部外者だからだろう。
太陽は苑生たち桐原双子の遭遇に立ち会い、苑生の境遇を垣間見る。そこで苑生に説明を求めるが拒絶される。それでも太陽は苑生が弟の発言に へこんでいるのを見てとり、彼を励ますためにコーヒーを淹れる。その交流で2人の距離は縮み、太陽にコーヒーをこぼされ苑生は初めて寮の風呂を使う。これにて2人の距離はゼロになったようだ。あっという間すぎる。
太陽と佐帆は喋れば言い争いになる関係。一方、苑生と芽は会話すら成立しない関係だが芽からの恋の矢印が発生する。苑生がクールというより、太陽・諏訪・佐帆の3人が幼稚。それを怖いと評する芽も見る目がない。そして諏訪の良い所を何度も確認しながら苑生に惹かれていくのも私には分からない心理だ。


苑生が芽が半分に切ってくれた消しゴムの お礼に、消しゴムと同じキャラクタのマスコットを渡しているが、彼が そのキャラクタの商品を放課後の僅かな時間で買っているのも謎。そもそも そういうことに疎いだろうし、どこで買っていいかも分からないタイプじゃないのか。それなのに翌朝には お礼を用意している。芽も言っているが どんな顔して買ったのかは興味ある。
本書において花が重要なアイテムであることに異論はないと思うけれど、ここで もし苑生が芽に花をお礼に贈ったら、そこで2人の恋は成立していたのだろうか。今のところ太陽→佐帆、諏訪→芽に花が贈られているが、苑生が女性に花を贈ったら それがフラグ成立の合図となるのだろうか。
ある日、太陽は近隣の裏路地の奥で花屋・アトリエひなた を営んでいる男性・日向(ひなた)に会う。店内はセンスと愛情に溢れているが、立地と認知度に難がある この店のことを宣伝するために太陽はミニブーケを作ってワンコインで売ることを提案する。鮮やかな手つきで花をアレンジする日向に太陽は目を奪われる。太陽と途中で巻き込まれた佐帆によって花は完売。
協力した御礼の代わりに太陽は自分でもブーケを一つ作らせてもらう。初めての作業で才能を発揮する太陽。日向にも佐帆にも褒められた そのブーケを帰り道に佐帆に渡す。これもまた2人のフラグなのだろう。あとは太陽の中の茉莉花の存在が消滅するのを待つだけか…。