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少女漫画と小説の感想ブログです

美貌が評価されてCM出演、御曹司の彼女として社交界デビューする最強シンデレラ爆誕

「彼」first love〔小学館文庫〕 (4) (小学館文庫 みC 12)
宮坂 香帆(みやさか かほ)
「彼」first love(かれ ファーストラブ)
第04巻評価:★★(4点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

誤解が解けて、「初デートのやり直し」をする花梨と桐矢。別れ際、桐矢は花梨を抱きしめる。「今夜は帰したくない」…ふたりは桐矢の部屋へ行く。言葉だけじゃもう足りないから…!翌日、祥子が花梨に再度CMモデルを依頼してくる。一方、桐矢は高樹が審査員を務める写真コンクールに応募を決意し!?

簡潔完結感想文

  • 浮気未遂からの性行為完遂。散々「するする詐欺」で引っ張ったのに これは幻滅。
  • 学校の女性ライバルはライバル力10の雑魚。今度はライバル力100の元カノ登場。
  • ヒーローの家庭の事情が出てくると、物語もクライマックスなんだ と安心する。

敵だったヒーローは弱体化し、代わりにヒロインが無敵になる 文庫版4巻。

少女漫画は序盤はヒーローが無敵状態で、終盤はヒロインが無敵であることを理解しやすい作品である。この文庫版『4巻』の半分まで ずっと精神的に弱くて、安定しなかったヒロイン・花梨(かりん)が、桐矢(きりや)の お家騒動を知った途端に、彼のために強くなる。その直前まで ちょっとしたことで別れ話が切り出されるような交際だったのに、この辺から2人の愛はエターナルになっていく。その唐突さに面食らう。

過去例だと不安になり桐矢と気まずくなる元カノ問題だが、桐矢のピンチなので花梨は無敵

熟練した作家さんなら、2人が交際を通して相手を信頼する様子や2人の関係性を模索していくことを描いていくのだが、本書の場合、段階的に関係が変わっていくのではなく、ヒーロー側の問題にエピソードが移った瞬間に花梨がエターナルな愛を確信するのが良くない。自分が弱っていたら とことん不安に呑み込まれるのに、相手が弱っていると急に肝が据わる。
これは桐矢の側も同じ。序盤は花梨が どんなに不安を述べても安心させるだけの技量を持っていたのに、中盤以降は、花梨の性格に嫌気が差したかのように彼女の言動に寛容になれず、これまでで2回 距離を置くことを提案している。

結局、2人の すれ違いは復縁のための助走でしかなく、仲直りの後は その すれ違いが無かったことになるのだが、延々と続く不安定な関係を読まされている読者には彼らの関係に安心できない。

ライバルによる妨害、親による干渉、そして自分たちの通わない心など交際で上手くいかない事ばかりを描いて、それを作品の原動力にしているようなところがあるのに、最後のターンと言えるヒーロー側の問題ではヒロインは絶対にブレない。それが少女漫画の様式美とも言えるのだけど、その過去例を そのまま流用せず、そこに説得力を持たせる努力をして欲しかった。

文庫版『1巻』の感想でも書いたけれど、何百万部と売れる作品には共通点があるが、私が そのベストセラー作品を あまり好きになれないのは、独自の改良が見られないからだ。大雑把で売れ線を追求しただけの作品が売り上げ的には評価されるのに、細かい技巧を凝らした作品は評価されにくいのが少女漫画界のように思えてしまう。技術や工夫のある作家さんが正当に評価されるようになって欲しいなと思う。勿論、本書をはじめ本当に売れる作品には売れるに値する何かがあるのだろうけれど(精一杯のフォロー)。


望したのは冒頭の、あれだけ引っ張った性行為の完遂の流れ。
初めて桐矢から距離を置かれ、両親の干渉は続き、学校でのイジメも再発、序盤に戻ったような状況を救うのは やっぱり桐矢だった。復縁の証が欲しいという花梨を結局 一人暮らしの家に連れて行き、そこで性行為を完遂させる。花梨の状況は最悪で、そこからの落差が幸せに繋がると考えての展開なのかもしれないが、ここまで引っ張った性行為が達成されることに色々と納得がいかない。

桐矢は自暴自棄になった一面もあったにしろ、合コン相手との浮気直前までいっている。直前に別の女性を連れ込んだ部屋に花梨を呼び、そこで彼女を抱くのは、欲望の解消の面が大きいように思えてノイズになる。大逆転や急展開が起これば それでいいという訳ではないだろう。

再三再四、忠告されている花梨の両親の存在を無視するのも子供の情動としか思えない。両親は譲れること譲れないことを示しているのに、桐矢は結局 誠意を示さないまま 雪崩れ込むように花梨と身体を重ねる。花梨も含めて自分のことばかりだから親は心配するのだ。せめて連絡を入れて、帰らないことを伝えるぐらいは出来ないのだろうか。
周囲の人間による口裏合わせで親の怒りは回避しているが、彼らが親の信頼に背いたことが決定的になった。今後、桐矢は両親に何を言っても その場限りの裏付けのない言葉になってしまった。

翌朝、2人は後悔していないというが、やっぱり この行動はノイズに思えて私は喜べない。一応、花梨は内緒にしている合コンの事実を綾瀬(あやせ)が知って、桐矢の軽率な行動に鉄拳制裁を加えることでチャラにしているが、初体験前の彼の浮気(未遂)なんてトラウマものである。なぜ こんな展開にしたのか。

綾瀬により桐矢は罰を受けた。でも読者の心のモヤモヤは一生 晴れることない

2回目の性行為のタイミングもリアルな悩みだとは思うが、再び花梨が桐矢を拒絶する元の木阿弥状態になっているのが気になる。また同じことを繰り返す予感がする。本書は どこまでいっても安心が出来ない作品だ。

花梨は別のCM出演の依頼を受ける。最初は断るつもりだったが、ギャラを桐矢が欲するカメラの購入資金にしようと考え、引き受けようとする。今回は桐矢に事前連絡して、彼の了承を得て出演する。

今回も急遽、撮影者は高樹(たかぎ)になる。その現場で花梨は桐矢の元カノに出会う。イジメっ子・ユカの 嫌がらせが不発に終わったから、次の性格の悪い人間を用意して花梨をシンデレラに仕立てあげるつもりなのだろう。展開は手を変え品を変えているようで、同じことの繰り返し。

やはり性行為を経ても花梨の気持ちが安定することはない。桐矢は花梨を不安にさせてしまうぐらい放置してからフォローに乗り出す。花梨の自宅まで出向いて謝罪するのも、その後で桐矢が家に上がって2人でイチャイチャするのもクリスマスの時と同じ展開。私は この行動に嫌悪感を覚える。両親から会うなと言われている状況じゃないのだから、その許された時間と場所で過ごして欲しい。予備校をサボったり、自宅に上がり込んだり、約束を守れない2人は応援しにくい。


CM撮影当日、花梨は桐矢の元カノがスタッフにいることを初めて知る。そのせいで集中力を欠いた花梨は この日の内に収録を終えられなくしてしまう。これも花梨の苦境の演出。しかしヒロイン様に害意を持った時点で元カノの敗北は決まっている。

元カノの存在を、具体的な容姿を知ってしまった花梨は桐矢とも距離を感じて、彼に嫌な態度を取ってしまう。2人の性行為すら否定し始める花梨に、桐矢は再度 別れを匂わせる。そうなって初めて花梨は自分の行いを反省する。要領の悪さでは もう許されないぐらい、成長しない人間である。

桐矢から愛のパワーを貰った花梨は無敵になる。写真の技術で伸び悩んでいた元カノに優しく声を掛け、CM撮影も心機一転で臨む。撮影は上手くいったが、桐矢との撮影旅行を聞いていた元カノから、その日に間接的に呼び出されて、花梨は桐矢との待ち合わせに遅れてしまう。一方、桐矢のもとに父親が現れ、母親が倒れたという情報が入っており、彼も実家に帰っていた。


矢と連絡が取れず、彼が学校にも登校していないと知り花梨は心配になる。桐矢のマンションを訪れると、そこは もぬけの殻。花梨の不幸は続く。

荷物が実家に送り届けられたことで桐矢は父親が部屋を解約したことを遅れて知る。そして父親は残された唯一の息子の桐矢を自分の後継者にしようと考えていた。花梨の親に続いて、桐矢の家も子供を束縛し始めた。当然、反発する桐矢だが、母親が倒れた原因が兄の死で、そこに桐矢も関わっていることで矛を収めざるを得なくなる。

実家の住所を知る桐矢の義姉・祥子(しょうこ)とも連絡が取れず、花梨は元カノに情報提供を求めた。元カノは花梨の質問には答えない。しかし体調不良で倒れ込んだ彼女に代わって花梨が仕事を手伝い、元カノに桐矢への愛の強さを見せつけることで彼女を改心させる。単独では不安に呑まれるのに、ライバルがいると途端に無敵になるのがヒロインである。


梨を実家に送り届けた元カノは、自分が逃げ出した2年前の長男の死から止まってしまった この家の住人たちを助けることを花梨に託す。そして元カノが花梨を妨害していたのは、桐矢への未練ではなく、高樹が花梨を重用することへの反発心だったことを告げる。

実家の門前で、花梨は桐矢の父親と出会い、桐矢と会うことの許可を貰おうとするが、父親は拒絶する。2人の交際の前に立ちはだかるのは花梨の家に続く桐矢家の お家騒動である。

だが今や無敵状態の花梨は、かつて桐矢が花梨の家に潜入したように、父親が出掛けたのを見届けてから家に不法侵入する。そこで協力的な家政婦に出会い、彼女の手引きで2人は再会する。再会を喜ぶ2人だったが、花梨は桐矢が実家の事情、兄の死に引きずられて、カメラの道を諦めようとしていることを知る。自分の気持ちはコントロール出来ない花梨だが、ヒロインとして桐矢の心は癒やせる。


矢が実家を捨てても生きていけるようにするため、花梨はバイトを始めて将来的な貯金をしようとする。いよいよ予備校に通わなくなっているのではないかと心配になる。こういう時に花梨の両親は出てこない。良かったのは2人のことを心配する友達の存在。彼らは2人のために行動や言葉で気遣ってくれている。

自分のために行動してくれる花梨の姿を見た桐矢は、自分のすべきことを考え行動し始める。
その第一歩が父親に参加を強制されているパーティーでの花梨の同行。花梨を自分の彼女として正式に父親に紹介し、そして自分の意志を示すために桐矢は社交場に参加する。いよいよ桐矢が御曹司としての一面を見せる。庶民の花梨がシンデレラになって上流階級に足を踏み出している。こういう夢物語も読者を夢中にさせる仕掛けなのだろう。

ただ こういう分不相応な、相手方のフィールドに立つと気後れや疎外感を覚えるのが花梨という人。だからパーティー会場を抜け出そうとするのだが、そこで同じように人混みが苦手な桐矢の父親と出会う。花梨は桐矢の写真を見れば父親も翻意すると単純に考えており、持参した彼の写真を見せようとする。だが その思惑は父親には お見通し。それでも花梨は グイグイと桐矢家の事情に踏み込んで、桐矢のカメラマンとしての才能をアピールする。しかし父親は花梨の持っていた写真を破り捨て、話にならないことを態度で示す。

花梨が破られた写真を必死に拾い集めているのを見て、桐矢は自分で自分を追い込む宣言を父親にする。それがフォトコンテストでの1位獲得。花梨は桐矢のためなら勇気が出るし、桐矢は花梨のためなら前に進める。

こうして2人のフェイズは交際の不安から2人で手を取り合って未来を切り拓くことへと移行する。だが その直後に思わぬ事故が起きる…。