《漫画》宇宙へポーイ!《小説》

少女漫画と小説の感想ブログです

願いを叶えてくれる存在と一緒に出場する体育祭。それも紅茶の王子で見たけれど…。

オレンジ チョコレート 6 (花とゆめコミックス)
山田 南平(やまだ なんぺい)
オレンジ チョコレート
第06巻評価:★★☆(5点)
 総合評価:★★☆(5点)
 

PV撮影を無事終えたちろと律。夏休み明け、学校ではPVに出演したちろの話題でもちきりに! そんな中、体育祭にかりだされることになった律。一緒にいられることを喜ぶちろだが、二人の入れ替わりに勘付いた(!?)ハルがが体育祭を見にやって来て…!? 大波乱の第6巻登場!!

簡潔完結感想文

  • ほぼ体育祭巻。通常ならヒーローが輝くはずなのに ヒーローが逃げ回るイベントに!?
  • ハルの存在が律の奮起を促す。その意味ではハルは間違いなく当て馬なんだけど。
  • あれだけ律を怪我させたことに涙していた千尋なのに今回はリスクを無視する矛盾。

をお守りする男性3人で組む騎馬と それを見学する外野1人の 6巻。

『6巻』は ほぼ体育祭回。今回のタイトルにもしたけれど、願いを叶えてくれる存在(右近(うこん)と左近(さこん))も体育祭に参加する様子は、まるっきり『紅茶王子』の体育祭回と被る。『紅茶王子』はアッサムたち王子を留学生として転校してきた設定にして、作中の2年目で1年目とは違う体育祭が描かれていたことが面白かったが、本書は右近たちに きちんとした身分を与えないまま、誰も疑問に思うことなく彼らが体育祭に参加しているのが謎である。体育祭自体の熱量も『紅茶王子』に及ばず、失礼ながら劣化版という印象が拭えない。右近と左近を学校生活に関わらせたいのなら、偽造書類を使ってもいいから籍を置けばいいのに、と中途半端な立ち位置に苛立つ。

そして何より疑問なのが、千尋ちひろ)が自分のワガママで律(りつ)を危険なポジションに据えた騎馬戦で、千尋の不注意で落下しそうな自分を律が下敷きになって守ったことへの罪悪感が全く感じられないこと。その後、千尋が入れ替わったことや無理な練習をさせて律の身体に負担をかけて嘔吐させてしまったことにも千尋は これまでより平気な顔をしている。

律の舞いに影響しかねない事故なのに満面の笑み。結局 自分が一番 大好き??

これは『3巻』の入れ替わり中の怪我に涙を流しながら、メールで謝罪し続けた時とは全く違う反応で、千尋の中で どう受け止め方が違うのか理解が出来ない私には腑に落ちない内容だった。

体育祭の後で千尋が浮かべるのは満足げな表情であることに疑問を抱く。というか体育祭そのものが千尋の願いや試したいことが全て叶う場でしかなく、そこに律は付き合わされている。一応、律の方にはハルという危険因子への対抗意識を動機にしているが、全体的に見ると千尋の念願成就のための行動に見える。だから引き続き、どうして作品が こんなにも千尋のために存在するかのような描き方になるのかが不思議でならない。律の静かな溺愛が読者の満足にも繋がるのは分かるのだが、これは溺愛というより甘やかしで、不自然に庇護されるばかりの千尋の在り方を私は好ましいものだとは思えない。

千尋の思考や感情の矛盾など、登場人物の心の動きを追跡しきれない部分が多くて、作品に深く入り込めない。ただ溺愛の様子を ニマニマと眺めていればいいのかもしれないが、全体的な構成や意味を見い出したい私にはスカスカな内容に思えてくる。

あと矛盾といえば『5巻』でも指摘した通り、中卒だと判明したハルが高校1年生の千尋の勉強を瞬時に理解するのは無理がある。私が心を追い切れないのは、作者の雑な設定や話の流れも関係していると思ってしまう。


尋はPVに出演したことで校内で注目を集める。千尋の芸能活動は千尋が律の気持ちを本気で理解する、という意味があったのだろうか。しかも一緒に出演した律と行動を共にすると騒ぎは倍増する。2人での外出も自粛する方向となり千尋は落ち込む。

律は入れ替わりを察した気配を見せるハルを警戒するが、入れ替わりを指摘されても、そのまま入れ替わりが固定されてしまうとか実害は無いらしい。ただ そうなればハルは一層 自分たちに興味を抱くのは確実だから警戒を緩めない。


んな頃に学校イベント・体育祭が到来する。
この体育祭、律にとって大きな関門。実は律は運動音痴という特徴を持っていて、運動神経は悪くないのだが、それを身体にフィードバック出来ない。だから律は これまで理由をつけて体育祭を回避していたのだが、今年はマネージャーの百合(ゆり)によって参加する方向となる。

律の体育祭参加情報は学校中を駆け巡り、クラスメイトは律のために花形の競技への参加を決めてしまう。そして律の参加情報は同じ事務所に所属するハルにも知れ渡り、彼が参戦する伏線が張られる。ただし律本人は、自分が競技にエントリーされていることを知らず、体育祭をサボるつもりでいた。


日の朝、千尋は体育祭の役員の権限でエントリーを取り消そうとして家を出るが、自宅玄関前にはハルが居た。彼は千尋に付いていき、本来は関係者以外立入禁止の学校に、イトコとして侵入する。右近(うこん)と左近(さこん)の存在が許されているガバガバなセキュリティだから、ハルも排除されない。

準備やハルの存在もあって、千尋は律のエントリーは取り消せず、当日になって本人は自分のエントリーを知る。すぐさま律は帰宅しようとするが、せっかく律と一緒に居られる機会を逃したくない千尋が思い止まらせ、そして右近と左近に協力を要請する。その協力とは、千尋の計画で律がエントリーしている競技に、入れ替わった自分が参加するというもの。そして この入れ替わりで千尋は、律の身体能力自体は優れていることを証明したい。自分の身体に問題がないと分かれば律が運動に目覚めるかもしれないと思っている。

そこで必要なのが強制的な入れ替わりで、それに右近たちに協力してもらう代わりに、特に右近が参加したがっていた体育祭に彼らも一部 出られるように画策する。自分の願いのためなら、拒否している入れ替わりも便利に使う、そういう したたかさが千尋にはある。

実際、千尋は律の身体で走り、彼を学校中のヒーローにする。それは良かったのだが、ハルの前で入れ替わることで彼の疑念を濃くする結果となってしまう。ちなみに そのハルは中卒で、こういう学校行事が眩しい。だから体育祭と知って見てみたくなったのかもしれない。

既に拒絶した入れ替わりも自分の願望のためなら便利に使う。千尋の考えが理解できない。

食後、律が強制参加となっている騎馬戦に、千尋は右近・左近・律の4人で一つの騎馬を作ることになり、その際に問題になるのが入れ替わるかどうかが話し合われる。この学校では馬が男子、大将が女子という決まりのため、千尋が どのポジションに付くか、どこが安全かを律は熟慮する。律の結論、入れ替わらず逃げ回るというもの。それが千尋の安全が一番守られると考えた。相変わらず姫扱いされている。

だが ここで律の運動音痴が発揮されて、練習では上手く動けない。問題を抱えているところにハルが律のポジションで練習してみると上手くいく。そこに律の劣等感が生まれる。本来の男性3人では背が一番 高い左近が馬の先頭にすると騎馬が安定するのだけど、千尋のワガママで律を中心に据え置く。律に自信を与えたいんだろうけど、過剰な期待が律を押し潰していく未来が見える。

練習の途中でバテた律と千尋が入れ替わり、そこで律が改めて千尋の身体感覚や小柄な女性であることを理解し、またハルへの対抗心を再燃させる。そのことで律は元に戻っても、本番は千尋の最初の計画通り、彼女の自由にさせる。その上で千尋の安全を守る、それが律の決意となったようだ。

宣言通り、楽しすぎて はしゃいでしまい騎馬から落ちてしまいそうになる千尋を律は守り切る。でも これって千尋が律を危険な目に遭わせているし、律は この後、急激な運動で体調を悪化させている。これは『3巻』で律を怪我させてしまったことに深い自責の念を覚えていた千尋と相反する行動のような気がする。なんか登場人物たちの行動が しっくり来ない。

もう一人 はしゃぐハルに対して律は、彼の変装用のカツラを剥ぎ取ることでパニックを起こし、彼を学校から強制退去させる。律の初めての体育祭は千尋の満面の笑みで報われたようだが、千尋の能天気っぷりに読者の私は納得がいかない。


間は一気に流れ、年末。
この回は完全な日常回で、商店街の福引の話。その福引に熱中するのは右近で、この頃の律は仕事が忙しく、千尋は右近と行動することが多くなっていた。だから商店街では千尋の彼氏が右近になったと噂され、その噂を聞いた律の母親が、多忙を理由に千尋を放置した息子の不甲斐なさを責め立てる。

こうして母から福引券を握らされて最後に律も合流して賑やかな年末になったという お話。通常の少女漫画では ここから旅行費用のかからない お泊り回が始まるところだが、本書では その展開もない。ここから合法的なお泊りをしないなら、この回自体に本当に意味がない。というか やっぱり商店街の福引ってネタとして古い。

これが後の布石になるのだろうか。