《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

年齢差を縮めるため足を痛めながら履く心のハイヒール。それを脱ぐのは貴方に愛された時

ベイビィ・LOVE 5 (集英社文庫(コミック版))
椎名 あゆみ(しいな あゆみ)
ベイビィ★LOVE(ベイビィ★ラブ)
第05巻評価:★★★(6点)
 総合評価:★★★(6点)
 

なにかとせあらに突っかかっていた柊平のクラスメート・由希は、この気持ちが“恋"だと気付く。一方、ある誤解からすれ違い始めるせあらと柊平。由希の接近により、事態はますますこじれて…!? 超キュートなパワフル・ラブコメディ、目がはなせない最終巻。【特別企画】「ベビ・ラブ×せあ・ラブ」ラブ・キャラFILE

簡潔完結感想文

  • 誤情報があったとはいえ確かに揺らぐ せあら の心。これで浮気は お互い様!?
  • クリスマスの二の舞になると見せかけて ならないことで描く2人の関係の発展。
  • わがまま の上に成立していた同居解消で、監視付きの健全で一般的な交際開始。

の日を乗り越えた先に結婚式まで続く道が拓ける、の 文庫版 最終5巻。

季節が一巡して1年間の同居生活の終了で幕を閉じている構成も美しく、両想いになっても せあら は柊平(しゅうへい)との夢を叶えるために努力を続ける姿勢が見られ、せあら が1話と同じ動作を最終話でするのも良かった。この1年で2人が中学、高校に それぞれ進学し、一歩 大人に近づいたことも印象的だった。
本書の『基本データ』作成のために告白・両想い・キスをカウントしてみると全45話の14話・29話・43話と恋愛イベントが均等に配置されていた。偶然かもしれないが、この配置も作者のコントロール下にあるとしたら本当に作者は凄い。複数のキャラを同時に動かせるし、先の見えない連載の中でも きちんと作品の形を整えられる能力が作者にはあることが分かった。だから2025年に1995年開始の30年前の作品を読んでも面白いと感じるのだろう。低年齢に受ける似たような絵が多い「りぼん」の中で何作も連載を続けられる作家さんは内容も面白いのだと改めて実感した。本書も設定は突飛な部分はあるが、他の少女漫画作品に負けない背筋の伸びたヒロイン像が好印象だった。

また初読では単純に お互いを好きになる当て馬とライバルが同時に襲来するだけの中学生編だと思ったけれど、読み返してみると2人が弱さを含めた等身大の自分に戻っていく様子が上手く描かれていると感じられた。

ヒロインの せあら は3歳年上の柊平に追いつきたくて背を伸ばして、精神面でも背伸びを続けていた。彼女は ずっと心にハイヒールを履いたような状態で、だからこそ少しでもバランスを崩すと心が壊れるほどに倒れてしまう。せあら は ずっと柊平に相応しい自分を理想に描き頑張ってきて、実際 その頑張りが彼女の強さになっている面もある。だが それは他者に自分を合わせるということ。柊平の価値基準で自分を捉えるから、彼が望むような胸部がないことがコンプレックスになったり、柊平のために生きてしまう。

でも せあら は この文庫版『5巻』で初めて等身大の自分が柊平から愛される実感を覚える。それに柊平以外の男性にも少し ときめくことで彼以外の世界があることを知り、その上で改めて柊平に恋をする。世界の中心が柊平だったという偏った見方から、改めて自分の価値基準で柊平を見直しているように思えた。

それは柊平も同じ。作中で彼は何度も失敗する。何でもスマートに こなすように見えて実は彼は不器用で、作中で彼の友情は3度壊れかける。どの友情も何とか修復したが、失敗続きの恋愛と同じく、彼は自分が人間関係を円滑に進められない人間だと思い知っただろう。そんな自分を認めた上で、柊平は せあら に成長を誓う。せあら の大きな愛に守られる自分ではなく、せあら を守れるような自分になること。それが彼の今後の目標となり、それは一生をかけて果たす約束となるはずだ。身長が人よりも高く、せあら から見れば大人に見える彼も まだまだ成長途上の青年であることが描かれていた。


庫版『5巻』の中盤、2人は正式交際後 初めての別れの危機を迎える。
この直前 せあら はクリスマスの別れ(文庫版『3巻』同様)、絶望により床に臥せっており、久々に柊平と話し合う。しかし一気に復縁すると思われた2人なのに、信用が出来ないなら別れようと別れ話に到達してしまう。

両想いや交際は全てのゴールではない。交際中も不安は襲い、それに負けると終わる

しかし ここで互いの不安を吐き出し合ったことで、2人は初めて あのクリスマスを乗り越えたのではないかと思えた。クリスマスの夜、せあら の前から柊平がいなくなったように、その後には せあら が無断で渡米してしまって柊平の前から姿を消した。大切な人が いなくなる絶望を知った2人だから、関係が突然 壊れる恐怖を覚える。せあら の方が揺らぐ鳴海(なるみ)のエピソードは全体的にクリスマスの再現で、過去とは違う道を選べた2人の姿を描いているように思えた。

これで柊平の過去の蛮行の全部が帳消しになったとは思えないが、作品内で出来る限りフォローしようという作者の姿勢と一定の成功を収めていて評価に値する。そして このエピソードによって せあら は急いで大人になった自分ではなく、今の年齢の等身大の自分が柊平に認められたように感じている。2人の間に未だに年齢差はあるが、そこは2人の間で問題ではなくなった。これは2人の交際が確かに前進と感じられた。


純に同じようなことを繰り返しているように見えて、ちゃんと違うことを描いている。ここが作家の腕の見せ所。人気作でも本当に再放送が続く作品と、そうでない作品は質が違う。2025年現在も活躍するベテラン作家の作品を今回 初めて読んだけど、割と初期の作品で低年齢向け作品ながら、ちゃんと矜持が詰め込まれていることを感じ取れた。

また男性のタイプが違うことも面白かった。柊平は上述の通り少し不器用なほど馬鹿真面目。その後 途切れることなくモテていく せあら だが、男性たちは顔は似ているが、性格が違った。雷(らい)は元気なスポーツマンタイプ、昴(すばる)は同級生の優しい男の子、鳴海(なるみ)は色気があるプレイボーイタイプからの熱烈に愛してくれる人になる。他にもコウや二階堂(にかいどう)、千尋ちひろ)などもいて最終的には乙女ゲームのようにタイプの違う人間が揃うから読者の好みの人が見つかる確率も高くなる。鳴海のギャップが好きという人も当然 多いだろう。以前も書いたけど、鳴海は別作品のヒーローとして申し分ないポテンシャルを秘めていたと思う。2010年前後なら活躍できたのに、鳴海は誕生するのが15年ほど早すぎたようだ。


あら の中心には絶対的に柊平がいる という現実が面白くなくて意地悪してしまう鳴海。そんな彼の態度に せあら は怒りを禁じえない。この騒動を通して鳴海も そして李真(りま)も自分が2人の関係に入り込む余地がないことを思い知る。ただ鳴海の方は諦めが悪く、そして李真もまた大きな爆弾を設置する。

柊平のバスケの試合で雷(らい)が久々に登場する。バスケ漬けの毎日で柊平よりも実力がついたが、忙しすぎて卒業式で いい感じだった後輩とは破局してしまったらしい。そこで試合会場で雷を気に入った李真を紹介することになるが、結局 内輪カップルには ならない。せあらカップルと、柊平の妹の小春(こはる)カップルの2組でフィニッシュ。少女漫画、それも りぼん作品にしてはカップル成立が少ない。


平の誕生日に せあら は腕によりをかけて準備を整えるが、彼は外に出て行ったまま なかなか帰ってこない。それがクリスマスのトラウマを再発させて せあら を不安にさせる。柊平の詫びにより復活した せあら だが、柊平の周辺に李真がいること、そして彼女と柊平がキスをしたという情報がもたらされ混乱する。このように登場人物の思惑が入り乱れ、情報が錯綜する展開は初期の頃を思い出す。こういう芸当がパッとできるところが作者の構成力の高さだろう。

心情的には敗北した鳴海と李真は未だに2人の心の中でライバルで あり続ける。そのことで せあら たちの間にも すれ違いが起き、交際後に初めて喧嘩をし、せあら は家出を敢行する。

せあら の家出先は実家。実家に帰らせて頂きます、という状況だが、今 実家にいるのはイトコの有須川 千尋(ありすがわ ちひろ・男)。2浪して20歳にして大学進学をして田舎から出てきた。この春から せあら の実家を借りて住んでいる。せあら が居候をしている柊平の家に心配をかけまいと自分の居場所を伝えたため、柊平が実家に乗り込んでくる。だが せあら は彼と顔を合わせない。柊平が自分の気持ちを聞く前に、鳴海との関係を疑ったことが せあら は許せない。またまた柊平のデリカシーの無さが出ている事象だ。
柊平は男と一つ屋根の下で暮らすことを警戒するが、この日は引き下がる。確かに少女漫画的には同居≒恋愛成就である。柊平の家に先に住んでいなければ千尋と8歳差の恋愛が始まっていたかもしれない…。


いて鳴海が せあら の実家に訪問する。鳴海は柊平が せあら のトラウマの原因であることが勝利の鍵と考えているらしい。自分の不幸な家庭環境を匂わせてから鳴海は せあら に告白する。鳴海が正式にライバル関係になったことで柊平は またも(出会って2か月とはいえ)友達を失くしたようだ。柊平の孤独が続く。
鳴海は それから積極的にアプローチを続ける。一時期の昴(すばる)のようである。2人の危機と新たなモテで読者の承認欲求を満足させドキドキとハラハラを両立させている。

友達と同じ人を好きになる「友情クラッシャー」柊平。次回の活躍も お楽しみに!

鳴海と遊園地に行った せあら は、誤解が重なったとはいえ浮気をしたと思われても仕方がない状況。柊平に愛想を尽かされ せあら は号泣する。いや、柊平は それと同じことを せあら にした過去があるから寄り添わなければいけないのでは…??? ここで怒りで我を忘れる柊平に愛想が尽きる。


悪の事態が起きてから、誤解が一気に露見する。せあら が柊平に怒っていたのは李真の意地悪が原因で、事実無根のことで2人は すれ違い、そこに鳴海が入り込んだ。ただ すれ違いの原因が分かっても、2人には相手が自分を信用していないという不信感が残ってしまった。

せあら はクリスマスの失恋後と同じように何日間も寝込み、食事も ろくに取らなくなる。心が壊れかけているとしか思えない状況になってから柊平が姿を現す。それで全てが元通りになる訳ではなく、せあら は実家に居続ける。しかし柊平の母親からしてみれば せあら が実家にいる方が心配だろう。預かっている お嬢さんが20歳とはいえイトコの男性と2人きりで過ごしているのは色々な面で問題なのだけど、柊平の母親は この問題に大きく関わらない(せあら の生活環境を整えてあげているみたいだけど)。

やがて せあら は柊平に嘘がないと信じて柊平の家に戻る。それはトラウマとなったクリスマスに柊平が他の女性の名前を出したことが理由だ。彼は空気が読めないぐらい正直だから傷ついたけど、正直だから嘘はないと思える。あの最悪の一件が こんな反証として使われるなんて…。私は この一件でガタ落ちした柊平への信頼度を戻せないでいるけれど。
鳴海は せあら が家に戻る=柊平と よりを戻すことを知って最後に せあら に抱きつき、そして涙する。それはカップルクラッシャー鳴海の初めての敗北で、そして初めての恋が終わったことを意味していた。


れでも鳴海が図太いので柊平との友情は破綻していないらしい。高校で柊平が ぼっち にならずに済んだ模様(笑)鳴海はカップルクラッシャーと名高いようだけど、せあら や柊平の方が よっぽど友情クラッシャーっぽい。モテるということはトラブルを生むことと同義なのかもしれない。

この頃から柊平は交際を自分の家族に発表しようと考えていた。実直な彼らしい考えだが、せあら は話が父親の耳に入るとアメリカに強制連行されかねないと反対する。せあら の実家に住まう千尋が引っ越しを考えていたりして、最終回に向けて様々なことが動き出している。

その後、特別な日ではないし、柊平がキス解禁と考えていた せあら が13歳になる前に、2人は初めてキスを交わす。これは直後に引き裂かれる運命が待っているからだろう。
このキスの直後、2人が抱き合っている光景を内緒で帰国した せあら の父親が見てしまう。2人の交際の最大で最後の障害としてラスボスが召喚された。


あら の父親は3年のアメリカ勤務のはずが、娘のために奮闘し1年弱で日本勤務に戻ることになったようだ。頑張ったのに帰国早々 衝撃的な光景を目にした父親は柊平を殴り倒し、せあら を連れ帰ってしまう。帰った先は実家。2人の同居生活は突然に終了する。

父親の方針に断固として反対する せあら だったが、同居開始時の小春(こはる)と同じように、今回は母親が正論を持ち出し、同居することが せあら のわがままであることを改めて言い聞かせる。

こうしてロミオとジュリエットになる2人。
そして その父親は せあら を軟禁して柊平に会いに行く。いや会いに来たのは柊平の家族で、父親は柊平の存在を無視する。この親子 大人気ない態度が似ているのかもしれない。柊平が誠実な言葉を述べても学生の本分を忘れないようにと意に介さない。柊平が一途に せあら を想う心を表現する必要があるようだ。


ミジュリ状態とはいえ2人は近所に住んでいて、内緒で会いに来て、内緒で部屋を抜け出すことも可能。せあら は引き離されたことで、一緒に居る時間が減り、父親の監視があるから会うこともままならないと この世の終わりのような絶望を抱える。でも今回ばかりは せあら の物事の捉え方が大袈裟で、現に こうして会える時間だってある。だから柊平は2人で乗り越えようと提案する。

そして柊平は、結婚は考えていないが来年も せあら と過ごしたいと等身大の言葉を父親に告げる。それは嘘も虚勢もない誠実な言葉で、他のどんな装飾された言葉より父親に響いたはずだ。


れでも1年間の同居生活は終了する。交際中なので、これはこれで健全な状態だと言えよう。今回せあら が大人しく引き下がるのは、柊平と結婚する前に両親との暮らしを味わおうという前向きな意向があるから。

本来の住人である せあら の家族が戻ってきたことで千尋は家を出る。父親としては自分の妻を狙う若い男なんかと一緒に暮らせないだろう。この父親には敵が多い。千尋は結局、せあら が家出した時のための保護者役だったのだろう。一番の友達である小春は柊平の妹で、他に行き場所がないから千尋が必要だったようだ。

その後、柊平は せあら の父親との接し方を学んだようで、一家に溶け込む。そして父親とのゲーム勝負に勝った柊平は自分の力でデート権を勝ち取り、せあら の誕生日に出掛ける。せあら が望んだデート場所は2人の「お試し交際」が終わった悲しい場所。その思い出を払拭して新しい一歩を踏み出したいのだろうか。

思いがけず柊平から指輪をプレゼントされた せあら は柊平と出会った1年前と同じように、彼と結婚する未来のために邁進することを誓う。いつだって せあら は柊平をロックオンしているのだ。これは せあら の一世一代の恋の物語である。