《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

ヒロインが、人間嫌いを公言する男性と異界で対面する。それも紅茶の王子ですよね??

オレンジ チョコレート 12 (花とゆめコミックス)
山田 南平(やまだ なんぺい)
オレンジ チョコレート
第12巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

どうしても解けない入れ替わりを解くため、右近は2人を連れて直接御霊様の元へ向かう。しかし途中ではぐれてしまい、ちろはムジナに捕まり貢物に! 一方ヤマカガシに捕まった律はちろを助けるため、自ら人間と明かし貢物になろうと!? 異世界編・波乱の12巻。

簡潔完結感想文

  • 突然 始まり 突然 終わった芸能界編に続いて突然 始まる異世界編。物語が迷子!
  • 転性しても転移してもヒロインの順応力は無敵で、男からチヤホヤされるだけ。
  • 男性キャラのトラウマを解決するのがヒロイン。そのための情報は自動的にで入手。

茶の二番煎じは美味しいのか、の 12巻。

ずーーーっと放置していた入れ替わり問題に本腰を入れて対処するために始まる「異世界編(らしい)」。その前に、完全に自然消滅したハルや梨絵(りえ)が登場した芸能界編とは何だったのかを作者に問い質したい気持ちが残っているから、唐突な流れを受け入れられない。そもそも狐以外の動物なんて物語に一回も出てきていないのに、この終盤で その世界があると強引に話を進めることが信じられない。

更に問題なのは、この異世界編が『紅茶王子』の それと基本的に同じ構造であること。どちらの作品もヒロインは その世界の実質的な支配者の男性のトラウマを解消することが最後の役目で、それが元の世界で愛する人と平和に暮らす最後の障害となっている。

紅茶王子』よりも質が悪いのは、ヒロインが苦労することなくトラウマ解消に必要な情報が与えられること。『紅茶王子』では複雑な人間関係を理解する手掛かりを一つずつ入手して、その段階的な理解が物語を面白くしていた。けれど本書の場合、ヒロイン・千尋ちひろ)は眠っているだけで全てを理解する。あとは その情報を相手に届けるだけ。何という簡単な お仕事なんでしょうか。

ヒロインの特権として、寝るだけレベルアップな件、寝るだけで強くなれます。

本当に本書は、千尋が全ての役割を表層的に こなすだけで終わっている。序盤こそ注目が集まる日舞の舞台に立ったり頑張っていたはずなのだが、中盤からは その容姿が気に入られ、芸能界に片足を突っ込み、芸能関係者たちからも寵愛される。生徒会という学校の仕事も出来上がっている原稿を代読するだけで褒められる始末。5歳児が何をやっても褒められるような感覚が常にあって、こういう幼い思考の人には恋愛は不要なんじゃないかと思えてしまった。

全13巻という長い時間をかけた割に千尋の成長は描けていないし、中盤の展開が「入れ替わり」の解除に全く必要がない。作家生活20年を突破した作者が こんなに行き当たりばったりで いいのだろうか。千尋の役割の薄さは、作品の底の浅さに直結している。芸能界編や異世界編など賑やかさには事欠かない設定を提示しているが、そんな賑やかさや華やかさを一枚一枚 取り除くと最初と何も変わらない状況が残る。序盤で確かに期待できた面白さを、最終盤になっても感じられないまま。

紅茶王子』よりも状況が悪いのは、千尋には女性の友人がいないことだろう。いや一応 学校の友達はいるが名前も覚えられないし、私生活は律に ベッタリで友人たちの居場所はない。梨絵も友達になりそうだったのに、友情をしっかり結ぶ前に作品が梨絵を使い捨ててしまった。そういえば梨絵には「××力」が1回も出てこなかった。そういう部分でも作品を残念に思う。

千尋のスキルは「順応力」ということになっているが、それよりも「お姫様」スキルが無自覚に発動しているようにしか見えない。見た目という武器で男性を虜にして、自分を周りを囲ませている。
そして この『12巻』では「異界の者と仲良くなる」スキルも見せている。そう考えると右近(うこん)と左近(さこん)も それが適用されているし、今回の狸(タヌキ)たち、そしてラスボスと言える中(あたり)も同じ。男性かつ異界の者である彼らは千尋のスキルはダブルで発動する。

日舞のように時間をかけて体得したものは物語から排除されるようになり、最初から先天的にあるスキルを無自覚に発揮するような展開だから本書は面白みに欠けるのだと思う。以前も書いたけど、作者は さっぱりしたイメージに反して、ヒロイン優遇が過ぎるのだと思う。


近と左近が、千尋と律の本質的な幸せを考えてくれていることが分かって味方であることを確認してから、異界に行く。その準備として千尋たち2人は、昔話のように鈴を身に付ける。これで彼らは人間ではなく狐に見えるらしい。

けれど この道中でも『11巻』スーパー銭湯と同じように右近は千尋と2人になるために左近たちを まく。それは御霊様(ごりょうさま)に直接 結婚報告をしようという彼の願望のため。こういうスタンドプレーがドラマを生むから右近の行動も仕方あるまい。

実際、千尋と右近は すぐに酒盛りをする狸(タヌキ)に遭遇する。そこで右近は御霊様が新しい「使わしめ」(右近たちと同じ神使(しんし)のことか?)を選ぶという話を聞く。そこで極上の貢物を献上することで狸は自分たちが選ばれようとしていた。
その話を聞いた右近と狸の乱闘騒ぎになり、その気配を察した中(あたり)が千尋の鈴を鳴らして、人間だとバラしてしまう。右近たちより上位の神使になると こんな芸当も出来るのか。能力や世界観が ぼんやりしていて いまいち入り込みづらい。

そうして千尋は人間が右近の貢物だと誤解されて、今度は狸に捕獲される。ヒロインのピンチが話を進める。


たも右近に まかれた律と左近。千尋を捜しているはずが彼らもまた迷子になり、そこで千尋の姿の律は女性だらけの蛇の国で歓待を受ける。律が千尋の姿をしているから受け入れられているのが面白い。それにしても本書は容姿こそ力である。見た目が麗しければ芸能界でも異界でも持て囃される。そういう意味ではルッキズムが爆発している作品だと思うと時代遅れにも思える。

一方、狸たちにより監禁された千尋だったが、そういうピンチの時こそヒロイン様は聖女になる。右近は脱獄して昏倒させた食料配達係の狸を千尋の身代わりにしようとするが、千尋は それを良しとせず、狸を守る。その行動に右近は苛々して千尋を放置するが、狸は千尋のことを見直す きっかけとなる。敵を味方にしてしまうのはヒロイン特有のスキルと言えよう。


尋の行動に腹を立てて歩く右近は罠にハマり、今度は蛇の国へと連れていかれる。そこで千尋のピンチが律に伝わり、律は自ら鈴を外して自分が人間であると蛇たちに伝える。そして千尋と同じように自分を献上品にしろと訴える。

律は千尋を家に帰すために自分が犠牲になる覚悟でいた。その態度が蛇から好感度をアップさせ、律は蛇側の貢物に決定する。しかし それに異を唱えるのは左近と右近。その理由は左近は2人が一緒ではなくてはだめと考えたからで、右近は今の律の身体は千尋のものだと考えるからだった。

ただし律の発言も千尋に会うための方便。律は千尋と合流した後、彼女を連れて一緒に帰ることが目標。その際に律は、右近に詳細な経緯を聞かなくても千尋が狸たちのもとに残ったことが見ていなくても分かる。その律の姿を見て右近は彼のために協力することを考える。結局 律は、生徒会長やハル、右近などライバルっぽい人と誰とも戦うことはない。徹底的に2人だけの物語なのだ。

幼なじみ2人の間には誰も入り込めない。純真無垢が千尋の本当のスキルかもしれない

ら牢屋にいることを望んだ千尋に来客が訪れる。それが高位の神使・中(あたり)。狸の貢物の検閲と称して 千尋接触し、彼女に自分が人間が嫌いだと告げる。そして人間嫌いだからこそ、右近と左近が千尋たちに肩入れするのが気に入らない。今回その理由を知りたくて、中は千尋接触したのだった。ここでヒロインとしての力を見せる千尋だが中は それも気に入らない。

その夜、千尋は不思議な夢を見る。それは狐に嫁入りした女性と自分が重なる夢だった。
千尋は、その夢の中で千歳(ちとせ)と呼ばれていた女性が、結婚相手の正体が人間ではないと承知していたことを理解する。そして昔話とは違い、女性は夫たちが狐と知って屋敷から逃げ出したのではなく、娘を返して欲しい両親ら村の人を説得するために屋敷を出た。しかし両親たちに閉じ込められ、狐の大量虐殺という悲劇が起こった。

その すれ違いを正して欲しいというのが千歳の願い。その千歳の姿を、千尋と一緒に寝ていた狸は目撃する。そして狸は千尋に中が人間に恋をしていたという噂を千尋に伝える。男性のトラウマを解く鍵を不自然に入手するのがヒロイン様なのだ。


して千尋は心を通じさせた狸たちと中に会いに行く。千尋のスキルは順応力だが、異界の者たちと仲良くなりやすい体質もスキルなのかもしれない。

しかし中のところに行っても律たちが いなかったことは千尋の誤算であった。彼らと会って、中の誤解を解いて、無事に帰るという目論見は初手から外れる。
それでは と千尋は中の誤解を解こうとするが、人の心に土足で入るような千尋に中は怒りを覚え、狸たちの信頼を失わせようと、千尋が偽りの姿であることを見せるために、入れ替わりの術を解く。こうして千尋は今度は中によって囚われることになる…。