《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

文武両道の園芸部ヒロインは100mを11秒フラットで走っちゃうぞ★(日本記録は11秒21)

高嶺の蘭さん(2) (別冊フレンドコミックス)
餡蜜(あんみつ)
高嶺の蘭さん(たかねのらんさん)
第02巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★☆(7点)
 

夏休み、ひまわり畑へ行くことになった蘭と晃。蘭の手作りのお弁当を一緒に食べたり、晃の家族の話を聞いたりして、少しずつ距離を縮める2人。とても楽しかった蘭は、別れ際に「また会いたい」と晃に伝えます。2回目のデートの約束をした2人は、浴衣を着て花火大会へ行くことになり…!?「別冊フレンド」にて大人気連載中! 高嶺女子とお花屋男子のピュアラブストーリー、第2巻!

簡潔完結感想文

  • 序盤のお出掛け率の高さは2人の急接近と、学校で噂にならないための方策なのかな?
  • 初の学校イベントは体育祭。一緒の委員で一緒の競技に出て 通常の3倍のお姫様抱っこ。
  • ヒーローの家庭の事情が2人を恋愛から遠ざける。まるでクライマックスのような展開。

3歩進んで2歩下がっていく 2巻。

2巻かけてヒロイン・蘭(らん)の心から晃(あきら)への好きが溢れ出しそうになっているが、そこに作者はブレーキをかける。それが晃の家庭問題である。ここ数年 体調の優れない母親の入院で晃が一直線に蘭に向かえない事情を創出する。当て馬やライバルという障害となる人ではなく、障害となる事情を用意しているのは本書らしい優しさだ。そして蘭の方が恋に浮かれている自分に気づかされるというアンチ恋愛脳のような展開は読者の意表を突くような展開だった。

晃は家族の思いを熟知し、仕事に関わっている。高嶺にいるのは彼の方かもしれない

一般的にヒーローの家庭問題はクライマックスに出ることが多く、そこにヒロインが介入することで彼の家族から認知され そして存在を容認される。ヒーロー側の問題解決は恋愛解禁と ほぼ同義であるため、本書も この問題が終わったら2人の関係に変化が見られるのだろうか。

いきなりヒーロー側の問題が出てきたのは本当に最終回を迎える予定だったからなのだろうか。掲載誌の別冊フレンドは2巻8話で連載を区切ることが多い。連載開始後の手応えで それが延長されるというパターンが よく見られる(例:渡辺あゆ さん『L♥DK』)。

確かに そう考えてみると、一度 限りなく近づいた2人が、席替えや晃側の家庭の事情で これまでより疎遠になって蘭は不安や寂しさを覚えている。そうやって離れてからの急接近をすれば その落差によってハッピーエンドの喜びへの幸福感のエネルギーが生まれる。『2巻』のラストで蘭が晃に告白し、それに晃が応えればハッピーエンドである。そう考えると本書は いつでも終わらせられる状態にあるような気がしてきた…。


別冊フレンドらしいのは肉体的な接近やスキンシップなど胸キュンを重視しているところだろう。晃が蘭を高嶺の花認定していないからということもあるが、晃は割と気軽に蘭に触って、それに蘭は即座に反応している。作風的には気持ちの接近によって、接触しないまま心が高鳴るという展開でも良いと思うのだけど、少女漫画らしい俗物的な内容になっている

実は話が直線的というか単純明快なのも本書の特徴だろう。忍ぶ愛とか秘密の接触とかではなく、割と会いたいという気持ちをストレートに伝え、自分の意志が明確な2人である。この辺は さっさと結論が欲しい2010年代後半のリアル読者のために、分かりやすく、早く話を進めるという方針もあるのだろうか。

物語が単純に見えるのは、現時点では登場人物が2人だけだからだろう。高校生の2人ながら学校の描写は少なく、クラスメイトもいるだけ。蘭が彼らと仲良くなって複数人が動くようになったら少し深みが出てくるだろうか。今は本当に描かれていることしか読み取れない。


「Episode 5(夏咲きツツジ 花言葉:愛の喜び・情熱)」…
夏休み中にも晃に会いたい気持ちを伝え、2人は夏祭りに行く。2話以降 出掛けてばかりだ。2人とも浴衣で着飾り、それが特別な演出のように思える。出店を一緒に回り、蘭は晃から勧められた この神社に植えられているツツジのイヤリングを購入する。デートの思い出として形に残るものだ。晃は蘭から花に関わる自分の態度を褒められ、それで好意が募ったのか、彼女にイヤリングをつけてあげる。晃は なかなか距離感が近くて何だかんだスキンシップが多いような気がする。2人とも好意が ダダ漏れている。

途中で晃の友達のクラスメイトたちと遭遇し合流。ただ男子生徒との一線を感じる蘭は どう接していいか悩む。それを晃が察したのか結局2人で抜け出し2人だけで並んで花火を見る。そらは蘭の願いで、そして晃はクラスメイトに この日の蘭の美しさを見せたくなかった。晃の花への愛情は深いのである。朱色のツツジは2人の心の色なのだろう。

「Episode 6(キンオクセイ 花言葉:初恋・謙虚・真実)」…
新学期は学校イベント・体育祭から始まる。蘭は、クラスメイトに推薦され晃と体育祭実行委員になる。責任感の強い蘭は本番に向けて猛特訓を始める。体育の授業での計測で蘭が100mを11秒フラットで走る場面があるが、日本記録は11秒21。もう高嶺の花とか そういう次元じゃなくなっている…。こういうの作者も編集者も調べたりしないのだろうか。

蘭は晃と参加する「嵐のかけおち」の練習に余念がない。これは途中で女子生徒が男子生徒に お姫様抱っこされるセクハラまがいの競技。実は この作品、スキンシップによる胸の高鳴りが多かったりする。

読者にリポートするために蘭は五感をフル稼働。意外と変態の素養がありそう…?

そして本番当日を迎えるが練習をしすぎた蘭の靴が壊れてしまうアクシデント。それでも晃の掛け声で蘭は裸足で走り出す。ようやく お姫様抱っこに移行するが、蘭が落とし物をしたため晃が引き返し、通常よりも3倍ほど お姫様抱っこ状態は続く。晃は勝利よりも蘭の落とし物を優先するが、それは晃の花を大切にする姿勢にも繋がっているだろう。

蘭が気落ちしないようにか、この競技は得点に加算されないという設定が後出しで追加される。一緒に委員をした男女が身体的にも精神的にも くっつくためのイベントなのだろうか。

「Episode 7(バラ 花言葉:愛・美)」…
母の誕生日が近づき、蘭は晃の実家の花屋に お花を頼もうと足を運ぶ。しかし お店は臨時休業。翌日、学校を休んだ晃を心配し蘭はノートのコピーを彼に届けようとする。すると晃は店に出ており、そこで退院した母親の体調が悪くなり再入院したことを聞く。この週は店が忙しいため晃は学校を休んでまで手伝っていたのだ。

その話を聞いた蘭は手伝いを申し出る。蘭はスケジュールがいっぱいのはずだが、塾がリフレッシュ週間で お休みという便利な設定が持ち出される。こうして蘭は お店の雑用を担う。店の作業を行うスペースが狭いため晃と肩があたる。またもスキンシップである。席替えで学校では少し疎遠になってしまったけれど、蘭は店での晃の様子を長時間 眺めていられて嬉しくなる。

この店は晃の生まれる前年に両親が開いた店。彼らが店を宝物と思っていることを知っていた晃だが、自分の周囲に当たり前にあった花が他のクラスメイトでは そうではないことを知り、晃は流されるまま花から遠ざかる日々を送っていた。だが中学生の時、母が倒れ、自分が大切なものから目を背けていたことを痛感する。だから今の晃は お店を支えられる存在になろうと汗を流している。

休憩時間に蘭が選んだ花で晃が花束を作る。それは晃が母親の病室に飾るためのもの。お店のこと母のことと心労を抱える晃のことを考えると、蘭は自分の浮かれていた心を反省する。

「Episode 8(パンジー 花言葉:もの思い・私を思って)」…
浮ついた心を捨てて蘭は仕事に集中する。そんな蘭の頑張りすぎる心を晃はコントロールしてくれる。

蘭が病室に飾る花を選んだこともあり、晃は母親への お見舞いに蘭を誘う。母親は晃の言う通り おしゃべりで自由奔放で元気が取り柄の人。だからこそ この一家は母の不在で暗くなってしまったのではないかと思う。
分からないのが時間の進み方。私の読み方では蘭が花束の花を選んだ翌日に お見舞いに同行しているのかと思ったが、どうやら1週間ぐらい経過しているらしい。誘われたのと実行したのが別日なのだろうか。よく分からなかった。

晃の優しさは母親も認めるところ。そして そんな晃が一緒に見舞いに来てくれた蘭もまた母が花束からイメージした通りの優しい人なのだろう。
これで蘭は晃一家全員と顔を合わせたことになる。少女漫画的には婚約も同然である。しかも早い段階からヒーロー側の家庭の事情を知って介入していてヒロインの資格も得ている。

母親の体調は よくずっと喋っていたが、蘭は自分の存在が母子の語らいを邪魔したのではないかと気になる。そこで一緒に帰っていた晃に病室に戻るように言い、晃も蘭の気遣いを理解し、それを了承する。寒くなってきた気候を心配し、晃は蘭に着ていたジャケットを羽織らす。
これは晃という優しさに包まれる蘭の花なのだろう。ただ蘭は彼と一緒にいたいというワガママが言える状況でないことを痛感している。