《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

世界一 可愛い幼なじみを守るためなら、あたし は/オレは 害虫を撲殺(未遂)できる!

王子様には毒がある。(1) (別冊フレンドコミックス)
柚月 純(ゆづき じゅん)
王子様には毒がある(おうじさまにはどくがある)
第01巻評価:★★★☆(7点)
 総合評価:★★★(6点)
 

とってもかわいいけれどちょっぴり頼りない、幼なじみの颯太くんをお世話している、りず。……だけど、それは颯太くんの仮の姿! 自分以外の男を好きにならないように、華麗に暗躍しており――!? 『学園王子』『薔薇とオオカミ』の柚月純、最新作! あざとかわいい幼なじみラブ!! (同時収録:鮎川レナは死後4日)

簡潔完結感想文

  • 可愛くて危うい幼なじみ男子を守り続けるから恋が出来ないヒロインは 実は可愛い。
  • 可愛くて危うい幼なじみ女子を守り続けるために本性を隠すヒーローは必殺仕事人。
  • 世話を焼いているようで焼かれている無自覚ヒロインだから ヒーローは王子様になる。

フォルト展開オンリーで お送りする 1巻。

過去作『学園王子』に続く作者の王子シリーズだろうか。本編と今回 同時収録の読切短編を読んで思ったけれど、作者は あり得ない設定を乗りこなすのが上手い。普通なら絵空事に見えてしまうところを、構成力とギャグと力業で説得力を生み出している。後発の追加キャラも ほとんどが きちんと作品に馴染んで使い捨てキャラになっていないところにも好感が持てる。最後まで細部まで よくコントロールしたまま暴走させていると感じられた。

それを成立させている要素の一つが画力だろう。特に本書のキーを握るヒーロー・颯太(そうた)には画としての説得力が必要になるけれど、可愛く 凛々しく、そして冷たい彼の多面性が よく出ている。

ポジションが固定されてしまった幼なじみは そこから恋愛関係に持っていくのが大変

当初は最強に可愛いけれど最弱ヒーローが、実は最強でした という掲載誌「別冊フレンド」らしいシチュエーション重視の一発ネタだと思っていた。しかし本書は ちゃんと その先の展開まで用意していて(または増築して)飽きさせない工夫に満ちていた。『1巻』収録分の3話はデフォルト展開なので同じことの繰り返しに見えるが、早くも『2巻』から次のフェイズに話が進んで、そのまま最後まで勢いを あまり失わずに完走してくれたのが読者として嬉しい。そしてメインの2人、りず と颯太の恋心のパワーバランスが変化し続けることが面白さを維持していた。


者による あとがき が面白い作家さんは作品も面白いことが多く、本編も あとがき も楽しませてもらった。私は少女漫画のギャグで あまり笑わない人だと思っているのですが、本書では何回も笑ってしまった。現実を いい感じに無視して笑いに走っているのが良かった。颯太のビジュアルが最強で、基本的に誰にでも通用するという お約束があるから、とんでも展開が生まれている。

颯太は、大事な りず に近づく異性を ことごとく排除するのだが、その多くで自滅に持ち込んでいるのが作品に悪い後味を残さないのだと思った。「裏颯太」が暴力で人の行動を阻害するのではなく、表の颯太のまま彼の可愛さに陥落していくから笑って読んでいられる。
表裏どちらの颯太も作中で無敵状態なのだけど、りず の前では表しか出せないことで彼は正統派ヒーローにはなれない。キャラが恋の邪魔をする。りず に対して俺様ヒーローっぽい一面を見せられた時から勝負は始まるのだろうか。

可愛いだけじゃない颯太さん。アイドルのストレス発散になって精神面に良さそう(笑)

またヒロインの りず に関しても、彼女が浅はかだったことや愚行をしたことは ちゃんと作品内で指摘されて、ツッコまれているのも良かった。りず へのツッコミを成立させる友人たちも個性があっていい。彼女たちがいなければ りず は頭の中が お花畑の反省しないヒロインと誤解されてしまっただろう。この匙加減を間違えると、ヒロインが幼稚な痛々しい作品になってしまう。

りず が笑えるバカとして描かれていることが本書の長所かもしれない。


倉 りず(あさくら りず)と 七海 颯太(ななみ そうた)は幼なじみで家も隣同士。いつからか泣き虫で甘えん坊で危なっかしい颯太を りず が守るという関係が構築されてしまい、そのまま10年以上が経過する。
颯太が自立しないのは りず が颯太を甘やかし続けてきたから。そんな毒親っぽい自分を理解しながらも、りず は自分よりも儚い美しい颯太に庇護欲を捨てられない。

一般的な少女漫画であれば幼なじみのヒーローが、自分の可愛さに無自覚なヒロインを守るために過干渉するのだが、本書は逆。りず が颯太を狙う害虫の駆除に動く。そして本書が一般的な少女漫画よりも面白いのは、颯太が自分の可愛さを意識的に使いこなしていること。その上、二面性を持つ颯太は上述の一般的な構図の通りに、りず を他の男の接近から守っている。結局、りず は無自覚な美少女なのである。そこが読者の自意識を満たしていく。

この お互いが お互いを守り続ける関係性は特殊で、それ故に彼らの関係は進展しない、という欠点もある。あざとい男子との恋は色々 こじらせた結果、自縄自縛に陥っていると言えよう。可愛くなきゃ りず に構ってもらえない。だからキャラを捨てられなくなる。


ず は これまで颯太を優先するあまり、自分の恋に夢中になれなかった。けれど いつかは颯太が結婚などして別れる日が来た際、その時の自分が恋の一つもしないままである可能性に思い当たり りず は焦る。

そこで りず は恋をしようと行動する。だが颯太と一緒にいる限り、自分よりも可憐な彼に周囲の視線は集まってしまう。りず の最大ライバルは幼なじみの男という設定が面白い。だから りず は颯太に冷たい言葉を浴びせて彼を傷つけてしまうのだが、それも今後の2人の関係のためと、エサで釣った男性との恋に興じる。颯太にも彼氏が出来たことを報告して、颯太ばなれを宣言する際にも りず は彼を傷つけてしまう。

しかし これまで通り、りず は颯太と離れても颯太のことを考えてしまい、名前も知らない彼氏のプライドを傷つけてしまう。その彼氏は誰もいない図書室で りず を襲うことで自分の欲望を果たそうとする。ここで彼氏の暴走を描きながら、ちゃんと りず の罪も浮き彫りにしているのが公平で良い。確かに りず は軽率なビッチである。

その りず の危機に現れるのが颯太。あどけない顔で相手の男を消火器で殴りかかる。そして騒ぎを聞きつけて集まり始めた人に対して颯太は事後処理として、自分の服を乱れさせ、肌を露出して りず の「彼氏」に暴行未遂を受けたことにする。こうして彼氏は社会的制裁を受ける。

颯太が純真だと思っている りず は、彼に泣くほどの無理をさせてしまったことに罪悪感を覚え、そして自分の罪を懺悔する。落ち込む りず を颯太が慰めることで、颯太は りず から再び世話を焼いてもらう権利を獲得する。

更に本書は もう一展開あって、りず への復讐を企てる「元カレ」に対して颯太自身が脅迫し、元カレの動きを封じる。まさに王子様には毒があって、「なにもできない かわいい」颯太が実は、りず に近づく者、危害を加える者を排除する必殺仕事人なのだった。この展開により颯太の真っ黒な二面性が際立っているし、能天気な りず との対比も生まれている。


太の家は父親と2人暮らしなのだが、その父親は海外出張が多く、基本的に颯太は一人暮らし状態。家のことは家政婦さんがやってくれるし、りず の家でも面倒を見ている。ちなみに りず の家は父親がいる気配がないが、その謎は最後まで明かされない。

連載2回目は りず が合コンに行く。合コン参加を純情ぶって逡巡する りず を一刀両断する友人と作品の姿勢が気持ちが良い。ヒロインの愚行もネタに昇華しているから呆れずに済む。

失敗しても暴走しても悪友の観察・評価・毒舌があるから りず は笑えるバカになる

今回も颯太離れするために、颯太に嘘をついて合コンでの彼氏獲得を狙うが、颯太の方が一枚上手。りず の嘘を見抜いて行動に出る。それが颯太が男子校相手の合コンに欠員が出た女性側で参加するというもの。普通なら ありえない参加の仕方だが、颯太だからOKという無敵感が面白い。そして その欠員も颯太の差し金だったことが おまけカットで明らかになる。

ただし中には颯太に夢中にならない男性参加者もいて、彼が りず と距離を縮めているのを颯太は見逃さない。そこで颯太は その合コン相手に対して、変装して自分でハニートラップを仕掛ける。男性も高確率で虜にしてしまう というのが颯太の特徴。こうして颯太は合コン相手を陥落させ、りず がフラれるように仕向ける。そうして傷心した りず を慰めることで颯太は彼女を放さない。


なる颯太の作戦は、町に出没する不審者を利用して、りず の家に寝泊まりすること。しかも邪魔者である りず の母親に温泉旅行券を贈呈して、彼女を家から引き離す。

こうして幼なじみ男女の お泊り回が始まる。颯太は甘えん坊を爆発させて、りず に手作り料理を作ってもらったり、お風呂で髪を洗ってもらったり やりたい放題。ただ考えてみれば、颯太にとっても生殺しのような状況で告白した方が手早いような気がするが、その動機や理由は後に明らかになる。ただ確実に りず は異性としての颯太を意識し始めている。途中で りず の女友達が登場するのは、これ以上の進展を止めるストッパーの役割なのだろうか。

その夜、家の者が不在であることを事前に確認した不審者が りず の家に侵入。下着の窃盗被害となりかけるが、それを颯太は許さない。颯太は不審者も自分の得意技を使って制圧。こうして不安に駆られた りず が自分を寵愛するようになり、また颯太の思いのまま。しかし颯太は りず に家族として扱われることから脱却したい。

「鮎川レナは死後4日」…
憧れの先輩に告白する直前に死んでしまった鮎川 レナ(あゆかわ レナ)。そんな彼女の幽霊に気づいてしまった篠(しの)はレナに身体を乗っ取られる。

やがてレナには初七日までの あと3日しかないことを篠は理解し、紆余曲折あった後、レナに協力する。ただし告白するには肉体が必要で、それが自分となると同性間での恋だと周囲に誤解されてしまう恐れがある。そこで篠は精一杯の女装で先輩に近づくのだが、その先輩は篠のビジュアルに ときめき始める。なんだか本編の颯太に似ている。

しかしレナは先輩が どんな理由であれ自分に話しかけてくれるだけで満足。いよいよ最終日、レナは告白を決意する。しかし先輩を呼び出したものの、途中で邪魔が入り、待ち合わせ時間に間に合わない。その上、レナは先輩に交際相手がいると誤解してしまい告白を断念。そのレナの態度に篠は腹を立て、彼らの関係も破綻する。しかし篠はレナのことを考え、彼女を地縛霊にしないよう無念を果たそうと最後に協力してあげた。

全てが終わった後、レナは もう一度だけ篠の前に現れ、ここで今度は篠からの告白タイムになるはずが、ギャグで終わる。レナは幸福な来世が約束されたが、篠は困難な現世が到来しようとしているというオチも面白い。