《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

神崎が恋心を自覚した途端、ライバルたちが「同級生」たちとして次々に襲来する!?

ひつじの涙 4 (花とゆめコミックス)
日高 万里(ひだか ばんり)
ひつじの涙(ひつじのなみだ)
第04巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★(6点)
 

圭の血のつながらないイトコ・凌が紫ノ塚学園に戻ってきた!! 昔は仲が良かったけれど、今の凌は圭にとってちょっと苦手な存在。落ち込む圭に神崎は…? そして体育大会後、ついに諏訪さんが登場!? ハッピー★部活パニック!!

簡潔完結感想文

  • 圭から諏訪の存在を引き剥がしたい凌と、それをひっくるめて肯定する神崎。
  • 神崎が諏訪との初対面の前に携帯電話を所持するのは秘密のホットラインのためか。
  • 11歳年上の諏訪の11年のリセット。もしや凌に続いて諏訪が同級生として登場…!?

訪教の神が現世に降臨する 4巻。

今回、諏訪(すわ)が話す彼の現状を知って面白いと思ったのは、本書における年齢について。

まず圭(けい)は3年前の事故によるダブりで、同じ年に高校に入学した神崎(かんざき)とは本当は1学年違う。それは1年間アメリカ留学をしていた凌(しのぐ)も同じ。固有キャラでは神崎の周囲には年上の人が ほとんどなのである。自分の姉、圭の兄、そして先輩と、同級生ながら年上の人。この人たちに振り回されて過ごすことが神崎の人生の宿命なのだろう。永遠の弟なのだろう。

ただ そんな特殊な神崎の環境の中で唯一の「同級生」と言える存在が諏訪なのではないだろうか。27歳の諏訪と16歳の誕生日を迎えた神崎には11歳の年齢差があるが、諏訪は事故によって11年間の記憶が失われている。3年前に12歳として目覚めた諏訪は現在の彼の感覚では15歳過ぎ。
諏訪は圭を同級生の妹として初対面を果たしているが、諏訪の中で神崎は同じ年ぐらいの感覚ではないかと思う。ということは最初から諏訪の恋愛の範疇から外れていた圭とは違い、神崎は諏訪の恋愛対象となり得る!? なんて腐った発想が出てきてしまう(笑)

この初対面の後も神崎と諏訪の交流が続くのは、その対面の直前に神崎が連絡ツールとして携帯電話を手に入れたこと、そして2人が「同級生」として出会ったこと、また神崎が人の心に寄り添う聖人であるという3つの要素が大きいように思えた。

この諏訪だけが抱える違和感は、日高作品の中で最も好きなページになる予感がする

れにしても中だるみが顕著な白泉社作品において、ここまで中盤が面白い作品も珍しいだろう。物語が動き続けている感覚が維持されている。そして これまで設定の上でしか存在しなかった凌に続いて、諏訪が物語に介入し始めて彼の口から語られる事実に驚かされた。

凌の登場は時限爆弾が爆発したようで一気に物語に緊張感が帯びる。ただ その爆発に対して主人公の圭が動揺しなかったのは、これまでの半年間での成長があったからだろう。そして その成長に大きく関与した神崎の存在があったからだろう。圭を溺愛する兄たちが凌の襲来に対して そこまで気を揉まなかったのは神崎と一緒に居る圭に彼女の変化を認め、そして神崎の存在感の大きさを認めているからだろう。言葉と態度では強烈にイジられている神崎だけど、兄たちからは一足先に認められていて、彼の恋愛的な未来は明るい。

その神崎の特質は諏訪に対しても発揮された。今回、初対面となる男性2人は諏訪の現状を神崎が知ることで衝撃を受けるのだが、神崎は そこから精神を立て直し、諏訪の置かれている現状に対しても思いを馳せ、彼の抱える不安定さを取り除く。

外面上は圭に対して、同級生イケメンや10歳ほど年上の男性たちが彼女のことを ずっと考えているという逆ハーレム展開だ。しかし本書は一般的な少女漫画と違って より強いトラウマを持っているのは女性である圭の方で、もしかしたら いわゆる「ヒロイン」も立場が逆転しているのかもしれない。
そう考えると神崎は、確かに年上イケメンを次々と籠絡している(笑)難攻不落だと思われた圭の2人の兄に対しても、初対面の諏訪に対しても その聖女(聖人)のような能力を発揮し一目置かれている。

神崎が諏訪の実物に触れることで、彼は圭よりも一歩先を行く。いよいよ探偵と その助手の立場が交代したようにも見える。そして重めの内容に反して本書の雰囲気が軽快なのは神崎の お陰のように思う。こういうヒーローの造形が個人的に好きだ。


と同じ年の血の繋がらない「イトコ」である凌(しのぐ)が作品に襲来する。凌こそ圭の新学期の憂鬱の正体。凌は いつも圭に辛辣な言葉をぶつけて彼女を委縮させるからだ。ちなみに凌は この学校の英語科に在籍している。この学校に普通科と英語科があるなんて初耳ですが、母校を参考にしているらしい作者の脳内設定では当たり前なんでしょうね。そういう世界の狭さが読者の違和感になっていくような気がしますが。

しかし圭も成長している。彼に対して言うべきことは言えるようになった。それが凌は気に入らない。だから圭に辛く当たる。イジメっ子気質なのかツンデレなのか。2人の様子を目の当たりにして神崎は おおよその事情を察する。そしてダウナー状態に突入しかける圭の心を上手く浮かび上がらせる。この辺のコントロールが彩人に信用される部分なのだろう。

圭と凌の出会いは小学校2年生。その頃の凌は物静かで繊細で人見知りが激しかった。新しい家庭、特に彩人に懐かなかった凌に対して圭はイトコではなくトモダチになることを提案する。そこから本当にトモダチになり ずっと良好な関係を築いていたが、中2で圭が事故に遭ってから彼らは ぎくしゃく し始めた。
その後、仲違いが決定的になったのが復学した圭が諏訪の母校である今の高校を志望してから。諏訪に支配される圭に対して凌は不機嫌を撒き散らし、圭のことを全否定し始めた。それが弱っていた圭には辛い。

諏訪へのアプローチの違いが凌と神崎の大きな違いなのだろう。全否定の凌に対して神崎は諏訪との思い出や想いも含めて圭だと理解している。その姿勢こそ神崎の特質だ。


が指輪を必死に捜すのは、3年前の事故で諏訪は元婚約者・鳥花(とりか)の記憶を失ったから。鳥花だけではなく、圭も周囲の人たちも彼は忘れてしまった。自分の愚行が彼の人間関係、世界そのものを壊したから、圭は心が壊れるほどに後悔しているのだった。圭が神崎が頭をぶつけるたびに過剰に心配していたのは自分のトラウマに由来するものだった。この辺は本当に芸が細かい。

ずっと肌身離さずにいる圭が所持する指輪は、鳥花から渡されたもの。しかし諏訪は記憶を喪失し、鳥花は物語の外側にいるため、彼らの間に何があったのか少なくとも圭には分からない。だから指輪を2つ揃えることで奇跡が起きることを待っている。

圭は凌を嫌ってはいないが、彼との接近で圭のメンタルが揺らいでいることを見て取った神崎は圭を抱きしめ、圭の中にある強い信念を補強する。圭は この3年間、弱気になることはあっても決して諦めたことはない。神崎のお陰で圭は、凌の襲来という波に呑まれることなく心の安定を保つ。

圭にとって神崎は特別な存在になりつつある。それを本人はあまり理解していないが妹を溺愛する兄たちは神崎の影響がよく分かる。そんな神崎の誕生日会を圭が企画する。相変わらず圭に巻き込まれる日々ではあるが、圭の人を巻き込むパワーで神崎は確実に幸せになっている。


9月下旬、学校イベント・体育大会が行われる。今回も球技大会と同じように理人(りひと)への報告用にビデオ撮影がある。

この日、圭は自分から凌に話しかける。怖気づかないのは神崎の言葉のお陰。これは『2巻』の球技大会で心身ともに満身創痍の神崎が圭の言葉によって戦う前から負けることを良しとしなかったことに似ている。本題に入る前に圭の出場種目となってしまうが、圭は凌とフツーに話せる関係が嬉しいことを伝える。自分の意志を持ち伝たる、それが今の圭には出来る。

2ページで分かる『4巻』時点の相関図。20代のオトナたちがいない普通の学園モノ希望!

この体育大会には、彩人(さいと)の手引きで学校内から その様子を見学する諏訪の姿があった。圭の認知しないところでの急接近である。凌や諏訪といった関係者が徐々に物語に参加し始めている。


して体育祭終了後、諏訪は今は神崎が住む205号室の前で住人の帰りを待っていた。
ここで初対面を果たす諏訪と神崎。神崎が諏訪を認識するために事前に卒業アルバムで彼の容姿を見せておいたのだろう。実物の諏訪は神崎から見ると容姿がイイらしいが、作者の画力では基本的にキャラが同じレベルの容姿に見える。そして10代も20代も同じ年代に見える。

神崎は最初の衝撃を乗り越えた後、諏訪の姿を圭に見られてはまずいと彼を自室に連れ込む。この行動は、実は この部屋に入ることで記憶の手掛かりを探したかった諏訪には渡りに船となる。以前の住人は女性(神崎の姉)だったので諏訪は実行を控えていたが、現在の住人は男性で しかも高校の後輩に当たる人間だと聞いて諏訪は行動した。彩人は その情報を流して諏訪と神崎の接触を実現させた。

神崎が自分の事情を知っていることを察した諏訪は彼と話し込む。そこで神崎は現在27歳の諏訪が3年前の事故によって12歳までの記憶しか持たないことを知らされる。諏訪は もう一度 彩人たちと関係を再構築したのだ。しかし彼の前に現れない元婚約者・鳥花は、12歳以降に出会っているため、完全に記憶がない状態のまま。その事実は、諏訪と鳥花の関係を壊したと自責する圭を傷つけるものだと神崎は理解する。


訪にとって自分の記憶がないけれど自分が所持している高校時代の卒業アルバムは、まだ見ぬ未来が記録されているもの という認識だった。記憶喪失前の自分は今の認識よりも年上なのだが、現在の自分より若い。そんな奇妙なパラドクスの中で諏訪は生きている。

一通り語った後、諏訪は突然 辞去する。彼にとって記憶がなくても それほど不便ではないため固執しないようだ。それが圭の必死さを軽視する行為に思え神崎は では何の為にここに来たのか質問する。諏訪は去年から小説家として復帰している。それは自分の中にある混沌を言葉にして答えを見つける作業でもあるようだ。

そんな諏訪に対して神崎は、想像上の存在だった「諏訪」が目の前にいることで彼の実在を訴える。茫洋とした諏訪を形づける神崎の言葉は どこまでも実直で優しい。神崎は諏訪もまた言葉の軽さと裏腹に悩みながら生きているのではと推測する。

この時 実は、圭が夕食に神崎を招待しようと呼びに行こうとするのだが、諏訪が205号室を訪問していることを知っている彩人によって やんわりと軌道修正させられている。危なっかしい お姫様を男性たちが守っているから圭の心の平穏が続いている面もあるのだろう。


崎は圭への隠し事が出来たことに良心の呵責を覚える。善人だからか小心者だからか。自分に秘密の所持を押し付けた彩人に怒りを覚える神崎だったが、彩人が神崎に無断で諏訪に対面させたことで、神崎は諏訪の現状に触れた。彩人が抱える葛藤を神崎も共有したのだ。

彩人にとって諏訪の記憶は それほど問題じゃない。当人がそこに思い悩んでいないからだ。けれど圭は諏訪の記憶が戻ることを目標にしている。最悪なのは指輪発見後に諏訪の記憶が戻らないこと。そこで圭は再び絶望してしまう。だから現状維持も一つの幸せだと彩人は考える。そして そのモラトリアムの中で圭自身の考え方が変わることを彩人は願っていた。だが その圭に失った記憶の一部が戻る兆候が出始めている。

また凌は圭が自分に話しかけたことで苛立っていた。凌はきっと無自覚に自分の呪詛によって圭を閉じ込めたいのだろう。だから圭の変化を認めたくない。凌は選択肢が一つしかないと思い込んでいる側の人間だろう。