《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

要領の悪いヒロインは両親を心配させる行動ばかりの自分を棚に上げ被害者ぶる

「彼」first love〔小学館文庫〕 (2) (小学館文庫 みC 10)
宮坂 香帆(みやさか かほ)
「彼」first love(かれ ファーストラブ)
第02巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

「夏休みになったら旅行いこうか」誘ってもらえてうれしいけれど、それってやっぱり「する」ってことかな…近づく夏に、不安と期待で心揺れる花梨。旅費ぐらいは自分で出そうと、とりあえずバイトに励む日々。そして結局5人でやってきた沖縄で、ついに花梨と桐矢は始めての夜を迎えるが…!?

簡潔完結感想文

  • 沖縄旅行はトラウマ解消旅行。そこから性行為解禁になりそうで ならないまま何百ページ。
  • 段々とヒーローがヒロインの窮地を助ける話から、ヒロインの不安が尽きない話へとシフト。
  • イジメられるシンデレラの次は両親の監視のロミジュリ状態。少女漫画読者は悲劇がお好き。

一生懸命な恋をしている2人を生温かく見守りましょう、の 文庫版2巻。

文庫版『2巻』の前半でヒーロー・桐矢(きりや)側のトラウマや家庭の事情が明かされる。トラウマは少し軽減され、家庭の事情は おそらくクライマックスまで放置される。今回は その布石だろう。

今回、ヒロイン・花梨(かりん)と桐矢を結びつけたものが何だったか明かされ、作者の描きたいことは早々に描き切った感がある。ここからは2人の関係が いつまでも安定しないことがドラマを生んでいく。紆余曲折・波乱万丈が盛り込まれた恋愛リアリティショーのように2人の関係を見守るのが正しい読み方なのだろう。恋愛リアリティショーが無かった時代にはドラマや少女漫画が その役割を担っていたのだろう。皆、誰かの恋愛を覗き見たいし、疑似体験したい。本書のように上手くいかないことが連続する展開は読者のニーズに合っていると言える。様々なことを乗り越えたことで愛は深くなると錯覚するのだ。

トラウマが解消され桐矢の性欲の蓋が開く。エンドレス「するする詐欺」の始まりだッ!

ただし私のように冷めた見方をすると いつまで経っても堂々巡りの展開に思えて、特にヒロインの成長や2人の関係の深まりを感じられない。不安や不幸が作品の動力になっている。それでもリアルタイムで追っていたら自分ごとのように感じられたのだろうが、2025年現在からすると20年以上前の作品は やはり古さが目立つ。だから読者は現在 連載中の作品に夢中になるのだし、そこが少女漫画が少年・青年漫画と違って あっという間に旬が過ぎてしまう部分なのだろう。


に古さを感じたのは親の存在。元々、娘に対して(二人姉妹の内、花梨に対してだけ)厳しかった家だが、今回 物語に花梨の父親が登場することによって一層 監視が厳しくなる。これによって作品はイジメられていた花梨が美しく花開くシンデレラから、お互いの家の問題で引き離されようとするロミオとジュリエットにモチーフを移す。古典的な内容は普遍的である。

この恋愛における両親の存在、特に抑圧してくる親が描かれるのは2000年代ぐらいまでだろうか。子供に過剰な期待をする、過剰な干渉をするのは2025年から見ると親の方が間違っている。作品の発表から20年以上が経過し、かつて親に抑圧された世代が親になった時、同じことを繰り返さないよう努めているように思う。子育ての指針、世間の風潮も そう変わってきているだろう。

2010年代以降の作品は親の交際反対や過干渉は少ない様に思う。そもそも親の存在を感じさせない作品が多い。対して2000年代までは親に隠れて交際するとか、親の目を盗んで行動する という展開が多い。
花梨は最初の恋愛に溺れて、やや軽率に行動しているように見えるが、親が恋愛の障害や反対勢力になっているという構図は この頃の読者には深く共感できる部分だったのだろう。そういうリアル読者が悩んでいることを上手く作品に落とし込めたことが本書のヒットの理由だと思われる。

そして今回のタイトルにしたけれど、花梨は常に「被害者」になることでドラマを展開させている。そこで必要なのは要領の悪さ。恋愛に慣れていないこともあり、花梨は失敗ばかり。自分の感情を一定に保てず、被害者ぶったり、時に過剰な反応をして思わぬ行動に出たりと忙しい。やや情緒不安定な部分も見えるが、その一生懸命さが読者の共感ポイントになる。ただ花梨の行動は本当に要領が悪すぎるし、その軽率な行動が親からの信頼を失い、自分を苦しめるのだと言いたくなる。しかも それが中盤はエンドレスに続くから辟易する。
本書には幸福と成長が足りない。


行を前に桐矢からのキスが長くなったと感じる花梨。それが2人の関係の次のステップを予感させる。ちなみに この旅行の半分は「するする詐欺」で出来ている。

その前に資金を貯めるために花梨はバイトを始める。しかし桐矢の父親が登場し、今度は桐矢の家が旅行を許さない。どうやら行き先の沖縄が彼の家で問題になっているらしい。その件を桐矢の友達たちに聞くと、彼らは桐矢の実家について教えてくれた。何と桐矢は御曹司。いよいよシンデレラの王子様である。桐矢の家は日本最大の自動車メーカーで彼の父親で、父は息子に家を継がせたいのだが、長男は事故死、次男は家を出て一人暮らしをしている状態。

義姉である祥子(しょうこ)も沖縄行きには反対。桐矢までカメラの世界にハマっては兄の二の舞になると祥子は考え、桐矢を守るために動いている節がある。だからカメラを捨てさせたいのだが、花梨はヒロインらしくヒーローの大切なものを必死に守る。祥子に壊された大切なカメラは花梨が直す。いつも物を与えられてばかりの花梨が初めて桐矢に お金を使った場面だろうか。

こうして今度は桐矢の家側の問題でロミジュリ状態となるが、何とか2人は逢瀬を重ね、旅行にも一緒に旅立つ。


かし旅行先には「偶然」祥子もいた。それが花梨の不安になる。彼女の不安が尽きなければ話は続く。

花梨は旅行中に桐矢と2人きりになれないと落ち込むが、そもそも2人きりは まだ早いと思う花梨のために綾瀬たちも旅行に同行したのではないか。その割に自分の感情で桐矢を遠ざけて情緒が不安定。ヒロインの心が安定しなければ物語は転がり続けるが、本書は その時間が長すぎる。

それでも花梨が落ち込んでいれば それをケアするのがヒーロー・桐矢の仕事。そこで桐矢は この沖縄の海で兄が事故死したこと。その原因となったのは桐矢との夜のダイビングで、流された桐矢を兄が助けようとしたからだった。兄の死は自分に責任があると考える桐矢は海にトラウマを抱えていた。今回、花梨と一緒に来ることでトラウマを克服しようと考えていた。

傷つく男が目の前にいるなら それをケアするのがヒロイン。そこで桐矢の心を落ち着けることで、祥子との疑惑も解消され2人は仲直りする。桐矢は兄の死を少しずつ克服しようとしている。


日、桐矢は花梨を自分ちの別荘に案内する。そこは兄の写真撮影の拠点でもあって、そこかしこに兄の気配が漂う。ここで花梨は初めて、桐矢の兄が自分が好きな写真家のユウジであることを知る。1話で桐矢が花梨に興味を持ったのは、兄の写真集を愛読してくれていることを知ったから。花梨との出会いが桐矢を変えた。

そして その別荘に現れた祥子が、別荘に置いてあった自分の名前が付けられたアルバムを初めて目にすることで祥子は亡き夫の死や今の自分の感情を整理し始める。祥子がライバルではないという立ち位置も明確になった。

ヒーローのトラウマの解消は恋愛解禁の合図。それ以前から交際している本書の場合は性行為の解禁なのだろうか。こうして心の距離が近くなったはずの二人は、性行為を巡る攻防で また遠ざかる。ただし初回は桐矢もジェントルなところを見せ、花梨の恐怖に理解を示す。
でも まさか ここからずっと その攻防だけでページが消費されるとは思わなかった。トラウマの発表も、性行為への挑戦も全部 展開が早すぎる。もっと順々に交際を深めるようなエピソードを用意していけばいいのに。もう既に この作品は描くことがないのではないかと疑ってしまう。


うして旅行、そして夏休みは終わり2学期に突入する。2学期は文化祭から始まる。花梨は合唱部の伴奏の代役を引き受けることになった。桐矢が開けてくれたピアノの蓋が花梨の未来を拓いていく。

先に開催された桐矢の文化祭で彼の友達に紹介されて仲は深まるはずが、桐矢のスキンシップに花梨は どうしても過剰反応してしまう。それが原因で桐矢の学校の文化祭では険悪になる。

そして蜜月期が終わったからか桐矢は花梨を信じられず放置し始める。作品としては初めての喧嘩の仲直りの仕方を見せたいのだろう。桐矢が花梨を放置気味なのは、自分の心を落ち着かせるためでもあった。花梨に会いたい気持ちは抑えられず、会うと手を出しそうになってしまうから、遊びもせず黙々と働く。そうすることで気持ちのモヤモヤを封じ込めていた。それだけ花梨に真剣だということなのだ。

やがて花梨は自分から距離を近づけようと、親に嘘をついて桐矢の家を訪問する。夜遅くまで彼の帰りを待って ようやく会えるが、桐矢の言葉に刺々しく返答してしまう。それに呆れた桐矢を見て、今度は桐矢の欲望の解消のために自分の身体を差し出すような発言をする。全く愛のない花梨の態度に桐矢は彼女を拒絶する。

問題をややこしくするのが要領の悪さである。自分の失敗を挽回する方法が分からないから、花梨は別れを予感する。その上、桐矢が拓いてくれたといえる文化祭でのピアノの披露の話も消滅してしまう。


矢は塾の帰りの同行を自分の友だちに頼んだり、花梨を今も大事にしてくれる。遅れて その愛の大きさに気づいた花梨は桐矢に文化祭の入場券を送る。

だが文化祭当日、桐矢は現れない。お祭り騒ぎの中、孤独を感じる花梨は、桐矢に披露できなかったピアノの演奏を音楽室で始める。そこに都合よく現れる桐矢。2人は互いに自分の気持ちを優先していたことを謝罪し、最初の喧嘩は終わる。この際に花梨が桐矢を愛おしく思い、彼に触れたいと思い始めたことは性行為の完遂の第一歩となるのだろう。

そして桐矢は花梨に家の合鍵を渡す。これは桐矢が花梨を全面的に受け入れてくれていることの証となる。


された合鍵は すぐに使うことになる。風邪で体調が悪い桐矢のために花梨は悩みながらも彼のために料理を作って待つことにした。

そして彼を看病するために母親に虚偽報告の留守電を入れて桐矢に付き添う。花梨の親は認めてくれないという諦めが根底にあるのは分かるが、花梨が精一杯の恋愛のために何度も嘘をついているのが気になる。実際、親に言えないことが出来ることが この頃の恋愛で、そのスリルも楽しかったりするのだろうけど。

しかし それで終わらなかった。花梨の携帯電話を鳴らしたのは単身赴任中の父親。留守電を聞いたのは家に帰ってきた父だった。こうして花梨の外泊は両親に知られることになる。両親は花梨の勝手な振る舞いの責任を押し付け合い、父親は桐矢からの電話に勝手に出て、一方的に切ってしまう。

元々、自分が上手く立ち回れなかったことが原因なのに、花梨は親の言動が許せず家を飛び出してしまう。そういう幼稚なところがあるから両親は彼らなりに心配しているのだけど、視野の狭い花梨は そこに気づけないまま。

人を こうだと決めつける似た者同士の一家3人。それでも花梨が一番 幼稚なのは事実。

うして花梨は今度は綾瀬の家に身を寄せる。だが そこで花梨は綾瀬から妊娠したかもしれないと告げられる。綾瀬の異変に気づかず、また彼女に寄り添う力のない自分を恥じる花梨。そこで不安で身体が強張る綾瀬に代わって薬局で検査薬を買うことにする。綾瀬もパニックなんだろうけど、制服でそれを買うリスクを2人して考えられないのが次の騒動の原因となる。

なぜか薬局に現れる制服姿の桐矢と共に補導員に警察に連れていかれる。花梨の身元引受人として現れたのは父親。桐矢とは最悪の出会いになる。だが桐矢は委縮することなく、あまり格好いいとは思えない台詞を父親に告げる。桐矢の登場が あまりにも唐突で偶然なのが気になる。

父親は依然として桐矢や綾瀬といった花梨が本当に大切だと思う人たちの価値を認めない。そして花梨からケータイを取り上げて、2人は いよいよ本当のロミジュリ状態となる。


動は これだけに止まらず、花梨は学校で生徒指導室に呼ばれる。そこで事実と違うことを問い詰められるが、花梨は堂々と振る舞うことで窮地を乗り切る。でも補導された事実があるのに補導されていないような発言は いかがなものか。

その噂はユカが流していた(まだ出てくるか)。今回は花梨は単独でユカに立ち向かう。彼女に初めて言いたい事を言うが、逆上したユカは他の生徒たちに花梨をディスる発言をする。そんなユカに鉄拳制裁を加えるのは綾瀬。ヒロインは手を汚さない。綾瀬は自分の事情に花梨を巻き込んだことの詫びもあったのだろう。そして妊娠もしていなかったことが告げられる。そして相手の既婚男性と別れ、綾瀬は急速に愛が冷めていくのを感じていた。


梨は父親のことを桐矢に伝えないつもりだった。これは以前のユカからのイジメと同じ。だが桐矢は花梨の性格を把握し始めているから、何かあるかと察し、問い詰める。そして一人で抱えようとする花梨に甘えてほしいと要望を述べる。そして桐矢は花梨を受け止めるために同棲という手段もあることを告げる。これは実現するしないの話ではなく、彼が それだけ真剣に花梨を想っているから出る発言。桐矢は言うことが極端である。2人の中に焦りを感じる。何も焦ることはないのに。

交際後、初めてのクリスマスだが親の監視は厳しく、花梨は自由に動けない。親が子を心配する気持ちを理解しつつも恋に突っ走ろうとする花梨だったが、父親が車で塾に迎えに来て、花梨は食事の準備をしていた桐矢の家に行けない。停止中の車から脱走しようとするも失敗(危険だよ)。クリスマスイヴに膝を抱えて家にいた花梨だったが、桐矢は彼女の部屋の窓に石を投げ、合図を送る。彼が門塀に置いてくれたプレゼントを見つけ、花梨は自宅を飛び出し、桐矢を見つける。

そこから なぜか桐矢を家にあげて…。えっ、なんで???