餡蜜(あんみつ)
高嶺の蘭さん(たかねのらんさん)
第08巻評価:★★★☆(7点)
総合評価:★★★☆(7点)
蘭が部長を務める園芸部に入部してきた苗農家の息子・恵。家業を嫌う恵は、生き生きとお花屋の仕事を手伝っている晃を見て、思わず心にないことを晃に言ってしまいます。そんな中文化祭当日、恵が行方不明に。心配する蘭と晃。すると晃はある場所へ向かいーー!? そして、後夜祭では蘭は晃と人目をぬすんで2人きりに…!!? 高嶺女子×お花屋男子のピュアラブストーリー、第8巻!
簡潔完結感想文
- 晃が実家が花屋を公にして完全体に。だから2人の関係もキスより先に進む。
- 女性ライバルは完全撤退が絶対条件だが、当て馬は宙ぶらりん状態が許される
- 友人によって性知識を吹き込まれた蘭は交際初期のように晃を意識しまくる。
2人の交際の様子より新キャラの造形に注目が集まる 8巻。
相変わらず新キャラの立ち位置が痺れる。何度も言って申し訳ないけれど、私はライバルや当て馬の登場&跋扈(ばっこ)には辟易するタイプである。けれど本書は そのライバルたちが良い。新キャラの登場は作品として連載を延長させる手段なのには変わりはなく、恋愛や交際に波乱を起こす存在でありながら、実は その新キャラと同性の人物との類似性があるという点が よく練られている。
女性ライバルであった七美(ななみ)は蘭(らん)と似ていないようで似ていて、逆に似ていたけど似なくなった恵(めぐむ)と晃(あきら)は それぞれ こじれてしまった関係を自分の力で修復する。七美と蘭の友情問題に晃が口を出したり、恵の問題に蘭が介入し過ぎて晃と関係性が悪くなったりしないように調整しているのが素晴らしい。もし今回、恵の自己肯定感を蘭が回復させてしまうと、恵は ますます彼女に惚れてしまい収拾がつかなくなる。だから晃が恵の対応にあたり、恵が蘭を諦めないけれど 晃のことを彼氏として認める、という絶妙な塩梅に止まらせているのが素晴らしい。
そして恵という園芸男子であることにコンプレックスを抱える存在を登場させ、晃が もう一皮むけて、蘭以外の人にも自分が花屋の息子であることを公にするキッカケを作るという流れが自然に生まれている。
これは七美の登場によって一度は自分が身を引こうとまで考えた蘭が、そうしたことで起こる未来に涙し、自分の本当の願いを見つけ七美と正面から ぶつかることを決意したのと同じ構成だろう。晃は一度は園芸男子である自分を捨てて、自分の好きから逃げたけれど、母の入院があって ギリギリのラインで自分が何が好きかを再確認した。そんな晃だから、男性でも花に携わること、花を好きでいることを肯定的に捉えられるという前例となっていて、晃だからこそ恵を踏みとどまらせることが出来たと言える。


好きなのは、晃に暴言を吐いた自己嫌悪を花に八つ当たりしようとした恵を晃が寸前で止めたシーン。この時、本当に恵が花を滅茶苦茶にしたら彼は自己嫌悪と後悔で花に関わることを止めていたかもしれない。上述の通り、荒れた恵の心を蘭ではなく晃が自分の姿勢を見せることで正そうとするのが良いし、晃が身動きの取れない蘭に代わって恵を捜し、そして彼のいる場所に見当をつけて即座に見つけたことで晃は恵のヒーローになれた という流れが心の底から好きだ。
恵は本当は好きなことに対して気持ちに蓋をして それが悪態になって出てしまう不器用な人。それは七美が恋心に向き合う経緯と似ている。いや蘭も晃も同じだ。皆、遠回りして自分の気持ちに素直になっている。そこには失敗してもいいんだよ というエールや、素直になりなよ という作者や作品からの応援も感じられる。
蘭は晃にワガママを言えるようになって、七美に負けない気持ちを言えるようになってから2人はキスをしたように、今回は晃の再成長があって2人はキスより先の関係を視野に入れている。肉体的な接触にドキドキする様子は初期の頃を思い出した。お泊り回に突入したが、次巻に持ち越す「するする詐欺」の前に、しないことが確定するかのような闖入者が登場して『8巻』は終わる。しないのかよ という落胆もあるけれど、闖入者が どういう反応をして、どんなバトルが繰り広げられるのかが楽しみでもある。
「Episode 29(お花男子)」…
文化祭当日、園芸部のワークショップに恵(めぐむ)が顔を出さないので蘭のワンオペとなる。その状況を知った晃が恵を捜し、花壇の花に八つ当たりしている彼を見つける。子供にとって男児にとって花は関心の外にあるもの。誰にも見向きされないのに家業だから強制的に手伝わされる、その報われなさに恵は参っていた。
そんな恵の自分語りを強制終了させ晃はワークショップに彼を連行する。そこで恵が目にしたのは嬉しそうに楽しそうに作業する生徒たちの姿。蘭は恵を見かけ、サボっていたことを怒らず心配したと彼を叱る。その蘭に言葉に渋々従い、恵は園芸部員に戻っていく。
恵に園芸男子が恥ずかしくないところを見せるために晃は自分が花屋の息子でスキルがあることをクラスメイトたちに告白する。驚く一同の中で、悠哉だけは同中で既知だから、友が一皮むけたことを喜んでいるように見える細かい描写が良い(ただ小学校からのクラスメイトなんだけど)。晃は花は恵の家のものだと皆に教え、農家の喜びを与えようとする。褒められることになれていない恵は赤面する。自己肯定感が回復したのではないか。
「Episode 30(サンストーン)」…
後夜祭、蘭は晃への独占欲から2人きりで行動する。誰もいない夜の校舎は いつもと違うように見えて胸が高鳴る。特に2年生になってクラスが分かれた2人にとって一緒の教室にいることは特別なことに なりつつある。
この回で晃が ずっと身に付けていたブレスレットについて語られる。もしや宗教やスピリチュアル的な物かと疑っていたが、これは母の入院後、店の手伝いを決意した晃に父親が渡してくれた物だった。サンストーンという石のブレスレットを父親は店を照らす太陽にと思い身に付けていた。それを手伝いを決意した晃に手渡すことで、彼が太陽になることを願った。花のためにも もう二度と太陽が隠れないように という願いも込められているのかもしれない。


晃にとって花屋の息子という情報を公にするのは少し覚悟のいること。でも蘭が肯定してくれたことで彼は前向きになれた。この前身で2人の関係性もまた進展し、何回ものキス、そして愛撫が始まる。いよいよ次は… ということを匂わせている。
恵は文化祭後から実家に戻っていた。父親が腰を痛めて無理が出来ないこともあり家族経営の この農園を支える決意をしたようだ。これは晃の手伝いと同じ覚醒と言えよう。
こうして恵は正式に園芸部員となり、部のインスタを開設する。これは園芸男子として芸能界にスカウトされるための準備。そして蘭と仲良くなるツールとしてもインスタを活用する。晃とは蘭を巡るライバルのようだが、仲の良い兄弟や親戚のように2人は気の置けない関係性になったように見える。
「Episode 31(ナデシコ 花言葉:大胆・純愛)」…
2回目の夏休み、海に誘われた蘭は その海の近くに別荘があると発表し、仲良しグループでの お出掛けが決定する。海回そして お泊り回の始まりである。
ただでさえ精神的な距離が近くなった2人には お互いの肌の露出の多さは興奮材料となる(笑) その上、蘭は晃に日焼け止めを塗って頭に血が上る。『4巻』のクリスマス回でのハンドクリーム塗り込みと同じぐらいエロティックである。この後も肌と肌が直接 触れる状況に蘭はパニック。交際直後の蘭に戻ったようである。
けれど触れ合うことは安心することでもあって蘭は晃と離れ難い気持ちを覚える。それは もっと近づきたいという本能的な欲求に繋がっていく。
「Episode 32(夏の夜)」…
初めて自分からキスをした蘭。こうして1日が終わろうとしていたが、酔客に智香(ともか)が絡まれ、そこから暴力行為が発生する。一般的な少女漫画ではナンパ男たちはヒーローの視線一つで怯んでしまうが本書は山田(やまだ)がタコ殴りにされ警察沙汰になる展開を見せる。これによって山田は正式に智香のヒーローになったようだ。
智香は山田の付き添いで病院に向かい、蘭と晃は先に別荘に向かう(悠哉はバイト)。やがて治療を終えた山田だったが、安静にした方が良いということで智香と一緒に帰路につく。情報が回ってきた悠哉も気を回し、別荘は2人きりになることが判明し、蘭は帰宅を選択する。だが最寄りのバス停の最終バスは出てしまい、歩いて駅に向かっても最終電車に間に合わない。つまり2人きりで夜を過ごすことが決定的となる。
この状況に蘭が緊張していることを察した晃は何もしないことを暗に伝える。その晃の発言を残念に思う部分もあった蘭は、先に寝入ってしまった彼の寝顔を触る。すると晃が目を覚まし、驚いた蘭がバランスを崩し密着。晃の鼓動が高鳴っているのを聞いて、2人は同じ緊張と昂りを感じていることを認識する。そこから愛撫が始まり、晃は蘭の了解を取って、大人の階段を上ろうとする。