
日高 万里(ひだか ばんり)
ひつじの涙(ひつじのなみだ)
第03巻評価:★★★(6点)
総合評価:★★★(6点)
圭の突飛な言動に振り回されっぱなしの神崎。2人はクラスや研修部活動で絆を深めるが、圭の過去はまだまだ謎だらけ…。そんな中、神崎は君島から圭についてのある意外な事実を知らされ!? ハッピー★部活パニック第3巻。
簡潔完結感想文
- トラウマ終了で恋愛を解禁した神崎だが、相手が絶賛トラウマ中なので報われず。
- 10年前に高校生だった諏訪世代の過去や恋愛事情が明かされる。全員 片想い長め。
- 1学期と夏休みを満喫した圭だけど、彼女の心身に異常をきたす存在が出現する。
ヒーローのターンだった『2巻』から一転、ミッシングピースが埋まり始める 3巻。
新事実が続出して過去が少しずつ明らかになる。そこに神崎(かんざき)の恋愛解禁が加わり、物語が いよいよ面白くなってきた。やっぱり最初からゴールが設定されている作品は内容の充実度が違う。私は こういう「1つの作品」になっている少女漫画の方が断然 好きだ。


少女漫画とはヒロインの心の乱高下が面白さに変換される部分があると思う。一般的な作品では それが恋愛要素となる。彼を好きになって毎日が華やいだり、彼女がいる情報に落ち込んだり、ヒロインが振り回されていれば物語が動き続ける。
けれど本書の場合は恋愛要素以外のヒロイン・圭(けい)のメンタルの変動が物語に大きな影響を与えている。圭は神崎との交流によって好調を維持し、今回のように自分や諏訪(すわ)に関する過去を語っても以前のように調子を崩さない。それは自分の中で過去を溜め込み中毒症状のようになるのではなく、神崎という第三者に語れるほどの余裕と彼への信頼があるからなのだろう。
だが作者は作品内に時限爆弾を用意していた。それが『1巻』から存在が明かされながら留学のために作品内に登場しなかった凌(しのぐ)という男子生徒。戸籍上は圭のイトコにあたる彼の登場が圭のメンタルを沈ませる。作者はまだまだ圭に試練を お与えになるつもりらしい。
それでも今の圭の周囲には、凌が留学前にはいなかった神崎がいる。彼が圭のメンタルの悪化を防ぐ救世主になるのかが次巻の読みどころとなる。
ヒーロー側の恋心がヒロインには届かない。それどころか感知すらされないというのは白泉社作品の伝統的な構図と言える。特に本書のヒーロー・神崎は ただでさえ報われないキャラなのに その報われなさに拍車がかかっている。
一般的な白泉社作品と違うのは神崎は決して この学校のトップ オブ トップではないという点だろう。生徒会長や御曹司ではないし成績だって並みに思える。そんな彼が等身大の男子高校生として圭に振り回されながらも彼女に尽力するという普通の作品であることに安心する。
それでも神崎がヒーローになるのは、指輪紛失事件において彼が実質的な探偵役となっている点ではないか。記憶の欠落が認められるヒロインをアシストしつつ、彼自身が一歩ずつ真相に近づいている。圭の心に寄り添い、これから神崎がいることで圭は救われるであろうから、紛れもなく彼はヒーローなのだと思う。
もう1つ『3巻』から解禁されるのは圭の兄・彩人(さいと)や諏訪など10年前に高校生だった世代の過去と恋愛模様だろう。
圭たちの学校生活が現在進行形の青春ならば、諏訪世代の青春は過ぎ去ってしまったもの。もう二度と取り返しのつかない日々だからこそ甘酸っぱく、そして ほろ苦い。
この作品においては過去を知ることが真実の手掛かりになっていくからいいのだけれど、作者は こういうオトナ感が描きたくて20代の男女を用意しているようにも思えてしまう。中高生が憧れる20代像として描いているのかもしれないが、斜に構えているというか意識が高いというか私は作者の描く20代のキャラたちを見ると むず痒くなってしまう。
だからこそ以前も書いた通り、10代キャラだけの上の世代から幼稚とか未熟とか見守られているとかという感覚のない、純粋な作品が読んでみたい。本当に見守るべき親世代は上手に排除するのに、当時の作者と同年代の格好いいオトナの20代が作品にいると作者の自意識や自己愛が滲んで邪魔に思える。
中学時代の引退試合のトラウマが解消したこともあり、神崎は圭から「弟」扱いされることに複雑な感情を抱き始める。やはりトラウマの消滅は恋愛解禁の合図か。
学校行事の保護者会があり圭の保護者として戸籍上も実兄である理人(りひと)が参加する。父親は多忙で来れないという設定にして作品側が上手に排除している。
普段は学校にいない理人が来校することで、理人は圭の、そして「イトコ」となってしまった双子の彩人(さいと)の世界を覗く。理人は3兄妹の中で1人だけ この学校に在籍したことがない人。今も教師になった彩人が生徒として圭に接しているから一層 疎外感を覚えるのだろう。
ここで『1巻』で名前だけ登場した養子となった彩人の血の繋がらない義弟・凌(しのぐ)の話題が出て留学中であることが明かされる。9月には留学を終え復学するらしい。そして『3巻』ラストで9月が到来する。
図書室で神崎は彩人たちの代の卒業アルバムを発見する。そこで いつも圭の会話の中の登場人物だった「諏訪」の顔を初めて認識する。同性の神崎から見ても当然のように美形キャラらしい。その卒業アルバムの中に神崎は圭の話には出てこない、正体不明の女子生徒の姿を発見する。


その際、一緒に図書室にいた君島(きみじま)から中2の時に圭が事故でダブっていることを知らされる。同級生だと思っていた圭は「お姉さん」だったのだ。
神崎は、圭や過去の事情を知っているようで知らない己を知る。そのことが気にかかって神崎は圭の家を訪問する。なかなか話を切り出せなかった神崎だが、君島から謝罪メールを受けていた圭が水を向けてくれた。圭が黙っていたのは中学で復学した時の周囲の空気が居た堪れなかったから。この秘密は圭の気遣いでもあった。
続いて神崎は もう一つ聞き出したかったことを聞き出す。それが この日、初めて顔を知った諏訪の安否。私は予想外だったけれど諏訪は存命。ただ圭が指輪を発見するまで諏訪に会わないと自分に禁じているだけらしい。現に諏訪は彩人たち元同級生たちと交流している。
その話から神崎は圭が中2当時、すなわち今から3年前の事故が指輪紛失に関連していることに気づく。その発見と疑問を黙っている神崎に対し圭は その事故について自ら語る。事故は指輪紛失と同日。圭が指輪を隠した直後に起きて、その大きなトラブルによって圭は当日の記憶が曖昧になってしまった。この事故で諏訪が自分を庇って大怪我をしてしまったことで圭は二重に取り返しのつかないことをしてしまい、その精神的ショックで記憶が千々に散ってしまったようだ。
堰を切ったように諏訪の婚約を喜べなかった自分の醜い心に言及する圭に対し、神崎はストップをかける。これ以上は今の圭の心が壊れてしまう。それでも圭は諏訪に会わないのは自分が辛いからで、指輪を捜索するのは会いたいからだとアンビバレントな心情を吐露する。そこまで自分の心を語られるのは圭の中で整理がついているからで、これは神崎だから話せることなのである。
7月の期末テスト前後から神崎は圭のことを意識している自分に気づく。圭は恋をするには面倒くさい状況にある。諏訪教の信徒だし、迂闊に触れられない過去がある。それでも神崎は圭が好きということなのだろう。どうやら神崎は面倒くさい女性に惹かれる/好かれる傾向にあるらしい。君島によって神崎の歴代の元カノが圭に雰囲気が似ていることが発表される。その元カノ情報に圭が少しショックを受けているが、その自分の心理状態を彼女はまだ説明しきれない。
圭は自分が諏訪教の熱心な信者であることを自覚している。どうやら過去に今の神崎と同じように諏訪の話をしてばかりだった人に そのことを呆れられ、距離を取られた経験があるらしい。確かに何かにつけて諏訪の話を切り出す圭を面倒くさいと思う人もいるだろう。圭は諏訪を知っている兄世代の人たちに囲まれていたから容認されていたが、圭の身近な諏訪を知らない人は諏訪話を拒絶しても変じゃない。もしかしたら理人も直接 交流がない諏訪の話は苦痛だったりするかもしれない。
ただし神崎は圭が諏訪教徒であっても構わない。それもまた圭の一部だと考えられるほど彼の懐は広く、愛は深い。
夏休みに研修部は草むしり合宿を決行する。
合宿の夜、圭は神崎と校舎を探索する。記憶の欠落している圭がこだわるのは諏訪が住んでいた205号室と学校。当時 中学生だった圭は この近所にその2つしか思い出がない。だから自分が指輪を隠すなら このどちらかだと推理する。
その後、圭と別れた神崎は卒業アルバムで諏訪の周囲にいた正体の分からない女子生徒を特定するために図書室に向かう。そこで卒業アルバムより前に発見したのは諏訪の著書。図書室に遅れて登場した彩人から諏訪が19歳で小説家デビューを果たし、今は新ジャンルに挑戦中という話を聞く。
そこで神崎は彩人が諏訪と今も交流があることを初めて知る。彩人は圭を元気にする神崎への日頃の感謝なのか彼に質問を1つ許可する。神崎は逡巡の末、自分にとって謎の女子生徒の正体を聞き出す。彼女の名前は羽野 鳥花(はの とりか)。保健医の羽野 蝶子(ちょうこ)の二卵性の双子の妹であった。そして諏訪の元婚約者である。
続いて蝶子視点での高校進学時の話が展開される。諏訪と羽野姉妹は中学からの内部進学組。そこに彩人が編入してきた。
蝶子は彩人に恋に落ちる。その頃の蝶子は自分を素直に慕ってくれる妹の存在が少し疎(うと)ましかった。そんな心持ちを上手く中和してくれるのが諏訪と彩人だった。ただ その彩人が鳥花を褒めると穏やかでいられず、二卵性であるからこそ似ていない部分、鳥花の長所が自分にはないことへの恨みが増してしまう。
彩人の発言に八つ当たりをしてしまった蝶子だが、逆に彩人が発言に悪意があった訳ではないと謝罪してくれる。そして彩人は蝶子に、自分は一卵性の双子であること、それでも差異があって羨望があることを穏やかに話す。そんな彩人に蝶子は より惹かれていく。それから10年以上、蝶子は彩人を想っているのか。諏訪と鳥花を含め、この10年前から始まっている恋たちの決着は描かれるのかな。
夏休み最終日、神崎のアパートで宿題に追われる圭の姿があった。そこで神崎は圭が登校に難色を示していること、そして当人比で更に痩せていることを発見する。それは圭の自宅でも同じで、彩人によって登校することを決意した。神崎を含めて周囲は、圭が無理をしていることを見て取る。そして新学期、圭の恐怖の対象が登場する…。
