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仕方なく 成り行きで 偶然に 自分は決して望んでいない、彼女がいる男性とベッタリな夏

恋のようなものじゃなく 3 (マーガレットコミックスDIGITAL)
南 塔子(みなみ とうこ)
恋のようなものじゃなく(こいのようなものじゃなく)
第03巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

はっきりわかった 千耀(ちあき)くんが好きなんだ―― 千耀に遠恋中の彼女がいると知って、気持ちを封じ込めようとした未仁(みに)。だけど、千耀と一緒に過ごしている時の特別なドキドキは消えていくどころか、一緒に過ごす時間を重ねるたびにどんどん 感情を揺さぶられるようになっていく。大好きな幼なじみの友達それだけだったらきっと こんな風には…自覚してしまった恋心はどこまでも膨らんでいき――。

簡潔完結感想文

  • それぞれの友人の恋が急に始まるのは、恋を応援する副産物で相手と一緒にいるため。
  • この夏、彼女が彼と出来なかった お祭りもプールも花火もデートも楽しむ横恋慕の女。
  • 作中初登場で千耀の彼女は浮気者確定。だから破壊や略奪ではありません、という布石。

い訳だらけの恋は青春とは程遠い、の 3巻。

ヒロイン・未仁(みに)は千耀(ちあき)への恋心を自覚した。それは通常なら千耀への彼女への罪悪感を伴う感情なのだが、本書は どうしても このカップルの恋心を絶対的にピュアなものだと描きたいらしい。それなら彼女持ち設定を止めればいいのだが、設定を維持したまま、未仁を綺麗な存在として描こうとするから、色々な部分に無理が生じる。

『3巻』は、偶然、仕方なく、自分は決して望んでいない、という言い訳ばかり並んでいる。

唐突な「友人の恋」は、恋人でもない2人が一緒にプールに行くための理由に必要

未仁は千耀の彼女に見られても、それらの言い訳を並べて対処できる。そのギリギリのラインで千耀との時間を楽しむ。だから この夏、彼女が千耀と楽しめなかった お祭りも楽しむし、プールも花火も疑似デートも全部、言い訳を確保した状態で楽しむ。そうやって必死に作品が未仁を守ることで彼女のピュアさは 辛うじて堅持される。だけど言い訳だらけの作品を読者が楽しめるだろうか。実質的な浮気を読者が楽しめるだろうか。その塩梅を完全に作品は間違えている気がいてならない。

特に、千耀への恋心を自覚した未仁が自重しないところが痛い。これまでは無自覚ヒロインだったから許されていたところがあるが、『3巻』以降の未仁の行動は全部 有罪判決を受けても仕方がない。そのぐらい未仁は ずっと千耀の隣にいる。前述の通り、これは全て彼女が願ったことではなく、偶発的な事象である。けれど本当に彼女がいるという現実を理解していれば未仁は千耀との行動を回避することは出来たはずだ。

それなのに未仁は千耀といるのは、彼女が自分のフィールドには現れない安心感があったから、という部分が少なからずあるように思う。これは「彼女」が仮想敵で実体を持たないから生まれる余裕ではないか。

『2巻』の感想でも書いたけれど、2人が交際した後、同じ目に遭えばいいと思う。でも未仁は怒る権利はない。だって その人が千耀と一緒に居るのは偶然で仕方なくて望んだことではないのだから。自分に報告なく、千耀が知らない女性と祭り・プール・花火・デートを楽しんだって、未仁は甘んじて その現実を受け入れなければならない。

未仁がしていることは そういう種類のことなのだ。目の前の分かりやすい困っている人には敏感な未仁だけど、自分の目と理解の及ばない人の苦しみは理解できない。人に対する想像力 ≒ 賢さが足りない未仁は本当に優しくてピュアな存在なのだろうか。恋心を自覚した後も、彼女持ちの千耀を一度も遠ざける配慮を見せない未仁に首を傾げるばかり。

それなのに作品は未仁のピュアさを確保し続けようと努める。でも『3巻』で どれだけ夏のイベントを楽しんでも この作品には清々しさを感じない。なぜなら言い訳がましいから。


耀が引っ越し前の土地に彼女に会いに行っていることを知ってショックを受ける未仁。その状態の未仁を発見した伊鶴(いづる)は彼女を励ましたいのだが、傷心をグイグイ えぐるような伊鶴に未仁の心は悲鳴を上げる。そこに登場するのがヒーロー・千耀。
その登場に思わず未仁は千耀に抱きついてしまう。彼女持ちで彼女に会いに行ったばかりなのに?? と思うし、伊鶴の不器用な優しさを まるで性暴力のように描くのも首を傾げる。元カノといい豹変した伊鶴は未仁にとって恐怖を覚える対象になるのだろうけど、伊鶴が あまりにも報われなさすぎて可哀想。

千耀に抱きついて呼吸を取り戻した未仁は、明らかにトラブルがあったのに何でもないと誤魔化す。

この一連の自分の心の乱れ方で未仁は千耀への好意を完全に自覚する。ということは、ここからの未仁の千耀への接近は完全に破壊神としての行動と考えていいのだろう。


束の夏祭りで伊鶴に ちゃんと断ろうとする。

だが その前に千耀と遭遇したり、堀(ほり)兄妹の妹・七緒(ななお)の恋の終わりと始まりで忙しい。この時に七緒の恋愛沙汰を聞くのは牛尾(うしお)という同級生の役割になる。彼は七緒が気になっているので寄り添ってあげている。未仁は声にならない声をあげている人の悩みは気付かない。七緒に相談に乗ってもらっていても乗ってあげない。友人としては力不足だろう。

遭遇した結果、未仁は千耀とベッタリ。恋心を自覚しても何も行動が変わっていない。自分を好きな伊鶴の存在が近くにあることを分かっていながら千耀を遠ざけようとしない。大変なビッチに見える。だから結局、花火大会では未仁は告白の返事が出来ない。正確には未仁の千耀との接近に気分を害した伊鶴が先に帰ってしまった。この遠因は未仁で、未仁は伊鶴を傷つけた加害者である。

あと千耀が未仁を遠ざける姿勢が いつの間にかに解除されているのが気になる。私の読解力不足もあるだろうが、作者の集中力不足も感じる。南作品って どっかしら そういうところがある。


して七緒と牛尾の接近は、未仁と千耀の「仕方のない」の接触を継続するためにある。七緒が恋人と別れたのも、急に生まれる牛尾の恋心もメインカップルのために利用される。

千耀も未仁も牛尾を応援したくて、七緒が彼と接触するように気を回す。そこでプール回が始まる。せめて伊鶴との関係を清算してからにして欲しいが、未仁は自分が悪役になる勇気が出ず、伊鶴を呼び出すことをしない。伊鶴が可哀想だ。

友人のための行動というエクスキューズを用意するが、実質的には未仁のためのイベント。七緒が未仁の恋心を察知することで、彼女が千耀と接触できるようにしてくれて、図らずに未仁は ずっと千耀の隣に居続ける。

こうしてひと夏の思い出が出来てから、未仁は伊鶴の告白を断る。伊鶴は完全に当て馬だった。未仁の恋心だけでなく、千耀の恋心も明確にしそうな勢いである。伊鶴は最後に未仁と同じように、想いが叶わなくても人を好きでい続けると言って去っていったが、この後も登場するのだろうか。


仁が恋心を自覚した夏休み、初めて千耀の恋人が作中に登場する。名前は遠藤(えんどう)という。遠藤は登場と同時に、千耀とは違う別の人への心変わりが描かれる。これもまた未仁は破壊神でも略奪でもなく、終わろうとしている恋である、というエクスキューズにしか見えない。恋人持ちへの横恋慕は、相手の自壊を待つのが鉄則とはいえ、登場と同時に浮気者扱いされる遠藤が不憫。伊鶴と同じぐらい扱いが悪い。

いずれ壊れるカップルを予感させてから、未仁はバイト先の仕事として千耀と一緒に買い物に行く疑似デート回が始まる。これも仕方がないこと。

ここも仕事だからという言い訳を成立させる。千耀の彼女目線だとモヤる展開の連続

こういうデート回では女性側が履きなれない靴で足を痛めるが定番の展開だけど、夏休み中の今回は千耀が軽い熱中症になる。寝てるだけなので傷の手当のようなスキンシップは見られないが、心の距離は縮まったようだ。

その後、回復した千耀と買い物を終え、最後に入ったコンビニで花火を見つけ、2人は一緒に花火をして この日を終える。その際に火傷をした未仁を千耀が手当てし、未仁が赤面を隠せないことで2人の間に微妙な空気が流れる。


2学期は文化祭から始まり、そこで恋の嵐が吹き荒れる。
未仁はクラス内では伊鶴と微妙な空気が流れ、千耀との接触では男女の空気が流れる。そして七緒は未練のある元カレが周辺に姿を見せるようになって困る。そこで牛尾が七緒の護衛に付き、一緒に下校する仲となる。

1年前の文化祭は2人の再会の場。あれから1年が経過し、未仁は千耀に恋をした。