椎名 あゆみ(しいな あゆみ)
ベイビィ★LOVE(ベイビィ★ラブ)
第02巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
柊平から、せあらに想いを寄せる親友・雷の気持ちを「前向きに考えてやれ」と言われてしまい、大ショックのせあら。これって“脈ナシ"ってこと…? 柊平と雷も、この一件で気まずい空気に…。そんな中、進路のことで二人の友情にさらに亀裂が!?【特別企画】「ベビ・ラブ×せあ・らぶ」黒川智花さんスペシャルトーク
簡潔完結感想文
- 文庫版だと1巻の間に2人も友達を傷つける優柔不断ヒーローの柊平。友達甲斐がない!
- 究極の二択を突きつけて押し切る形で始まる お試し交際。それは前進か それとも保身か。
- ヒロインの心が絶対に揺れないのなら、ヒーローの方を過去の三角関係で揺さぶる。
やっぱり少年漫画ラブコメなのではないか、の 文庫版2巻。
文庫版『2巻』の主役は いい意味でも悪い意味でも柊平(しゅうへい)である。彼は自分の気持ちに鈍感で、周囲にとっての最善の道を選ぶ傾向があり、その性格を利用されて袋小路に追い込まれたり、土俵際に追い込まれたりしている。柊平は人が良いのだろうけど主体性がないように見える。3歳年下のヒロイン・せあら にとっては4年前から一途に好きだった柊平だが、同年代や年上から見ると なかなか欠点の多い人なのではないか。せあら には広い世界を見てから柊平のことを見つめ直して欲しいが、雷(らい)など男性の当て馬が何人登場しても揺るがないところを見ると この恋の盲目は一生治らないようである。
せあら が当て馬に少しも揺るがないとなると お話が平坦になってしまう。そこで お話を揺らすのが柊平の曖昧な態度である。本書は せあら の人生を賭けた恋愛を描いているが、視点を変えると一気に違う作品になる。
例えば柊平が主役ならば少年誌のラブコメ作品のようである。せあら は年下の同居人、綾乃(あやの)は同学年の完璧な美女、その2人に迫られて柊平は どちらを選ぶのか、という男性のモテモテ願望が詰まった作風となるだろう。ただし柊平の容姿やスペックは高すぎるので、身長は平均的、学力もそこそこの冴えない主人公が なぜかモテるという、少女漫画と同じ構造になるはずだ。
そして綾乃を主役にすれば一般的な少女漫画の出来上がりである。1年前に両片想いのはずが上手くいかなかった恋愛が再始動する。そこに自分を好きな もう1人の男性・コウの存在があって…、というのが分かりやすい三角関係だろう。綾乃は いい感じに心が弱い。だからこそドラマが発生する。本書は そこに せあら という部外者であり観察者がいることで、手の届かない大人側の世界のような雰囲気が出ている。
さて柊平である。せあら が最強ヒロインに配置されていることで、揺らぐのは柊平の役割となる。そして それが原因で柊平は最弱ヒーローへと没落していく。少女漫画は弱い人がいなければ始まらないが、ここまで弱くなるとは思わなかった。柊平は今後の人生でも好意を隠し持つ女性から相談を受けて、そのまま押し切られそうな雰囲気がある。だから もう柊平の好意を信じられず、私は柊平への疑念が最後まで払拭できなかった。
過去の三角関係を蒸し返すことで確かに作品は面白くなったのだけど、この展開のせいで柊平は いつか せあら を裏切るのではないかと ずっ
と不安にさいなまれ続けることになった。この三角関係は ちょっと匙加減を間違えたと思う。
例え柊平でも せあら と正式に交際してくれれば彼女を裏切ることはなかっただろう。
しかし文庫版『2巻』柊平が せあら に提案したのは「お試し期間」だった。お試しじゃなければ今後ん展開は変わったのだろうが、作者は今後の展開を用意していたから柊平に お試し という言葉を使わせた。


この お試し という言葉には柊平の卑怯な部分が出ている。自分は土俵際に追い込まれ、根負けしたから交際するという せあら との恋愛感情の大きさを正直に認めている。そして お試し には、せあら との年齢差を追及された時に本気じゃなかったという逃げ道という意味もありそうな気配が漂う。なんにしろ柊平は自分が本気で せあら に惹かれていることを最後まで認めようとしない節がある。その往生際の悪さも彼のマイナスだ。
文庫版『2巻』では柊平の性格的な欠点が原因で彼の友情は壊れている。どちらも柊平がハッキリしなかったことで破綻した友情で、柊平の優柔不断さが人を傷つけている。その被害者の中に次は せあら も含まれるのだろう。これだけ人間関係を破綻させるヒーローも珍しい。柊平こそ作品世界の破壊神で疫病神と言える。友人の恋の相談に乗りながら自分も その人のことを好き。その時に自分の気持ちを言わないことが後々に面倒なことになる。女性だったら友達にしたくないタイプの人間のように見える。
連載が長期化して ここまで粗が見えてくるヒーローも珍しいだろう。間違いなく優しいのだけど、間違いなく一緒に居る時間が長くなればなるほど彼へのフラストレーションが溜まるだろう。交際や結婚後に女性側から別れを切り出されそうなヒーローは魅力的とは言い難い。
せあら はクリスマスプレゼントに柊平のためにセーターを編み始める。そして当日には告白をすることを決意した。
一方、柊平は自分の無自覚な行動が雷(らい)を傷つけていることを知らない。そしてコウからも柊平が自分の気持ちに蓋をして行動する癖があると忠告されてしまう。それは綾乃を巡る柊平の気持ちや行動がコウに筒抜けだったことを意味している。
しかし忠告を受けたにもかかわらず、柊平は せあら に対し雷のことを前向きに考えてやれ、とデリカシーの無いことを言う。柊平は優しいのだろうけど不器用というか鈍感というか、一緒に居て いたずらに傷つけられることの多そうな人である。
柊平は勘違いから せあら が小学校の同級生に失恋したと思っていたし、雷との関係も反対しない。それが せあら の絶望になり彼女は珍しく大泣きしてしまう。失恋を覚悟した せあら は高熱を出し寝込む。小春(こはる)は雷も優良物件だと勧めるが、せあら にとって柊平だけが唯一の男性なのだ。そして柊平は恋愛以外において せあら にとって頼もしいヒーローであり続ける。
雷は柊平の気持ちも せあら の気持ちを知りながらも誤解を解かないし、コウもまた かつて柊平が綾乃から手を引くように誘導していた。この2つの思惑から柊平が解放された時、柊平は誰を選ぶのだろうか。
柊平は当初からバスケットボールによる推薦による高校進学に迷っていたが、結論を出し、超進学校の普通科に進むことを決めた。これは高校進学でも柊平が寮生活をしないことを意味するので せあら にとって朗報。だが柊平は その話を一緒に推薦進学するはずだった雷に言わなかったため、恋愛沙汰も含めて彼との友情にヒビが入ってしまう。
落ち込む柊平を せあら は自分なりに励まし、柊平も それに甘える。柊平の進路は悩み抜いた末に決めたものだと せあら は実感し、雷の自宅を訪問し、柊平のために2人の仲の修復を目論む。その様子を せあら の動向が気になった柊平が追いかけてきて聞く。雷の本音、そして落ち込む雷を叱咤する せあら の声を聞いた後、柊平は雷の前に姿を見せる。そして自分が教師という夢を叶えるために進路を変えたと正直に伝える。そうして親友から本音を一つ聞けたことで彼らの仲は戻る。せあら は柊平に近づくために努力し、雷はバスケの道に、そして柊平にも夢があり、夢の現実のために頑張る姿が作品に爽快感を与えている。
柊平が寮生活にならないことが決定的になり せあら は安堵する。だが柊平の前で分かりやすく安堵したことで、鈍感な柊平も せあら が本当は誰を想っているか理解したようである。こうなると同居生活が ぎこちなくなる。自分は変わらずに柊平が好きだが、柊平から見た自分は今の せあら には自信が持てない。
せあら は柊平に気持ちが伝わったと観念し、ずっと秘密にしていた自分たちの出会いを打ち明ける。4年間 柊平を想い続け、柊平の隣に立てる自分になろうと努力したこと、そして彼への気持ちを一気に伝える。しかし柊平は小学生だという理由で4年前と同じく せあら と正面から向き合わない。その柊平の一種のズルさを せあら は糾弾する。柊平は年齢という杓子定規な物の考え方をしており、目の前の せあら自身を見ていない。小学生に それを論破される柊平の情けなさったらない。
ただし せあら も柊平への怒りは八つ当たりで、駄々をこねているだけだと自分の未熟さを自覚している。せあら の事情を知った小春は兄に せあら への態度を許さず、その会話の中で兄の返事が本心じゃないことを知る。それでも迷う柊平は雷の家に相談に向かう。そこで柊平が気にするような雷の未練や遺恨はないことが確認できた。
柊平は きちんと せあら に向き合うために彼女を呼び出す。そこで柊平は同居人である せあら との間に恋愛問題が持ち出されたことの混乱があったことを認め、そして自分が意識的に せあら を恋愛対象から外していたことを話す。それは周囲の状況に自分の態度を変える柊平の性格が色濃く出ている。柊平はカメレオンのように自分の色を周りに合わせてしまう。その曖昧な態度に再び せあら は怒りを覚え、彼に好きか嫌いかの二択を与える。
柊平の答えは好き。そこには多分に嫌いじゃないという消極的な理由が入っているが、せあら は細かいことに目をつぶる。少しでも望みがあるなら自分の人生の全てを捧げると彼への愛を訴え、その勢いに柊平が根負けする形で「お試し期間」が始まる。4年越しの、人生を賭けた大願が成就したことで せあら は夢心地となる。
近づくクリスマス、父親によるアメリカ招聘も断り、万難を排して柊平と一緒に居られるよう努める。交際開始直後だから せあら は幸福に浸るが、柊平との温度差は歴然とある。特に柊平の中で せあら は やっぱり子供であり、そして同居人。だから普通の恋愛のように会える喜びとかイチャイチャしたいという願望が湧いてこないらしい。そこで せあら は一度は断ったアメリカでの年末年始を決行し、その会えない日々で柊平に辛い思いをさせようと目論んでいた。
しかし その一方で綾乃は恋人・コウへの想いを濁らせていた。2人の関係が良好ではないことは柊平にも伝わり、それが柊平の心を乱し始める。その発端となったのは、雷が1年前に確かに好きだった柊平の綾乃への気持ちを伝えてしまったことで終息したはずの三角関係や交際への疑問が蒸し返されてしまったのだ。
綾乃は悩むあまり体調不良となり、柊平が彼女を保健室に運ぶ。その際に綾乃が柊平に1年前の出来事を蒸し返したことをコウは聞いてしまう。
そして せあら も柊平の様子がおかしいこと、そして自分から綾乃の話を持ち出し、柊平の口から確かに好きだったことを初めて確認したことで不安になる。しかも柊平が せあら と一緒にいるのに綾乃に遭遇した際に、自分の口から交際の事実を話さなかったこと、交際を知った綾乃が涙を流して走り去るのを追いかけたことえ せあら は嫌な予感に囚われる。


実際、綾乃はコウに柊平が好きだと告げていた。それはコウにとって青天の霹靂ではなく承知している事実。それでもコウは自分の想いを叶えるために柊平の性格を利用した。そう自白し、コウは2人の前から立ち去る。雷に続いて柊平はハッキリしないことで友情を崩壊させたようだ。コウとの関係が終わったことで正式に柊平にアプローチし始める綾乃に対し、柊平はハッキリと手を振りほどく。
鈍感で不器用な自分に嫌気が差す柊平だったが、そんな柊平でも せあら は愛してくれる。それが柊平を安心させる。
せあら にとって綾乃に交際相手がいることは安心材料だったが、狭い街の中で綾乃に遭遇した際に別れたことを聞かされる。そして学校では被害者面している綾乃は せあら に対して柊平への好意を表明して事実上の宣戦布告をする。ここで綾乃が既に柊平からフラれていることを話さないのは彼女の計算か。この利己的な性格はコウと お似合いだと思う。
しかし せあら も負けていない。自分は失恋の痛みを誰か他の男性で癒そうとは思わなかった。それぐらい柊平への想いは強い。事実、せあら は雷に対して少しも揺るがなかった。この時点で綾乃は完敗しているのだが…。